ピープルセントリック入門:DX時代に求められる「人中心」の考え方とは?Google Workspaceとの関係も解説

 2025,05,02 2025.10.28

はじめに

デジタルトランスフォーメーション(DX)の推進が企業の持続的成長に不可欠な経営課題となる中、「ピープルセントリック(People-Centric)」という思想が、その成否を分けるポイントとして急速に注目を集めています。

多くの企業がDXに着手する一方で、「ツールは導入したが現場で使われない」「部門間の連携が進まず、期待した成果が出ない」といった「人」に起因する課題に直面しています。経済産業省の『DXレポート2.2』においても、DX推進の課題として「既存の組織文化や従業員の意識改革」が指摘されており、テクノロジーの導入と「人」の変革を両立させることの難しさが浮き彫りになっています。

この記事では、「ピープルセントリック」とは何かという基本概念から、なぜ現代のDX推進においてこの「人中心」の考え方が不可欠なのか、そしてGoogle WorkspaceやGoogle Cloudといったテクノロジーが、ピープルセントリックな組織変革にどう貢献するのかを、DX推進の決裁者・担当者様に向けて分かりやすく解説します。

この記事を通じて、以下の点を深くご理解いただけます。

  • ピープルセントリックの正確な定義と、DXにおける重要性

  • DX推進で陥りがちな「人」に関する課題と、その解決策

  • Google Workspaceがピープルセントリックな働き方をどう支援するか

  • ピープルセントリックなDXを成功させるための具体的なステップ

DX推進の壁に直面している方、テクノロジーと組織文化の融合に悩む方にとって、本質的な解決の糸口となれば幸いです。

ピープルセントリックとは何か?

ピープルセントリック(People-Centric)とは、文字通り「人中心」を意味する言葉です。ビジネスの文脈においては、組織運営、意思決定、サービス開発、そしてテクノロジー導入といったあらゆる企業活動の中心に「人(従業員、顧客、パートナーなど)」を据え、その体験やウェルビーイング(心身ともに良好な状態)を最優先する経営思想を指します。

従来の「リソース中心」との違い

従来、多くの企業活動は、利益や効率性、あるいはテクノロジーそのもの(機能)が中心に置かれがちでした。従業員は、目標達成のための「リソース(資源)」の一つとして捉えられる側面が強かったと言えます。

しかし、ピープルセントリックのアプローチでは、従業員を「価値創造の源泉」と捉え直します。一人ひとりの感情、ニーズ、創造性を最大限に引き出し、エンゲージメント(会社への愛着や貢献意欲)高く働ける環境を構築することこそが、結果として組織全体の生産性向上やイノベーションの創出、ひいては持続的な成長に繋がると考えます。

従業員体験(EX)との関係

ピープルセントリックを組織内部で実践する上で中核となるのが、「従業員体験(Employee Experience: EX)」の向上です。EXとは、従業員が入社から退社まで(あるいは入社以前から)に企業で得るあらゆる経験の総体を指します。

使いにくい業務システム、非効率な会議、不透明な評価制度、コミュニケーションの取りづらい組織風土――これらすべてがEXを低下させる要因となります。ピープルセントリックな組織は、こうした業務プロセスのあらゆる側面を見直し、「人」がストレスなく、能力を発揮しやすい環境をデザインすることに注力します。

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なぜ、DX推進にピープルセントリックが不可欠なのか?

テクノロジーを駆使するDXにおいて、なぜ逆説的とも思える「人中心」の考え方が、これほどまでに重要視されているのでしょうか。その背景には、DXの本質と現代のビジネス環境が深く関わっています。

①DXの本質は「組織と文化の変革」にある

DXは、単なるデジタルツールの導入(デジタイゼーション)ではありません。デジタル技術を活用してビジネスモデルや業務プロセス、さらには組織文化そのものを根本から変革し、新たな価値を創出することです(デジタルトランスフォーメーション)。

最新のAIツールを導入しても、それを使う従業員が変化を恐れたり、旧来の縦割り組織のままでは、その真価は発揮されません。DXを成功させるためには、テクノロジーを使いこなし、変化に柔軟に対応できる「人」と「組織文化」の醸成が不可欠です。

ピープルセントリックは、この変革の主体である「人」に寄り添い、変化への抵抗を最小限にし、主体的な行動を促すための羅針盤となります。

②優秀な人材の獲得・定着競争の激化

少子高齢化による労働人口の減少と価値観の多様化に伴い、優秀な人材の獲得とリテンション(定着)は、企業の最重要課題となっています。特にDXを推進できるデジタル人材の不足は深刻です。

現代の働き手は、報酬だけでなく、「働きがい」「自己成長の実感」「柔軟な働き方」「良好な人間関係」といった要素を強く重視します。

従業員一人ひとりを大切にし、そのウェルビーイングやキャリアを支援するピープルセントリックな企業文化は、優秀な人材にとって「選ばれる」ための強力な武器となります。

③変化への対応力(アジリティ)の必要性

市場環境や顧客ニーズが目まぐるしく変化する現代において、企業には迅速な意思決定と実行力(アジリティ)が求められます。

トップダウンの指示系統だけでは、現場の状況に即したスピーディな対応は困難です。従業員一人ひとりに権限を委譲し、現場が主体的に判断・行動できる環境、そして部門を超えて自由に意見を交わし協力できる(=心理的安全性が高い)文化が不可欠です。

