アプリケーション「作って終わり」からの脱却 |Google Cloudで実現する事業価値を高め続ける継続的改善

 2025,06,20 2025.06.20

はじめに:なぜ、いま「アプリケーションを育てる」視点が必要なのか?

ビジネスの競争優位性を確立するため、多くの企業が多大な投資を行い、新たなアプリケーションを開発しています。しかし、そのアプリケーションはリリース後、適切に価値を成長させられているでしょうか。「作って終わり」の状態に陥り、ビジネス環境の変化に対応できず、次第に「技術的負債」として重荷になってしまうケースは少なくありません。

現代の不確実性の高い市場において、アプリケーションは一度開発して完成する「静的な成果物」ではなく、ビジネスと共に継続的に変化・成長していく「動的な資産」として捉える必要があります。

本記事では、中堅〜大企業においてDX推進を担う方々を対象に、開発したアプリケーションを「作って終わり」にせず、継続的に改善・成長させるための仕組み作りについて、以下の観点から網羅的かつ専門的に解説します。

  • 継続的改善を怠ることで生じる深刻なリスク
  • 中核となるDevOpsの思想と、それを実現するCI/CDパイプライン
  • Google Cloud を活用した具体的な実現方法
  • 仕組みを組織に定着させるためのポイントと留意点

この記事を最後までお読みいただくことで、貴社のアプリケーションを真のビジネス資産へと昇華させるための、具体的な道筋を描けるようになるでしょう。

「作って終わり」がもたらす静かで深刻なリスク

アプリケーションがリリースされた瞬間、その陳腐化は静かに始まります。市場の変化、顧客ニーズの多様化、新しいテクノロジーの登場、そしてセキュリティ脅威の進化。これらの変化の波に乗り遅れたアプリケーションは、気づかぬうちにビジネスの足かせとなります。

①ビジネス機会の損失と競争力の低下

機能追加や仕様変更に数ヶ月を要するような硬直化したシステムでは、市場のニーズに迅速に対応できません。新しいビジネスチャンスを逃し、競合他社に差をつけられる原因となります。アジリティ(俊敏性)の欠如は、現代のビジネスにおいて致命的な弱点となり得ます。

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②「技術的負債」の増大と運用コストの高騰

場当たり的な改修の繰り返しは、システムの構造を複雑化させ、「技術的負債」を雪だるま式に増やしていきます。結果として、些細な変更が思わぬ不具合(デグレード)を引き起こしたり、改修コストや運用保守コストが膨れ上がったりと、IT部門の生産性を著しく低下させます。多くの企業様をご支援してきた経験から、この技術的負債の問題は、DX推進における根深い課題の一つであると断言できます。

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③セキュリティリスクの増大

古いフレームワークやライブラリを使い続けることは、既知の脆弱性を放置することに他なりません。定期的なアップデートやパッチ適用が困難なシステムは、サイバー攻撃の格好の標的となり、企業の信頼を揺るがす重大なセキュリティインシデントを引き起こすリスクを常に抱えています。

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継続的改善・成長の核となる「DevOps」という思想

これらのリスクを回避し、アプリケーションを継続的に成長させるための鍵となるのが「DevOps」という考え方です。

DevOpsは、単なるツールや技術のことではありません。開発(Development)チームと運用(Operations)チームが密に連携し、ビジネス価値を迅速かつ確実に顧客に届け続けることを目的とした、組織文化、プラクティス、そして思想の集合体です。

これまで対立構造になりがちだった両チームが、アプリケーションのライフサイクル全体(企画、開発、テスト、リリース、運用、監視、改善)にわたって共通の目標を持ち、協力し合うことで、以下の好循環を生み出します。

  • 開発の高速化: 自動化されたプロセスにより、アイデアを素早く形にできる。
  • 品質の向上: 頻繁なテストとフィードバックにより、バグを早期に発見・修正できる。
  • 信頼性の確保: 安定したリリースと迅速な障害復旧が可能になる。

