コラム

野良クラウドとは?放置する危険性とIT部門が今すぐとるべき4つの対策を解説

作成者: XIMIX Google Cloud チーム|2025,06,05

はじめに

多くの企業でデジタルトランスフォーメーション(DX)が加速する中、業務の効率化や生産性向上を目的としたクラウドサービスの活用は、もはや不可欠な要素となっています。しかし、その手軽さの裏で、IT部門が把握・管理していないサービスが従業員によって無断で利用される、いわゆる「野良クラウド」が深刻な問題となりつつあります。

「うちの会社は大丈夫だろうか?」「具体的にどんな危険があるのか分からない」「対策と言っても、何から手をつければ良いのか…」 このような課題や不安を感じているDX推進担当者や情報システム部門の責任者の方も多いのではないでしょうか。

本記事では、企業のDX推進に精通した専門家の視点から、「野良クラウド」の基本的な意味から、その発生原因、放置することで生じる深刻なリスク、そして今日から始められる具体的な対策までを網羅的に解説します。この記事を最後までお読みいただくことで、野良クラウドに対する正しい知識を身につけ、企業のセキュリティとガバナンスを強化し、安全なクラウド活用を推進するための具体的な一歩を踏み出すことができます。

野良クラウドとは?シャドーITとの違い

まず、「野良クラウド」とは何か、その定義を正しく理解しましょう。

野良クラウドとは、企業や組織のIT部門による正式な許可や管理プロセスを経ずに、従業員や各事業部門が独自に契約・利用しているクラウドサービス全般を指します。

この野良クラウドには、大きく分けて2つの種類が存在します。

種類1: SaaSの野良利用

一つは、従業員が日常業務で利用するSaaS(Software as a Service)です。こちらが一般的にイメージされる野良クラウドでしょう。

  • 個人で契約している無料のオンラインストレージに、業務資料を保存して取引先と共有する。
  • IT部門に申請せず、部署の予算でプロジェクト管理ツールを契約して利用する。
  • 海外のクライアントとのやり取りに、会社が許可していないチャットツールを使う。

種類2: パブリッククラウド(IaaS/PaaS)の野良利用

そしてもう一つが、見過ごされがちですがより深刻な問題に発展しかねない、パブリッククラウドの野良利用です。これは、AWS(Amazon Web Services)やGoogle Cloud、Microsoft AzureといったIaaS(Infrastructure as a Service)やPaaS(Platform as a Service)を、開発者などが会社の管理外で利用するケースを指します。

  • 開発者が新規技術の検証目的で、会社の承認を得ずに個人のクレジットカードでGoogle Cloudのサーバー(仮想マシン)を立ち上げる。
  • プロジェクトの納期に間に合わせるため、正式な調達プロセスを待たずに、部署の経費でAWS上にテスト環境を構築する。

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シャドーITとの関係性

「シャドーIT」という言葉を聞いたことがある方も多いでしょう。シャドーITは、IT部門の管理下にないIT機器やソフトウェア、サービス全般を指す、より広範な概念です。個人所有のPCやUSBメモリの業務利用なども含まれます。

野良クラウド(SaaS、IaaS/PaaSの両方を含む)は、このシャドーITの代表格であり、特にクラウドサービスに特化した呼び方と理解してください。

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なぜ「野良クラウド」は発生してしまうのか?主な原因

従業員は、決して悪意から野良クラウドを利用するわけではありません。むしろ、業務をより良く、より速く進めたいという善意から生まれるケースがほとんどです。その主な原因は、利用する従業員側と、管理する企業側の双方に存在します。

①業務効率化への強いニーズ

現場の従業員は、常に業務効率化のプレッシャーにさらされています。会社から提供されているツールよりも、世の中にある新しいクラウドサービスの方がはるかに高機能で使いやすいと感じた場合、個人の判断で利用を開始してしまうことがあります。

②開発部門のスピード感と柔軟性への要求

特に開発部門では、迅速な開発・検証環境の構築が求められます。しかし、社内のインフラ調達プロセスが煩雑で時間がかかる場合、プロジェクトのスピード感を優先し、手軽に利用できる個人のパブリッククラウドアカウントに頼ってしまうのです。

