経営層と現場のデータ活用に対する熱量・リテラシーギャップの解消ガイド

 2025,06,09 2025.11.05

はじめに

「最新のデータ分析基盤を導入したものの、実際に活用しているのは一部の専門部署だけだ」 「経営層は『データに基づいた意思決定(データドリブン経営)』を強く求めるが、現場は何から手をつければ良いか分からず、結局Excelでの従来業務から抜け出せない」

企業のDX推進をご支援する中で、私たちはこのような切実なジレンマに頻繁に直面します。多くの企業が、データという資源が今後の事業成長のエンジンであることを認識しています。しかし、その重要性に対する「熱量」が経営層と現場で大きく異なり、両者の間に深い溝(ギャップ)が生まれているケースは少なくありません。

本記事は、中堅〜大企業においてDX推進を担う経営層・決裁者層の方々に向けて、この根深い「熱量とリテラシーのギャップ」を解消するための実践的なガイドです。

なぜギャップが生まれるのか、その構造的な真因を深掘りし、壁を乗り越えるための具体的なアプローチを「文化醸成」「人材育成」「推進体制」という3つの観点から網羅的に解説します。単なる精神論ではなく、組織として実行可能な処方箋を提示します。

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データ活用の熱量に「経営」と「現場」でギャップが生まれる構造的要因

データ活用の推進において生じる経営層と現場の温度差は、単なるコミュニケーション不足で片付けられる問題ではありません。そこには、それぞれの立場や役割、そして評価構造に起因する根深い要因が存在します。これらを理解せずにツールだけを導入しても、定着することはありません。

①視座と時間軸の違い:経営の「未来戦略」vs 現場の「現在課題」

最大の要因は、見ている景色と時間軸の違いです。

経営層は、市場競争力の強化、新たなビジネスモデルの創出といったマクロかつ中長期的な視点からデータを捉えます。彼らにとってデータは、不確実な未来を予測し、会社の舵取りを最適化するための「戦略資産」です。そのため、「全社的なデータ統合基盤」や「AIによる需要予測」といった大きなテーマに関心が向かいます。

一方、現場の従業員は、日々の業務遂行責任と短期的な目標達成というミクロかつ現在の視点で動いています。彼らにとって必要なデータとは、目の前の非効率を解消し、今月の数字を達成するための「実用ツール」です。「顧客リストの重複をなくしたい」「日報作成を自動化したい」といった切実な課題が優先されます。

この違いが、「経営は現場を知らずに壮大な夢ばかり語る」「現場は視座が低く、全社最適を考えていない」という相互不信を生み、推進の強力なブレーキとなります。

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②リテラシーの共通言語化不足:コミュニケーション不全の発生

「データリテラシー」とは、高度な統計解析ができることだけを指すのではありません。「データに基づいて共通の会話ができること」も含まれます。

例えば、経営層が「LTV(顧客生涯価値)最大化のための分析」を指示したとします。しかし、現場がLTVの定義や算出ロジック、その指標が日々の業務にどう紐づくかを正確に理解していなければ、的確なアクションは生まれません。逆に、現場が「データの粒度が粗く、分析精度が低い」と訴えても、その技術的背景を経営層が理解できなければ、必要なシステム投資の決断が遅れます。

組織内に「データに関する共通言語」が存在しないことが、議論を空転させ、熱量のギャップを拡大させます。

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③評価制度の不整合:挑戦が報われない構造

見落とされがちなのが、人事評価制度との不整合です。多くの企業では、既存の業務プロセスをミスなく遂行することが評価の前提となっています。

新しいデータ活用への取り組みは、初期段階では試行錯誤を伴い、一時的に生産性が落ちることもあります。もし「新しい分析手法を学ぶより、既存のやり方で営業件数を稼いだ方が評価される」という構造であれば、合理的な現場社員ほどデータ活用を敬遠します。

データ活用を「意識の高い一部の社員がやるボランティア活動」に留めないためには、データを用いた改善活動そのものを正当に評価する仕組みへのアップデートが不可欠です。

組織的な壁を乗り越える3つの実践的処方箋

経営と現場の間に横たわるギャップを埋め、データ活用を企業の「当たり前の文化」として根付かせるためには、戦略的な介入が必要です。ここでは、具体的な3つの処方箋を提示します。

処方箋①【文化醸成】トップのコミットメントと「スモールウィン」の戦略的共有

データドリブン文化は、ボトムアップだけでは決して醸成されません。まず必要なのは、経営トップによる明確なコミットメントです。「なぜ今、我が社がデータ活用に取り組むのか」「それによってどのような顧客価値を生み出したいのか」を、経営者自身の言葉で繰り返し語りかける必要があります。

しかし、ビジョンだけでは現場は動きません。ここで重要になるのが「スモールウィン(小さな成功体験)」の戦略的な創出と共有です。

  • 成功の定義を小さく設定する: 最初から数億円の利益創出を目指すのではなく、「月次レポート作成時間が20時間削減された」「特定の顧客セグメントの離脱率が5%改善した」といった、身近な成果を定義します。

  • 成果を「標準化」して横展開する: 特定部署の成功を属人的な成果にせず、「他の部署でも真似できる型」として共有します。社内ポータルでの表彰や、成功事例発表会の定期開催が有効です。

