デジタルトランスフォーメーション(DX)の推進が多くの企業にとって喫緊の課題となる中、その中核技術としてクラウドサービスの活用は不可欠な要素となっています。しかし、「クラウドを導入すれば全ての課題が解決する」といった単純な話ではなく、事前の適切な評価と計画なしに進めてしまうと、期待した効果が得られないばかりか、予期せぬコスト増や運用負荷の増大に繋がるリスクも否定できません。
「自社に最適なクラウド環境は何か?」「導入による具体的な効果は?」「潜在的なリスクはどこにあるのか?」このような疑問や不安を抱え、クラウド導入の第一歩をためらっているご担当者様もいらっしゃるのではないでしょうか。
本記事では、そうした課題をお持ちの企業様に向けて、クラウド導入プロジェクトの初期段階で極めて重要な役割を果たす「フィジビリティスタディ(Feasibility Study:実現可能性調査)」に焦点を当てます。フィジビリティスタディの基本的な概念から、なぜ重要なのか、具体的な進め方、評価すべき項目、そして成功に導くための留意点までを、クラウド導入を検討し始めた方にも分かりやすく解説します。
この記事を読むことで、フィジビリティスタディの全体像を理解し、自信を持ってクラウド導入の検討を進めるための一助となれば幸いです。
フィジビリティスタディとは、新しいプロジェクトや計画、システムの導入などを検討する際に、その実現可能性を多角的に調査・分析・評価するプロセスを指します。日本語では「実行可能性調査」や「採算性調査」などと訳されることもあります。
特にクラウド導入におけるフィジビリティスタディは、単に「技術的にクラウドへ移行できるか」を調査するだけではありません。ビジネス目標との整合性、期待される効果、必要な投資とリターン、潜在的なリスク、運用体制への影響など、幅広い観点から実現性を見極めるための重要な工程です。
このスタディを通じて、企業は以下のような問いに明確な答えを得ることができます。
フィジビリティスタディは、いわばクラウド導入プロジェクトにおける「羅針盤」のようなものです。明確な方向性を示し、プロジェクトが暗礁に乗り上げるのを防ぎ、成功へと導くための道筋を照らしてくれます。
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「とりあえずクラウドを使ってみよう」というアプローチは、特に中堅・大企業においては大きなリスクを伴います。フィジビリティスタディを省略したり、不十分なままプロジェクトを進行したりすると、以下のような問題が発生する可能性があります。
フィジビリティスタディを適切に実施することは、これらのリスクを事前に特定し、対策を講じる上で不可欠です。主な重要性を以下にまとめます。
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客観的なデータと分析に基づいて、クラウド導入の可否や最適なアプローチを判断できます。これにより、感覚的な判断や一部の声の大きな意見に左右されることなく、企業全体として合理的な意思決定が可能になります。
技術的、経済的、運用的なリスクを事前に洗い出し、評価することで、予期せぬトラブルの発生を抑え、対策を計画に織り込むことができます。
導入に必要なコストと、それによって得られる定量的・定性的な効果を予測し、投資の妥当性を評価できます。これにより、経営層への説明責任を果たしやすくなります。
プロジェクトの目的、範囲、期待効果、リスクなどを関係者間で共有し、共通認識を形成することができます。これは、プロジェクトを円滑に進める上で非常に重要です。
フィジビリティスタディの結果は、具体的なプロジェクト計画(スケジュール、体制、予算など)を策定する際の確かな基盤となります。
多くの企業様をご支援してきた経験から、クラウド導入の初期段階におけるフィジビリティスタディの丁寧な実施が、その後のプロジェクトの成否を大きく左右すると断言できます。
フィジビリティスタディは、一般的に以下のステップで進められます。企業規模やプロジェクトの特性によって詳細は異なりますが、基本的な流れを理解しておくことが重要です。
まず、フィジビリティスタディ自体の目的、範囲、期間、体制、予算などを明確にします。
定義された範囲に基づき、現状のIT環境、業務プロセス、関連コスト、組織体制などを詳細に調査・分析します。
現状調査・分析の結果と、クラウド導入の目的に基づき、最適なクラウドソリューションの候補を検討し、評価します。
調査・分析・評価の結果をまとめ、経営層や関係者に対して報告書として提出し、クラウド導入に関する意思決定を促します。
このステップを経て、クラウド導入を進めるか否か、進める場合はどのような方針で進めるか、といった具体的な判断が下されます。