③会社提供ツールの機能不足や制限

IT部門が提供する公式ツールが、現場のニーズを満たしていないケースです。「ファイル共有の手順が煩雑」「開発用の検証環境の自由度が低い」といった不満が、従業員を代替手段である野良クラウドへと向かわせる直接的な動機となります。

④クラウドサービスの導入ハードルの低下

数クリックとクレジットカード情報だけで、誰でも簡単に高機能なクラウドサービスを使い始められる時代です。この手軽さが、IT部門への申請・承認といった正式な手続きを「面倒」だと感じさせ、個人の判断による利用を助長してしまいます。

「野良クラウド」を放置する深刻なリスク

「少しぐらいなら問題ないだろう」と野良クラウドを軽視することは、企業の存続を揺るかねない深刻なリスクにつながります。SaaSとIaaS/PaaS、それぞれの野良利用がもたらす代表的なリスクを解説します。

①情報漏洩・データ損失のリスク

これは、あらゆる野良クラウドに共通する最大のリスクです。

  • 脆弱なセキュリティ: サービス自体のセキュリティ強度が不明なため、サイバー攻撃の標的となる可能性があります。特に野良IaaS/PaaSでは、ファイアウォールの設定ミスにより、開発中のソースコードや顧客データが格納されたサーバーが意図せずインターネット上に公開状態になる、といった致命的な事態を招きかねません。
  • 不適切なアクセス権管理: アクセス権の設定ミスにより、本来閲覧権限のない社内外の人物に機密情報が公開されてしまう危険性があります。
  • 退職者アカウントの放置: 従業員が退職した後も、個人契約のアカウントが放置され、企業の重要データにアクセス可能な状態が続くケースも少なくありません。

②コスト管理のブラックボックス化と高額請求リスク

各部門が個別にクラウドサービスを契約・決済することで、会社全体としてITコストを把握できなくなります。

  • 無駄なコストの発生: 重複した機能を持つSaaSに、複数の部署がそれぞれ費用を支払っている。
  • 予期せぬ高額請求: 特に野良IaaS/PaaSで頻発するリスクです。開発者が検証で利用した高スペックな仮想マシンを停止し忘れ、後から数十万、数百万円といった想定外の高額請求が個人のクレジットカードに届き、問題が発覚するケースがあります。

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③コンプライアンス・ガバナンス違反のリスク

企業の社会的責任が厳しく問われる現代において、コンプライアンス違反は経営に大きな打撃を与えます。

  • 各種法令・業界規制への抵触: 個人情報保護法やGDPR、あるいは金融・医療業界などが定める厳格なデータ管理基準を満たしていないクラウドにデータを保存してしまうリスク。
  • ITガバナンスの崩壊: IT部門が会社のIT資産を管理・統制できなくなることで、全社的なセキュリティポリシーの適用や、統一されたDX戦略の実行が極めて困難になります。

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今すぐ始めるべき「野良クラウド」への具体的な対策4ステップ

野良クラウドのリスクは深刻ですが、正しい手順でアプローチすれば、状況を改善し、統制を取り戻すことは可能です。重要なのは、単に「禁止」するのではなく、利便性とセキュリティを両立させる道を探ることです。

ステップ1: 実態把握(可視化)

まずは、社内でどのような野良クラウドが、どれくらい使われているのかを把握することから始めます。

  • アンケート・ヒアリング: 従業員(特に開発部門も含む)に対し、業務で利用しているツールやクラウドサービスに関するアンケートを実施します。「犯人捜し」が目的ではないことを明確に伝え、正直に申告しやすい雰囲気を作ることが重要です。
  • ツールの活用: ネットワークのログを解析したり、CASB(Cloud Access Security Broker) と呼ばれるセキュリティソリューションを導入したりすることで、社内からアクセスされているクラウドサービスを網羅的に可視化できます。

