Google Vaultとは?企業の重要データを守り、コンプライアンスを強化する情報ガバナンスの要点を解説

 2025,04,22 2025.05.08

はじめに

企業活動において、日々膨大な量のデジタルデータが生成・活用されています。メール、チャット、ドキュメントファイルなど、これらのデータはビジネスを推進する上で不可欠な資産であると同時に、情報漏洩やコンプライアンス違反といったリスクも内包しています。特にDX(デジタルトランスフォーメーション)を推進する企業にとって、これらのデジタル情報をいかに適切に管理し、保護するかは経営上の重要な課題と言えるでしょう。

「Google Workspaceを導入している、あるいは導入を検討しているが、データの長期保存や監査対応、万が一の訴訟時の証拠開示など、情報ガバナンスの観点でどのような対策ができるのか知りたい」 「Google Vaultという機能があることは知っているが、具体的に何ができて、自社にどのようなメリットがあるのか、網羅的に理解したい」

本記事では、このような課題意識をお持ちの企業のDX推進担当者様や情報システム部門の決裁者様に向けて、Google Workspaceの強力な情報ガバナンスおよび電子情報開示ツールである「Google Vault」について、その基本から主な機能、導入のメリット、そして活用する上でのポイントを網羅的に、かつ分かりやすく解説します。具体的な設定方法ではなく、まずはGoogle Vaultの全体像を掴んでいただくことを目的としています。

Google Vaultとは何か? 

Google Vaultは、Google Workspaceの対象エディションに含まれる、情報ガバナンスと電子情報開示(eDiscovery)のためのアドオンサービスです。企業が利用するGoogle Workspace上のデータ(GmailGoogleドライブGoogle チャットGoogle MeetGoogleグループ、など)を対象に、データの保持、検索、書き出し、監査といった機能を提供します。

多くの企業では、コンプライアンス要件や法的義務、社内規定に基づき、特定のデータを長期間保存し、必要に応じて迅速に検索・提出できる体制を整える必要があります。Google Vaultは、これらの要求に応えるための強力なツールとして、Google Workspace環境における情報ガバナンスの中核を担います。

単なるデータバックアップツールとは異なり、Google Vaultは「いつ、誰が、どのようなデータにアクセスし、何をしたか」といった監査証跡の記録や、特定の条件下にあるデータの法的保持、検索、書き出しなど、法務・コンプライアンス対応に特化した機能を有している点が大きな特徴です。これにより、企業は潜在的な法的リスクを低減し、データの透明性と説明責任を向上させることができます。

なぜ、Google Vaultが重要視されるのか?

現代のビジネス環境において、企業が取り扱うデータ量は爆発的に増加し、その種類も多様化しています。このような状況下で、多くの企業が以下のような情報管理に関する課題に直面しており、Google Vaultのようなソリューションの重要性が高まっています。

①増大するコンプライアンス要件への対応

国内外の法規制は年々厳格化しており、データの保存期間、プライバシー保護、情報セキュリティに関する要求は多岐にわたります。例えば、日本では2022年1月に改正された電子帳簿保存法により、電子取引データの保存要件が変更され、多くの企業が対応を迫られました。Google Vaultは、こうした法令遵守のためのデータ管理体制構築を支援します。

②情報漏洩・内部不正リスクの低減

企業の機密情報や個人情報の漏洩は、企業の社会的信用を大きく損なうだけでなく、経済的な損失や法的責任を招く可能性があります。また、内部関係者による不正行為のリスクも常に存在します。Google Vaultの監査機能やデータ保持機能は、これらのリスクを検知・抑制し、万が一の事態が発生した際の原因究明にも役立ちます。

③訴訟・法的紛争への備え(eDiscovery対応)

企業が訴訟や法的紛争に巻き込まれた場合、関連する電子データの迅速な収集・提出(eDiscovery:電子情報開示)が求められます。Google Vaultを利用することで、膨大なデータの中から必要な情報を効率的に検索・抽出し、法的手続きに対応することが可能になります。これにより、調査にかかる時間とコストを大幅に削減できます。

