レッドチームとは?DX推進におけるセキュリティ対策の目的と価値を解説

 2025,05,15 2025.07.06

はじめに

デジタルトランスフォーメーション(DX)の加速は、企業の競争力を飛躍させる一方、サイバー攻撃を受けるリスク(アタックサーフェス)の増大という、避けて通れない課題をもたらします。クラウド活用やリモートワークが当たり前になった今、「導入したセキュリティ対策は本当に機能するのか?」「自社の防御網に未知の穴はないか?」という不安は、多くの経営者やDX推進担当者が抱える共通の悩みではないでしょうか。

こうした状況で、従来の対策の有効性を超えて、より実践的に組織の防御力を評価する手法として「レッドチーム」が極めて重要になっています。

本記事では、DXを推進する企業の皆様が、自社のセキュリティレベルをもう一段階引き上げるために、レッドチームの全容を深く理解できるよう、以下の点を網羅的に解説します。

  • レッドチームの正確な定義と、混同されがちな他手法との明確な違い

  • DX時代において、なぜレッドチームが不可欠とされるのか

  • 企業がレッドチームから得られる具体的なメリット

  • 導入を成功に導くための実践的なポイント

この記事が、貴社のセキュリティ戦略をより能動的で強固なものへと進化させる一助となれば幸いです。

レッドチームとは?攻撃者の視点で防御能力を試す専門家集団

レッドチームとは、実際のサイバー攻撃者が用いる思考や手口(TTPs: Tactics, Techniques, and Procedures)を駆使し、顧客組織のセキュリティ体制に対して疑似攻撃を仕掛ける専門家チームのことです。

彼らの目的は、単にシステム上の「脆弱性」を見つけることだけではありません。従業員へのフィッシングメール、システムの脆弱性を利用した内部侵入、物理的な施設へのアクセス試行など、あらゆる手段を想定して「設定された目標(例:機密情報の奪取)」を達成しようとします。

この一連の活動(レッドチーミング)を通じて、防御側である「ブルーチーム」(SOCやCSIRTなど)が攻撃を適切に検知し、対応できるかを含めた、組織全体のサイバーレジリエンス(回復力)を総合的に評価します。

関連記事:
サイバーレジリエンスとは? DX時代の必須要素を初心者向けに徹底解説 (Google Cloud/Workspace 活用)

レッドチーム、ペネトレーションテスト、脆弱性診断の明確な違い

レッドチームは、しばしば「ペネトレーションテスト(侵入テスト)」や「脆弱性診断」と混同されがちです。しかし、その目的とアプローチは大きく異なります。自社に必要なセキュリティ評価はどれかを見極めるためにも、それぞれの違いを正確に理解しましょう。

評価手法

目的

スコープ(対象範囲)

アプローチ

焦点

レッドチーム

防御体制全体の有効性評価、インシデント対応能力の訓練

広範(システム、人、物理、プロセス)

目標達成型。現実の攻撃シナリオに基づき、手段を限定しない。

「人・プロセス・技術」を含む組織の防御能力

ペネトレーションテスト

特定システムへの侵入可否の検証と影響範囲の評価

事前に合意した特定システムやネットワーク

脆弱性を利用し、「侵入できるか」を実証する。

システムの技術的な弱点と侵入経路

脆弱性診断

システムに存在する既知・未知の脆弱性の網羅的な洗い出し

事前に合意した特定システムやアプリケーション

ツールと手動検査で脆弱性をリストアップする。

個々の技術的な欠陥(脆弱性)

 

脆弱性診断:既知の「弱点」を網羅的に洗い出す

脆弱性診断は、システムやソフトウェアに存在するセキュリティ上の欠陥を網羅的にリストアップする活動です。例えるなら、建物の「健康診断」のように、壁のひびや窓の鍵の不具合などを一つひとつチェックするイメージです。対策の基本となる重要な活動です。

関連記事:脆弱管理とは?DX時代における基本と目的、企業が取り組むべき理由を解説

ペネトレーションテスト:特定の「侵入経路」を試す

ペネトレーションテストは、脆弱性診断などで見つかった弱点を利用して、「実際に建物の中に侵入できるか」を試す行為です。特定のドアの鍵を開けられるか、特定の窓から入れるかを検証し、侵入された場合の影響範囲を評価します。

レッドチーム:現実の攻撃を想定し「防御体制全体」を評価する

これらに対し、レッドチームは「あらゆる手段を使って建物に忍び込み、貴重品を盗み出す」というミッションの達成を目指すようなものです。正面玄関だけでなく、通用口、警備員の注意を逸らす、内部協力者を装うなど、現実の攻撃者が取りうるあらゆる選択肢を想定します。これにより、「ドアの鍵は頑丈か」だけでなく、「警備システムは機能しているか」「従業員は不審者を見抜けるか」といった、組織全体のリアルな防衛能力が試されます。

DXを推進する企業にとって、個々のシステムの強化(脆弱性診断やペネトレーションテスト)はもちろん重要ですが、それらが連携して機能し、組織全体として攻撃に耐えられるかを検証するレッドチームの視点は不可欠です。

DX時代になぜレッドチームが不可欠なのか?

