オブザーバビリティとは?意味、背景、重要性、Google Cloudでの実現方法を解説

 2025,05,01 2025.05.01

はじめに

デジタルトランスフォーメーション(DX)の推進が加速する現代において、企業活動を支えるITシステムはますます複雑化しています。マイクロサービス化、コンテナ技術の導入、マルチクラウド環境の採用など、新しい技術が次々と登場し、ビジネスの俊敏性を高める一方で、システムの全体像を把握し、安定稼働を維持することは以前にも増して困難になっています。

「システムのどこかで問題が発生しているようだが、原因特定に時間がかかる」 「新しい機能を追加したら、予期せぬ箇所でパフォーマンスが低下した」 「クラウド利用料が増加しているが、どの部分がボトルネックなのか分からない」

このような課題に直面している企業は少なくないでしょう。従来の「監視」だけでは、こうした複雑なシステムの内部状態を正確に理解し、迅速に対応することが難しくなってきています。

そこで注目されているのが「オブザーバビリティ(Observability / 可観測性)」という考え方です。本記事では、オブザーバビリティとは何か、なぜ今重要視されているのか、そしてビジネス成長に不可欠なGoogle Cloudとどのように関連しているのかを、わかりやすく解説します。この記事を読むことで、オブザーバビリティの基本を理解し、自社のシステム運用やDX推進に活かすための第一歩を踏み出すことができるでしょう。

オブザーバビリティとは?「監視」との違いを理解する

まず、「オブザーバビリティ」とは何か、その基本的な意味から見ていきましょう。

オブザーバビリティ(可観測性)の定義

オブザーバビリティとは、システムが外部に出力するデータ(ログ、メトリクス、トレースなど)を分析することで、システムの内部状態をどれだけ推測できるか、という「度合い」や「能力」を指します。言い換えれば、「システムが自身の状態をどれだけ"語ってくれるか"」ということです。

この概念は、元々制御理論で使われていた言葉ですが、近年、複雑なITシステムの文脈で注目を集めるようになりました。オブザーバビリティが高いシステムとは、何らかの問題が発生した場合でも、収集したデータから根本原因を迅速に特定し、解決策を導き出すことができるシステムを意味します。

「監視(モニタリング)」と「オブザーバビリティ」の違い

「オブザーバビリティ」と聞くと、従来の「監視(モニタリング)」と同じようなものだと考える方もいるかもしれません。しかし、両者には明確な違いがあります。

  • 監視(Monitoring): あらかじめ「既知」の問題や状態(CPU使用率、メモリ使用量、ディスク空き容量など)を対象とし、定義された閾値を超えた場合にアラートを出すアプローチです。「想定内の問題」を発見することに主眼が置かれています。
  • オブザーバビリティ(Observability): システムから出力される多様なデータを収集・分析し、「未知」の問題や予期せぬ挙動の原因を探求するアプローチです。「なぜそうなっているのか?」を理解し、「想定外の問題」を発見・解決することを目指します。

例えるなら、監視は「体温計で熱を測る」行為、オブザーバビリティは「様々な検査(血液検査、レントゲン、問診など)を通じて、なぜ熱が出ているのか、体のどこに異常があるのかを総合的に診断する」行為に近いと言えるでしょう。複雑な現代のシステムにおいては、単に既知の指標を見るだけでなく、システム内部で何が起こっているのかを深く理解するオブザーバビリティの考え方が不可欠なのです。

なぜ今、オブザーバビリティが注目されるのか?

オブザーバビリティが重要視される背景には、近年のIT環境の変化が大きく関わっています。

①システムの複雑化と分散化

マイクロサービスアーキテクチャやコンテナ技術(Docker, Kubernetesなど)、サーバーレスコンピューティングの普及により、システムはより細かく分割され、分散化される傾向にあります。これにより、個々のサービスは独立して開発・デプロイできるようになり、開発スピードは向上しましたが、一方でシステム全体の挙動を把握することは格段に難しくなりました。一つのリクエストが複数のサービスを経由する中で、どこで遅延が発生しているのか、どこでエラーが起きているのかを追跡することが困難になったのです。