④リモートワーク・クラウド利用の拡大に伴う新たな課題

働き方の多様化により、リモートワークが普及し、クラウドサービスの利用が一般化しました。これにより、データが社内外に分散し、管理が複雑化する傾向にあります。Google Vaultは、クラウドベースのGoogle Workspace環境全体を一元的に管理し、場所を選ばずに情報ガバナンスを徹底できる点で、現代の働き方に適したソリューションと言えます。

これらの課題は、特に中堅から大企業において、事業規模の拡大や従業員数の増加に伴い、より深刻かつ複雑になる傾向があります。Google Vaultは、こうした課題に対する効果的な打ち手の一つとして、多くの企業でその価値が認識されつつあります。

Google Vaultの主要機能

Google Vaultは、企業の重要データを保護し、コンプライアンスを強化するために、主に以下の機能を提供します。ここでは、具体的な設定手順ではなく、それぞれの機能が「何を実現できるのか」という観点で解説します。

①データの保持(リテンション)

企業は、法的要件や社内ポリシーに基づき、特定の種類のデータを一定期間保持する義務を負うことがあります。Google Vaultでは、Google Workspaceの各サービス(Gmail、ドライブ、Chatなど)のデータに対して、カスタムの保持ルールを設定できます。

  • 対象データの指定: メール、ファイル、チャットメッセージなど、サービスごとに保持対象のデータや組織部門を指定できます。
  • 保持期間の設定: 「作成日から7年間保持」「無期限に保持」など、柔軟な保持期間を設定できます。
  • 期間経過後の処理: 設定した保持期間が経過したデータを完全に削除するかどうかを指定できます。これにより、不要なデータを適切に破棄し、ストレージコストの最適化やリスクの低減にも繋がります。

この機能により、企業は「必要なデータを、必要な期間だけ、確実に保持する」という情報ガバナンスの基本要件を満たすことができます。

②データの検索(サーチ)

訴訟対応や内部調査、監査などの際には、特定の情報を迅速に見つけ出す必要があります。Google Vaultは、Google Workspace内に保存されている膨大なデータの中から、目的の情報を効率的に検索する強力な機能を提供します。

  • 広範な検索対象: Gmailのメール本文や添付ファイル、Googleドライブのファイル内容(テキスト、PDF、Officeファイルなど)、など、多岐にわたるデータを横断的に検索できます。
  • 高度な検索演算子: キーワード検索だけでなく、送信者、受信者、日付、ファイル形式、特定のラベルなど、詳細な条件を指定して絞り込み検索が可能です。
  • 検索結果のプレビュー: 検索結果をVault内でプレビューし、内容を確認した上で必要なデータを選択できます。

これにより、調査担当者は時間と手間を大幅に削減し、迅速かつ正確な情報収集を実現できます。

③データの書き出し(エクスポート)

検索によって特定されたデータや、法的手続きのために提出が必要なデータは、標準的な形式で書き出す必要があります。Google Vaultは、検索結果や特定のユーザーのデータを、法務調査などで一般的に使用される形式(MBOX形式、PST形式など)でエクスポートする機能を提供します。

  • 多様なエクスポート形式: 用途に応じて適切なファイル形式を選択できます。
  • エクスポート内容の確認: 書き出し処理の進捗状況や結果を確認できます。
  • セキュアなダウンロード: 書き出されたデータは、安全な方法でダウンロードできます。

この機能により、企業はeDiscoveryプロセスにおけるデータ提出要件にスムーズに対応できます。

④監査レポート(オーディット)

Google Vaultの利用状況や、Vault内で実行された操作(検索、書き出し、設定変更など)の記録は、監査証跡として非常に重要です。Vaultは、これらのアクティビティに関する詳細な監査レポートを生成する機能を提供します。

  • アクティビティログの確認: いつ、誰が、どのような操作をVaultで行ったかを追跡できます。
  • 透明性の確保: Vaultの利用に関する透明性を高め、不正利用や誤操作のリスクを低減します。
  • コンプライアンス証明: 監査ログは、情報管理体制の適切性を証明する上で役立ちます。

