はじめに:その「データ分析」、目的に合っていますか?
「データ分析の重要性は理解しているが、何から手をつければいいか分からない」
「『記述的分析』『予測的分析』など専門用語が多く、違いが判然としない」
「自社の課題を解決するには、どのレベルの分析が、どの手法で必要なのだろう?」
多くの企業がデータ活用(DX)に取り組む中で、このような疑問に直面しています。実は「データ分析」と一口に言っても、その「種類」には大きく分けて2つの捉え方があります。
一つは、「何を知りたいのか」という目的の高度さに応じた「レベル(段階)」による分類です。もう一つは、「どのように分析するのか」という技術的な「手法」による分類です。
例えば、健康診断を思い浮かべてみてください。「現在の体重や血圧を知る(現状把握)」ことと、「なぜ数値が悪化したのか原因を探る(原因究明)」こと、さらに「将来の健康リスクを予測する(未来予測)」こと、そして「健康を改善するための最適な生活習慣を提案する(打ち手の決定)」ことでは、目的の「レベル」が全く異なります。
データ分析で成果を出すためには、まずこれらの違いを理解し、自社の目的やデータの成熟度に合わせて適切な「レベル」と「手法」を選ぶことが不可欠です。
本記事では、データ分析の代表的な「種類」について、特に重要となる「4つのレベル」を中心に、その違いや関係性、そして実践的なプロセスまでを分かりやすく解説します。この記事を読めば、データ分析の全体像を掴み、貴社のビジネス課題を解決するための最適な一歩を踏み出すヒントが得られるはずです。
データ分析の「種類」:2つの主要な分類
データ分析の種類を理解する際、まずは「目的(レベル)」と「手法」の2つの軸で整理することが重要です。
目的の高度さで分類する「4つのレベル」
最も一般的で重要な分類が、分析の目的や得られる示唆の高度さに応じた4つのレベル(段階)です。
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記述的分析 (Descriptive): 何が起こったか?(現状の可視化)
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診断的分析 (Diagnostic): なぜ起こったか?(原因の特定)
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予測的分析 (Predictive): 次に何が起こるか?(未来の予測)
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処方的分析 (Prescriptive): 何をすべきか?(最適な打ち手の提示)
これらは独立しているのではなく、「過去の把握」から「未来へのアクション」へと段階的に進化していく関係性にあります。多くの企業はまずレベル1から着手し、データの蓄積と活用の成熟度に合わせて、段階的にレベルを引き上げていきます。
分析技術で分類する「代表的な手法」
もう一つの分類軸は、具体的にどのような技術やアプローチを用いるかという「手法」です。
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統計分析: 平均、分散、相関、回帰分析など、統計学に基づきデータの特徴や関係性を読み解く伝統的な手法。
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テキストマイニング: アンケートの自由回答やSNSの投稿など、テキストデータから有益な情報(単語の出現頻度、関連性、感情など)を抽出する手法。
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画像・音声分析: AI(ディープラーニング)などを活用し、画像や動画、音声データの内容を識別・解析する手法。
本記事では、ビジネス活用の基盤となる「4つのレベル」について、次章から詳しく解説していきます。
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レベル1:記述的分析 (Descriptive Analytics) - 「何が起こったか?」を可視化する
記述的分析は、データ分析の最も基本的なレベルであり、過去から現在にかけて「何が起こったか」を客観的な事実として正確に把握することを目的とします。
主な目的と役割
収集したデータを集計・要約し、レポートやダッシュボードを通じてグラフや表などで「見える化」します。
これにより、ビジネスの現状を誰もが同じ基準で理解できるようになります。多くのBI(ビジネスインテリジェンス)ツールがこの領域をカバーしています。
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答える問いの例
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先月のECサイト全体の売上高はいくらだったか?
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どの商品カテゴリーが最も売れているか?
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Webサイトへのチャネル別アクセス数はどれくらいか?
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地域別の顧客数と平均購入単価は?
