データマスキングとは? DX推進に不可欠なデータ保護の基本をわかりやすく解説 - Google Cloudでの活用も紹介【入門編】

 2025,05,02 2025.05.03

はじめに

デジタルトランスフォーメーション(DX)を推進する上で、データ活用は不可欠な要素となっています。しかし、その一方で個人情報や機密情報といった重要なデータの取り扱いには、これまで以上に慎重さが求められています。法規制の強化やサイバー攻撃の巧妙化により、データ漏洩のリスクは常に存在し、万が一インシデントが発生した場合、企業の信頼失墜や事業継続に深刻な影響を及ぼしかねません。

「データは活用したいが、セキュリティリスクが心配」「個人情報保護法などの法規制に対応できているか不安」「開発やテスト環境で本番データを使いたいが、安全な方法がわからない」

このような課題意識をお持ちではないでしょうか。そこで重要になるのが「データマスキング」という技術です。データマスキングは、データの価値を維持しながら機密データを保護するための有効な手段の一つです。

この記事では、「データマスキング とは何か?」という基本的な疑問にお答えするとともに、その必要性、具体的な手法、メリット・デメリット、そしてGoogle Cloud環境での活用について、わかりやすく解説します。データセキュリティ対策の第一歩として、ぜひご一読ください。

データマスキングとは?

データマスキングとは、元のデータの構造や形式(文字数、データ型など)を維持したまま、機密性の高い箇所を、意味を持たない別のデータ(ダミーデータや匿名化されたデータ)に置き換える技術のことです。「データ匿名化」技術の一つとして位置づけられます。

例えば、顧客リストに含まれる氏名や電話番号、クレジットカード番号などの個人情報を、そのまま開発環境や分析環境で使用することは非常に危険です。データマスキングを適用することで、これらの機密情報を意味のない文字列やランダムな数値に置き換え、万が一データが漏洩しても実際の個人情報が流出するリスクを低減できます。

重要なのは、データマスキングが元のデータの「見た目」や「構造」を保つ点です。これにより、アプリケーションのテストやデータ分析など、元データと同様の形式を必要とする場面でも、加工後のデータを活用しやすくなります。

なぜデータマスキングが必要なのか? - その重要性と背景

データマスキングの必要性は、主に以下の3つの観点から高まっています。

①個人情報保護法などの法規制への対応

近年、国内外で個人情報保護に関する法規制が強化されています(日本の個人情報保護法、EUのGDPRなど)。これらの法規制では、個人情報の適切な管理と保護が企業に義務付けられており、違反した場合には厳しい罰則が科される可能性があります。データマスキングは、個人情報保護対策の一環として、これらの法規制遵守に貢献します。特に、開発・テスト環境や外部委託先へのデータ提供など、本番環境以外で個人情報を取り扱う際に有効な手段となります。

②セキュリティリスクの低減

サイバー攻撃や内部不正による情報漏洩リスクは、企業にとって常に大きな脅威です。特に、開発環境やテスト環境は、本番環境に比べてセキュリティ対策が手薄になりがちなケースも見られます。このような環境で本番データ(生データ)をそのまま利用することは、漏洩リスクを高める要因となります。データマスキングによって機密情報を保護することで、万が一これらの環境からデータが流出しても、実害を最小限に抑えることができます。

③安全なデータ活用の促進

DX推進のためには、蓄積されたデータを分析し、新たなインサイトを得ることが不可欠です。しかし、前述の通り、機密データをそのまま活用するにはリスクが伴います。データマスキングを適用すれば、機密情報を保護しつつ、データの構造や統計的な特性はある程度維持できるため、アプリケーション開発、テスト、データ分析、AIモデル開発、社員研修といった様々な場面で、より安全にデータを活用することが可能になります。これにより、データ活用の裾野を広げ、DXを加速させることができます。

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データマスキングの主な手法

データマスキングには様々な手法が存在しますが、ここでは代表的なものをいくつか紹介します。目的に応じて適切な手法を選択することが重要です。

①置換 (Substitution)

元の値を、あらかじめ用意された別の値(意味的に関連のないダミーデータ)に置き換える手法です。例えば、実際の氏名を別の氏名リストからランダムに選んだ名前に置き換える、などが挙げられます。元のデータの型や文字数を維持しやすいのが特徴です。

②無効化 (Nullification / Redaction)

機密性の高いデータを NULL 値や特定の値(例: "XXX-XXXX")で完全に隠蔽する手法です。最もシンプルで確実な方法ですが、データの利用価値は低下します。特定の項目を完全に秘匿したい場合に用いられます。

③シャッフル (Shuffling)

列内のデータをランダムに並び替える手法です。例えば、氏名列と住所列の対応関係を崩さずに、行全体をシャッフルするなどして、個人と情報の紐付きを解除します。データ全体の統計的な分布は維持されますが、元のレコードとの関連性は失われます。

④マスク (Masking / Blurring)

データの一部を伏字(例: アスタリスク*やX)で隠す手法です。クレジットカード番号の下4桁以外をマスクする、メールアドレスのドメイン部分以外をマスクする、といった使われ方が一般的です。データの部分的な情報は残ります。

⑤暗号化 (Encryption)

データを暗号化アルゴリズムで変換する手法です。復号キーがあれば元のデータに戻せる「可逆暗号化」と、元に戻せない「一方向性暗号化(ハッシュ化など)」があります。マスキングとは少し異なりますが、データ保護の文脈で関連技術として挙げられます。

これらの手法は単独で用いられることも、組み合わせて用いられることもあります。どの手法を選択するかは、データの種類、利用目的、求められるセキュリティレベルに応じて検討する必要があります。