これにより、企業は情報ガバナンス体制の信頼性を高め、説明責任を果たすことができます。

⑤法的保持(リティゲーションホールド)

訴訟や調査の対象となる可能性のあるデータについて、通常の保持ルールとは別に、意図しない削除や変更を防ぐために無期限に保護する機能です。特定のユーザーや組織部門、キーワードなどに基づいて、関連するデータを「ホールド」状態に置くことができます。

  • 証拠保全の確実性: 法的紛争に備えて、重要な証拠となるデータを確実に保全します。
  • 柔軟な設定: 案件ごとに対象ユーザーやデータを指定して、複数のホールドを並行して管理できます。

この機能は、特に法務部門にとって、eDiscovery対応における重要なプロセスをサポートします。

これらの主要機能を通じて、Google VaultはGoogle Workspace環境における包括的な情報ガバナンスと電子情報開示の基盤を提供します。

Google Vault導入のメリット – 企業にもたらされる価値

Google Vaultを導入し、適切に運用することは、企業に以下のような具体的なメリットをもたらします。

①コンプライアンス体制の強化と法的リスクの低減

  • 国内外の法規制や業界標準で求められるデータ保持要件に対応し、違反による罰金や事業停止といったリスクを回避できます。
  • 電子帳簿保存法のような特定の法令への対応も、データの適切な保存と検索によって支援されます。
  • 訴訟や当局調査の際に、迅速かつ正確に情報を提供できる体制を構築することで、法的手続きを有利に進められる可能性が高まります。

②情報セキュリティの向上と情報漏洩対策

  • 従業員による意図的なデータの持ち出しや、誤操作による重要データの削除といったリスクを低減します。
  • 監査ログ機能により、データアクセスや操作の透明性が向上し、不正行為の抑止力となります。
  • 万が一、情報漏洩インシデントが発生した場合でも、原因究明や影響範囲の特定に役立ちます。

③業務効率の向上とコスト削減

  • 従来、手作業や複数のツールで行っていたデータの検索、収集、管理業務をVaultに集約することで、情報システム部門や法務部門の業務負荷を軽減します。
  • eDiscovery対応にかかる時間とコスト(弁護士費用、調査費用など)を大幅に削減できる可能性があります。
  • 不要なデータを適切に廃棄することで、ストレージコストの最適化にも貢献します。

④DX推進における信頼性の確保

  • クラウドサービスであるGoogle Workspaceを安心して活用するための基盤となり、DX推進を加速させます。
  • 顧客や取引先に対して、データ管理体制の堅牢性を示すことで、企業としての信頼性を高めることができます。

これらのメリットは、企業の規模や業種を問わず、情報ガバナンスの重要性を認識するすべての企業にとって価値あるものです。多くの企業様をご支援してきた経験から、特にデータ管理体制の確立に課題を感じている企業様ほど、Google Vault導入による効果を大きく実感されています。

Google Vaultを利用開始する前に知っておくべきこと

Google Vaultの導入を検討する際には、以下の点を事前に理解しておくことが重要です。

①対象となるGoogle Workspaceエディション

Google Vaultは、Google Workspaceのすべてのエディションで利用できるわけではありません。Business Plus、Enterprise Standard、Enterprise Plus、Education Standard、Education Plusなどの上位エディションに含まれています。自社が利用中または導入検討中のエディションがVaultに対応しているか、事前に確認が必要です。

※最新情報は必ず以下URLにてご確認ください。
https://support.google.com/a/answer/6043385

②ライセンスの考え方

Google Vaultのライセンスは、基本的にGoogle Workspaceのユーザーライセンスに基づいて付与されます。Vaultでデータを保持・検索したいユーザーアカウントごとに、Vaultが有効なライセンスが必要となります。

③事前のポリシー設計の重要性

Google Vaultを効果的に活用するためには、「どのデータを、どのくらいの期間、どのように保持するのか」といった社内ポリシー(リテンションポリシー)を明確に定めることが不可欠です。法的要件、業界ガイドライン、社内規定などを考慮し、自社に最適なポリシーを設計する必要があります。このポリシー設計が曖昧なままでは、Vaultを導入してもその効果を十分に発揮できません。

