はじめに
企業のDX推進において、クラウドサービスの活用はもはや不可欠です。中でも、Amazon Web Services (AWS)、Microsoft Azure (Azure)、そして Google Cloud は「3大クラウド」として市場を牽引しており、多くの企業が導入を検討しています。
しかし、「結局、自社にはどれが最適なのか?」「Google Cloudの強みは、AWSやAzureとどう違うのか?」といった疑問から、最初の一歩を踏み出せずにいるご担当者様も多いのではないでしょうか。
クラウド選定は、将来のビジネス戦略を左右する重要な意思決定です。もし選択を誤れば、期待した効果が得られないばかりか、想定外のコストが発生するリスクも伴います。
そこでこの記事では、Google Cloudをはじめとする主要クラウドの導入を検討されている方に向けて、AWS、Azure、Google Cloudの三者三様の強みと違いを徹底比較します。各社の特徴から、市場シェア、料金体系、そして「どのような企業にどのクラウドが向いているのか」という選び方の勘所まで、専門家の視点から分かりやすく解説します。
(注: クラウドサービスは日々進化しています。この記事では2025年6月時点の一般的な情報に基づき解説します。最新の詳細情報は各サービスの公式サイトをご確認ください。)
一目でわかる!AWS・Azure・Google Cloud比較サマリー
詳細な解説に入る前に、まずは3大クラウドの全体像と特徴を一覧で確認しましょう。
観点 |
AWS |
Azure |
Google Cloud |
最大の特徴 |
圧倒的なシェアと10年以上の実績。サービスの数と汎用性で他をリード。 |
Microsoft製品との高い親和性。エンタープライズ、ハイブリッドクラウドに強み。 |
データ分析/AIとコンテナ技術が強み。世界規模の高性能ネットワークを保有。 |
市場シェア |
トップ(約29%) |
2位(約22%) |
3位(約12%) |
得意分野 |
スタートアップから大企業まで、あらゆる用途に対応。Webサービス、モバイルバックエンド。 |
既存のWindows Server環境の移行、Microsoft 365との連携、製造業など。 |
大規模データ分析、AI/機械学習活用、コンテナベースのモダンなアプリ開発。 |
料金思想 |
豊富な割引プラン(Savings Plans等)で柔軟なコスト最適化が可能。 |
既存ライセンス活用(ハイブリッド特典)でコストを抑えられる点がユニーク。 |
自動適用の継続利用割引(SUDs)など、シンプルで分かりやすい割引が特徴。 |
イメージ |
「百貨店」のように何でも揃う、業界のスタンダード。 |
「オフィススイート」のようにビジネス連携に強い、信頼のパートナー。 |
「研究所」のように最先端技術を追求する、イノベーター。 |
クラウド市場の現状:3大クラウドのシェアと動向
まず、客観的な事実として現在のクラウド市場を見てみましょう。米調査会社Synergy Research Groupの2025年第1四半期データによると、世界のクラウドインフラ市場におけるシェアは以下のようになっています。
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Amazon Web Services (AWS): 約29%
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Microsoft Azure: 約22%
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Google Cloud: 約12%
この3社で市場全体の約63%を占めており、まさに寡占状態です。トップを走るAWSをAzureとGoogle Cloudが追う構図が続いていますが、特にAzureとGoogle Cloudは成長率でAWSを上回っており、その差は少しずつ変化しています。このシェアの大きさは、導入実績の多さや関連情報の豊富さ、技術者の探しやすさにも繋がるため、選定における重要な指標の一つです。
ここが違う!3大クラウドの思想と特徴を深掘り
各プラットフォームがどのような思想で開発され、どのような強みを持っているのかを詳しく見ていきましょう。
AWS:実績と網羅性で市場をリードする「巨人」
2006年にサービスを開始した、パブリッククラウドのパイオニアです。10年以上にわたる運用実績とノウハウ、そして圧倒的な市場シェアがもたらす安心感が最大の強みと言えるでしょう。
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強み (1) 圧倒的なサービス数: コンピューティングやストレージといった基本サービスはもちろん、IoT、AI/機械学習、さらには衛星データの活用まで、200を超える多種多様なサービスを提供。「AWSを使えば何でもできる」と言われるほどの網羅性が魅力です。
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強み (2) 豊富な導入実績とエコシステム: スタートアップから政府機関まで、世界中で数百万の顧客に利用されています。そのため、導入事例や技術情報がインターネット上に豊富に存在し、問題解決がしやすい環境です。多くのサードパーティ製品もAWSに対応しており、強力なエコシステムが形成されています。
