コラム

なぜデータ活用に抵抗が生まれるのか?現場を「推進役」に変える5つのステップ

作成者: XIMIX Google Cloud チーム|2025,06,19

はじめに

「全社でデータ活用を推進する」――。経営層からの号令一下、DX推進のミッションを担うご担当者様にとって、この言葉は重い響きを持つのではないでしょうか。最新のデータ基盤を導入し、ツールを揃えても、肝心の現場、特に豊富な経験を持つ中堅社員や管理職層から「今のやり方で十分だ」「データは所詮データ。現場の勘が一番だ」といった声が聞こえてくる…。そんな壁に直面している企業は少なくありません。

この抵抗は、単なる変化への反発なのでしょうか。いいえ、多くの場合、その根底には彼らなりの合理的な理由や、これまでの成功体験に裏打ちされたプライド、そして未来への漠然とした不安が隠されています。

本記事は、そうした現場の抵抗に悩むDX推進担当者様、そして経営層の方々に向けて執筆しています。なぜデータ活用への抵抗が生まれるのか、その心理を紐解き、彼らを単なる「説得すべき対象」ではなく、データ活用の強力な「推進役」へと変えるための、具体的で実践的な5つのステップを解説します。

この記事を読み終える頃には、現場との向き合い方が変わり、明日からのアクションプランが明確になっているはずです。

データ活用に「抵抗」が生まれる5つの深層心理

一方的に「抵抗勢力」と見なす前に、なぜ彼らがそのような態度を取るのか、その背景を理解することが不可欠です。多くの企業をご支援してきた経験から、抵抗の裏には主に5つの心理的要因があると考えられます。

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①これまでの成功体験への固執

長年の経験と勘を頼りに、これまで数々の修羅場を乗り越え、会社に貢献してきた自負があるからこそ、「なぜ今さらやり方を変える必要があるのか」という思いが生まれます。データという新しい判断軸は、彼らにとって自らの存在価値や専門性を脅かすものと映る可能性があります。

②未知のスキルセットへの不安

「データ分析」や「AI」といった言葉に、漠然とした苦手意識や「自分には関係ない」という心理的な壁を感じる層は少なくありません。「今から新しいツールを覚えるのは億劫だ」「若い人のようには使いこなせないだろう」といったスキルの不安が、無意識の抵抗につながっています。

③データそのものへの不信感

「そのデータは本当に正しいのか?」「誰が、どのような意図で集計したデータなのか?」といった、データソースや集計プロセスへの疑念です。特に、現場感覚と乖離したデータが提示された場合、この不信感は一気に増幅します。「データは現実の一部を切り取ったものに過ぎない」という考えは、ある意味で真実を突いています。

④目的とメリットの不透明さ

「何のためにデータを活用するのか」「それによって自分の仕事がどう楽になるのか、会社にどんなメリットがあるのか」という目的(Why)が明確に共有されていないケースです。目的が腹落ちしていない施策は、現場にとっては「上から降ってきたやらされ仕事」でしかなく、積極的に関与する動機が生まれません。

⑤変化による業務負荷の増大懸念

新しいことを始めれば、当然ながら一時的に業務負荷が増大します。日々の業務に追われる中で、「ただでさえ忙しいのに、さらに仕事を増やすのか」という懸念は当然の反応です。変化の先にあるメリットよりも、目先の負担増が大きく見えてしまうのです。

抵抗を乗り越え「推進役」に変えるための5つのステップ

では、どうすればこれらの壁を乗り越え、彼らを巻き込むことができるのでしょうか。鍵は、トップダウンの強制ではなく、「共感」と「共創」を軸にしたアプローチです。

ステップ1:課題解決型の「スモールスタート」で成功体験を共創する

全社一斉の壮大なプロジェクトは、抵抗を生みやすい典型です。まずは、特定の一部門や特定の課題にフォーカスしましょう。重要なのは、現場が日頃から「面倒だ」「時間がかかる」と感じている課題をテーマに選ぶことです。

例えば、「毎月の報告書作成に丸一日かかっている」という課題に対し、「Lookerを使えば、ボタン一つで最新のレポートが自動生成される」といった具体的な解決策を提示し、一緒にPoC(概念実証)を行います。この「小さな成功体験」は、「データ活用=役に立つ」という実感を生み、彼らのスキルへの不安を軽減する特効薬となります。

