クラウドサービスは、ビジネスの俊敏性を高め、DX(デジタルトランスフォーメーション)を推進する上で不可欠なツールとなりました。しかし、その手軽さと柔軟性の裏側には、見過ごされがちなリスクが潜んでいます。その代表例が「クラウドの設定ミス」です。
「ただの設定ミス」と軽視していると、企業の信頼を揺るがす大規模な情報漏洩や、甚大な金銭的被害に繋がりかねません。特に、オンプレミス環境のセキュリティ感覚のままクラウドを利用していると、思わぬ落とし穴にはまるケースが後を絶ちません。
この記事では、企業のDX推進を担うご担当者様に向けて、以下の点を網羅的に解説します。
本記事を通じて、クラウドのリスクを正しく理解し、安全にそのメリットを最大限活用するための一助となれば幸いです。
クラウドの設定ミスがなぜこれほどまでに深刻な事態を招くのでしょうか。それは、従来のオンプレミス環境との根本的な違いに起因します。
多くの企業様をご支援してきた経験から、こうしたクラウド特有のリスクを認識せずに利用を開始してしまうケースは少なくありません。まずは、この「クラウドならではの危険性」を理解することが、すべての対策の第一歩となります。
関連記事:
オンプレミスとクラウドを’中立的な視点’で徹底比較!自社のDXを加速するITインフラ選択のポイント
【入門編】クラウドとオンプレミスのセキュリティを比較!自社に最適な環境選びのポイントとは
改めて、クラウドセキュリティの「責任共有モデル」とは?自社の責任範囲と対策をわかりやすく解説
具体的にどのような設定ミスが危険なのでしょうか。ここでは、実際に起こりがちな代表的な設定ミスのパターンを4つご紹介します。自社の環境が同様の状態になっていないか、確認するきっかけとしてください。
クラウドストレージ(Google Cloud でいえば Cloud Storage)は、大容量のデータを手軽に保存・共有できて非常に便利です。しかし、そのアクセス権設定を誤り、「インターネット上の誰でもアクセス可能(Public)」な状態にしてしまうケースが散見されます。
この状態では、機密情報や個人情報を含むファイルが、悪意のある第三者によって容易に窃取されてしまいます。バックアップデータのつもりで置いたファイルが、実は全世界に公開されていた、という笑えない事態も現実に発生しているのです。
「この担当者には、とりあえず管理者権限を付与しておこう」といった安易な権限設定は、非常に危険です。IAM(Identity and Access Management)における「最小権限の原則」の無視は、内部不正のリスクを高めるだけでなく、万が一アカウントが乗っ取られた際の被害を甚大なものにします。
例えば、退職した従業員のアカウントを削除し忘れていた、外部の協力会社に必要以上の権限を与え続けていた、といったケースもこれに該当します。各ユーザーやサービスには、その役割を遂行するために必要最小限の権限のみを付与することが鉄則です。
関連記事:
【入門編】最小権限の原則とは?セキュリティ強化とDXを推進する上での基本を徹底解説
クラウド上に構築した仮想ネットワーク(Google Cloud では VPC: Virtual Private Cloud)のファイアウォール設定を誤ると、本来保護されるべきサーバーやデータベースが、意図せずインターネットからの攻撃に晒される可能性があります。
例えば、開発環境で一時的に開けたポートを閉じ忘れたり、特定のIPアドレスからのみアクセスを許可すべきところを全開放してしまったりするミスが考えられます。これにより、サーバーへの不正侵入や、DDoS攻撃の踏み台にされるといったリスクが生じます。
監査ログは、いつ、誰が、どのリソースにアクセスしたかを記録する、セキュリティの最後の砦とも言える重要な機能です。しかし、コスト削減やパフォーマンスへの懸念から、この監査ログ(Google Cloud では Cloud Audit Logs)を無効にしてしまう、あるいは適切に保存・監視していないケースがあります。
ログがなければ、万が一不正アクセスや情報漏洩が発生しても、その原因究明や被害範囲の特定が著しく困難になります。インシデントの発生に気づくことすらできず、被害が拡大し続けるという最悪のシナリオも想定されます。
では、こうした設定ミスによるリスクを防ぐためには、具体的に何をすればよいのでしょうか。ここでは、まず取り組むべき基本的な対策を4つご紹介します。
IAMのベストプラクティスとして、すべてのユーザー、グループ、サービスアカウントに対して「最小権限の原則」を適用しましょう。業務に必要な権限のみを付与し、定期的に権限の見直しを行うことが重要です。Google Cloud では、ロール(役割)をきめ細かく設定することで、これを実現できます。
関連記事:
【入門編】Google CloudのIAMとは?権限管理の基本と重要性をわかりやすく解説
IDとパスワードだけの認証では、もはや安全とは言えません。スマートフォンアプリやセキュリティキーなどを利用した多要素認証(MFA)を、特権ユーザーだけでなく、可能な限りすべてのユーザーに対して有効化してください。これにより、万が一パスワードが漏洩しても、不正アクセスを水際で防げる可能性が格段に高まります。
VPCのファイアウォールルールを適切に設定し、不要なポートはすべて閉じ、必要な通信も送信元のIPアドレスを限定するなど、アクセスを厳格に制御します。さらに、Google Cloud の「VPC Service Controls」のようなサービスを利用すれば、プロジェクト間に仮想的な境界線を設け、承認されたネットワークからのアクセスのみを許可することで、データ漏洩リスクを大幅に低減できます。
個人の注意だけに頼るのではなく、組織としてセキュリティポリシーを定め、それをクラウド環境に適用することが不可欠です。Google Cloud の組織のポリシーサービス(Organization Policy Service)を利用すれば、「特定のリージョンでしかリソースを作成できないようにする」「ストレージをPublicに設定できないようにする」といった制約(ガードレール)を組織全体にかけることができ、ヒューマンエラーによる設定ミスを根本から防ぐのに役立ちます。
関連記事:
【入門】Google Cloud組織ポリシーとは? 全体ルール設定の基本と設定方法の初歩
ITにおける「ガードレール」とは?DX推進のためのクラウドセキュリティとガバナンスの基本を解説
ここまで、クラウド設定ミスのリスクと基本的な対策について解説してきました。しかし、自社だけでこれらの対策を網羅的に、かつ継続的に実施していくことには、多くの困難が伴います。
このような課題をお持ちではないでしょうか。
私たち「XIMIX」は、Google Cloud や Google Workspace の導入・活用支援を通じて、数多くのお客様のDX推進をご支援してきました。その豊富な実績と知見に基づき、お客様がクラウドを安全かつ効果的に活用するため、以下のようなサービスをご提供しています。
専門家の知見を活用することは、リスク対策を加速させ、お客様が本来注力すべきコア業務に集中するための有効な選択肢です。
XIMIXのGoogle Workspace 導入支援についてはこちらをご覧ください。
XIMIXのGoogle Cloud 導入支援についてはこちらをご覧ください。
本記事では、クラウドにおける設定ミスの危険性と、その背景にあるオンプレミスとの違い、そして具体的な事例と対策について解説しました。
クラウドは強力なツールですが、その設定の一つひとつがビジネスの根幹を支えるセキュリティに直結しています。今回ご紹介した設定ミスのパターンや対策は、決して他人事ではありません。「うっかり」や「知らなかった」では済まされない事態を避けるためにも、まずは自社のクラウド環境の現状を正しく把握し、できる対策から着実に進めていくことが重要です。
この記事が、皆様の安全なクラウド活用の一助となれば幸いです。