「とりあえず全部移行」は失敗の元?/レガシーシステムからの脱却に向けた移行データの見極め方

 2025,10,21 2025.10.21

なぜ今、データ移行の「見極め」が課題なのか?

多くの企業がDX(デジタルトランスフォーメーション)推進の一環として、レガシーシステムの刷新やクラウド環境への移行を進めています。その成否を大きく左右するにもかかわらず、しばしば技術的な「作業」として軽視されがちなのが「データ移行」です。

しかし、このデータ移行の初期段階における「移行するデータを見極める」プロセスこそが、プロジェクトのROI、ひいては新システムの将来的な価値を決定づける課題であると、私たちは多くの支援経験から考えています。

①「データ爆発」と移行コストの増大

現代の企業活動において、生成されるデータ量は爆発的に増加し続けています。例えば、市場調査会社のIDCは、全世界で生成されるデータ量が2025年までに163ゼッタバイト(163兆ギガバイト)に達すると予測しています(2017年発表データ)。

このような状況下で、旧システムに蓄積された全データを新システムへ単純移行するアプローチは、膨大な移行コスト(作業工数・時間)と、新システムにおける高額なストレージコストを招きます。貴重な経営資源を、価値を生み出さないデータの「引っ越し」と「保管」に費やしてしまうことになるのです。

②新システム移行の成否を分ける「データの質」

システム移行の目的は、単にインフラを新しくすることではありません。データを活用して新たなビジネス価値を創出することにあるはずです。

しかし、旧システムの「ゴミ箱」とも言える不要なデータ、重複したデータ、品質の低いデータをそのまま新システムに持ち込んでしまうとどうなるでしょうか。新システムのパフォーマンスは低下し、データ分析の精度は下がり、ユーザーは必要な情報にたどり着けなくなります。これでは、高額な投資をして導入した新システムも宝の持ち腐れです。

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陥りがちな罠:「とりあえず全部移行」という判断停止

多くのプロジェクトで目にしてきた失敗パターン。それは、「選別の基準がわからない」「データを捨てるのが怖い」「現場部門から『万が一必要』と言われた」といった理由から、見極めの判断を先送りし、「とりあえず全部移行する」という意思決定です。

これは一見安全な策に見えますが、実態は「判断の停止」に他なりません。この判断が、前述したコスト増大と新システムの価値毀損という最悪の結果を招くのです。システム移行を成功に導くためには、技術的な課題以前に、まず「どのデータを移行し、どのデータを移行しないか」を戦略的に見極める必要があります。

データ移行における「見極め」の4つの戦略的基準

では、具体的にどのような「ものさし」でデータを見極めればよいのでしょうか。

基準1:ビジネス価値(将来性)- データは「資産」か「負債」か

最も重要な基準は、「そのデータが将来的にビジネス価値を生み出すか」という視点です。

  • 資産となるデータ:

    • 経営判断に直結する販売実績、顧客データ

    • AIによる需要予測や新サービス開発に活用できる可能性のあるデータ

    • 将来のトレンド分析に不可欠な過去の時系列データ

  • 負債となるデータ:

    • 明らかに古く、二度と参照されることのないトランザクションデータ

    • 重複しており、マスターが特定できない顧客情報

    • テスト目的で作成された意味のないデータ

すべてのデータは「資産」ではありません。保持・管理するだけでコストがかかるデータは「負債」です。この「資産」と「負債」を仕分けることが、見極めの第一歩です。

基準2:法的・コンプライアンス要件 - 「保持すべき」データ

ビジネス価値とは別に、法律、業界規制、社内規定によって一定期間の保持が義務付けられているデータが存在します。

  • 財務諸表や税務関連の文書

  • 人事・労務関連の記録

  • 契約書や取引記録

  • 個人情報保護法やGDPRなどに関連するログ

これらのデータは、利用頻度が低くても(基準3参照)、ビジネス価値が不明確でも(基準1参照)、定められた期間は確実に保持・移行(または適切なアーカイブ)する必要があります。この見極めには、法務部門や監査部門との連携が不可欠です。

基準3:利用頻度と鮮度 - 「アクティブ」か「コールド」か

データは、その利用頻度や鮮度によっても分類されます。

  • アクティブデータ: 日常業務で頻繁にアクセス・更新されるデータ(例:直近1〜2年の取引データ、現在の顧客マスター)

  • コールドデータ: ほとんどアクセスされないが、法的要件や稀な分析のために保持が必要なデータ(例:5年以上前の取引履歴)

アクティブデータは新システムへ優先的に移行し、高速なアクセスを担保すべきです。一方、コールドデータは、新システムに直接移行するのではなく、Google Cloudの Archive Storage のような低コストなアーカイブストレージへ退避させる、という判断がコスト最適化に繋がります。

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基準4:技術的負債と品質 - 新システムへの「適合性」

旧システムの仕様に依存したデータ形式や、品質の低いデータ(例:文字コードの混在、データ欠損)は、そのまま移行すると「技術的負債」となり、新システムで問題を引き起こします。

  • 新システムのデータモデルに適合しないデータ

  • 移行のために膨大なクレンジング・変換コストがかかるデータ

  • 品質が著しく低く、分析や活用に耐えられないデータ

これらのデータは、移行コストと、移行後に得られるビジネス価値を天秤にかける必要があります。場合によっては、移行を諦め、新システムで新たにデータを蓄積し直すという判断も戦略的にあり得ます。

