オブザーバビリティとは?意味、背景、重要性、Google Cloudでの実現方法を解説

 2025,05,01 2025.07.06

はじめに

デジタルトランスフォーメーション(DX)が企業の成長を左右する現代。その心臓部であるITシステムは、マイクロサービス、コンテナ、マルチクラウドといった技術の採用により、かつてないほど高度化・複雑化しています。この変化はビジネスに俊敏性をもたらす一方、新たな課題を生み出しました。

「障害発生時、原因の特定に何時間も費やしている」 「新機能のリリース後、予期せぬ性能劣化が起きた」 「クラウドコストが増え続けているが、どこに無駄があるのか分からない」

こうした課題は、もはや従来型の「監視」だけでは解決できません。複雑に絡み合ったシステムの内部を正確に把握し、ビジネスインパクトを未然に防ぐためのアプローチ、それが「オブザーバビリティ(Observability / 可観測性)」です。

本記事では、オブザーバビリティの基本から、ビジネスにもたらす具体的な価値、そしてGoogle Cloudを活用した実現方法までを、XIMIXが培ってきた豊富なシステムインテグレーションの知見を交えながら、徹底的に解説します。

オブザーバビリティとは?~「監視」の先にあるもの~

まず、オブザーバビリティの核心となる考え方と、従来からある「監視」との本質的な違いを理解しましょう。

システムの内部状態を解き明かす「可観測性」

オブザーバビリティ(可観測性)とは、システムが外部に出力するデータ(ログ、メトリクス、トレース)を手がかりに、システムの内部で何が起きているのかをどれだけ深く理解できるかという能力や性質を指します。

言い換えれば、「システム自身が、その状態をどれだけ雄弁に語ってくれるか」ということです。オブザーバビリティが高いシステムは、たとえ未知の問題や予期せぬ事象が発生しても、残されたデータから根本原因を迅速に探り当て、的確な対策を打つことが可能です。

「監視」と「オブザーバビリティ」の決定的な違い

「監視(モニタリング)」と「オブザーバビリティ」は混同されがちですが、その目的とアプローチは根本的に異なります。

  • 監視(Monitoring): あらかじめ定義した「既知の脅威」を対象とします。CPU使用率やメモリ使用量といった特定の指標を定め、その閾値を超えた場合にアラートを発するアプローチです。これは「想定内の問題」を検知することに主眼が置かれています。例えるなら、「体温計で37.5℃以上の熱を検知する」ようなものです。

  • オブザーバビリティ(Observability): システムから出力される多様なデータを複合的に分析し、「未知の問題」や「予期せぬ挙動」の原因を探求します。「なぜ、そうなったのか?」という問いに答えることを目指すアプローチです。例えるなら、「血液検査、レントゲン、問診といった様々な情報を組み合わせ、なぜ熱が出たのか、体のどこに異常があるのかを総合的に診断する」行為に近いでしょう。

システムの複雑性が増した現代では、想定内の問題だけを追う監視だけでは不十分です。想定外の未知なる問題に立ち向かうための「診断能力」としてのオブザーバビリティが、システムの安定稼働とビジネスの継続性に不可欠なのです。

オブザーバビリティがもたらす4つの具体的なビジネス価値

オブザーバビリティへの投資は、単なる技術的な改善に留まりません。企業の競争力に直結する、明確なビジネス価値を生み出します。

①迅速な障害対応とサービス信頼性の向上

システムの障害は、売上機会の損失や顧客満足度の低下に直結します。オブザーバビリティが確保されていれば、問題発生時に根本原因を迅速に特定し、平均復旧時間(MTTR)を大幅に短縮できます。これにより、サービス停止時間を最小限に抑え、顧客からの信頼を維持・向上させることが可能です。

②開発ライフサイクルの高速化

「新しいコードをデプロイしたら、パフォーマンスが劣化した」といった問題は、開発チームの速度を著しく低下させます。オブザーバビリティは、開発の早い段階でパフォーマンスのボトルネックやバグを特定するのに役立ちます。これにより、開発者は手戻りを減らし、自信を持って迅速に新機能やサービスを市場に投入できるようになります。

