はじめに
「なぜ、動いているシステムにお金をかけて作り直す必要があるのか?」
もしあなたが今、経営層や財務部門からこの質問を投げかけられ、言葉に詰まってしまった経験があるなら、この記事はあなたのためのものです。
多くの企業において、情報システム部門やDX推進リーダーは、老朽化したシステム(レガシーシステム)がビジネスの足かせになっていることを痛感しています。しかし、その危機感を「技術的な正論」で伝えても、投資対効果(ROI)を重視する経営層には響きません。彼らにとって、安定稼働しているシステムへの再投資は、単なる「コスト増」にしか見えないからです。
アプリケーションモダナイズ(最新技術への適合化)のプロジェクトを承認させるために必要なのは、技術の解説ではなく、「技術的負債」を「経営リスク」と「機会損失」へ翻訳するスキルです。
本稿では、数多くの中堅・大企業の支援現場で培った経験をもとに、経営層の心を動かし、モダナイズを「全社的な経営課題」として承認させるための論理構成とアプローチを解説します。
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経営層が「システム刷新」に難色を示す構造的な理由
まず、敵を知る(相手の思考プロセスを理解する)ことから始めましょう。経営層がモダナイズの提案に対して慎重になる背景には、大きく2つの要因があります。
- 「見えないもの」への投資に対する忌避感:インフラの老朽化やスパゲッティコードといった「技術的負債」は、財務諸表には現れません。経営者にとって、売上に直結しない(ように見える)バックエンドの改修に数千万円、数億円を投じることは、説明責任の観点から非常にハードルが高いのです。
- 過去の「失敗体験」のトラウマ:多くの大企業では、過去に大規模な基幹システム刷新で工期遅延や予算超過、あるいは移行後のトラブルを経験しています。「下手に触って壊れるくらいなら、現状維持(塩漬け)が最もリスクが低い」というバイアスがかかっていることを前提に話を進める必要があります。
この2つの壁を突破するためには、「システムを新しくします」ではなく、「現状維持こそが、将来のキャッシュフローを毀損する最大のリスクである」というストーリーへの転換が必要です。
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経営者を動かす「3つの翻訳ロジック」
技術用語を極力排し、経営者が重視する「成長」「リスク」「人材」の3つの観点からモダナイズの価値を再定義します。
1. 「開発アジリティ」を「機会損失の回避」と翻訳する
技術者は「コンテナ化すればデプロイ頻度が上がる」と言いますが、経営者には「今のままでは競合に負ける」と伝える必要があります。
市場の変化が激しい現在、新しいビジネスアイデアを思いついてからサービスをリリースするまでの「リードタイム」は、企業の競争力を左右します。レガシーシステムでは、軽微な機能追加にも影響調査に膨大な時間がかかり、リリースまで数ヶ月を要することも珍しくありません。
- 翻訳のポイント:「競合他社が1週間で新機能をリリースしている中、当社のシステム構造では3ヶ月かかります。この差は、今後3年間で〇億円のシェア損失につながる可能性があります。モダナイズにより、このリードタイムを数日に短縮し、市場変化への即応力を手に入れることが投資の目的です」
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2. 「技術的負債」を「事業継続リスク」と翻訳する
「コードが複雑で保守が大変」という現場の悲鳴は、経営者には「現場の努力不足」と捉えられかねません。これを、企業の存続に関わる「BCP(事業継続計画)」の問題として提起します。
特定のベテラン社員しか仕様を把握していない(属人化している)システムは、その担当者の退職や病気により、ブラックボックス化します。また、サポート切れのOSやミドルウェアを使い続けることは、セキュリティホールを放置することと同義であり、ランサムウェア被害などによる「業務停止リスク」に直結します。
- 翻訳のポイント:「現在のシステムは、特定の個人のスキルに依存しており、彼らが不在になれば修正不能になる『時限爆弾』を抱えています。モダナイズは、システムを標準化された技術基盤(Google Cloud等)に移すことで、この属人化リスクを排除し、永続的な事業継続性を担保するための『保険』です」
