Googleサイトで創る「デジタル社史」- 企業文化を醸成し、組織を強くする

 2025,10,01 2025.10.01

はじめに

企業の持続的な成長には、優れた製品やサービスだけでなく、それを生み出す強固な「企業文化」が不可欠です。しかし、「企業理念が形骸化している」「部門間の連携が希薄で、一体感がない」「中途入社者が組織に馴染めず、帰属意識を持ちにくい」といった課題は、多くの中堅・大企業が直面する共通の悩みではないでしょうか。

これらの経営課題に対する一つの強力な解決策が、企業の歴史、理念、成功の軌跡を資産としてまとめ、共有する「デジタル社史」の構築です。

本記事では、Googleのツールである「Googleサイト」を活用し、単なる記録保管庫ではない、”生きた”デジタル社史を構築するための戦略と実践的な方法を、企業のDX支援に携わってきた視点から解説します。

この記事を最後までお読みいただくことで、以下のことが可能になります。

  • デジタル社史がなぜ今、重要なのかを理解できる

  • Googleサイトがプラットフォームとして最適な理由がわかる

  • 企画から構築、運用までの具体的なプロジェクトの進め方を学べる

  • プロジェクトを成功に導くための秘訣と、回避すべき”罠”を把握できる

なぜ、「デジタル社史」が重要なのか?

従来、周年記念事業などで制作される紙媒体の社史は、作成後に書庫で眠ってしまうことも少なくありませんでした。しかし、デジタルの力を活用した「デジタル社史」は、その役割を大きく変え、企業の競争力を高める戦略的ツールとなり得ます。

①形骸化する企業理念と、変化する働き方

リモートワークの普及や人材の流動化が進む現代において、従業員一人ひとりが企業の理念やビジョンを自分事として捉え、同じ方向を向いて業務に取り組むことの難易度は増しています。デジタル社史は、創業者の想いや幾多の困難を乗り越えてきた歴史を、時と場所を選ばずにアクセス可能なストーリーとして提供します。これにより、抽象的な理念やバリューが具体的なエピソードと結びつき、従業員の共感を呼び起こし、日々の業務における判断の拠り所となります。

②インナーブランディング強化によるエンゲージメント向上

従業員エンゲージメントの向上は、生産性向上や離職率低下に直結する重要な経営指標です。米国の調査会社Gallup社の調査でも、エンゲージメントの高いチームは低いチームに比べて収益性が21%、生産性が17%高いというデータが報告されています。 デジタル社史は、自社の歩みや社会への貢献を可視化することで、従業員の自社に対する誇りや愛着(エンゲージメント)を育む、強力なインナーブランディングツールとして機能します。

③企業の”記憶”を資産に変え、未来のイノベーションを促す

過去の成功事例や失敗から得られた教訓は、組織にとって何物にも代えがたい貴重な”記憶”です。しかし、その記憶は往々にして個人の経験の中に埋もれ、組織全体で共有・活用されることはありません。デジタル社史を通じて過去のプロジェクトの記録や技術開発の経緯などを体系的に整理・共有することで、組織の集合知を形成し、新たなイノベーションの土壌を育むことができます。

Googleサイトが「デジタル社史」のプラットフォームに最適な理由

数あるツールの中で、なぜGoogleサイトがデジタル社史の基盤として特に優れているのでしょうか。その理由は、コスト、連携性、管理性の3つの側面にあります。

①圧倒的なコストメリットと導入の容易さ

Googleサイトは、Google Workspaceのライセンスに含まれており、追加費用なしで利用を開始できます。専門的なWeb制作の知識がなくとも、ドラッグ&ドロップの直感的な操作で洗練されたデザインのサイトを構築できるため、外部ベンダーに高額な開発費用を支払う必要がありません。これにより、スモールスタートで迅速にプロジェクトを立ち上げ、ROI(投資対効果)を最大化することが可能です。

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②Google Workspaceとのシームレスな連携が生む価値

Googleサイトの真価は、他のGoogle Workspaceツールとの連携にあります。

  • Googleドライブ: 過去の社内報、製品カタログ、プレスリリース、写真、動画といった膨大な資料をドライブで一元管理し、サイト上に直接埋め込むことができます。

  • Googleカレンダー: 社内の記念イベントや重要なマイルストーンを埋め込み、歴史を時系列で体感できるようにします。

  • Looker Studio (旧データポータル): 過去の業績推移や市場シェアの変動などを、インタラクティブなグラフやダッシュボードとして埋め込み、データを視覚的に訴えかけることが可能です。

これらの連携により、静的な情報の羅列ではなく、動的でリッチなコンテンツを持つプラットフォームを容易に構築できます。

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③セキュリティと管理性:大企業でも安心して利用できる基盤

企業の重要な情報資産を扱う上で、セキュリティは最優先事項です。Googleサイトは、Google Workspaceの堅牢なセキュリティ基盤上で動作します。アクセス権限を組織内のみに限定したり、特定の部署や役職者のみに閲覧を許可したりと、柔軟できめ細やかな権限管理が可能です。これにより、情報漏洩のリスクを最小限に抑えながら、安全に情報を共有できます。

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企画から構築まで:失敗しない「デジタル社史」プロジェクトの進め方

効果的なデジタル社史は、ただ情報を集めて並べるだけでは完成しません。戦略的なアプローチが不可欠です。

ステップ1:目的の明確化 - 何を達成するための社史か?