データマスキングのメリットとデメリット

データマスキングの導入には多くのメリットがありますが、一方で考慮すべきデメリットも存在します。

メリット

  • セキュリティ強化: 機密情報を保護し、情報漏洩リスクを大幅に低減できます。
  • コンプライアンス遵守: 個人情報保護法などの法規制への対応を支援します。
  • 安全なデータ活用: 開発、テスト、分析、研修など、様々な目的でデータを安全に利用可能になります。
  • リアルなテスト環境: 元データの構造や形式を維持するため、本番環境に近いリアルなテストが可能になります。
  • コスト削減: 本番データ利用に伴う厳格な管理体制や監査対応のコストを削減できる可能性があります。

デメリット

  • データの有用性低下: マスキング処理により、元データが持つ一部の情報や精度が失われる可能性があります。特に分析用途では、マスキング手法によっては分析結果に影響が出る場合があります。
  • 導入・運用コスト: マスキングツール導入や、マスキングルールの設計・維持管理にコストと工数がかかります。
  • マスキング処理時間: 大量データに対するマスキング処理には時間がかかる場合があります。
  • 適切な手法選択の難しさ: データの特性や利用目的に応じて最適なマスキング手法やルールを選択・設計するには、専門的な知識が求められる場合があります。

これらのメリット・デメリットを理解した上で、自社の状況に合わせて導入を検討することが重要です。

Google Cloudにおけるデータマスキング

クラウドプラットフォームである Google Cloud も、データマスキングに関連する機能やサービスを提供しており、安全なデータ活用を支援しています。

Cloud Data Loss Prevention (DLP)

Cloud Data Loss Prevention (DLP) は、Google Cloud 上やオンプレミス環境にある機密データを検出、分類、保護するためのフルマネージドサービスです。 DLP は、組み込みの検出器(infoType)やカスタム検出器を用いて、テキスト、画像、構造化データ(BigQuery テーブルなど)の中から、個人識別情報 (PII)、財務情報、医療情報など、様々な種類の機密データを自動的に識別します。

そして、検出された機密データに対して、以下のようなマスキング処理(匿名化変換)を適用できます。

  • リダクション: 機密データを完全に削除します。
  • スキング: 機密データを指定した文字(例: # や *)で置き換えます。
  • 置換: 機密データを他の値(例: トークン)に置き換えます(トークン化)。
  • 日付シフト: 日付を指定した範囲内でランダムにずらします。
  • 暗号化: 形式を維持する暗号化 (FPE) や確定的暗号化など、様々な暗号化手法を適用します。

これらの機能を活用することで、例えば BigQuery に格納されたデータを分析する前に、DLP を使って個人情報が含まれる列をマスキングする、といったワークフローを構築できます。

BigQuery の動的データマスキング

データウェアハウスサービスである BigQuery には、「動的データマスキング」という機能が搭載されています これは、Data Catalog で定義されたポリシータグに基づいて、ユーザーのロールや権限に応じて、クエリ実行時にリアルタイムで列データをマスキングする機能です。

例えば、「人事担当者には従業員の給与情報を表示するが、一般社員には給与情報をNULL値やデフォルト値でマスキングして表示する」といった制御が可能になります。元データ自体は変更せず、アクセス制御と連動してマスキングを行えるため、柔軟かつ効率的なデータ保護が実現できます。

これらの Google Cloud の機能を活用することで、クラウド上でデータを安全に管理・活用するための基盤を構築しやすくなります。

XIMIXによる支援

ここまでデータマスキングの基本と Google Cloud での活用について解説してきました。しかし、実際にデータマスキングを導入し、効果的に運用していくためには、

  • 「自社のどのデータにマスキングが必要か判断できない」
  • 「どのマスキング手法が最適かわからない」
  • 「Google Cloud の機能をどう組み合わせれば良いか、具体的な設計が難しい」
  • 「マスキングルールの維持管理や運用体制をどう構築すべきか」

といった、さらなる課題に直面することも少なくありません。特に、基幹システムや複数のデータソースが絡み合う複雑な環境では、専門的な知見が求められます。

私たち XIMIX は、Google Cloud のプレミアパートナーとして、多くのお客様のDX推進をご支援してきた豊富な実績とノウハウを有しています。その経験に基づき、導入計画策定から、Google Cloud を活用したセキュアなデータ基盤の設計・構築、運用支援まで、お客様の状況に合わせた最適なソリューションをご提案します。

単にツールを導入するだけでなく、お客様のビジネス課題やデータ活用戦略を踏まえ、、一貫してサポートいたします。

データマスキングやデータセキュリティに関するお悩み、Google Cloud の活用に関するご相談は、ぜひXIMIXまでお気軽にお問い合わせください。

XIMIXのGoogle Cloud 導入支援についてはこちらをご覧ください。
XIMIXのデータ分析サービスについてはこちらをご覧ください。
XIMIXのデータ可視化サービスについてはこちらをご覧ください。

まとめ

本記事では、「データマスキング とは何か」という基本から、その必要性、手法、メリット・デメリット、そして Google Cloud での活用方法についてわかりやすく解説しました。

データマスキングは、DX推進におけるデータ活用と、個人情報保護や機密データ保護といったセキュリティ要件を両立させるための重要な技術です。適切なデータマスキングを導入することで、企業はコンプライアンスを遵守し、セキュリティリスクを低減しながら、データの価値を最大限に引き出すことができます。

データマスキングの導入は、単なる技術的な課題ではなく、企業のデータガバナンス戦略全体に関わる重要な取り組みです。この記事が、皆様のデータセキュリティ対策推進の一助となれば幸いです。

より具体的な導入計画や技術的な詳細、Google Cloud を活用したデータセキュリティ基盤の構築にご興味をお持ちでしたら、ぜひXIMIXにご相談ください。

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