②クラウドネイティブ技術の浸透

AWS、Azure、そしてGoogle Cloudのようなパブリッククラウドの利用が一般化し、クラウドネイティブな技術(コンテナ、サービスメッシュ、宣言的APIなど)を前提としたシステム構築が進んでいます。これらの技術は、スケーラビリティや柔軟性を高める一方で、動的な変化が多く、従来の静的な監視手法では追従しきれない場面が増えています。

③変化のスピードとビジネスへの影響

市場の変化は激しく、企業は迅速にサービスを改善し、新しい価値を提供し続ける必要があります。CI/CD(継続的インテグレーション/継続的デリバリー)による頻繁なデプロイが当たり前になる中で、システム障害やパフォーマンス低下がビジネスに与える影響はますます大きくなっています。問題発生時に迅速に原因を特定し、復旧させる能力、すなわちオブザーバビリティの高さが、ビジネスの継続性や競争力に直結する時代になったと言えるでしょう。

オブザーバビリティを支える「3つの柱」

オブザーバビリティを実現するためには、主に以下の3種類のデータを収集・分析することが重要とされています。これらは「オブザーバビリティの3つの柱(Three Pillars of Observability)」と呼ばれます。

1. ログ (Logs)

ログは、システム内で発生したイベント(エラー、警告、アクセス記録など)を時系列で記録したテキストデータです。何が、いつ、どこで起こったのかを詳細に知ることができます。エラー発生時の原因調査や、特定の処理の流れを追跡する際に不可欠な情報源です。

2. メトリクス (Metrics)

メトリクスは、システムのパフォーマンスや状態を表す数値データです。CPU使用率、メモリ使用量、ネットワークトラフィック、リクエスト数、レイテンシ(応答時間)などがこれにあたります。一定間隔で収集され、システムの全体的な傾向や異常を把握するために用いられます。特定の閾値に基づいてアラートを設定する「監視」の基礎ともなります。

3. トレース (Traces)

トレースは、分散システムにおけるリクエストの処理経路を追跡したデータです。ユーザーからのリクエストが、どのサービスを経由し、各サービスでどれくらいの時間がかかったのかを可視化します。マイクロサービス環境など、複数のコンポーネントが連携して動作するシステムにおいて、ボトルネックとなっている箇所やエラーの原因となっているサービスを特定するのに非常に有効です。

これら3つのデータは、それぞれ異なる側面からシステムの状態を示しており、相互に連携させることで、より深くシステムを理解することが可能になります。例えば、メトリクスでレイテンシの悪化を検知し、トレースで遅延が発生しているサービスを特定、さらにそのサービスのログを詳しく調べることで根本原因を突き止めるといった活用が考えられます。

Google Cloudにおけるオブザーバビリティ

Google Cloudは、オブザーバビリティを実現するための強力なマネージドサービス群を提供しており、「operations suite」(旧称: Stackdriver)として統合されています。これにより、企業はオブザーバビリティ環境の構築・運用にかかる負担を軽減し、本来注力すべきアプリケーション開発やビジネス価値の向上にリソースを集中させることができます。

Cloud Logging

Google Cloud上で動作するアプリケーションやサービス、インフラストラクチャからログデータを収集、保存、分析、アラート設定を行うためのサービスです。リアルタイムでのログ分析や、長期間のログ保管、特定のパターンに基づいたアラート設定などが可能です。

Cloud Monitoring

Google Cloudリソース、アプリケーション、さらにはオンプレミスや他のクラウド環境のメトリクスを収集、可視化、アラート設定を行うサービスです。ダッシュボード機能により、システム全体の健全性を一目で把握でき、異常検知やパフォーマンス分析に役立ちます。

Cloud Trace

アプリケーションに対するリクエストのレイテンシデータを収集し、分散トレーシングを実現するサービスです。リクエストがシステム内のどのサービスを経由し、どこで時間がかかっているかを詳細に分析することで、パフォーマンスのボトルネック特定を支援します。