ビジネスでの活用例
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月次売上レポートの作成: 全社の業績を定点観測し、経営判断の基礎情報とする。
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Webサイトのアクセス解析: ページの閲覧数やユーザーの動向をモニタリングし、サイト運営に活かす。(例:Google Analytics)
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KPIダッシュボードの運用: 重要業績評価指標(KPI)の進捗をリアルタイムで確認し、目標達成度を測る。(例:Looker, Looker Studio)
記述的分析は、全てのデータ分析の出発点であり、ビジネスの健康状態を把握するための「定期健康診断」と言えるでしょう。
レベル2:診断的分析 (Diagnostic Analytics) - 「なぜ起こったか?」を深掘りする
診断的分析は、記述的分析によって明らかになった結果の「なぜ?」を掘り下げ、その原因や要因を探ることを目的とします。
主な目的と役割
「売上が減少した」「Webサイトの離脱率が急増した」といった事象(結果)に対して、その要因(原因)を特定します。
ドリルダウン(データを掘り下げる)、クロス集計、相関分析などの手法を用いて、要因の仮説を立て、検証していきます。
答える問いの例
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なぜ先月の売上は目標未達だったのか?(特定の商品の失速? 新規顧客の減少? キャンペーンの不発?)
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なぜAエリアの顧客満足度はBエリアより低いのか?(配送遅延の多発? サポート体制の違い?)
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なぜWebサイトの購入完了ページ手前での離脱率が高いのか?(入力フォームが複雑? 決済方法が少ない?)
ビジネスでの活用例
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売上不振の原因分析: 売上データを顧客属性、地域、時間帯などで切り分けて分析し、ボトルネックを特定する。
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顧客離反の要因特定: 解約した顧客の行動履歴や属性を分析し、離反に繋がる共通のパターンを見つけ出す。
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Webサイト改善点の発見: アクセスログを深掘りし、ユーザーがどこでつまずいているのかを特定してUI/UXを改善する。
診断的分析は、問題の根本原因に迫り、的確な対策を講じるための重要なステップです。
レベル3:予測的分析 (Predictive Analytics) - 「次に何が起こるか?」を見通す
予測的分析は、過去のデータパターンを基に、統計モデルや機械学習(AI)を用いて「次に何が起こるか」という未来を予測することを目的とします。ここからが、いわゆる「データサイエンス」の領域と重なってきます。
主な目的と役割
過去のデータから将来の結果や確率を高い精度で推測します。代表的な手法として、将来の数値を予測する回帰分析や、カテゴリを分類するクラス分類などがあります。これにより、企業は起こりうる事態に先回りして、計画的なアクションを取ることが可能になります。
答える問いの例
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来四半期の製品Aの需要はどれくらいか?(需要予測)
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どの顧客が今後6ヶ月以内にサービスを解約する可能性が高いか?(解約予測)
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この広告クリエイティブは、どの顧客セグメントに最も響くか?(効果予測)
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この機械は、あと何時間稼働すると故障する可能性があるか?(故障予測)
ビジネスでの活用例
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需要予測と在庫最適化: 将来の売上を予測し、欠品や過剰在庫を防ぎながら生産・発注計画を立てる。
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顧客の解約(チャーン)予測: 離反の兆候がある顧客を特定し、個別のフォローアップを行うことで顧客を維持する。
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与信審査の高度化: 過去のデータから貸し倒れリスクを予測し、審査の精度とスピードを向上させる。
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設備の予防保全: 工場の機械の故障時期を予測し、計画的なメンテナンスを行うことで、生産ラインの停止を未然に防ぐ。
予測的分析は、経験や勘だけに頼らない、データに基づいた未来への備えを可能にします。
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レベル4:処方的分析 (Prescriptive Analytics) - 「何をすべきか?」を提示する
処方的分析は、データ分析の中で最も高度なレベルであり、予測された未来に対して「目標を達成するために、具体的に何をすべきか」という最適な打ち手を提示することを目的とします。
主な目的と役割
予測結果に加え、コスト、リソース、時間といったビジネス上の制約条件を考慮に入れ、AIや数理最適化といった技術を駆使して、無数の選択肢の中から最善の行動(処方箋)を導き出します。
答える問いの例
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利益を最大化するためには、各商品にどのような価格を設定すべきか?