このDevOps文化を組織に根付かせることが、継続的改善の「仕組み」を構築する上での土台となります。

DevOpsを実現する具体的な仕組み:「CI/CDパイプライン」

DevOpsの思想を技術的に実現する中核的なプラクティスが「CI/CDパイプライン」です。

  • CI (Continuous Integration / 継続的インテグレーション): 開発者が書いたコードを、頻繁に中央のリポジトリに統合するプロセスです。統合のたびに自動的にビルドとテストが実行され、問題があれば即座にフィードバックされます。これにより、「誰かの変更が原因でシステム全体が動かなくなった」といった問題を早期に検知し、品質を常に高いレベルで維持します。

  • CD (Continuous Delivery or Deployment / 継続的デリバリー or デプロイ): CIをパスしたコードが、自動的にテスト環境や本番環境へとリリースされるプロセスです。

    • 継続的デリバリー: 本番環境へのリリース準備が常に整っており、ボタン一つでいつでもリリースできる状態を指します。
    • 継続的デプロイ: さらに進んで、人手を介さずに自動で本番環境へリリースする状態を指します。

このCI/CDパイプラインを構築することで、ヒューマンエラーを排除し、迅速かつ信頼性の高いリリースサイクルを実現。アプリケーションの改善スピードを飛躍的に向上させることが可能になります。

Google Cloud で構築する継続的改善・成長サイクル

Google Cloud は、このDevOpsおよびCI/CDを強力に支援する、フルマネージドのサービス群を提供しています。インフラの管理に煩わされることなく、アプリケーションの価値創造に集中できる環境を迅速に構築可能です。

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CI/CDパイプラインの構築

  • Cloud Source Repositories: Gitベースのプライベートリポジトリ。
  • Cloud Build: ソースコードのビルド、テスト、コンテナイメージの作成を高速に実行するフルマネージドCIサービス。
  • Artifact Registry: コンテナイメージや各種パッケージを一元的に管理・保護するリポジトリ。
  • Cloud Deploy: GKE(Google Kubernetes Engine)やCloud Runなど、様々な環境への継続的デリバリーを自動化。

アプリケーション実行環境のモダナイゼーション

  • Google Kubernetes Engine (GKE): コンテナ化されたアプリケーションのデプロイ、管理、スケーリングを自動化する、業界をリードするマネージドKubernetesサービス。マイクロサービスアーキテクチャとの親和性が非常に高く、サービス単位での独立した改善・デプロイを可能にします。
  • Cloud Run: サーバーレスのコンテナ実行環境。インフラを意識することなく、コードをデプロイするだけで自動的にスケーリングします。

信頼性の観測と向上 (SREの実践)

  • Cloud Operations (旧Stackdriver): アプリケーションのログ、メトリクス、トレースを一元的に収集・可視化し、パフォーマンス監視や障害検知を支援します。これにより、SRE(Site Reliability Engineering)のプラクティスに基づいた、データドリブンな信頼性向上活動が可能になります。

これらのサービスを組み合わせることで、ソースコードの変更から本番環境へのデプロイ、そしてその後の運用・監視に至るまでの一連のサイクルを、Google Cloud 上でシームレスに実現できます。

仕組みを定着させるための重要ポイントと留意点

最新のツールを導入するだけで、継続的改善の仕組みが自動的に回り出すわけではありません。特に大企業においては、組織的な側面での配慮が成功の鍵を握ります。

ポイント①:スモールスタートと成功体験の共有

全社一斉の壮大な改革を目指すのではなく、まずは影響範囲の少ない小規模なプロジェクトやチームでパイロット導入を試み、成功体験を積むことが重要です。その成功事例を社内に共有することで、変革への理解と協力を得やすくなります。