「隣の部署がデータで楽になったらしい」という噂ほど、現場の重い腰を上げさせる強力な動機付けはありません。

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処方箋②【人材育成】階層別リテラシー定義と継続的な学習環境

「全社員にデータサイエンティスト研修を受けさせる」ようなアプローチは非効率であり、挫折を生みます。役割に応じた必要なリテラシーレベルを定義し、段階的な育成プログラムを提供すべきです。

  • 全従業員向け(リテラシー層): データを正しく「読む」力に焦点を当てます。基礎的な統計用語の理解、グラフの誤読防止、情報セキュリティやコンプライアンス(情報倫理)をe-learningで習得させます。

  • ビジネス現場のリーダー層(活用推進層): 自身の業務課題をデータ分析の問いに変換し、その結果を意思決定に使う訓練が必要です。実際の自社データを用いたワークショップ形式の研修が効果的です。

  • 専門職層(アナリスト・エンジニア): 高度な統計解析、機械学習、データエンジニアリング(Google CloudのBigQueryやVertex AIなど)の専門スキル習得を支援します。

重要なのは「研修を受けて終わり」にしないことです。実務でつまずいた時に気軽に質問できるチャットルームの開設や、社内データコンペティションの開催など、学び続けるコミュニティ作りがリテラシー定着の鍵となります。

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処方箋③【体制構築】CoE (Center of Excellence) による伴走支援

全社的なデータ活用を推進するには、各部門の取り組みを横串で支援する専門組織「CoE (Center of Excellence)」の設置が極めて有効です。CoEは単なる「管理部門」ではなく、「伴走支援部隊」であるべきです。

CoEが担うべき具体的な役割:

  • 技術的支援(イネーブルメント): 現場がLooker Studioなどでダッシュボードを作成する際の技術サポートや、複雑なSQLクエリ作成の代行・レビュー。

  • ガバナンスの確立: データ品質の維持、アクセス権限の管理、セキュリティポリシーの策定と運用監視。

  • ベストプラクティスの集約: 各地で生まれた成功事例を標準化し、全社アセットとしてライブラリ化する。

CoEが現場の「困りごと」を積極的に解決する姿勢を見せることで、現場はCoEを信頼し、全社的なガバナンスも効きやすくなります。

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データ活用を全社浸透させる実践的ロードマップ

組織改革は一足飛びには進みません。確実な成果を積み上げるための標準的なロードマップを示します。

Step 1: 現状分析と「共通のゴール」の再定義

まず、自社のデータ活用の現在地(As-Is)を冷静に評価します。IPA(情報処理推進機構)が提供する「DX推進指標」などを参考に、客観的なレベルを把握するのも良い方法です。 その上で、経営と現場のキーパーソンを交え、データ活用によって目指す「共通のゴール(To-Be)」を言語化します。双方が納得できるゴール設定が、後の推進スピードを左右します。

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Step 2: インパクト重視のパイロットプロジェクト実行

全社展開の前に、必ず「勝てる」パイロットプロジェクトを実施します。選定基準は「成果が出やすいこと(Feasibility)」と「経営インパクトが大きいこと(Impact)」の両立です。 例えば「特定工場の歩留まり改善」や「ECサイトのカゴ落ち率改善」など、指標が明確な領域を選び、CoEが集中投下して短期間で成果を出します。

Step 3: 成果の可視化と仕組み化による全社展開

パイロットでの成功を、具体的な数値(金額効果や時間削減効果)で可視化し、全社にプロモーションします。同時に、そのプロセスで得られたデータマートや分析ダッシュボードをテンプレート化し、他部門がすぐに使える状態にして提供します。

テクノロジーが組織の壁を溶かす:Google Cloudの有効性

組織的なアプローチに加え、採用するテクノロジーも「ギャップ解消」に大きく寄与します。 Google Cloud は、「データの民主化」を強力に推進するプラットフォームです。

例えば、データウェアハウスである BigQuery は、超高速な処理能力により、従来は専門家しか扱えなかった大量データへのアクセスを容易にします。また、BIツールの Looker Studio は、直感的なインターフェースで、現場社員が自らレポートを作成・共有することを可能にします。

使いやすいツールは、現場の「データは難しい」という心理的ハードルを下げ、リテラシー向上を加速させる触媒となるのです。

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XIMIXが伴走支援します

ここまで、データ活用における組織的な熱量ギャップを解消するための処方箋を解説してきました。しかし、これらを自社のリソースだけで完遂することは容易ではありません。

  • 「自社の風土に合った推進計画が描けない」

  • 「CoEを立ち上げたいが、経験者が社内にいない」

  • 「Google Cloud を導入したが、現場への定着が進まない」

XIMIXは、単なるツールの導入支援に留まりません。NI+Cが長年培ってきたSIerとしての確かな技術力と、数多くのDXプロジェクトで培った組織変革のノウハウを組み合わせ、お客様のデータドリブン文化醸成を伴走支援します。

Google Cloud を活用した最適な分析基盤の構築、そして現場が自走するための人材育成トレーニングまで、貴社のフェーズに合わせて一気通貫でサポートします。組織の壁を乗り越え、真のデータ活用を実現するために、ぜひ私たちにご相談ください。

XIMIXのGoogle Workspace 導入支援についてはこちらをご覧ください。
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