ステップ2: 利用ルールの策定と周知

実態が把握できたら、クラウドサービスを利用する際の明確なルールを定めます。

  • 利用ガイドラインの作成: SaaSの利用プロセスに加え、IaaS/PaaSを利用する際の申請・承認フロー、コスト管理、セキュリティ設定の基本ルールなどを定めます。
  • サービスリストの整備: 会社として利用を許可するサービス(ホワイトリスト)、禁止するサービス(ブラックリスト)を定義し、従業員が判断に迷わないようにします。
  • 全社への周知徹底: 定めたルールは、研修会などを通じてその背景や必要性を丁寧に説明し、全従業員の理解と協力を得ることが不可欠です。

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ステップ3: 代替手段の提供と利便性の向上

従業員が野良クラウドを使いたくなる根本原因は「公式ツールが使いにくい」「必要な環境をすぐに入手できない」ことです。この問題を解決しなければ、ルールを作っても形骸化してしまいます。

  • 公式SaaSツールの導入・見直し: Google Workspace のような統合型スイートを公式ツールとして提供することで、多くの野良SaaSの利用を抑制できます。
  • 統制されたパブリッククラウド環境の提供: 開発部門に対しては、統制の取れたパブリッククラウド環境(サンドボックス)を提供することが極めて有効です。例えばGoogle Cloudであれば、組織ポリシーや請求アカウントをIT部門で一元管理することで、開発者に裁量を与えつつ、コストやセキュリティのガードレールを設けることが可能です。

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ステップ4: 継続的なモニタリングと教育

ルールを定め、環境を整備した後は、その運用が正しく行われているかを継続的に見守る必要があります。

  • 定期的な利用状況の監視: CASBなどのツールを活用して、新たな野良クラウドが発生していないか、ルール違反の利用がないかを定期的にチェックします。
  • セキュリティ教育の実施: 新入社員や開発者向けに、シャドーITのリスクや会社のセキュリティポリシーについて繰り返し教育し、従業員一人ひとりの意識を高めていくことが重要です。

専門家の支援で、より確実なクラウド統制を

ここまで野良クラウド対策を解説しましたが、「自社に適したルール作りが難しい」「開発者向けの安全なクラウド環境をどう設計すればいいか分からない」といった新たな課題に直面されるケースも少なくありません。

私たちは、数多くの企業様のDX推進をご支援してきた豊富な経験に基づき、貴社の野良クラウド対策を強力にサポートします。

  • 現状アセスメント: 貴社のクラウド利用状況を可視化し、潜在的なリスクを評価。SaaSの利用実態からパブリッククラウドのガバナンスまで、貴社の実情に即したクラウド利用ガイドラインの策定をご支援します。
  • Google Workspace / Google Cloud の導入・最適化: XIMIXは、Google WorkspaceのようなSaaSの活用支援はもちろん、Google Cloud(GCP)を利用した環境のガバナンス設計やセキュリティ強化においても豊富な実績を持っています。安全な環境の構築やコスト管理の仕組み作りを通じて、野良クラウドの発生を防ぎます。
  • 継続的な運用・伴走支援: 導入後も、お客様のIT部門に寄り添い、運用監視や新たな脅威への対応、従業員へのトレーニングなどを通じて、安全で生産性の高いクラウド環境の維持をご支援します。

自社の状況に合わせた具体的な対策について検討したい、専門家の意見を聞いてみたいとお考えでしたら、ぜひお気軽にご相談ください。

XIMIXのGoogle Workspace 導入支援についてはこちらをご覧ください。
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まとめ

本記事では、DX推進の陰で増大する「野良クラウド」のリスクと、その具体的な対策について解説しました。

野良クラウドは、SaaSの個人利用から開発者によるパブリッククラウドの無断利用まで多岐にわたります。これらは従業員の「業務を良くしたい」という善意から生まれることが多い一方で、放置すれば情報漏洩や予期せぬ高額請求といった深刻な事態を招きかねない、諸刃の剣です。

重要なのは、一方的に禁止して従業員の利便性を奪うことではありません。従業員の生産性を向上させたいというニーズに応えつつ、企業として守るべきセキュリティとガバナンスをいかに両立させるかという視点です。

今回ご紹介した4つの対策ステップを参考に、まずは自社の状況を把握することから始めてみてはいかがでしょうか。そして、その過程で専門家の力が必要だと感じた際には、ぜひ私たちXIMIXにご相談ください