はじめに
企業のデジタルトランスフォーメーション(DX)が加速する現代において、ビジネスの変化に迅速に対応できる開発チームのアジリティは、競争優位性を確立する上で極めて重要な要素となっています。そのアジリティ向上を実現するアプローチとして、近年「プラットフォームエンジニアリング」が大きな注目を集めています。
しかし、「プラットフォームエンジニアリングという言葉は耳にするが、具体的に何から手をつければ良いのかわからない」「自社に導入することで本当に効果が得られるのか判断がつかない」といったお悩みを抱えるDX推進担当者や情報システム部門の決裁者の方も多いのではないでしょうか。
本記事では、そのような方々に向けて、プラットフォームエンジニアリングの基本的な考え方から、その導入を成功させるための具体的なステップ、さらにはGoogle Cloudを活用した実践的なアプローチまでを解説します。開発チームの生産性を飛躍的に高め、ビジネス価値創出を加速させるための一助となれば幸いです。
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プラットフォームエンジニアリングとは何か?
プラットフォームエンジニアリングとは、開発者がアプリケーションのデリバリーに必要なツールやプロセスをセルフサービスで利用できる「内部開発者プラットフォーム(Internal Developer Platform: IDP)」を設計・構築・運用する専門分野です。その目的は、開発者の認知負荷を軽減し、本来の価値創出活動であるアプリケーション開発に集中できる環境を提供することにあります。
従来の開発プロセスでは、開発者がインフラの準備、セキュリティ設定、モニタリングツールの導入など、多岐にわたる作業に時間を費やされるケースが多く見られました。プラットフォームエンジニアリングは、これらの共通的な作業を標準化・自動化し、信頼性の高いプラットフォームとして提供することで、開発者の生産性と満足度(開発者体験:Developer Experience)を大幅に向上させます。
これは、DevOpsの理念をさらに推し進め、開発チームと運用チームの連携をよりスムーズにし、ビジネスのアジリティ向上に貢献する考え方と言えるでしょう。
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なぜ今、プラットフォームエンジニアリングが求められるのか?
プラットフォームエンジニアリングが注目される背景には、いくつかの重要な要因があります。
①DX推進と市場変化への迅速な対応
デジタル技術を活用してビジネスモデルや組織文化を変革するDXにおいては、新しいサービスやプロダクトを迅速に市場投入し、顧客からのフィードバックを元に改善を繰り返すアジリティが不可欠です。プラットフォームエンジニアリングは、開発サイクルを高速化し、このアジリティを実現するための強力な推進力となります。
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②クラウドネイティブ技術の普及と複雑性の増大
コンテナ技術(Docker、Kubernetesなど)、マイクロサービスアーキテクチャ、サーバーレスといったクラウドネイティブ技術の普及は、アプリケーションの柔軟性やスケーラビリティを高める一方で、システム全体の複雑性を増大させました。プラットフォームエンジニアリングは、この複雑性を吸収し、開発者がクラウドネイティブ技術の恩恵を容易に享受できるようにする役割を担います。
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③DevOpsの成熟と次なるステップ
多くの企業でDevOpsの導入が進み、開発と運用の連携は一定の成果を上げてきました。しかし、開発者一人ひとりが担うべき範囲が広がりすぎると、かえって生産性が低下するという課題も顕在化しています。プラットフォームエンジニアリングは、DevOpsの原則に基づきつつ、プラットフォームチームが開発者を「顧客」と捉え、より質の高いサービスを提供することで、この課題を解決しようとするアプローチです。
プラットフォームエンジニアリング導入へのロードマップ – 何から始めるべきか?
