コラム

金融・医療など高いセキュリティ要件が求められる業界で、安全なデータ活用を実現するポイントとは?|Google Cloudで実現するセキュアなデータ活用基盤構築ガイド

作成者: XIMIX Google Cloud チーム|2025,06,20

はじめに

デジタルトランスフォーメーション(DX)の波が全産業に及ぶ中、データは新たなビジネス価値を創出する源泉として、その重要性を増しています。しかし、金融、医療、公共といった特に厳格なセキュリティやコンプライアンス要件が課される業界においては、「データ活用の推進」と「セキュリティの担保」という二つの命題が、時としてトレードオフの関係になりがちです。

「規制や監査基準をクリアしつつ、クラウド上で機密データを安全に活用するにはどうすればよいのか?」 「データ活用のメリットは理解しているが、セキュリティインシデントのリスクを考えると一歩踏み出せない」

このような課題意識を持つ、DX推進担当者や情報システム部門の決裁者の方も少なくないでしょう。

本記事では、こうした高度な課題に対し、Google Cloud を活用して「安全性」と「利便性」を両立させたデータ活用基盤をいかにして構築するか、その具体的なアーキテクチャ、リスク対策、そして実現へのステップを網羅的かつ専門的な視点から解説します。多くの企業様をご支援してきた経験に基づき、実践的なポイントを詳説しますので、ぜひ貴社のDX推進にお役立てください。

なぜ、厳格なセキュリティ要件下でのクラウドデータ活用が重要なのか

かつて、機密性の高いデータを扱うシステムは、オンプレミス環境で運用するのが定石とされてきました。しかし、ビジネス環境の急速な変化に伴い、従来のインフラが持つ課題も浮き彫りになっています。

  • 俊敏性の欠如: 新規サービスの市場投入やデータ分析需要の急増に対し、オンプレミスではインフラ調達や拡張に時間がかかり、ビジネスチャンスを逃す可能性があります。
  • コストの硬直化: 需要の増減に合わせて柔軟にリソースを最適化することが難しく、過剰投資や維持管理コストの増大を招きがちです。
  • イノベーションの阻害: 最新のAI・機械学習サービスや高度な分析ツールを迅速に利用することが困難で、データからの価値創出が限定的になります。

Google Cloud のようなパブリッククラウドは、これらの課題を解決し、ビジネスの成長を加速させる強力なエンジンとなり得ます。特に、AI/MLサービスの「Vertex AI」やデータウェアハウスの「BigQuery」といった先進的なサービスを活用することで、これまで不可能だったインサイトの発見や、新たな顧客体験の創出が期待できます。

問題は、この強力なエンジンをいかに「安全」に使いこなすかです。セキュリティを確保しながらクラウドの恩恵を最大限に引き出すことこそ、現代の企業に求められる重要な経営戦略と言えるでしょう。

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クラウドデータ活用における主要なセキュリティリスクと対策

クラウドデータ活用を推進する上で、まず直視すべきはセキュリティリスクです。代表的なリスクと、Google Cloud における基本的な対策の考え方を整理します。

①不正アクセス・情報漏洩のリスク

ID/パスワードの漏洩や設定ミスによる意図しない公開、内部関係者による不正な操作など、データへのアクセス経路は多岐にわたります。

  • 対策の方向性: 「ゼロトラスト」の原則に基づき、すべてのアクセスを信頼せずに検証します。強力な認証基盤の導入、アクセス権限の最小化、そして誰が・いつ・何にアクセスしたかを常に監視することが不可欠です。

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②コンプライアンス・法規制違反のリスク

金融業界におけるFISC安全対策基準、医療業界における3省2ガイドライン、個人情報保護法、GDPRなど、各業界・地域で準拠すべき規制は多岐にわたります。データの保存場所(データレジデンシー)や処理方法が規制要件を満たしていない場合、事業継続に関わる重大な問題に発展しかねません。

  • 対策の方向性: クラウドサービスが各種コンプライアンス認証を取得しているかを確認し、要件に応じてデータの保存場所を制御できる機能を活用します。また、監査ログの取得・保管も必須です。

③ランサムウェアなどのサイバー攻撃

悪意のある第三者によるシステムへの侵入、データの暗号化、そして身代金の要求といったサイバー攻撃は、事業停止に直結する深刻な脅威です。

  • 対策の方向性: 多層的な防御が鍵となります。ネットワーク境界の保護、脆弱性管理、脅威検知システムの導入、そして万一の事態に備えたデータのバックアップと復旧計画が求められます。

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Google Cloudで実現するセキュアなデータ活用アーキテクチャ

これらのリスクに対し、Google Cloud はゼロトラストの考え方を具現化する多彩なセキュリティサービスを提供しています。ここでは、安全なデータ活用基盤を構築するためのアーキテクチャの要点を解説します。

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①ネットワークセキュリティ:VPC Service Controlsによる境界防御