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限られた広告予算内でコンバージョンを最大化するには、チャネル配分をどうすべきか?
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サプライチェーン全体の輸送コストを最小化するための最適な配送ルートと拠点はどこか?
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各顧客に対して、最も成約率が高いキャンペーンは何か?
ビジネスでの活用例
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ダイナミックプライシング: 航空券やホテルのように、需要と供給に応じて価格をリアルタイムで変動させ、収益を最大化する。
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マーケティング予算の最適配分: 投資対効果(ROI)が最大になるように、各広告チャネルへの予算配分を自動で決定する。
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サプライチェーンの全体最適化: 原材料の調達から生産、配送までの一連のプロセスを最適化し、コスト削減とリードタイム短縮を実現する。
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パーソナライズド・レコメンデーション: ECサイトで、顧客一人ひとりの購買履歴や閲覧行動に基づき、最も関心を持ちそうな商品を推奨する。
処方的分析は、データから具体的なアクションプランを導き出し、ビジネス成果を直接的に最大化することを目指す、データ活用の究極的なゴールの一つです。
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データ分析を成功に導く実践プロセス
4つのレベルを理解した上で、実際にデータ分析で成果を出すためには、適切なプロセス(進め方)を踏むことが不可欠です。
ステップ1:目的の明確化(ビジネス課題の定義)
最も重要なステップです。「何のために分析するのか」という目的を明確にします。「売上を上げたい」といった曖昧なものではなく、「20代女性向けの春物新商品の売上を前年比10%向上させる」のように、具体的かつ測定可能なレベルまで落とし込みます。
ステップ2:データ収集と準備(データ基盤の整備)
目的に応じて、社内外の必要なデータを収集します。販売履歴、顧客情報、Webアクセスログ、場合によっては外部の市場データなども対象となります。収集したデータは、多くの場合、そのままでは分析に使えません。
「データクレンジング」(欠損値や異常値の処理)や「データ統合」(形式の統一)といった前処理を行い、分析可能な状態に整備します。
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なぜ必要? データクレンジングの基本を解説|データ分析の質を高める第一歩
ステップ3:分析の実行(レベルと手法の選択)
ここで、先に解説した「4つのレベル」が登場します。
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現状把握(記述的分析): まずは現状の売上構成や顧客属性を可視化します。
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原因究明(診断的分析): 「なぜ売上が伸び悩んでいるのか」を深掘りします。
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未来予測(予測的分析): 「この施策を打ったらどれだけ売上が伸びるか」を予測します。
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最適化(処方的分析): 「売上を最大化する最適な施策は何か」を導き出します。
目的に合わせて適切なレベルと手法を選択し、分析を実行します。
ステップ4:可視化とインサイトの抽出
分析結果は、グラフやダッシュボードを用いて分かりやすく「可視化」します。単なる数字の羅列ではなく、そこから何が言えるのか、ビジネスにどのような影響があるのかという「インサイト(洞察)」を抽出することが重要です。
ステップ5:アクション(実行)と評価・改善
分析結果(インサイト)に基づき、具体的なビジネスアクションを実行します。施策を実行したら終わりではなく、その結果を再度データで測定・評価(レベル1:記述的分析に戻る)し、次の改善に繋げる「PDCAサイクル」を回し続けることが、データ活用の本質です。
