オブザーバビリティとは?意味、背景、重要性、Google Cloudでの実現方法を解説

 2025,05,01 2025.11.04

はじめに

デジタルトランスフォーメーション(DX)が企業の競争戦略そのものとなった現代。その心臓部であるITシステムは、マイクロサービス、コンテナ、マルチクラウドといった技術の採用により、ビジネスに俊敏性をもたらす一方、かつてないほど高度化・複雑化しています。

この変化の裏側で、システム運用現場からはこのような悲鳴が聞こえてきます。 「障害発生時、原因の特定に何時間も費やしている」 「新機能のリリース後、予期せぬ性能劣化が起きた」 「クラウドコストが増え続けているが、どこに無駄があるのか分からない」

こうした課題は、もはや従来型の「監視(モニタリング)」だけでは解決できません。複雑に絡み合ったシステムの内部を正確に把握し、ビジネスインパクトを未然に防ぐためのアプローチ、それが「オブザーバビリティ(Observability / 可観測性)」です。

本記事では、オブザーバビリティの基本概念から、なぜ今このアプローチが不可欠なのかという背景、そしてGoogle Cloudを活用した具体的な実現方法までを、のXIMIXが培ってきた豊富なシステムインテグレーションの知見を交えながら、解説します。

オブザーバビリティ(可観測性)とは何か?

まず、オブザーバビリティの核心となる考え方と、従来からある「監視」との本質的な違いを理解しましょう。

システム内部を深く理解する「能力」

オブザーバビリティ(可観測性)とは、システムが外部に出力するデータ(ログ、メトリクス、トレース)を手がかりに、システムの内部で何が起きているのかをどれだけ深く理解できるかという能力や性質を指します。

この用語はもともと、機械工学や制御理論で「システムの内部状態を、外部から得られる観測データだけからどれだけ正確に把握できるか」を示す言葉でした。

ITシステムにおけるオブザーバビリティとは、言い換えれば、「システム自身が、その状態をどれだけ雄弁に語ってくれるか」ということです。オブザーバビリティが高いシステムは、たとえ未知の問題や予期せぬ事象が発生しても、残された多様なデータから根本原因を迅速に探り当て、的確な対策を打つことが可能です。

「監視」と「オブザーバビリティ」の決定的な違い

「監視(モニタリング)」と「オブザーバビリティ」は混同されがちですが、その目的とアプローチは根本的に異なります。

監視(Monitoring): あらかじめ定義した「既知の脅威(Known Unknowns)」を対象とします。CPU使用率80%以上、メモリ使用量90%以上といった特定の指標(メトリクス)を定め、その閾値を超えた場合にアラートを発するアプローチです。これは「想定内の問題」を検知することに主眼が置かれています。 例えるなら、「体温計で37.5℃以上の熱を検知する」行為です。熱があることは分かりますが、「なぜ熱が出たのか」までは分かりません。

オブザーバビリティ(Observability): システムから出力される多様なデータを複合的に分析し、「未知の問題(Unknown Unknowns)」や「予期せぬ挙動」の原因を探求します。「なぜ、そうなったのか?」という問いに答えることを目指すアプローチです。 例えるなら、「血液検査(ログ)、レントゲン(トレース)、問診(メトリクス)といった様々な情報を組み合わせ、なぜ熱が出たのか、体のどこに異常があるのかを総合的に診断する」行為に近いでしょう。

システムの複雑性が増した現代では、想定内の問題だけを追う監視だけでは不十分です。想定外の未知なる問題に立ち向かうための「診断能力」としてのオブザーバビリティが、システムの安定稼働とビジネスの継続性に不可欠なのです。

なぜ今、オブザーバビリティが不可欠なのか

オブザーバビリティという概念自体は新しいものではありませんが、ここ数年で急速に注目を集めているのには明確な理由があります。それは、ITシステムが従来とは比較にならないほど複雑化し、旧来の「監視」アプローチが限界を迎えたからです。

①複雑化するITインフラ環境

従来のモノリシックな(一枚岩の)システムとは異なり、現代のシステムは多数の小さなサービスが連携して動作します。

②マイクロサービスとコンテナ化の普及

機能ごとに独立した「マイクロサービス」として開発・デプロイする手法が主流になりました。これにより、各サービスは独立して迅速にアップデートできますが、一方でサービス間の通信(依存関係)は爆発的に増加しました。 ある一つのリクエストが、裏側では10個も20個も異なるサービスを経由することも珍しくありません。この環境で障害が起きた時、「どこ」で問題が起きているのか特定するのは困難を極めます。