近年、レッドチームへの注目が急速に高まっている背景には、DX推進がもたらした構造的な変化と、それに対応しきれていない企業の現状があります。

①サイバー攻撃の高度化・巧妙化

独立行政法人情報処理推進機構(IPA)が発表した「サイバーセキュリティ経営ガイドライン Ver 3.0」でも警鐘が鳴らされているように、サイバー攻撃は年々その手口を巧妙化させています。特に、特定の企業を入念に調査して狙う標的型攻撃や、取引先企業を踏み台にするサプライチェーン攻撃は、従来の画一的な防御策だけでは防ぎきれません。 このような状況では、攻撃者の視点に立って自社の防御網を評価し、想定外の侵入経路や弱点をあぶり出す能動的なアプローチが求められます。

関連記事:サプライチェーンセキュリティとは? DXに不可欠な理由と対策、Google Cloud/Google Workspace活用法を解説

②DX推進に伴う攻撃対象領域(アタックサーフェス)の拡大

クラウドサービスの全面的な採用、IoTデバイスの導入、そしてリモートワークの定着。DXは企業のITインフラの境界線を曖昧にし、サイバー攻撃の対象となる「アタックサーフェス」を爆発的に拡大させました。 特にGoogle Cloudのようなパブリッククラウド環境は、設定一つで意図しない公開範囲を生んでしまうリスクもはらんでいます。利便性を享受しつつ安全を確保するには、この拡大し続けるアタックサーフェスを常に攻撃者目線で俯瞰し、リスクを評価することが不可欠です。

関連記事:
【入門編】アタックサーフェスとは?DX時代に不可欠なサイバーセキュリティの要点を解説

③セキュリティ投資の有効性の客観的評価

多くの企業がファイアウォール、EDR、WAFなど、様々なセキュリティ製品に多額の投資を行っています。しかし、「その投資は本当に有効か?」「有事の際に各システムは連携して機能するのか?」を客観的に証明することは困難です。 レッドチームは、現実の攻撃をシミュレートすることで、これらのセキュリティ投資が期待通りに機能するかを実証します。これにより、対策の過不足が明らかになり、より費用対効果の高いセキュリティ戦略へと見直すことが可能になります。

関連記事:リスクベースアプローチとは?DX推進とクラウドセキュリティにおける重要性を分かりやすく解説

レッドチームがもたらす5つの具体的メリット

レッドチームの実施は、単なる弱点の発見に留まらない、多岐にわたる経営上のメリットをもたらします。

① 防御体制の「未知の弱点」と「隙間」の可視化

最大のメリットは、技術的な脆弱性はもちろん、プロセスの不備や従業員のセキュリティ意識といった、通常の監査では見過ごされがちな組織全体の弱点を具体的に特定できることです。システム間の連携不備や、部署間の報告ルールの形骸化など、攻撃者だからこそ突ける「隙間」を明らかにします。

② インシデント対応能力(ブルーチーム)の実践的強化

レッドチームによる疑似攻撃は、防御側であるブルーチームにとって最高の訓練となります。攻撃の検知、分析、封じ込め、復旧といった一連のインシデント対応プロセスを実践的にテストし、対応マニュアルの有効性やチームの練度を客観的に評価・改善する絶好の機会となります。

③ 経営層から現場まで、全社的なセキュリティ意識の向上

「管理者アカウントが容易に奪取された」「フィッシングメールで9割の従業員が騙された」といったレッドチームの報告は、抽象的な脅威を「自分ごと」として捉える強力なきっかけとなります。具体的なシナリオと影響を全社で共有することで、経営層のセキュリティ投資への理解を深め、従業員一人ひとりの行動変容を促します。

関連記事:
DXを全従業員の「自分ごと」へ:意識改革を進めるため実践ガイド

④ 投資対効果(ROI)の高いセキュリティ戦略の実現

評価結果に基づき、「どこが最も狙われやすく、影響が大きいか」というリスクの優先順位が明確になります。これにより、勘や流行に頼るのではなく、自社にとって本当に守るべきポイントにリソースを集中投下する、データに基づいた合理的なセキュリティ投資が可能になります。