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ポイント②:ツールの標準化とガバナンス

チームごとにバラバラのツールを利用すると、ノウハウが分散し、全社的なガバナンスが効かなくなります。CI/CDパイプラインで利用するツールやプロセスを標準化し、テンプレートを提供することで、開発効率と統制を両立させることができます。

ポイント③:「信頼性」を測る指標の導入 (SRE的思考)

「なんとなく改善する」のではなく、サービスの信頼性を客観的に測る指標、SLI(Service Level Indicator)と、その目標値であるSLO(Service Level Objective)を設定することが不可欠です。これにより、開発のスピードとサービスの安定性のバランスを、データに基づいて判断できるようになります。

リスク・留意点:組織文化の壁

最も大きな障壁は、技術ではなく「組織文化」です。従来の縦割り組織の壁、失敗を許容しない文化、評価制度の不一致などが、DevOpsの浸透を妨げます。経営層の強いコミットメントのもと、チーム間のコラボレーションを促進し、挑戦を奨励する文化を醸成していく粘り強い取り組みが求められます。

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XIMIXが提供するアプリケーションのご支援

ここまで、アプリケーションを継続的に改善・成長させるための考え方や技術、そして留意点について解説してきました。しかし、

「DevOpsの思想は理解できたが、自社にどう適用すれば良いかわからない」 「CI/CDパイプラインを構築したいが、技術的な知見を持つ人材がいない」 「GKEやCloud Runを活用したモダンなアーキテクチャへの移行を相談したい」 「SREの考え方を導入し、データに基づいた運用改善を実現したい」

といった、より具体的・実践的な課題に直面されている企業様も多いのではないでしょうか。

私たちXIMIXは、Google Cloud のプレミアパートナーとして、数多くの企業のDXをご支援してきた豊富な実績と知見を有しています。単なるツールの導入支援に留まらず、お客様のビジネスゴール達成に向けて、アプリケーションのライフサイクル全体を見据えた伴走支援を提供します。

  • システムコンサルティング: お客様の現状を分析し、最適なアーキテクチャ設計やDevOps導入のロードマップ策定をご支援します。
  • CI/CD環境構築・SI: Google Cloud のベストプラクティスに基づき、セキュアでスケーラブルな継続的改善基盤を構築します。
  • アプリケーションモダナイゼーション支援: 既存のアプリケーション資産を、GKEやCloud Runなどを活用したクラウドネイティブなアーキテクチャへと移行するご支援をします。

アプリケーションの継続的改善に関するお悩みや、Google Cloud の活用について、ぜひ一度お気軽にご相談ください。

XIMIXのGoogle Workspace 導入支援についてはこちらをご覧ください。
XIMIXのGoogle Cloud 導入支援についてはこちらをご覧ください。

 

まとめ:アプリケーションをビジネスと共に成長する「資産」へ

本記事では、「作って終わり」のアプリケーション開発から脱却し、継続的な改善・成長を実現するための仕組み作りについて解説しました。

  • 「作って終わり」は、機会損失、コスト増大、セキュリティリスクといった深刻な問題を引き起こす。
  • 解決の鍵は、開発と運用が連携する「DevOps」という思想と文化にある。
  • 具体的な仕組みとして「CI/CDパイプライン」を構築し、リリースサイクルを高速化・自動化する。
  • Google Cloud は、CI/CDから実行環境、信頼性向上までを支援する強力なサービス群を提供する。
  • 成功には、技術だけでなく、スモールスタート、標準化、SRE的思考、そして組織文化の変革が不可欠である。

アプリケーションは、一度作ったら価値が固定されるものではありません。市場や顧客と共に呼吸し、変化し続けることで、その価値を無限に高めていける「ビジネス資産」です。この記事が、貴社のアプリケーションを、未来を切り拓く力強いエンジンへと育て上げる一助となれば幸いです。


アプリケーション「作って終わり」からの脱却 |Google Cloudで実現する事業価値を高め続ける継続的改善

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