関連記事:
【入門編】マイクロサービスとは?知っておくべきビジネス価値とメリット・デメリット
【入門編】コンテナとは?仮想マシンとの違い・ビジネスメリットを解説

③マルチクラウド/ハイブリッドクラウドの常態化

ビジネス要件に応じて、Google Cloud、AWS、Azureといった複数のパブリッククラウドや、オンプレミスのプライベートクラウドを使い分けることが一般的になりました。データとアプリケーションが物理的に分散しているため、システム全体の状況を統一的に把握することが格段に難しくなっています。

関連記事:
マルチクラウドとシングルクラウド、それぞれのメリット・デメリットと選定のポイントを解説

④ビジネススピードへの要求(DevOps)

迅速な機能リリースと改善を繰り返すDevOpsのアプローチでは、開発チームがインフラの運用にも責任を持つことが増えました。コードをデプロイした直後に「パフォーマンスが劣化した」「特定機能だけエラーが出ている」といった事象を即座に検知し、開発者自身が原因を特定できる必要があります。

これらの要因が絡み合い、もはや「CPU使用率」のような単一の指標を眺めているだけでは、システムの全体像は把握できなくなりました。だからこそ、システム内部で起きていることを多角的に解き明かすオブザーバビリティが必要とされているのです。

関連記事:
【入門編】DevOpsとは? DX時代を勝ち抜く上での重要性やポイントを解説

オブザーバビリティを支える「3つの柱」

オブザーバビリティは、主に3種類のデータ(テレメトリーデータ)を収集・分析することで実現されます。これらは「オブザーバビリティの3つの柱」と呼ばれ、互いに連携することで真価を発揮します。

① イベントの記録である「ログ」

ログは、システム内で発生した特定のイベント(エラー、アクセス記録、処理の開始・終了など)を時系列で記録したテキストデータです。「いつ、どこで、何が起きたのか」を最も詳細に示します。 特定のエラーが発生した際の詳細な状況確認や、監査証跡として不可欠な情報源です。従来から存在しますが、オブザーバビリティにおいては、これが全てのコンポーネントから収集・集約されていることが重要です。

② 状態の指標である「メトリクス」

メトリクスは、CPU使用率、リクエスト数、レイテンシ(応答時間)、エラーレートといった、システムのパフォーマンスや状態を定期的に測定した数値データです。 システムの全体的な健康状態(ヘルスチェック)や傾向をダッシュボードで視覚的に把握し、異常を検知するアラートの基盤となります。「監視」で主に使われてきたデータですが、オブザーバビリティではより広範な指標を収集します。

③ リクエストの旅路である「トレース」

トレース(分散トレーシング)は、分散システムにおいて、ユーザーからのリクエストがシステム内部でどのように処理されたかを追跡したデータです。 一連の処理(トランザクション)が、どのサービスやコンポーネントを経由し、各処理にどれだけの時間がかかったかを時系列で可視化します。マイクロサービス環境において、パフォーマンスのボトルネックやエラー箇所を特定する上で極めて強力な武器となります。

3つの柱の連携:「なぜ?」を解き明かす鍵

これら3つのデータは、単独でも有用ですが、それぞれをシームレスに連携させることで初めて「なぜ問題が起きたのか」という問いに答えることができます。

例えば、以下のようなシナリオを考えてみましょう。

  1. [検知] メトリクス(Monitoring) 「Webサイトの応答時間(レイテンシ)が過去1時間の平均より30%悪化」というアラートが発生。ダッシュボードを見ると、特定のエンドポイントへのリクエストだけが遅延していることが判明。

  2. [特定] トレース(Trace) 該当エンドポイントのトレースデータを確認。すると、リクエストが「認証サービス」→「商品検索サービス」→「在庫確認サービス」を経由しており、そのうち「商品検索サービス」内部のデータベースクエリ(SQL)で異常な遅延(5秒)が発生していることを特定。

  3. [解明] ログ(Logging) 該当時間帯の「商品検索サービス」のログをドリルダウン。トレースIDと紐づいたログを調査すると、「データベース接続エラー(タイムアウト)」が多発しており、その直前に「特定インデックスの破損」を示すエラーログが記録されていたことを発見。

このように、「メトリクス」で問題の兆候を捉え、「トレース」でボトルネックを特定し、「ログ」で根本原因を解明するという流れが、オブザーバビリティによる問題解決の典型的なパターンです。

オブザーバビリティがもたらす4つのビジネス価値

オブザーバビリティへの投資は、単なる技術的な改善に留まりません。企業の競争力に直結する、明確なビジネス価値を生み出します。

① 迅速な障害対応とサービス信頼性の向上

システムの障害は、売上機会の損失や顧客満足度の低下に直結します。オブザーバビリティが確保されていれば、問題発生時に「メトリクス・トレース・ログ」を横断的に分析し、根本原因を迅速に特定できます。 これにより、平均復旧時間(MTTR)を大幅に短縮し、サービス停止時間を最小限に抑え、顧客からの信頼を維持・向上させることが可能です。