データ活用基盤の最初の防衛線はネットワークです。VPC Service Controls は、Google Cloud のマネージドサービス(BigQueryCloud Storage など)の周りに仮想的な「サービス境界」を作成し、承認されたネットワークやIDからのアクセスのみを許可します。これにより、万が一認証情報が漏洩したとしても、境界の外部へのデータ持ち出し(データ漏洩)を強力に防ぎます。

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②データ保護:暗号化とDLPによる多層防御

データそのものを保護することも極めて重要です。

  • 保存データの暗号化: Google Cloud では、データはデフォルトで暗号化されますが、顧客管理の暗号鍵(CMEK)や外部キー管理(EKM)を利用することで、より厳格な鍵管理が可能です。
  • 転送データの暗号化: 通信はすべてTLSで暗号化され、傍受を防ぎます。
  • Cloud Data Loss Prevention (DLP): クレジットカード番号やマイナンバーといった機密データを自動的に検出・分類し、マスキングやトークン化を行うことができます。これにより、分析用途でデータを活用しつつ、機密情報そのものが漏洩するリスクを低減できます。

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③ID・アクセス管理:IAMとBeyondCorpによる最小権限の徹底

ゼロトラストセキュリティの中核をなすのが、IDベースのアクセス制御です。

  • Identity and Access Management (IAM): 「誰が」「どのリソースに対して」「何をする権限を持つか」を詳細に定義します。役割(Role)ベースで権限を付与し、必要最小限の権限のみを与える「最小権限の原則」を徹底することが基本です。
  • Chrome Enterprise Premium: Google が社内で実践してきたゼロトラストモデルをサービス化したものです。デバイスの状態やロケーションといったコンテキストを考慮した、より動的で強力なアクセス制御を実現します。

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④コンプライアンスとガバナンス:統制と可視性の確保

規制要件への対応と組織全体のセキュリティ態勢を維持するためには、継続的な監視と統制が不可欠です。

  • Assured Workloads: FISCやFedRAMPといった特定のコンプライアンス要件を満たすための制御を自動的に適用するサービスです。データレジデンシーの保証や担当者の属人性の制限などをサポートします。
  • Security Command Center: Google Cloud 環境全体のセキュリティリスク(脆弱性、設定ミス、脅威など)を一元的に可視化し、管理するためのダッシュボードです。潜在的な問題を早期に発見し、対処することが可能になります。

これらのサービスを適切に組み合わせることで、堅牢なセキュリティとガバナンスを効かせたデータ分析基盤を構築できます。

XIMIXによる高度なセキュリティ要件への支援

ここまで、Google Cloud を活用したセキュアなデータ活用基盤の構築ポイントを解説してきました。しかし、これらの高度なセキュリティ機能を自社の要件に合わせて最適に設計・構築し、継続的に運用していくには、深い専門知識と豊富な経験が不可欠です。

  • 「自社のセキュリティポリシーを、クラウドのどの機能で実現すればよいか判断できない」
  • 「アーキテクチャ設計から構築、運用までを一貫して任せられるパートナーを探している」
  • 「インシデント発生時に迅速に対応できる体制を構築したい」

このような課題をお持ちではないでしょうか。

XIMIX は、Google Cloud のプレミアパートナーとして、数多くのお客様のDX推進をご支援してきました。特に、セキュリティやコンプライアンスが重視されるエンタープライズ領域におけるデータ活用基盤の構築では、豊富な実績とノウハウを有しています。

私たちの専門家チームが、お客様のビジネス要件やセキュリティポリシーを深く理解した上で、最適なアーキテクチャの設計から実装、そして運用後の伴走支援まで、一貫したサービスを提供します。机上の空論ではない、ビジネス価値に直結するセキュアなデータ活用環境の実現を、XIMIXが強力にサポートします。

データ活用の推進とセキュリティの両立にお悩みでしたら、ぜひ一度、私たちにご相談ください。

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まとめ

本記事では、金融や医療といった厳しいセキュリティ要件を持つ業界において、Google Cloud を活用し、安全にデータ活用を進めるためのポイントを解説しました。

  • 背景: ビジネスの俊敏性とイノベーションのため、セキュリティを担保したクラウド活用が不可欠。
  • リスクと対策: 不正アクセスやコンプライアンス違反等のリスクに対し、ゼロトラストの考え方に基づき対策を講じる。
  • 具体的なアーキテクチャ: VPC Service Controls、IAM、Cloud DLP、Assured WorkloadsといったGoogle Cloud のサービスを組み合わせ、多層的な防御を実現する。
  • 成功の鍵: 自社単独での実現が難しい高度なセキュリティ実装は、経験豊富なパートナーとの協業が成功の鍵となる。

セキュリティは、データ活用を阻む「ブレーキ」ではなく、安心してアクセルを踏むための「高性能なブレーキシステム」と捉えるべきです。適切なセキュリティ基盤を構築することで、企業は自信を持ってデータを活用し、DXを加速させることができます。本記事が、その実現に向けた一助となれば幸いです。