ピープルセントリックなアプローチは、このような自律分散型の強い組織の基盤となります。

ピープルセントリックなDX推進の具体的なステップ

ピープルセントリックなDXは、精神論だけでは実現できません。明確なビジョンと戦略的なステップが必要です。多くの企業様をご支援してきた経験から、その実践的な進め方をご紹介します。

ステップ1:現状の可視化と課題特定

まずは「人」が何に困っているのかを正確に把握することから始めます。 アンケートやヒアリングを通じて、従業員が日々の業務で感じている非効率(例:「情報検索に時間がかかる」「承認プロセスが煩雑」)、コミュニケーションの課題、使用ツールの満足度などを徹底的に可視化します。

この際、経営層の思い込みではなく、現場のリアルな声を拾い上げることが重要です。

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ステップ2:ビジョンとロードマップの策定

次に、「どのような働き方を実現したいのか」というビジョンを明確にします。 「時間や場所にとらわれず、誰もが創造性を発揮できる組織」「データに基づき、迅速な意思決定ができる組織」など、自社の目指す姿を具体的に描きます。

その上で、ステップ1で特定した課題を解決し、ビジョンを実現するためのロードマップ(いつまでに、どの部門から、どのツールを使って、どう変革するか)を策定します。

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ステップ3:テクノロジー基盤の整備(ツール導入)

ビジョン実現の土台となるテクノロジーを選定・導入します。 重要なのは、「多機能なツール」を選ぶことではなく、「ビジョンに合致し、従業員が直感的に使えるツール」を選ぶことです。例えば、シームレスな連携と場所を選ばない働き方を重視するなら、Google Workspaceのようなクラウドネイティブなツールが最適です。

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ステップ4:スモールスタートと伴走支援(チェンジマネジメント)

DXは全社一斉の「ビッグバン」型で進めると、現場の混乱や抵抗を招きがちです。 まずは特定の部門やプロジェクトでスモールスタートし、成功体験を積むことが有効です。このプロセスで最も重要なのが「チェンジマネジメント(変革管理)」です。ツールの使い方を教えるだけでなく、新しい働き方のメリットを丁寧に伝え、現場の疑問や不安に寄り添いながら定着を支援(伴走支援)します。

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ステップ5:効果測定と継続的な改善

DXは「導入して終わり」ではありません。 導入後、従業員のツール利用率、業務効率(例:会議時間の削減)、エンゲージメントスコアなどを定期的に測定します。このデータを基に、さらなる活用促進策や、新たな課題の特定、ロードマップの見直しなど、継続的な改善サイクル(PDCA)を回し続けます。

Google WorkspaceはピープルセントリックDXにどう貢献するか?

ピープルセントリックなDX推進において、Google Workspaceのようなクラウドネイティブなコラボレーションツールは、単なる業務効率化ツール以上の、中核的な役割を果たします。

①時間と場所からの解放(柔軟な働き方)

Google Workspaceは、Gmail、カレンダー、ドライブ、ドキュメント、Meet、チャットなど、業務に必要なすべてがクラウド上で完結します。

これにより、従業員はオフィスに縛られることなく、自宅、サテライトオフィス、外出先など、最も生産性が上がる場所で働けます。これは、育児や介護と仕事の両立を支援し、通勤ストレスを軽減するなど、従業員のウェルビーイング向上に直結します。

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②シームレスなコラボレーションの促進

ピープルセントリックな組織は、部門や役職の壁が低いことが特徴です。Google Workspaceは、リアルタイムの共同編集(ドキュメント、スプレッドシート)、Google Meetによる簡単なビデオ会議、Google チャットによる迅速な意思疎通を可能にし、組織のサイロ化を防ぎます。

情報がオープンに共有され、誰もが議論に参加しやすい環境は、心理的安全性を高め、イノベーションの土壌となります。

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③「探す」ストレスの撲滅とナレッジ共有

従業員の生産性を奪う大きな要因の一つが「情報を探す時間」です。Googleドライブの強力な検索機能は、必要なファイルや情報を瞬時に見つけ出し、従業員を本来注力すべき創造的な業務に集中させます。 また、「共有ドライブ」によるファイルの一元管理は、業務の属人化を防ぎ、組織全体のナレッジとして蓄積・共有することを容易にします。

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Google Cloud連携で実現する「一歩先」のピープルセントリック

Google Workspaceの導入だけでもEX向上に大きく寄与しますが、XIMIXが強みとするのは、その先の「Google Cloudとの連携」による、データドリブンなピープルセントリックDXの実現です。

Google Cloudで実現する「ピープルアナリティクス」

DX推進において「感覚」や「経験則」だけに頼った意思決定は限界を迎えています。Google Cloudのデータウェアハウス「BigQuery」やBIツール「Looker」を活用することで、客観的なデータに基づいた「ピープルアナリティクス」が可能になります。