② 開発ライフサイクルの高速化

「新しいコードをデプロイしたら、パフォーマンスが劣化した」といった問題は、開発チームの速度を著しく低下させます。オブザーバビリティは、開発の早い段階(CI/CDパイプライン)でパフォーマンスのボトルネックやバグを特定するのに役立ちます。 これにより、開発者は手戻りを減らし、自信を持って迅速に新機能やサービスを市場に投入できるようになります(DevOpsの加速)。

③ 優れた顧客体験(CX)の実現

ページの表示速度が遅い、特定のアクションでエラーが頻発するといった問題は、顧客体験を損なう大きな要因です。オブザーバビリティによって、個々のユーザーリクエストがシステム内部でどのように処理されているかをトレースし、顧客が体感するパフォーマンス(SLI/SLO)を正確に把握できます。 これにより、データに基づいたUX改善が可能となり、顧客満足度とエンゲージメントを高めます。

関連記事:
【入門編】CX(カスタマーエクスペリエンス)とは?重要性から成功戦略までを徹底解説

④ ITインフラコストの最適化

「どのシステムリソースが本当に必要で、どれが無駄なのか」を正確に把握することは、クラウド時代におけるコスト管理の重要なテーマです。 オブザーバビリティを通じて、各サービスの利用状況や依存関係、リソース消費量を可視化することで、過剰なリソースの削減や、コスト効率の高いアーキテクチャへの改善を計画的に進めることができます。これは、多くの企業が懸念する「クラウド破産」を防ぐ上でも不可欠な視点です。

関連記事:
クラウド破産」とは?原因と対策、Google Cloudでのコスト最適化を解説

Google Cloudで実現する高度なオブザーバビリティ

オブザーバビリティの重要性を理解しても、その環境を自前で構築・運用するのは大きな負担です。Google Cloudは、「Google Cloud operations suite」(旧称: Stackdriver)として、強力なマネージドサービス群を提供しています。

なぜGoogle Cloudが選ばれるのか?

Google自身が、GmailやYouTubeといった世界最大級の分散システムを運用する中で培ってきたノウハウが、Google Cloudのオブザーバビリティサービスには凝縮されています。 SRE(Site Reliability Engineering)という、システムの信頼性維持と開発速度を両立させるための概念を生み出したGoogleのサービスは、大規模かつ複雑なシステムを安定稼働させるためのベストプラクティスが組み込まれており、圧倒的な信頼性と拡張性に優れています。

関連記事:
【入門編】SREとは?ビジネスを止めないためのサイト信頼性エンジニアリング

Cloud Logging:あらゆるログの収集・分析基盤

あらゆるソースからのログを一元的に収集、検索、分析、アラート設定が可能なフルマネージドサービス。ペタバイト級の膨大なログデータからインサイトをリアルタイムで引き出し、トレースデータと自動的に関連付けられます。

Cloud Monitoring:システム全体の健康状態を可視化

Google Cloud内外のインフラやアプリケーションからメトリクスを収集し、豊富なグラフやダッシュボードで可視化。異常検知機能により、問題の兆候を早期に捉えます。サービスレベル目標(SLO)の監視にも対応し、ビジネス視点での健全性管理が可能です。

Cloud Trace:分散トレーシングによるボトルネック特定

アプリケーションのレイテンシを分析する分散トレーシングシステム。リクエストがどのサービスを経由し、どこに時間がかかっているかを瞬時に可視化し、パフォーマンス改善を支援します。レイテンシの分布を自動で分析し、ボトルネックとなっている箇所を特定します。

Cloud Profiler:コードレベルでの継続的パフォーマンス分析

本番環境で稼働中のアプリケーションのCPUやメモリ使用状況を、オーバーヘッドを最小限に抑えつつ継続的に分析。コードレベルでの非効率な箇所を特定し、ピンポイントでのパフォーマンスチューニングを可能にします。

これらのサービスを組み合わせることで、「3つの柱」を網羅した包括的なオブザーバビリティ環境を迅速に構築し、運用負荷を大幅に削減できます。

オブザーバビリティ導入における現実的な課題と成功への道筋

オブザーバビリティの導入は、単にツールを導入すれば終わり、というわけではありません。多くの企業が直面する課題と、それを乗り越えるためのポイントを解説します。

多くの企業が直面する3つの壁

①ツールの乱立とデータのサイロ化

部署やチームごとに異なる監視ツールを導入した結果、データが分散。システム全体を横断的に分析できず、部分最適に陥ってしまうケースです。これはDX推進の大きな妨げとなる「データのサイロ化」の典型例です。