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⑤ ビジネスの継続性とレジリエンスの向上

サイバー攻撃を受けた際に、いかに被害を最小限に抑え、事業を迅速に復旧させるか。このサイバーレジリエンスは、現代企業の生命線です。レッドチームは、攻撃による事業影響を具体的にシミュレーションし、事業継続計画(BCP)の実効性を高めるための具体的な改善点を提供します。

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レッドチームの典型的な実施プロセス

レッドチームの活動は、実際のサイバー攻撃と同様のフェーズを辿ります。目的や対象範囲に応じてカスタマイズされますが、一般的には以下の流れで進行します。

  1. 偵察 (Reconnaissance): 公開情報やSNSなどから、対象組織のシステム構成、従業員情報、取引先情報などを徹底的に収集し、攻撃の糸口を探します。

  2. 初期侵害 (Initial Compromise): フィッシングメールや公開サーバーの脆弱性を利用し、組織ネットワークへの最初の足がかりを築きます。

  3. 拠点確立 (Establish Foothold): 侵入後、外部から継続的にアクセスできるようバックドアを設置し、潜伏の準備を整えます。

  4. 権限昇格 (Escalate Privileges): 一般ユーザー権限から管理者権限など、より高い権限を奪取し、内部での活動範囲を広げます。

  5. 内部偵察と横展開 (Internal Reconnaissance & Lateral Movement): ネットワーク内部を調査し、機密情報や重要システムが存在するサーバーへと侵入範囲を拡大していきます。

  6. 目的達成 (Mission Accomplishment): 事前に設定された目標(例:「顧客データベースの窃取」「基幹システムの停止」など)を達成します。

  7. 報告と改善提案 (Reporting & Remediation): 全ての活動内容、侵入経路、検知・対応状況、そして具体的な改善策を詳細に報告し、防御体制の強化に繋げます。

レッドチーム導入を成功させるための重要ポイント

レッドチームの効果を最大化し、安全に実施するためには、計画段階での周到な準備が不可欠です。私たちのDX支援の経験からも、特に以下の3点は成功の鍵を握ると言えます。

①明確な目標設定とスコープ定義

「何のためにレッドチームを実施するのか」という目標を明確にすることが全ての出発点です。「特定の機密情報(顧客情報、開発データなど)は守り切れるか」「ランサムウェア攻撃を受けた際の事業継続性を評価したい」など、ビジネスリスクに直結したシナリオを設定することが重要です。 その上で、対象範囲(スコープ)を定義します。対象は特定のクラウド環境か、国内全拠点か、それとも海外子会社まで含むのか。物理的な侵入や従業員へのソーシャルエンジニアリングを許可するかなど、関係者と合意形成を図ります。

②経営層の理解と合意形成

システムへの疑似攻撃を伴うレッドチームは、経営層の深い理解と正式な承認がなければ実施できません。活動の目的、期待される効果、そしてシステム停止などの潜在的リスクを事前に包み隠さず説明し、プロジェクトの「お墨付き」を得ることが不可欠です。これは、万が一インシデントが発生した際のスムーズな意思決定にも繋がります。

③信頼できる専門家・ベンダーの選定

レッドチームの成否は、実施チームの技術力と経験に大きく依存します。最新の攻撃手法への深い知見はもちろん、顧客の事業や組織文化を理解し、建設的な改善提案ができる倫理観の高いパートナーを選ぶ必要があります。 選定の際は、実績や資格だけでなく、コミュニケーションの透明性や報告の質も重視しましょう。Google Cloud傘下のMandiantのような世界トップクラスの脅威インテリジェンスを持つ専門集団の知見を活用できるかも、クラウド時代のベンダー選定における一つの視点となるでしょう。

まとめ

本記事では、DXを安全に推進するために不可欠なセキュリティアプローチである「レッドチーム」について、その本質から実践的な導入ポイントまでを解説しました。

サイバー攻撃が巧妙化し、ビジネス環境の変化が激しい現代において、従来の受け身のセキュリティ対策だけでは企業を守り抜くことは困難です。攻撃者の視点で自社の防御体制全体を能動的かつ客観的に評価するレッドチームは、見過ごされていた弱点をあぶり出し、組織全体のセキュリティレベルを飛躍的に向上させる強力な一手となります。

これは単なるコストではなく、企業の信頼性、事業継続性を高め、DXという未来への挑戦を支えるための戦略的投資です。

まずは、自社のセキュリティリスクを洗い出し、レッドチーム導入の目的を検討することから始めてみてはいかがでしょうか。そのプロセスを通じて、守るべき資産と、そのための最適なアプローチが明確になるはずです。

XIMIXは、Google CloudやGoogle Workspaceを活用した企業のDX推進を、セキュリティの側面からもトータルでサポートいたします。本記事が、貴社のより強固なセキュリティ体制構築の一助となれば幸いです。

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