「使われないシステム」はなぜ生まれる?要件定義の失敗と成功へのアプローチ

 2025,06,18 2025.06.18

はじめに

多大な時間とコストを投じて鳴り物入りで導入した、新しい業務アプリケーション。しかし、いざ蓋を開けてみると、現場ではほとんど使われず、従来のExcelや手作業のプロセスに逆戻り…。DX推進に携わるご担当者様であれば、このような悪夢のようなシナリオを一度は懸念されたことがあるのではないでしょうか。

「使われないシステム」が生まれてしまう根本的な原因は、多くの場合、プロジェクトの上流である業務ヒアリングと要件定義の失敗にあります。現場の業務を深く理解しないまま、あるいはIT部門の論理だけで進めてしまった結果、実態と乖離した「誰も幸せにならない」アプリケーションが誕生してしまうのです。

本記事では、単なるヒアリングのテクニック論に留まらず、なぜ要件定義は失敗するのかという構造的な問題を解き明かします。その上で、現場を真の「当事者」として巻き込み、ビジネス価値に直結する「使われ続ける」アプリケーションを開発するための、本質的なアプローチを専門家の視点から解説します。

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なぜ「使われないアプリケーション」は生まれてしまうのか?

要件定義の失敗は、単一の原因でなく、組織内に根付いた複数の要因が複雑に絡み合って発生します。特に、多くのステークホルダーが関わる企業においては、その構造が失敗の温床となりがちです。

①IT部門の独走と現場の「受け身姿勢」

最も典型的な失敗パターンが、IT部門が主導しすぎるあまり、現場が受け身に回ってしまうケースです。IT部門は最新技術の導入やシステム全体の整合性を重視する一方、現場の担当者は日々の業務で手一杯。ヒアリングの場では「何か言ってもどうせ伝わらないだろう」「ITの専門家が決めたことに従っておこう」といった諦めが生まれ、本質的な課題やニーズが表に出てきません。結果として、現場の業務フローを無視した、使い勝手の悪いシステムが完成してしまいます。

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②「完璧な要件定義書」という幻想

従来のウォーターフォール型開発では、プロジェクト開始時に完璧な要件定義書を作成し、それに沿って開発を進めることが求められます。しかし、変化の速い現代のビジネス環境において、数ヶ月後、あるいは数年後まで通用する「完璧な要件」を事前に見通すことは不可能です。 分厚い要件定義書を作成すること自体が目的化してしまい、いざ開発が完了した頃にはビジネス環境や現場のニーズが変化している、という事態は後を絶ちません。

③経営・IT・現場の「三すくみ」状態

経営層は「コスト削減」「業務効率化」といった抽象的な目標を掲げ、IT部門にDX推進を指示します。指示を受けたIT部門は、具体的な業務内容を深く理解しないまま、手探りでシステム開発の要件をまとめようとします。そして現場は、トップダウンで降ってきたプロジェクトに対し、「また新しいことを覚えなければならないのか」と、傍観者、あるいは”被害者”のような立場に陥ってしまう。この三者の間に存在する意識のズレやコミュニケーション不全こそが、「使われないシステム」を生み出す最大の原因と言えるでしょう。

失敗を回避する業務ヒアリングのテクニック

「使われないシステム」を生まないためには、要件定義の前段階である業務ヒアリングの質を抜本的に向上させる必要があります。それは単に「聞く」技術ではなく、現場の暗黙知や潜在的なニーズを「共に発見する」プロセスです。

①「聞く」から「観察し、体験する」へ

優れたヒアリングは、会議室の机上だけでは完結しません。実際に業務が行われている現場に足を運び、担当者の働き方をじっくりと観察することが不可欠です。可能であれば、実際に業務の一部を体験させてもらう「一日業務体験」のようなアプローチも極めて有効です。これにより、マニュアルには書かれていない非効率な作業や、担当者自身も問題だと認識していない「暗黙のルール」といった、本質的な課題を発見できます。

②「As-Is(現状)」と「To-Be(理想)」を共に描く

ヒアリングの目的は、現状の業務(As-Is)を把握するだけではありません。現場の担当者と共に、テクノロジーを活用した未来の理想的な働き方(To-Be)を描くことです。 「もし、この面倒なデータ入力がなくなったら、どんな新しい仕事ができますか?」「この情報がリアルタイムで共有されたら、お客様への対応はどう変わりますか?」といった問いかけを通じて、現場から前向きなアイデアを引き出し、変革へのモチベーションを高めることが重要です。