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3. 「最新技術」を「採用競争力・人材定着」と翻訳する
意外に見落とされがちなのが、人的資本経営の観点です。優秀な若手エンジニアやデータサイエンティストは、COBOLや古いJavaで書かれたレガシーシステムの保守を嫌がります。彼らは、AIやクラウドネイティブな技術を扱える環境を求めています。
システムが古いままでは、DX推進に必要な高度IT人材を採用できず、既存の優秀な人材も流出してしまう恐れがあります。
- 翻訳のポイント:「当社のDXを担う次世代のリーダーを採用しようとしても、現在の古いシステム環境では魅力的なキャリアパスを提示できず、採用競合に負けてしまいます。モダンな開発環境を整備することは、優秀な人材を獲得・定着させるための必須条件です」
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投資対効果(ROI)をどう試算するか
定性的なメリットだけでなく、数字での裏付けも不可欠です。しかし、単純な「サーバーコストの削減」だけでモダナイズのROIを正当化するのは危険です。クラウド移行初期は、二重投資などで一時的にコストが上がるケースもあるからです。
ROIの算出には、以下の要素(TCO:総保有コスト)を含めてください。
- 運用保守コストの削減: サーバー管理、パッチ適用などの「守りの工数」削減分。
- 開発生産性の向上: リリースサイクル短縮による、エンジニア1人あたりのアウトプット増加換算。
- ダウンタイム損失の回避: システム障害による機会損失額の想定リスク低減分。
これらを合算し、「5年スパンで見れば、現状維持よりもモダナイズの方がキャッシュフローが良化する」シナリオを描くことが重要です。
成功の鍵は「小さく始めて、実績を作る」こと
壮大な「全社基幹システム一斉刷新」の計画書を提出しても、そのリスクの大きさから経営判断はペンディングになりがちです。
私たちが推奨するアプローチは、「スモールスタート(小さく始める)」です。例えば、まずは顧客接点に近いサブシステムや、新規事業のアプリケーションからGoogle Cloudへ移行し、コンテナ化やCI/CD(継続的デリバリー)の効果を実証します。
「特定の領域で開発スピードが3倍になった」という具体的な実績(Quick Win)を作ってから、徐々に適用範囲を広げていく「ストラングラーパターン(既存システムを徐々に置き換える手法)」が、最も確実で経営層も承認しやすい進め方です。
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パートナーとしてのXIMIXの役割
アプリケーションモダナイズは、単なる「引っ越し」ではありません。ビジネスプロセスそのものを見直し、組織のあり方を変える変革です。だからこそ、技術力だけでなく、貴社のビジネス文脈を理解し、経営層への説明責任を共に果たせるパートナーが必要です。
私たちXIMIXは、長年にわたり多くの中堅・大企業の基幹システムを支えてきたSIerとしての「信頼性」と、Google Cloudのプレミアパートナーとしての「技術力」を兼ね備えています。
- 現状分析とロードマップ策定: 貴社のシステム資産を棚卸し、経営的なインパクトが大きい領域から優先順位をつけてモダナイズ計画を策定します。
- Google Cloudの高度活用: 単なる移行(Lift & Shift)にとどまらず、BigQueryによるデータ分析基盤の統合や、Vertex AIを活用した業務高度化など、モダナイズの先にある「ビジネス価値の創出」まで伴走します。
XIMIXのGoogle Workspace 導入支援についてはこちらをご覧ください。
XIMIXのGoogle Cloud 導入支援についてはこちらをご覧ください。
まとめ
アプリケーションモダナイズは、IT部門だけの課題ではありません。それは、変化の激しい時代において企業が生き残るための「経営戦略そのもの」です。
「コスト」ではなく「未来への投資」として経営層を納得させるためには、技術の話を経営のリスクとチャンスの話へと翻訳する対話が必要です。
もし、そのロジック構築やロードマップ策定にお悩みであれば、ぜひ一度XIMIXにご相談ください。貴社の現状に合わせ、経営層が「Goサイン」を出さざるを得ない最適なプランを共に描き出しましょう。
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