プラットフォームエンジニアリングの導入は、一夜にして成し遂げられるものではありません。段階的かつ戦略的に進めることが成功の鍵となります。ここでは、その具体的なステップを解説します。
ステップ1: 現状分析と明確な目標設定
まず、自社の開発プロセスにおける課題を洗い出し、プラットフォームエンジニアリングによって何を達成したいのか、具体的な目標を設定します。例えば、「リードタイムの50%短縮」「デプロイ頻度の倍増」「開発者のインフラ関連作業時間の30%削減」といった、測定可能な目標を定めることが重要です。
決裁者層にとっては、この目標設定が投資対効果を判断する上で不可欠な情報となります。現状のペインポイントを明確にし、それらがプラットフォームエンジニアリングによってどのように解決されるのかを具体的に示す必要があります。
ステップ2: スモールスタートと初期プラットフォームチームの組成
最初から全社的な大規模プラットフォームを目指すのではなく、特定のプロジェクトやチームを対象にスモールスタートを切ることを推奨します。これにより、リスクを低減しつつ、早期に成果を可視化し、社内の理解と協力を得やすくなります。
並行して、プラットフォームエンジニアリングを推進する専任のチーム(プラットフォームチーム)を組成します。このチームには、インフラ、DevOps、セキュリティ、そして何よりも開発者のニーズを深く理解できるメンバーが必要です。初期段階では、既存のインフラチームやSREチームのメンバーを中心に、開発チームからも代表者を入れるなどの体制が考えられます。
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ステップ3: 提供する「プロダクト」としてのプラットフォーム設計
プラットフォームチームは、開発者を「顧客」と捉え、彼らが求める機能や使いやすさを重視したプラットフォームを「プロダクト」として設計・提供します。開発ワークフロー全体を俯瞰し、CI/CDパイプライン、テスト自動化、モニタリング、セキュリティ、ドキュメント管理など、標準化・自動化すべき領域を特定します。
この際、過度な標準化は開発者の創造性を妨げる可能性があるため、ある程度の柔軟性(ゴールデンパスを提供しつつ、逸脱も許容するガードレール方式など)を持たせることが肝要です。
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ステップ4: 技術選定とプロトタイピング (Google Cloudの活用)
プラットフォームの基盤となる技術を選定します。ここでは、Google Cloudが提供する豊富なマネージドサービスが有力な選択肢となります。
例えば、コンテナオーケストレーションには Google Kubernetes Engine (GKE)、CI/CDには Cloud Build や Cloud Deploy、サーバーレス環境には Cloud Run や Cloud Functions、可観測性には Cloud Monitoring や Cloud Logging などが活用できます。これらのサービスを組み合わせることで、堅牢かつスケーラブルな内部開発者プラットフォームを効率的に構築できます。
Google Cloudは、開発者の生産性を高めるためのツール群(例: Artifact Registry、Source Repositories)も充実しており、プラットフォームエンジニアリングの思想と高い親和性を持っています。XIMIXのようなGoogle Cloudの知見が豊富なパートナーは、最適なサービス選定とアーキテクチャ設計を支援できます。
選定した技術を用いてプロトタイプを構築し、初期ターゲットとした開発チームに利用してもらい、フィードバックを収集します。
ステップ5: ドキュメント整備、トレーニング、社内展開
プラットフォームの利用方法に関するドキュメントを整備し、開発者向けのトレーニングを実施します。開発者がスムーズにプラットフォームを活用できるよう、手厚いサポート体制が不可欠です。
プロトタイプでの成功体験や得られた知見を基に、対象範囲を徐々に拡大していきます。この際、各開発チームの固有のニーズにも配慮しつつ、プラットフォームの共通基盤としての価値を訴求していくことが重要です。
ステップ6: 継続的な改善と進化
プラットフォームエンジニアリングは一度構築したら終わりではありません。開発者のフィードバックを常収集し、技術の進化やビジネスの変化に合わせてプラットフォームを継続的に改善・進化させていく必要があります。利用状況のモニタリング、定期的なアンケート、開発者コミュニティとの連携などを通じて、プラットフォームの価値を高め続けてください。