関連記事:
データサイロとは?DXを阻む壁と解決に向けた第一歩【入門編】

②膨大なデータの活用ノウハウ不足

大量のログやメトリクスは収集したものの、「どこをどう見ればいいのか分からない」「アラートが多すぎて対応しきれない(アラート疲れ)」「データがビジネス改善に繋がらない」という課題です。データを「情報」や「知見」に変えるノウハウが求められます。

関連記事:
アラート疲れ」から脱却する実践的アプローチ|Observabilityに基づく運用高度化とは

③データドリブンな組織文化の欠如

開発チームと運用チームの連携が取れておらず(DevOpsの壁)、オブザーバビリティから得られた知見が迅速なアクションに結びつかないケースです。データに基づいた改善文化が組織に根付いていないと、ツールは宝の持ち腐れとなってしまいます。

成功に導くアプローチ:スモールスタートと伴走支援

これらの課題を乗り越えるには、技術的な側面だけでなく、組織的なアプローチが不可欠です。

まずは全システムへの一斉導入を目指すのではなく、ビジネスインパクトの大きい特定のサービスや、課題が顕在化している領域に対象を絞って「スモールスタート」を切ることが重要です。そこで成功体験を積み、その価値を組織全体に示しながら段階的に拡大していくアプローチが現実的です。

どの領域から手をつけるべきか、どの指標(SLI/SLO)を追うべきか、といった初期の戦略設計が成否を分けます。

関連記事:
なぜDXは小さく始めるべきなのか? スモールスタート推奨の理由と成功のポイント、向くケース・向かないケースについて解説

XIMIXが提供する伴走型導入・活用支援

XIMIXは、Google Cloudの技術と豊富な導入実績を基に、お客様がオブザーバビリティを活用し、ビジネス価値を創出するためのご支援を提供します。

豊富な実績に基づくトータルサポートプロセス

私たちは単なるツール導入ベンダーではありません。長年にわたり、様々な業種のお客様の基幹システム構築から運用までを支援してきたNI+Cの経験に基づき、お客様のビジネスとシステムを深く理解した上で、最適なオブザーバビリティ戦略を支援します。

XIMIXは、以下のプロセスを通じてお客様のオブザーバビリティ実現を伴走支援します。

  1. 概念実証(PoC)と環境構築支援 スモールスタートのための対象領域を選定し、Google Cloudサービスを最適に設定。既存のオンプレミス環境や他社クラウドからのデータも統合し、全体を俯瞰できるパイロットダッシュボードを迅速に構築します。

  2. データ活用と改善サイクルの定着 構築した環境を使い、収集したデータを分析して改善アクションを提案。お客様のチームが自走してデータ活用できるまで、トレーニングや勉強会、SREの考え方に基づいた運用プロセスの設計までを継続的にご支援します。

おわりに:Google Cloud/Workspaceのプロフェッショナルとして

Google Cloudを活用したオブザーバビリティの強化や、システム運用の高度化にご興味をお持ちでしたら、ぜひお気軽にXIMIXまでお問い合わせください。

XIMIXのGoogle Workspace 導入支援についてはこちらをご覧ください。
XIMIXのGoogle Cloud 導入支援についてはこちらをご覧ください。

まとめ:オブザーバビリティはDXを加速させる羅針盤

本記事では、DX時代の複雑なシステムを乗りこなすための鍵となる「オブザーバビリティ」を多角的に解説しました。

  • オブザーバビリティの本質: 「監視」が既知の問題(Known Unknowns)を発見するのに対し、オブザーバビリティは未知の問題(Unknown Unknowns)の原因を探求する「能力」です。

  • なぜ今、必要か?: マイクロサービス、コンテナ、マルチクラウド化によりシステムが複雑化し、従来の監視アプローチが限界を迎えたためです。

  • 3つの柱: ログ(イベント)、メトリクス(状態)、トレース(リクエストの旅路)を連携させることで、システムの「なぜ?」を解き明かします。

  • ビジネス価値: 障害復旧の迅速化(MTTR短縮)、開発高速化(DevOps加速)、顧客体験(CX)の向上、コスト最適化に直結します。

  • 成功の鍵: Google Cloudのような強力なツールを活用しつつ、データのサイロ化や組織文化の壁を乗り越え、スモールスタートでデータに基づいた改善サイクルを定着させることが重要です。

オブザーバビリティは、もはや一部の先進企業だけのものではありません。変化の激しい時代において、システムの「今」を正確に捉え、データドリブンな意思決定を下す能力は、すべての企業の競争力の源泉となります。

自社のシステム運用を次のステージへ引き上げる第一歩として、オブザーバビリティの導入を検討してみてはいかがでしょうか。


BACK TO LIST