③優れた顧客体験(CX)の実現

ページの表示速度が遅い、特定のアクションでエラーが頻発するといった問題は、顧客体験を損なう大きな要因です。オブザーバビリティによって、個々のユーザーリクエストがシステム内部でどのように処理されているかを追跡し、顧客が体感するパフォーマンスを正確に把握できます。これにより、データに基づいたUX改善が可能となり、顧客満足度とエンゲージメントを高めます。

④ITインフラコストの最適化

「どのシステムリソースが本当に必要で、どれが無駄なのか」を正確に把握することは、クラウド時代におけるコスト管理の重要なテーマです。オブザーバビリティを通じて、各サービスの利用状況や依存関係を可視化することで、過剰なリソースの削減や、コスト効率の高いアーキテクチャへの改善を計画的に進めることができます。

関連記事:クラウド破産」とは?原因と対策、Google Cloudでのコスト最適化を解説

オブザーバビリティを支える「3つの柱」

オブザーバビリティは、主に3種類のデータを収集・分析することで実現されます。これらは「オブザーバビリティの3つの柱」と呼ばれ、互いに連携することで真価を発揮します。

①イベントの記録である「ログ」

ログは、システム内で発生した特定のイベント(エラー、アクセス記録、処理の開始・終了など)を時系列で記録したテキストデータです。「いつ、どこで、何が起きたのか」を詳細に示します。特定のエラーの状況確認や、監査証跡として不可欠な情報源です。

②状態の指標である「メトリクス」

メトリクスは、CPU使用率、リクエスト数、レイテンシ(応答時間)といった、システムのパフォーマンスや状態を定期的に測定した数値データです。システムの全体的な健康状態や傾向を把握し、異常を検知するアラートの基盤となります。

③リクエストの旅路である「トレース」

トレースは、分散システムにおいて、一連の処理(トランザクション)がどのサービスやコンポーネントを経由し、各処理にどれだけの時間がかかったかを追跡したデータです。マイクロサービスのように複数のサービスが連携する環境で、パフォーマンスのボトルネックやエラー箇所を特定する上で極めて強力です。

3つの柱の連携が「なぜ?」を解き明かす鍵

これら3つのデータは、単独でも有用ですが、連携させることで初めて「なぜ問題が起きたのか」という問いに答えることができます。

例えば、「メトリクスでWebサイトの応答時間(レイテンシ)の急激な悪化を検知」→「トレースを分析し、特定のリクエストが商品検索サービスで異常に時間がかかっていることを特定」→「該当時間帯の商品検索サービスのログを調査し、データベース接続エラーが多発していたことを発見」といったように、点と点であった情報を線でつなぎ、問題の全体像と根本原因を明らかにします。

Google Cloudで実現する高度なオブザーバビリティ

オブザーバビリティの重要性を理解しても、その環境を自前で構築・運用するのは大きな負担です。Google Cloudは、「Google Cloud's operations suite」(旧称: Stackdriver)として、強力なマネージドサービス群を提供しています。

なぜGoogle Cloudが選ばれるのか?

Google自身が、世界最大級の分散システムを運用する中で培ってきたノウハウが、Google Cloudのオブザーバビリティサービスには凝縮されています。SRE(Site Reliability Engineering)という概念を生み出したGoogleのサービスは、大規模かつ複雑なシステムを安定稼働させるためのベストプラクティスが組み込まれており、信頼性と拡張性に優れています。

Google Cloudの主要オブザーバビリティサービス

  • Cloud Logging: あらゆるソースからのログを一元的に収集、検索、分析、アラート設定が可能なフルマネージドサービス。膨大なログデータからインサイトをリアルタイムで引き出します。

  • Cloud Monitoring: Google Cloud内外のインフラやアプリケーションからメトリクスを収集し、豊富なグラフやダッシュボードで可視化。異常検知機能により、問題の兆候を早期に捉えます。

  • Cloud Trace: アプリケーションのレイテンシを分析する分散トレーシングシステム。リクエストがどのサービスを経由し、どこに時間がかかっているかを瞬時に可視化し、パフォーマンス改善を支援します。

  • Cloud Profiler: 本番環境で稼働中のアプリケーションのCPUやメモリ使用状況を、オーバーヘッドを最小限に抑えつつ継続的に分析。コードレベルでの非効率な箇所を特定します。