④運用体制の構築

Vaultの各種設定、検索や書き出しの実行、監査ログの確認などを行う担当者を定め、運用体制を整えることも重要です。必要に応じて、情報システム部門、法務部門、コンプライアンス部門などが連携する体制が求められる場合もあります。

これらの点を踏まえ、計画的に導入準備を進めることが、Google Vaultを最大限に活用するための鍵となります。

XIMIXによる導入・運用支援サービス

ここまでGoogle Vaultの概要や重要性、主要機能、導入メリットについて解説してきました。しかし、実際にGoogle Vaultを導入し、自社の情報ガバナンス体制を最適化するためには、

  • 「自社に適したGoogle WorkspaceのエディションやVaultライセンスの選定が難しい」
  • 「法規制や業界標準を踏まえたリテンションポリシーの策定に専門知識が必要だ」
  • 「Vaultの初期設定や、既存データへの適用方法が分からない」
  • 「導入後の運用ルールや、従業員への周知・教育をどう進めれば良いか」
  • 「万が一の訴訟や監査の際に、Vaultを効果的に活用できるか不安だ」

といった、さらなる課題や疑問が生じることも少なくありません。

私たちXIMIXは、Google CloudおよびGoogle Workspaceの導入・活用支援において豊富な実績と専門知識を有しており、お客様のGoogle Vault導入から運用、さらには高度な活用までをトータルでサポートいたします。

XIMIXが提供する主な支援サービス:

  • 現状アセスメントと要件定義: お客様の現在の情報管理状況、法的要件、業務ニーズをヒアリングし、Google Vault導入の目的と要件を明確化します。
  • ライセンス提供: お客様の状況に最適なGoogle Workspaceエディションをご提案します。
  • 導入・設定代行: Google Vaultの初期設定、既存データへのポリシー適用などを、専門エンジニアが確実に実施します。
  • 運用サポート・トレーニング: 導入後の運用ルールの策定支援や、管理者・利用者向けのトレーニングを提供し、お客様社内でのスムーズな定着をサポートします。
  • 高度活用支援: 監査レポートの活用方法など、より高度なVaultの活用についてもご相談いただけます。

XIMIXは、単にツールを導入するだけでなく、お客様が直面する情報ガバナンスの課題を根本から解決し、DX推進を力強く後押しすることを目指しています。Google Vaultの導入や運用に関してご不明な点やお困りのことがございましたら、ぜひお気軽にご相談ください。

XIMIXのGoogle Workspace 導入支援についてはこちらをご覧ください。
XIMIXのGoogle Cloud 導入支援についてはこちらをご覧ください。

 

まとめ

本記事では、企業のDX推進と情報ガバナンス強化に不可欠なツールであるGoogle Vaultについて、その基本的な概念から主要機能、導入メリット、そして活用にあたってのポイントを網羅的に解説しました。

Google Vaultは、Gmail、Googleドライブ、Google Chatといった日々の業務で利用されるGoogle Workspace上のデータを対象に、保持、検索、書き出し、監査といった強力な機能を提供し、コンプライアンス遵守、法的リスクの低減、業務効率の向上に大きく貢献します。

特に、改正電子帳簿保存法への対応や、リモートワーク環境下での情報セキュリティ確保といった現代的な課題に対しても、Google Vaultは有効なソリューションとなり得ます。

Google Vaultの導入・活用は、企業が保有する情報という重要な資産を適切に保護・管理し、社会的な信頼性を高め、持続的な成長を遂げるための重要な一歩です。この記事が、皆様のGoogle Vaultへの理解を深め、情報ガバナンス体制強化の一助となれば幸いです。

より具体的な導入計画や、自社の状況に合わせた最適な活用方法についてお知りになりたい場合は、ぜひ専門家であるXIMIXまでお気軽にお問い合わせください。


Google Vaultとは?企業の重要データを守り、コンプライアンスを強化する情報ガバナンスの要点を解説

BACK TO LIST