分析レベルを高めるGoogle Cloud活用法
これら4つのレベルのデータ分析をシームレスに実現するために、Google Cloudは強力かつ柔軟なサービス群を提供しています。
①記述的・診断的分析:Looker / Looker Studio と BigQuery
まず、全ての分析の基盤となるのが、データウェアハウス(DWH)である BigQuery です。社内に散在するあらゆるデータをBigQueryに集約することで、分析の準備が整います。
そして、BIツールである Looker や Looker Studio を使えば、BigQuery上のデータをドラッグ&ドロップ操作で簡単に可視化・分析できます。直感的なダッシュボードで現状把握(記述的)や、データの深掘り(診断的)が可能です。
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なぜデータ分析基盤としてGoogle CloudのBigQueryが選ばれるのか?を解説
②予測的分析:BigQuery ML
次のレベルである予測分析も、Google Cloudならスムーズです。BigQuery ML を使えば、SQLの知識だけでBigQuery内で直接機械学習モデルを構築・実行できます。データサイエンティストでなくても、「需要予測」や「解約予測」といった高度な分析に挑戦することが可能です。
③処方的分析:Vertex AI
より高度なモデル構築や、最適な打ち手を導き出す処方的分析には、AI開発の統合プラットフォームである Vertex AI が強力にサポートします。Vertex AI の高度なAI機能や最適化ツールを、BigQuery などのデータ基盤と組み合わせることで、ビジネス課題に応じたカスタムの処方的分析システムを構築できます。
これらのサービスを組み合わせることで、企業は自社のデータ活用の成熟度に合わせて、無理なく段階的に高度な分析へとステップアップしていくことが可能です。
XIMIXが伴走支援します
データ分析のレベルとその重要性をご理解いただけたかと思います。しかし、実際に自社で推進するとなると、
「そもそも、どんなデータを使えばいいのか分からない」
「次のレベルに進むための技術や人材が不足している」
「PoC(概念実証)は行ったが、ビジネス成果に繋がらない」
といった新たな壁に直面することも少なくありません。
私たちXIMIXは、Google Cloudのプロフェッショナルとして、数多くの企業のデータ活用をご支援してきたNI+Cの実績と知見に基づき、お客様の段階的な成長を強力にサポートします。
データ基盤構築とPoC(概念実証)支援
ロードマップに基づき、まずはデータを「使える」状態にするためのBigQuery導入や、現状を「見える化」するためのLooker/Looker Studio活用をご支援します。
さらに、「解約予測」や「需要予測」といった予測・処方モデルの導入においては、テーマ選定からモデル構築、業務実装までを一気通貫でサポート。Nお客様と伴走し、小さな成功体験(PoC)を積み重ね、ビジネス成果に繋げます。
XIMIXは単なるツール導入ベンダーではありません。お客様のビジネスを深く理解し、データという武器を最大限に活用して事業を成長させるための「伴走パートナー」です。
XIMIXのGoogle Workspace 導入支援についてはこちらをご覧ください。
XIMIXのGoogle Cloud 導入支援についてはこちらをご覧ください。
まとめ
本記事では、データ分析の代表的な「種類」について、特に重要な4つのレベル「記述的分析」「診断的分析」「予測的分析」「処方的分析」を中心に、その違いや実践プロセスを解説しました。
| 分析レベル | 目的 |
| 記述的分析 | 過去・現在の「事実」を把握する |
| 診断的分析 | 事実の「原因」を特定する |
| 予測的分析 | 未来に起こることを「予測」する |
| 処方的分析 | 未来のために「最適な行動」を決める |
重要なのは、これらの違いを理解し、自社のビジネス目的とデータの成熟度に合わせて、適切なレベルの分析を選択し、実践的なプロセスを回していくことです。
まずは現状把握(記述的分析)から着実に始め、段階的に分析レベルを高めていくことが、データ主導のビジネス変革を成功させる鍵となります。
XIMIXは、お客様のデータ分析ジャーニーにおけるあらゆる段階で、Google Cloudを活用した最適なソリューションと専門的な知見を提供します。データ活用に関するお悩みがあれば、ぜひお気軽にご相談ください。
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