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実践的アプローチ:データ棚卸(アセスメント)の進め方

上記4つの基準を適用するためには、まず自社にどのようなデータが存在するかを可視化する「データ棚卸(アセスメント)」が不可欠です。

ステップ1:現状把握と分類ルールの策定

まずは、旧システムに存在するデータの全体像を把握します。どのデータベースに、どのようなテーブルがあり、どれくらいのデータ量があるのかをリスト化します。 その上で、前述の4つの基準に基づき、自社固有の「分類ルール」(例:「最終アクセスから3年以上経過したデータはコールドデータとする」など)を定義します。

ステップ2:ビジネス部門を巻き込んだ価値評価

データ棚卸において最も陥りやすい失敗が、情報システム部門だけで判断しようとすることです。データの「ビジネス価値(基準1)」を判断できるのは、そのデータを実際に利用するビジネス部門(営業、マーケティング、製造など)に他なりません。

各部門のキーパーソンを巻き込み、リスト化されたデータに対して「将来的に必要か、不要か」「活用の具体案はあるか」をヒアリングし、合意形成を図るプロセスが極めて重要です。

ステップ3:「移行しないデータ」の戦略的仕分け

データ棚卸の結果、「移行しない」と判断されたデータも、すぐに削除して良いわけではありません。

  1. アーカイブ: 法的要件(基準2)や稀な参照(基準3)のために、低コストなストレージ(例:Google Cloud Storage)に長期保管する。

  2. 破棄: ビジネス価値がなく、法的要件もないデータは、適切な手続きを経て安全に破棄する。

この「仕分け」を明確にすることで、新システムへの移行対象を最小限に絞り込み、プロジェクトのコストとリスクを大幅に削減できます。

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データ移行プロジェクトを成功に導く「3つの秘訣」

データ移行の見極めは、技術と組織の両面からアプローチする必要があります。中堅・大企業の移行プロジェクトを数多く支援してきた経験から、成功に不可欠な3つの秘訣をご紹介します。

秘訣1:経営層による「捨てる勇気」の担保

現場の担当者は「万が一」を恐れ、データを捨てる判断を躊躇しがちです。ここでIPA(情報処理推進機構)が「DX動向」で指摘するような「部分最適」の罠に陥ると、各部門が自部門のデータ保持だけを主張し、全社最適での見極めは進みません。

この膠着状態を打破できるのは、経営層のトップダウンによる「捨てる勇気」の担保です。「新システムでは過去の負債を引き継がず、価値あるデータのみを活用する」という明確な方針を示し、現場の判断を後押しすることが、プロジェクト成功の最大の鍵となります。

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秘訣2:AIを活用したデータアセスメントの高度化

膨大なデータを人間が目視で棚卸し、価値評価を行うには限界があります。特に非構造化データ(文書ファイル、画像など)のアセスメントは困難を極めます。

ここで活用したいのがAI技術です。例えば、Google Cloud の Vertex AI を活用すれば、データの中身を解析し、機密情報(個人情報など)の特定、文書の自動分類、重複データの検出などを自動化・高度化できます。属人的な判断を排し、客観的な基準で迅速にデータを見極めるために、AIの活用はもはや必須のアプローチと言えるでしょう。

秘訣3:部分最適を排すための専門家(パートナー)の活用

データ移行の見極めは、社内の利害関係が複雑に絡み合う、非常に難易度の高いタスクです。部門間の対立を調整し、全社最適の視点で客観的な判断を下すためには、外部の専門的な知見を持つパートナーの活用が極めて有効です。

経験豊富なパートナーは、他社事例に基づいた客観的な「ものさし」を提供し、技術的な実現可能性とビジネス価値の両面から、最適なデータ移行戦略の策定を支援します。

Google Cloudが実現する戦略的データ移行と活用

私たちXIMIXは、Google Cloudのプレミアパートナーとして、数多くの中堅・大企業のシステム移行をご支援してきました。

さらに、移行後のデータ分析基盤(Data Analytics) の構築や、生成AIの活用 まで、Google Cloudを知り尽くした専門家が、お客様のDX推進 を一気通貫でご支援します。データ移行に関するお悩みや、新システムでのデータ活用にご関心をお持ちの決裁者の皆様は、ぜひ一度XIMIXにご相談ください。

XIMIXのGoogle Workspace 導入支援についてはこちらをご覧ください。
XIMIXのGoogle Cloud 導入支援についてはこちらをご覧ください。

まとめ

システム移行におけるデータ移行は、プロジェクトのコストと将来のビジネス価値を左右する重要な経営判断です。

「とりあえず全部移行する」という判断停止を避け、「ビジネス価値」「法的要件」「利用頻度」「技術的負債」という4つの戦略的基準に基づき、移行すべきデータを見極めることが不可欠です。

この見極めには、経営層のコミットメント、ビジネス部門の巻き込み、そしてAIのような最新技術の活用が鍵となります。本記事が、皆様のデータ移行プロジェクトを「単なる引っ越し」から「価値創造への第一歩」へと変革する一助となれば幸いです。


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