これらのサービスを組み合わせることで、3つの柱を網羅した包括的なオブザーバビリティ環境を迅速に構築し、運用負荷を大幅に削減できます。

オブザーバビリティ導入における現実的な課題と成功への道筋

オブザーバビリティの導入は、単にツールを導入すれば終わり、というわけではありません。多くの企業が直面する課題と、それを乗り越えるためのポイントを解説します。

多くの企業が直面する3つの壁

  1. ツールの乱立とデータのサイロ化: 部署やチームごとに異なる監視ツールを導入した結果、データが分散。システム全体を横断的に分析できず、部分最適に陥ってしまうケース。

  2. 膨大なデータの活用ノウハウ不足: 大量のログやメトリクスは収集したものの、「どこをどう見ればいいのか分からない」「データがビジネス改善に繋がらない」という課題。

  3. 組織文化の壁: 開発チームと運用チームの連携が取れておらず、オブザーバビリティから得られた知見が迅速なアクションに結びつかない。データに基づいた改善文化が根付いていない。

関連記事:データのサイロ化とは?DXを阻む壁と解決に向けた第一歩【入門編】

課題を乗り越え、成功に導くアプローチ

これらの課題を乗り越えるには、技術的な側面だけでなく、組織的なアプローチが不可欠です。まずはスモールスタートで成功体験を積み、その価値を組織全体に示していくことが重要です。どの領域から手をつけるべきか、どの指標を追うべきか、といった初期の戦略設計が成否を分けます。

関連記事:なぜDXは小さく始めるべきなのか? スモールスタート推奨の理由と成功のポイント、向くケース・向かないケースについて解説

XIMIXが提供する伴走型導入・活用支援

NI+CのXIMIXは、Google Cloudの技術と豊富な導入実績を基に、お客様がオブザーバビリティを真に活用し、ビジネス価値を創出するためのご支援を提供します。

NI+Cの豊富な実績に基づくトータルサポート

私たちは単なるツール導入ベンダーではありません。長年にわたり、様々な業種のお客様の基幹システム構築から運用までを支援してきたNI+Cの経験に基づき、お客様のビジネスとシステムを深く理解した上で、最適なオブザーバビリティ戦略を策定します。

  • 現状アセスメントと戦略立案: お客様の課題をヒアリングし、ビジネス目標に直結する観測ポイントとKPIを設計します。

  • 環境構築とデータ統合支援: Google Cloudサービスを最適に設定し、サイロ化されたデータを統合。全体を俯瞰できるダッシュボードを構築します。

  • データ活用と改善サイクルの定着: 収集したデータを分析し、改善アクションを提案。お客様のチームが自走してデータ活用できるまで、トレーニングや勉強会を通じて伴走支援します。

Google Cloudを活用したオブザーバビリティの強化や、システム運用の高度化にご興味をお持ちでしたら、ぜひお気軽にXIMIXまでお問い合わせください。

XIMIXのGoogle Workspace 導入支援についてはこちらをご覧ください。
XIMIXのGoogle Cloud 導入支援についてはこちらをご覧ください。

まとめ:オブザーバビリティはDXを加速させる羅針盤

本記事では、DX時代の複雑なシステムを乗りこなすための鍵となる「オブザーバビリティ」を多角的に解説しました。

  • オブザーバビリティの本質: 「監視」が既知の問題を発見するのに対し、オブザーバビリティは未知の問題の原因を探求するアプローチ。

  • ビジネス価値: 障害復旧の迅速化、開発高速化、顧客体験の向上、コスト最適化に直結する。

  • 3つの柱: ログ、メトリクス、トレースを連携させることで、システムの「なぜ?」を解き明かす。

  • 成功の鍵: Google Cloudのような強力なツールを活用しつつ、組織的な課題を乗り越え、データに基づいた改善サイクルを定着させることが重要。

オブザーバビリティは、もはや一部の先進企業だけのものではありません。変化の激しい時代において、システムの「今」を正確に捉え、データドリブンな意思決定を下す能力は、すべての企業の競争力の源泉となります。

自社のシステム運用を次のステージへ引き上げる第一歩として、オブザーバビリティの導入を検討してみてはいかがでしょうか。


オブザーバビリティとは?意味、背景、重要性、Google Cloudでの実現方法を解説

BACK TO LIST