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こんな企業におすすめ:
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業界標準のサービスで安心して始めたい企業
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多様なサービスを組み合わせて独自のシステムを構築したい企業
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豊富なドキュメントやコミュニティを活用して開発を進めたい企業
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Azure:Microsoftエコシステムと歩む「エンタープライズの雄」
Windows ServerやMicrosoft 365 (旧Office 365) を提供するMicrosoft社のクラウドサービスです。既存のMicrosoft製品とのシームレスな連携が最大の特徴です。
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強み (1) Microsoft製品との親和性: 多くの企業で利用されているActive Directoryと連携したID管理や、オンプレミスのWindows Server環境をクラウドへ移行する際の親和性は抜群です。使い慣れた環境を拡張する感覚でクラウドを利用できます。
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強み (2) ハイブリッドクラウドへの強み: オンプレミス環境とクラウドを連携させる「ハイブリッドクラウド」の構築を支援するソリューション(Azure Arcなど)が充実しています。「全てのシステムをすぐにクラウド化するのは難しい」と考える大企業にとって、現実的な選択肢となります。
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こんな企業におすすめ:
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社内でWindows ServerやMicrosoft 365を広く利用している企業
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オンプレミス環境と連携したハイブリッドクラウドを構築したい企業
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既存のIT資産やスキルを活かしながらクラウド化を進めたい企業
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Google Cloud:技術革新で未来を創る「データとAIの先駆者」
Google検索やYouTube、Gmailといった巨大サービスを支える、強力かつ高性能なインフラを基盤としているのがGoogle Cloudです。特にデータ活用と先進技術の分野で他をリードしています。
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強み (1) データ分析とAI/機械学習: 超高速なデータ分析を可能にする「BigQuery」や、AI開発プラットフォーム「Vertex AI」など、大規模データの処理・活用に関するサービス群は業界最高レベルです。企業のデータドリブン経営を強力に後押しします。
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強み (2) 高性能ネットワークとコンテナ技術: Googleが世界中に張り巡らせた独自の光ファイバーケーブル網を利用でき、グローバル展開時の低遅延通信に強みを発揮します。また、コンテナ技術の標準であるKubernetesを開発したのもGoogleであり、そのマネージドサービスである「Google Kubernetes Engine (GKE)」は世界中の開発者から高い評価を得ています。
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こんな企業におすすめ:
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膨大なデータを活用したビジネスを展開したい企業
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AI・機械学習をサービスに組み込みたい企業
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Kubernetesを用いてモダンなアプリケーション開発を行いたい企業
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関連記事:
なぜデータ分析基盤としてGoogle CloudのBigQueryが選ばれるのか?を解説
なぜGoogle Cloudはグローバル展開の最適解なのか?理由を解説
観点別徹底比較:自社の要件に合うのはどれ?