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プラットフォームエンジニアリング導入における考慮事項と成功の秘訣
プラットフォームエンジニアリングの導入は、技術的な側面だけでなく、組織文化やプロセス変革も伴う大きな取り組みです。成功のためには、以下の点に留意する必要があります。
- 経営層の理解とコミットメント: 継続的な投資と組織横断的な協力体制の構築には、経営層の強いリーダーシップが不可欠です。
- 開発者との密なコミュニケーション: プラットフォームは開発者のためのものです。彼らのニーズを正確に把握し、フィードバックを真摯に受け止め、共創していく姿勢が求められます。
- 漸進的なアプローチ: 一足飛びに完璧なプラットフォームを目指すのではなく、価値の高い機能から優先的に提供し、段階的に成熟させていくことが現実的です。
- ツールの標準化と柔軟性のバランス: 共通化による効率向上と、開発者の選択の自由や新しい技術への対応力の維持との間で、適切なバランスを見つけることが重要です。
- 成果の可視化と共有: 導入効果(リードタイム短縮、デプロイ頻度向上、開発者満足度向上など)を定期的に測定し、社内に共有することで、取り組みの意義を浸透させます。
多くの企業様をご支援してきた経験から、これらのポイントを押さえることが、プラットフォームエンジニアリング導入プロジェクトを成功に導く上で非常に重要であると実感しています。
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XIMIXによる支援
プラットフォームエンジニアリングの導入は、開発チームのアジリティと生産性を飛躍的に向上させる可能性を秘めていますが、その実現には高度な専門知識と戦略的なアプローチが求められます。特に、何から着手すべきか、自社に最適なプラットフォームの姿とは何か、といった初期段階での検討は非常に重要です。
XIMIXは、Google Cloudに関する豊富な知見と多数の導入実績を活かし、お客様のプラットフォームエンジニアリング導入をご支援します。
- 現状アセスメントとロードマップ策定支援: お客様の開発プロセスや課題を深く理解し、プラットフォームエンジニアリング導入に向けたロードマップ策定をご支援します。
- Google Cloudを活用したIDP設計・構築: GKE、Cloud Build、Cloud RunなどのGoogle Cloudサービスを最適に組み合わせ、お客様のニーズに合致したスケーラブルで堅牢な内部開発者プラットフォームの設計・構築を支援します。
- PoC(概念実証)支援: スモールスタートでの効果検証を通じて、本格導入に向けた確かなステップをサポートします。
- 継続的な改善と運用サポート: プラットフォーム導入後も、変化するビジネスニーズや新しい技術動向に対応するための継続的な改善や運用をサポートします。
もし、「自社でもプラットフォームエンジニアリングを検討したいが、どこから相談すれば良いかわからない」「Google Cloudを活用して開発基盤を刷新したい」といったご要望がございましたら、ぜひXIMIXまでお気軽にご相談ください。専門のコンサルタントが、お客様の課題解決に向けて最適なご提案をさせていただきます。
XIMIXのGoogle Workspace 導入支援についてはこちらをご覧ください。
XIMIXのGoogle Cloud 導入支援についてはこちらをご覧ください。
まとめ
本記事では、開発チームのアジリティ向上を実現するための鍵となる「プラットフォームエンジニアリング」について、その概念から導入ステップ、成功の秘訣、そしてGoogle Cloudを活用したアプローチまでを解説しました。
プラットフォームエンジニアリングは、開発者が本来の価値創出活動に集中できる環境を提供し、ビジネスの変化に迅速に対応するための強力な武器となります。導入には戦略的な計画と継続的な努力が必要ですが、その先には開発効率の大幅な向上と、企業全体の競争力強化が待っています。
この記事が、プラットフォームエンジニアリング導入の第一歩を踏み出そうとされている皆様にとって、具体的な道筋を描くための一助となれば幸いです。DX推進とアジリティ向上を目指す旅は、まだ始まったばかりです。ぜひ、この新しいアプローチで、ビジネスの未来を切り拓いてください。
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