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アジャイルとプロトタイピングの活用

完璧な要件定義書を目指すアプローチには限界があります。重要なのは、最初から完璧を目指すのではなく、最小限の仮説検証を高速で繰り返すことです。

①プロトタイプで「動くもの」を見せる

分厚い仕様書や設計書を見せられても、現場の担当者はそれが自分の業務にどう影響するのか具体的にイメージできません。そこで有効なのが、プロトタイピングです。 例えば、Google CloudAppSheetのようなノーコード・ローコードプラットフォームを活用すれば、プログラミングの知識がなくても、短期間でアプリケーションの試作品(プロトタイプ)を作成できます。「百聞は一見に如かず」の言葉通り、実際に動く画面を触ってもらいながらフィードバックを得ることで、認識のズレを早期に解消し、本当に必要な機能を見極めることができます。

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②要件定義を「継続的な対話」のプロセスと捉える

アジャイル開発の思想を取り入れ、要件定義を「一度決めたら変わらないもの」ではなく、「継続的な対話を通じて進化させていくもの」と捉え直すことが求められます。 短期間のスプリントで小さな機能を開発し、その都度、現場のレビューを受ける。このサイクルを繰り返すことで、手戻りを最小限に抑えながら、現場のニーズに即したアプリケーションへと育てていくことができます。これは、要件定義という行為を、開発の上流工程から、開発プロセス全体にわたる「コミュニケーション活動」へと変えるパラダイムシフトです。

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XIMIXによる伴走支援

ここまで、業務ヒアリングと要件定義を成功させるための本質的なアプローチについて解説してきました。しかし、こうした高度なファシリテーションや、プロトタイピングを活用したアジャイルな開発プロセスを、すべて自社リソースだけで実践するには高い専門性と経験が求められます。

特に、部門間の調整が難航したり、現場の抵抗が根強かったりするケースでは、客観的な視点を持つ外部の専門家の介入が、プロジェクトを円滑に進めるための起爆剤となることがあります。

私たち「XIMIX」は、単にGoogle CloudやGoogle Workspaceのライセンスを販売・導入するだけではありません。これまで数多くの企業様のDX推進をご支援してきた経験豊富なエンジニアが、お客様の課題に深く入り込み、プロジェクトを伴走支援します。

  • プロトタイピングやPoC支援: AppSheetなどを活用し、アイデアを迅速に形にするプロトタイピングやPoC(概念実証)をご支援。現場のフィードバックを元にしたアジャイルな改善サイクルをリードします。
  • 現場を巻き込む組織変革支援: 新しいツールの導入・開発だけでなく、それが現場に定着し、自律的な改善活動が生まれるまでの組織変革やカルチャー醸成まで見据えたご支援を提供します。

自社だけで進めることに限界を感じている、あるいは、これから始めるDXプロジェクトの失敗リスクを少しでも減らしたいとお考えのご担当者様は、ぜひ一度XIMIXにご相談ください。

XIMIXのGoogle Workspace 導入支援についてはこちらをご覧ください。
XIMIXのGoogle Cloud 導入支援についてはこちらをご覧ください。

まとめ

「使われない業務アプリケーション」というDXの典型的な失敗は、技術の問題というよりも、組織とコミュニケーションの問題です。その根源にあるのは、現場の業務実態と乖離したまま進められる、実効性のない業務ヒアリングと要件定義に他なりません。この課題を克服する鍵は、以下の3つです。

  1. ヒアリングの深化: 現場を「観察」し「体験」することで、暗黙知を含めた本質的な課題を捉える。
  2. 要件定義の変革: 「完璧な仕様書」ではなく「動くプロトタイプ」を共通言語とし、継続的な対話で要件を育てる。
  3. 現場の当事者化: 現場を単なる「ユーザー」ではなく、変革を共に創る「パートナー」として巻き込む。

要件定義とは、開発のゴールを固定する作業ではありません。それは、現場との協創を始め、ビジネス価値を最大化していくための「スタートライン」なのです。この記事が、貴社のDX推進を一歩先へと進めるための一助となれば幸いです。


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