Cloud Profiler

本番環境で動作するアプリケーションのCPU使用状況やメモリ割り当てを継続的に分析し、パフォーマンスのボトルネックとなっているコード箇所を特定するサービスです。オーバーヘッドを最小限に抑えながら、詳細なプロファイル情報を収集できます。

これらのサービスを組み合わせることで、Google Cloud上で稼働するシステムはもちろん、ハイブリッドクラウドやマルチクラウド環境においても、包括的なオブザーバビリティを確保することが可能です。Google Cloudは、オブザーバビリティの3つの柱であるログ、メトリクス、トレースを網羅的にサポートし、さらにプロファイリングなどの高度な機能も提供することで、複雑なシステムの健全性を維持し、DX推進を強力にバックアップします。

XIMIXによる導入・活用支援

オブザーバビリティの重要性は理解できたものの、「自社システムにどう適用すれば良いのか?」「Google Cloudの各サービスを効果的に使いこなせるか不安」と感じる方もいらっしゃるかもしれません。特に、既存システムへの導入や、収集した膨大なデータを分析して具体的な改善アクションにつなげるには、専門的な知識と経験が求められます。

XIMIXでは、Google Cloudに関する豊富な導入実績と深い知見に基づき、お客様の状況に合わせた環境の設計、構築、そして運用支援まで、一貫したサポートを提供しています。

  • 現状アセスメントと戦略策定: お客様のシステム環境やビジネス目標をヒアリングし、課題解決のポイントや最適なアプローチをご提案します。
  • Google Cloudサービス導入支援: Cloud Logging, Cloud Monitoring, Cloud Traceなどの設定、カスタマイズ、ダッシュボード構築などを、ベストプラクティスに基づき支援します。
  • データ活用と改善: 収集したデータを分析し、パフォーマンス改善、コスト最適化、信頼性向上につながる具体的な施策をご提案・実行支援します。
  • 運用・伴走支援: オブザーバビリティ環境の継続的な改善や、インシデント発生時の分析サポートなど、お客様の運用チームと連携し、伴走支援を行います。

XIMIXは、単なるツール導入に留まらず、データに基づいた継続的なシステム改善サイクルを実現することで、お客様のDX推進を加速させることを目指しています。多くの企業様をご支援してきた経験から、お客様固有の課題に寄り添った最適なソリューションをご提供いたします。

Google Cloudを活用したオブザーバビリティの強化や、システム運用の高度化にご興味をお持ちでしたら、ぜひお気軽にXIMIXまでお問い合わせください。

XIMIXのGoogle Cloud 導入支援についてはこちらをご覧ください。

まとめ:オブザーバビリティでシステムの「今」を捉え、未来へつなぐ

本記事では、DX時代におけるシステム運用の鍵となる「オブザーバビリティ」について、その意味、注目される背景、監視との違い、そしてGoogle Cloudにおける実現方法を解説しました。

  • オブザーバビリティとは: システムが出力するデータ(ログ、メトリクス、トレース)から内部状態を推測する能力。
  • 重要性の高まり: システムの複雑化、クラウドネイティブ化、変化のスピードに対応するために不可欠。
  • 監視との違い: 「既知」の問題を対象とする監視に対し、オブザーバビリティは「未知」の問題を探求する。
  • 3つの柱: ログ、メトリクス、トレースを組み合わせることで、システムを深く理解する。
  • Google Cloudでの実現: Cloud Logging, Monitoring, Traceなどのサービスで強力にサポート。

オブザーバビリティは、単なる技術的な概念ではなく、複雑化するITシステムとビジネス要求の間をつなぐ、重要な考え方です。システムの「今」を正確に把握し、データに基づいて迅速かつ的確な判断を下す能力は、これからの企業にとって競争力の源泉となるでしょう。

まずは自社のシステム運用において、オブザーバビリティの観点が取り入れられているか、改善できる点はないかを見直すことから始めてみてはいかがでしょうか。Google Cloudとその関連サービス、そしてXIMIXのような専門家の支援を活用することで、より安定し、変化に強いシステム基盤を構築し、DXをさらに前進させることが可能です。


オブザーバビリティとは?意味、背景、重要性、Google Cloudでの実現方法を解説

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