多くの企業でデジタルトランスフォーメーション(DX)が加速する中、業務の効率化や生産性向上を目的としたクラウドサービスの活用は、もはや不可欠な要素となっています。しかし、その手軽さの裏で、IT部門が把握・管理していないサービスが従業員によって無断で利用される、いわゆる「野良クラウド」が深刻な問題となりつつあります。
「うちの会社は大丈夫だろうか?」「具体的にどんな危険があるのか分からない」「対策と言っても、何から手をつければ良いのか…」 このような課題や不安を感じているDX推進担当者や情報システム部門の責任者の方も多いのではないでしょうか。
本記事では、企業のDX推進に精通した専門家の視点から、「野良クラウド」の基本的な意味から、その発生原因、放置することで生じる深刻なリスク、そして今日から始められる具体的な対策までを網羅的に解説します。この記事を最後までお読みいただくことで、野良クラウドに対する正しい知識を身につけ、企業のセキュリティとガバナンスを強化し、安全なクラウド活用を推進するための具体的な一歩を踏み出すことができます。
まず、「野良クラウド」とは何か、その定義を正しく理解しましょう。
野良クラウドとは、企業や組織のIT部門による正式な許可や管理プロセスを経ずに、従業員や各事業部門が独自に契約・利用しているクラウドサービス全般を指します。
この野良クラウドには、大きく分けて2つの種類が存在します。
一つは、従業員が日常業務で利用するSaaS(Software as a Service)です。こちらが一般的にイメージされる野良クラウドでしょう。
そしてもう一つが、見過ごされがちですがより深刻な問題に発展しかねない、パブリッククラウドの野良利用です。これは、AWS(Amazon Web Services)やGoogle Cloud、Microsoft AzureといったIaaS(Infrastructure as a Service)やPaaS(Platform as a Service)を、開発者などが会社の管理外で利用するケースを指します。
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「シャドーIT」という言葉を聞いたことがある方も多いでしょう。シャドーITは、IT部門の管理下にないIT機器やソフトウェア、サービス全般を指す、より広範な概念です。個人所有のPCやUSBメモリの業務利用なども含まれます。
野良クラウド(SaaS、IaaS/PaaSの両方を含む)は、このシャドーITの代表格であり、特にクラウドサービスに特化した呼び方と理解してください。
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シャドーITの発生を防ぎつつ、事業部門の迅速なIT活用ニーズに応えるためのインフラ提供方法とは?
従業員は、決して悪意から野良クラウドを利用するわけではありません。むしろ、業務をより良く、より速く進めたいという善意から生まれるケースがほとんどです。その主な原因は、利用する従業員側と、管理する企業側の双方に存在します。
現場の従業員は、常に業務効率化のプレッシャーにさらされています。会社から提供されているツールよりも、世の中にある新しいクラウドサービスの方がはるかに高機能で使いやすいと感じた場合、個人の判断で利用を開始してしまうことがあります。
特に開発部門では、迅速な開発・検証環境の構築が求められます。しかし、社内のインフラ調達プロセスが煩雑で時間がかかる場合、プロジェクトのスピード感を優先し、手軽に利用できる個人のパブリッククラウドアカウントに頼ってしまうのです。
IT部門が提供する公式ツールが、現場のニーズを満たしていないケースです。「ファイル共有の手順が煩雑」「開発用の検証環境の自由度が低い」といった不満が、従業員を代替手段である野良クラウドへと向かわせる直接的な動機となります。
数クリックとクレジットカード情報だけで、誰でも簡単に高機能なクラウドサービスを使い始められる時代です。この手軽さが、IT部門への申請・承認といった正式な手続きを「面倒」だと感じさせ、個人の判断による利用を助長してしまいます。
「少しぐらいなら問題ないだろう」と野良クラウドを軽視することは、企業の存続を揺るかねない深刻なリスクにつながります。SaaSとIaaS/PaaS、それぞれの野良利用がもたらす代表的なリスクを解説します。
これは、あらゆる野良クラウドに共通する最大のリスクです。
各部門が個別にクラウドサービスを契約・決済することで、会社全体としてITコストを把握できなくなります。
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企業の社会的責任が厳しく問われる現代において、コンプライアンス違反は経営に大きな打撃を与えます。
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野良クラウドのリスクは深刻ですが、正しい手順でアプローチすれば、状況を改善し、統制を取り戻すことは可能です。重要なのは、単に「禁止」するのではなく、利便性とセキュリティを両立させる道を探ることです。
まずは、社内でどのような野良クラウドが、どれくらい使われているのかを把握することから始めます。
実態が把握できたら、クラウドサービスを利用する際の明確なルールを定めます。
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従業員が野良クラウドを使いたくなる根本原因は「公式ツールが使いにくい」「必要な環境をすぐに入手できない」ことです。この問題を解決しなければ、ルールを作っても形骸化してしまいます。
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ルールを定め、環境を整備した後は、その運用が正しく行われているかを継続的に見守る必要があります。
ここまで野良クラウド対策を解説しましたが、「自社に適したルール作りが難しい」「開発者向けの安全なクラウド環境をどう設計すればいいか分からない」といった新たな課題に直面されるケースも少なくありません。
私たちは、数多くの企業様のDX推進をご支援してきた豊富な経験に基づき、貴社の野良クラウド対策を強力にサポートします。
自社の状況に合わせた具体的な対策について検討したい、専門家の意見を聞いてみたいとお考えでしたら、ぜひお気軽にご相談ください。
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本記事では、DX推進の陰で増大する「野良クラウド」のリスクと、その具体的な対策について解説しました。
野良クラウドは、SaaSの個人利用から開発者によるパブリッククラウドの無断利用まで多岐にわたります。これらは従業員の「業務を良くしたい」という善意から生まれることが多い一方で、放置すれば情報漏洩や予期せぬ高額請求といった深刻な事態を招きかねない、諸刃の剣です。
重要なのは、一方的に禁止して従業員の利便性を奪うことではありません。従業員の生産性を向上させたいというニーズに応えつつ、企業として守るべきセキュリティとガバナンスをいかに両立させるかという視点です。
今回ご紹介した4つの対策ステップを参考に、まずは自社の状況を把握することから始めてみてはいかがでしょうか。そして、その過程で専門家の力が必要だと感じた際には、ぜひ私たちXIMIXにご相談ください