例えば、Google Workspaceの利用ログ(会議時間、メール送信数、共同編集の頻度など ※プライバシーに配慮した上)と、人事データ(勤怠、評価、異動履歴など)をBigQueryで統合・分析。これにより、 「長時間労働が常態化している部門はどこか?」 「エンゲージメントが高いチームのコミュニケーションパターンは?」 「退職予備軍に共通するツールの使い方の傾向は?」 といった、これまで見えなかった組織の課題や兆候を可視化できます。

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データに基づくEX(従業員体験)の継続的改善

ピープルアナリティクスで得られたインサイトは、具体的なEX改善施策に繋がります。 例えば、「会議が多すぎる」部門にはGoogle Workspaceの効率的な会議運営術をトレーニングし、「部門間連携が少ない」場合は共有ドライブの活用やチャットルームの設計を見直す。こうしたデータに基づくアプローチこそが、ピープルセントリックなDXを加速させます。

Google WorkspaceとGoogle Cloudをシームレスに連携させ、組織の「人」に関するデータを分析・活用する。これこそが、Google CloudのSIerであるXIMIX が提供する、他社にはない専門的な支援の形です。

ピープルセントリックなDX推進がもたらす経営メリット

「人」を中心に据えたDX推進は、従業員の満足度向上だけでなく、明確な経営メリットをもたらします。

  • 生産性の向上: 従業員が使いやすいツールでストレスなく働ける環境、情報検索や非効率な会議の削減により、組織全体の生産性が向上します。

  • イノベーションの促進: 心理的安全性が高く、コラボレーションが活発な組織文化は、新しいアイデアや挑戦を生み出す土壌となります。

  • 離職率の低下と採用力の強化: 「働きがい」や「成長実感」のある職場は従業員エンゲージメントを高め、離職率の低下に繋がります。また、「従業員を大切にする会社」という評判は採用活動においても強力な武器となります。

  • 顧客満足度(CS)の向上: 従業員満足度(ES)と顧客満足度(CS)には強い相関関係があることが知られています。エンゲージメントの高い従業員は、より質の高いサービスを顧客に提供します。

  • レジリエンス(回復力)の強化: 自律的に考え行動できる人材が育つことで、市場環境の変化や不測の事態にも柔軟に対応できる、しなやかで強い組織(レジリエンス)が構築されます。

XIMIXによる伴走型のDX推進ご支援

ここまで、ピープルセントリックの概念と、Google Workspace/Google Cloudがその実現にどう貢献するかを解説してきました。

しかし、多くの企業様が「ツールを導入したが、文化が変わらない」「何から手をつければ良いか分からない」「データ活用と言っても、分析できる人材がいない」といった現実に直面します。

私たちXIMIXは、Google CloudおよびGoogle Workspaceの導入・活用支援において豊富な実績を持つパートナーです。私たちは単なるツールベンダーではありません。お客様のDXを成功に導く「伴走者」として、組織変革をトータルでご支援します。

XIMIXの強み:技術力と変革支援力

  1. スムーズな導入・移行支援: 既存システムからのスムーズなデータ移行や、セキュリティ設計など、技術的な導入を確実に支援します。

  2. 伴走型による定着化・文化醸成: XIMIXが最も重視するのが「導入後」の支援です。使い方トレーニングはもちろん、現場の抵抗感を和らげるためのコミュニケーション設計、活用促進のためのワークショップ開催など、お客様と伴走しながら「使われる」状態を実現します。(=チェンジマネジメント)

  3. Google Cloud連携による高度化: ご要望に応じ、前述のピープルアナリティクス基盤構築や、AIを活用した業務自動化など、DXをさらに高度化するご提案も可能です。

DX推進や、Google Workspaceの効果的な活用、組織文化の変革にご関心をお持ちでしたら、ぜひお気軽にご相談ください。貴社の状況に合わせた最適なご提案をさせていただきます。

XIMIXのGoogle Workspace 導入支援についてはこちらをご覧ください。
XIMIXのGoogle Cloud 導入支援についてはこちらをご覧ください。

まとめ

本記事では、DX時代に不可欠な「ピープルセントリック」という思想について、その本質、具体的な実践ステップ、そしてGoogle Workspace/Google Cloudが果たす役割を解説しました。

テクノロジーの進化が加速する現代だからこそ、その中心に「人」を据え、従業員一人ひとりが能力を最大限に発揮できる環境を構築することが、企業の競争力を左右します。ピープルセントリックは、単なるスローガンではなく、DXを成功に導き、持続的成長を実現するための具体的な経営戦略です。

Google Workspaceは、柔軟な働き方とシームレスなコラボレーションを実現し、その基盤を支えます。さらにGoogle Cloudとの連携は、データに基づいた客観的な組織改善を可能にします。

この記事が、貴社のDX推進において「人」という最も重要な資産を見つめ直し、次の一歩を踏み出すきっかけとなれば幸いです。


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