最初に、「このデジタル社史を通じて、誰に、何を伝え、どのような状態を実現したいのか」という目的を明確に定義することが最も重要です。例えば、「新入社員の早期戦力化とオンボーディング促進」「部門間の相互理解を深め、コラボレーションを活性化する」「企業のDNAを次世代リーダーに継承する」など、目的によって盛り込むべきコンテンツや見せ方は大きく異なります。

ステップ2:コンテンツの策定 - 情報資産の棚卸し

目的が定まったら、それに沿って掲載するコンテンツを洗い出します。これは、社内に散在する情報資産の棚卸し作業でもあります。

  • 基礎情報: 創業の経緯、企業理念、沿革、歴代の代表メッセージなど

  • 事業の軌跡: 主力事業の変遷、画期的な製品・サービスの開発秘話、大規模プロジェクトの記録など

  • 人・文化: 功労者へのインタビュー、各部門の紹介、ユニークな社内制度やイベントの記録など

  • 未来への展望: 経営陣による未来のビジョン、現在進行中の挑戦的な取り組みなど

ステップ3:サイト設計と実装 - UXを考慮した情報構造

集めた情報を、ユーザー(従業員)が直感的に理解し、興味を持って読み進められるように設計します。トップページで全体の概要が掴めるようにし、時代や事業、人物といった切り口で情報を分類するなど、論理的で分かりやすいナビゲーションを心がけましょう。Googleサイトのテンプレートを活用しつつ、企業のブランドイメージに合ったデザインを適用していきます。

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【実践編】Googleサイトで作る、魅力的で”生きた”コンテンツ例

ここでは、Google Workspaceの連携機能を活用した、より魅力的でインタラクティブなコンテンツの具体例をご紹介します。

①沿革と創業者精神:動画と資料で伝える企業のDNA

単に年表をテキストで並べるだけでなく、創業当時の写真をスライドショーで表示したり、ドライブに保管された創業者のインタビュー動画を埋め込んだりすることで、企業の原点をよりリアルに伝えることができます。当時の貴重な企画書や社内報(PDF)をリンクすれば、情報の深みも増します。

②プロジェクトヒストリー:Looker Studio連携で功績を可視化

会社の成長を牽引した過去の重要プロジェクトについて、その背景、課題、成果をまとめます。さらに、Looker Studioで作成したダッシュボードを埋め込むことで、プロジェクトがもたらした売上への貢献度や市場へのインパクトを視覚的に示し、従業員の成功体験として共有することが可能です。

③社員紹介とカルチャー:部門や拠点を越えた横の繋がりを創出

各部門で活躍する社員のインタビュー記事や、一日密着動画などを掲載します。これにより、普段関わりの少ない他部門の業務内容や、同僚の意外な一面を知る機会が生まれ、組織のサイロ化を防ぎ、横の繋がりを強化する効果が期待できます。

④トレンド:生成AIでコンテンツ作成を効率化・高度化する

現在、生成AIの活用は無視できないトレンドです。例えば、Gemini for Google Workspaceを活用すれば、過去の膨大な議事録やプロジェクト報告書を要約させ、コンテンツの草案を自動生成することが可能です。これにより、コンテンツ作成にかかる時間を大幅に短縮し、より本質的な企画や編集作業に集中できます。

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中堅・大企業が陥りがちな罠と、成功のための3つの秘訣

デジタル社史プロジェクトは、多くの企業が挑戦する一方で、その運用に失敗するケースも少なくありません。ここでは、SIerとして多くの企業をご支援してきた経験から見えてきた、典型的な失敗パターンと、それを乗り越えるための秘訣を解説します。

罠1:「作ること」が目的化し、誰も見ない”デジタル標本”に

最も多い失敗が、サイトを一度公開して満足してしまい、その後まったく更新されなくなるケースです。情報が陳腐化し、いつしか誰にもアクセスされない”デジタル標本”と化してしまいます。

罠2:コンテンツ収集の壁と、部門間の非協力

いざコンテンツを集めようとしても、「資料がどこにあるか分からない」「多忙を理由に協力を得られない」といった壁に直面します。プロジェクト担当部署だけでは、全社を横断する質の高い情報を集めることは困難です。

罠3:場当たり的な運用による情報の陳腐化とセキュリティリスク

誰が、いつ、何を更新するのかという運用ルールが曖昧なままでは、情報の鮮度と正確性を保てません。また、退職者のアカウントで編集が可能になっているなど、意図せずセキュリティホールが生まれてしまうリスクもあります。

成功の鍵:専門家によるプロジェクト推進と運用体制の構築

これらの罠を回避し、デジタル社史を真の企業資産として機能させるためには、以下の3点が不可欠です。

  1. 強力なリーダーシップと横断チーム: 経営層がプロジェクトの重要性を明確に発信し、各部門からキーパーソンを集めた横断的なワーキンググループを組成することが成功の第一歩です。

  2. 明確な運用ルールの策定: コンテンツの更新頻度、承認フロー、役割分担などを定めた運用ガイドラインを策定し、継続的な情報更新の仕組みを構築します。

  3. 外部専門家の活用: Google Workspaceの技術的な知見や、他社事例に精通した外部パートナーの支援を受けることで、プロジェクトの進行をスムーズにし、より戦略的で質の高いサイト構築を実現できます。

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とめ

本記事では、Googleサイトを活用して、企業の競争力を高める戦略的な「デジタル社史」を構築・運用するための方法論を解説しました。

デジタル社史は、過去を記録するだけのツールではありません。それは、企業のDNAを未来に繋ぎ、従業員一人ひとりのエンゲージメントを高め、組織全体を強くするための未来への投資です。

Google Workspaceという強力な基盤を活用することで、コストを抑えながらも、企業価値を最大化するプラットフォームを構築することが可能です。この記事が、貴社の企業文化醸成と、さらなる成長の一助となれば幸いです。


Googleサイトで創る「デジタル社史」- 企業文化を醸成し、組織を強くする

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