クラウド導入のフィジビリティスタディでは、多角的な視点から評価を行うことが求められます。主要な評価項目としては、以下のようなものが挙げられます。入門レベルでは、これらの項目について概要を掴んでおくことが大切です。
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これらの評価項目を網羅的に検討することで、より確実なクラウド導入判断が可能になります。
フィジビリティスタディを効果的に進め、その成果を最大限に活かすためには、いくつかの留意点があります。
「何のためにクラウドを導入するのか」「クラウド化によって何を達成したいのか」という目的とゴールを、スタディ開始前に明確に定義し、関係者間で共有することが最も重要です。目的が曖昧なままでは、調査の方向性が定まらず、適切な評価もできません。
情報システム部門だけでなく、実際にクラウドを利用する業務部門、経営企画部門、法務部門など、関連するステークホルダーを早期から巻き込み、意見を聞き、協力を得ることが不可欠です。これにより、多角的な視点を取り入れられるだけでなく、後の合意形成もスムーズに進みます。
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可能な限り、客観的で定量的なデータに基づいて分析・評価を行いましょう。例えば、コスト比較では具体的な金額を、パフォーマンス評価では具体的な数値目標を設定するなどです。これにより、説得力のある報告となり、より適切な意思決定に繋がります。
大規模なシステム全体を一度に評価することが難しい場合や、リスクが高いと判断される場合は、特定の業務や機能に絞ってスモールスタートでフィジビリティスタディを行ったり、PoC(Proof of Concept:概念実証)を実施したりすることも有効です。PoCを通じて、小規模な環境で技術的な実現性や効果を検証し、本格導入への判断材料とすることができます。
関連記事:ビジネス環境や技術は常に変化しています。フィジビリティスタディの結果が、将来にわたって不変であるとは限りません。そのため、スタディの結果を絶対的なものと捉えるのではなく、状況の変化に応じて柔軟に見直しを行う姿勢も重要です。
自社内にクラウド導入やフィジビリティスタディの経験が豊富な人材がいない場合は、外部の専門家やコンサルタントの支援を受けることも有効な手段です。客観的な視点や専門知識を取り入れることで、スタディの質を高めることができます。
これまで述べてきたように、クラウド導入におけるフィジビリティスタディは、その後のプロジェクトの成否を左右する非常に重要なプロセスです。しかし、多くの企業様にとって、「何から手をつければ良いのか分からない」「社内リソースだけでは十分な調査・分析が難しい」といった課題があるのも事実です。
私たちXIMIXは、Google Cloud をはじめとするクラウド技術に精通し、数多くのお客様のDX推進をご支援してきた豊富な実績とノウハウを有しています。その経験を活かし、お客様の状況に合わせた最適なフィジビリティスタディの実行をサポートいたします。
XIMIXの支援サービスでは、以下のような価値をご提供します。
フィジビリティスタディは、単なる調査に留まらず、お客様のDX戦略における重要な第一歩です。XIMIXは、その第一歩から伴走し、クラウド導入後の運用、さらなる活用まで、お客様のビジネス成長を継続的にご支援することを目指しています。
クラウド導入の検討段階で課題をお持ちの企業様、フィジビリティスタディの進め方にお悩みの企業様は、ぜひ一度XIMIXにご相談ください。
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本記事では、クラウド導入を成功に導くための鍵となる「フィジビリティスタディ」について、その重要性、具体的な進め方、主要な評価項目、そして成功させるための留意点を解説しました。
フィジビリティスタディは、時間と手間がかかるプロセスではありますが、丁寧に行うことで、クラウド導入プロジェクトのリスクを低減し、期待される効果を最大限に引き出すことが可能になります。特に、DX推進という大きな変革を目指す企業にとって、この初期段階の計画と評価は不可欠です。
最後に、この記事の要点を再確認しましょう。
クラウド導入は、単なるITインフラの刷新に留まらず、ビジネスのあり方そのものを変革するポテンシャルを秘めています。そのポテンシャルを最大限に引き出すためにも、まずはしっかりとしたフィジビリティスタディから始めてみてはいかがでしょうか。
本記事が、皆様のクラウド導入検討の一助となれば幸いです。DX推進に関するさらなる情報や、具体的なご相談については、お気軽にXIMIXまでお問い合わせください。