より具体的に、いくつかの重要な観点から3社の違いを比較します。
料金体系の考え方とコスト最適化
いずれも「使った分だけ支払う」従量課金制が基本ですが、継続的な利用に対する割引プランの思想に違いがあります。
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AWS: 「Savings Plans」や「リザーブドインスタンス」といった、1年または3年の長期利用をコミットすることで大幅な割引が適用されるプランが中心です。利用量の予測が立てやすいシステムに適しています。
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Azure: AWSと同様の予約割引に加え、オンプレミスで利用中のWindows Server等のライセンスを持ち込むことで割引を受けられる「ハイブリッド特典」がユニークです。Microsoft製品ユーザーにとって大きなコストメリットになります。
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Google Cloud: 1年または3年の利用を約束する「確約利用割引 (CUDs)」に加え、特定のサービスを1ヶ月間継続して利用するだけで自動的に割引が適用される「継続利用割引 (SUDs)」が特徴です。事前のコミットメントなしでもコストが最適化されやすく、シンプルで分かりやすい体系です。
関連記事:Google Cloudの料金体系をわかりやすく解説!課金の仕組みとコスト管理の基本
マルチクラウドとベンダーロックイン
近年、1社のクラウドに依存せず、各社の強みを活かして複数のクラウドを使い分ける「マルチクラウド」が主流になりつつあります。例えば、「基幹システムはAzure、データ分析基盤はGoogle Cloud」といった構成です。
Google CloudはKubernetesなどオープンソース技術を推進しており、特定のベンダーに依存しにくい(ベンダーロックインを避けやすい)設計思想を持っています。マルチクラウド戦略を重視する企業にとって、このオープン性は大きな魅力となるでしょう。
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マルチクラウドを加速するGoogle Cloudの真価:AWS/Azureとの最適な使い分け
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結論:自社に最適なクラウドを選ぶための3つのステップ
結局、どのクラウドを選べば良いのでしょうか。絶対的な正解はありません。「どれが一番か」ではなく「どれが自社に最も合うか」という視点で、以下のステップで検討を進めましょう。
- 目的の明確化:クラウドで何を達成したいのか?
- データ分析・AI活用が最優先 → Google Cloud BigQueryやVertex AIの強力な機能を最大限に活用できます。
- 既存Windows資産のクラウド移行 → Azure 親和性が高く、スムーズな移行とコストメリットが期待できます。
- Webサービスや多様なシステム構築 → AWS 豊富なサービスと実績を基盤に、柔軟なシステム構築が可能です。
- 社内スキルの棚卸し:誰が運用するのか?
- 社内にMicrosoft系の技術者が多い場合はAzureが馴染みやすいでしょう。一方で、先進的な開発手法を取り入れたい場合は、GKEに強みを持つGoogle Cloudが適しているかもしれません。
- 将来の拡張性:マルチクラウドは視野に入れるか?
- 将来的に複数のクラウドを使い分ける可能性も考慮し、オープンソース技術への親和性や管理のしやすさも評価軸に入れましょう。
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クラウド選定という重要な岐路で、専門家の客観的な視点が必要だと感じたら、ぜひ一度XIMIXにご相談ください。
XIMIXのGoogle Workspace 導入支援についてはこちらをご覧ください。
XIMIXのGoogle Cloud 導入支援についてはこちらをご覧ください。
※Google Cloud については、こちらのコラム記事もご参照ください。
まとめ
今回は、3大クラウドサービスであるGoogle Cloud、AWS、Azureの違いについて、それぞれの特徴や選び方のヒントを比較しながら解説しました。
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AWS: 豊富なサービスと実績を誇る、オールラウンドな業界のリーダー。
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Azure: Microsoft製品との連携に優れ、エンタープライズやハイブリッド構成に強い。
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Google Cloud: データ分析・AI、コンテナ技術といった最先端分野で強みを発揮するイノベーター。
重要なのは、それぞれの強みを理解し、自社のビジネス目標やIT戦略に最も合致するプラットフォームを選択することです。特に、データ活用やAI導入、コンテナ技術によるモダンなアプリケーション開発を目指す企業にとって、Google Cloudは事業成長を加速させるための極めて有力な選択肢となるでしょう。
この記事が、複雑なクラウド選定の第一歩を踏み出すための一助となれば幸いです。
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