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ステップ2:現場の言葉で「目的と価値」を翻訳して語る

「データドリブン経営の実現」といった抽象的なスローガンだけでは、現場の心は動きません。「なぜデータが必要なのか」を、彼らの業務や言葉に「翻訳」して伝えるプロセスが不可欠です。

例えば、営業部門であれば「長年の勘で優良顧客を見抜いてきた〇〇さんのノウハウをデータで可視化し、若手でも同じように動けるようにする仕組みを作りたい」、製造部門であれば「熟練の技が求められる検品作業の精度を、AI画像解析でサポートし、見逃しを減らしたい」といった具合です。これは、彼らの経験を否定するのではなく、「あなたの経験とデータを掛け合わせることで、組織の力が最大化される」というリスペクトのメッセージになります。

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ステップ3:スキル不安に寄り添う「伴走型」の教育・サポート体制

新しいツールや概念に対する不安を取り除くには、一方的な研修だけでは不十分です。「いつでも聞ける」「隣で一緒に操作してくれる」といった伴走型のサポート体制が極めて重要です。

特にGoogle Workspaceのようなツールは、日常業務の中で自然に使い方を学べる環境づくりが効果的です。例えば、これまでメールと添付ファイルで行っていた報告を、Googleドキュメントの共有とコメント機能に切り替える。これだけで、共同編集の利便性を体感し、自然とITリテラシーが向上していきます。技術的な支援だけでなく、こうした「文化」レベルでの支援が求められます。

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ステップ4:「直感とデータ」を融合させる環境を整備する

現場の「勘」や「経験」は、それ自体が貴重なデータです。これを無視するのではなく、データで裏付け、進化させるというアプローチが有効です。そのために必要なのが、誰もが簡単にデータにアクセスし、対話できる環境です。

例えば、Google CloudBigQueryとLookerを組み合わせれば、専門家でなくても直感的な操作で膨大なデータを分析し、可視化できます。管理職層が自らの仮説を検証するために、気軽にデータに触れられる環境を提供することで、「データは専門家だけのもの」という意識を変革し、自らの経験を客観的に裏付ける武器として活用するようになります。

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ステップ5:行動変容を促す「評価」と「称賛」の仕組み

最後のステップとして、データ活用を積極的に行った個人や部門が、きちんと評価され、称賛される文化を醸成することが重要です。

データに基づいて業務改善を提案した社員を表彰する、優れたデータ活用事例を社内報で共有するなど、地道な活動が「データ活用は推奨されていることなのだ」という全社的なメッセージになります。短期的なKPIだけでなく、こうした行動変容そのものを評価のプロセスに組み込むことが、文化として定着させるための鍵となります。

XIMIXによるデータ活用支援

ここまで、データ活用への抵抗を乗り越え、現場を巻き込むためのステップを解説してきました。しかし、これらの組織変革や文化醸成は、一朝一夕に実現できるものではありません。特に、自社の状況に合わせた最適なツールの選定、データ基盤の構築、そして何より現場に寄り添った伴走型の支援を、すべて自社リソースだけで行うには限界がある場合も少なくありません。

私たち「XIMIX」は、これまで数多くのお客様のDX推進をご支援してきた経験に基づき、お客様の組織課題に深く寄り添い、データ活用文化の醸成という上流工程から伴走支援することを強みとしています。

  • 現状アセスメントとロードマップ策定: 何から手をつければ良いかわからない、という段階から、お客様の課題をヒアリングし、最適なスモールスタートのテーマ設定や、全社展開に向けたロードマップ策定をご支援します。
  • 現場を巻き込むPoC支援: 技術的な支援はもちろん、現場の皆様への丁寧な説明やトレーニングを通じて、PoCを「やらされ仕事」ではなく、「共創プロジェクト」へと導きます。
  • 最適なデータ分析基盤の構築: BigQueryやLookerといったGoogle Cloudの強力なサービスを活用し、持続可能なデータ分析基盤を設計・構築します。

組織の壁を乗り越え、真のデータドリブンな企業文化を築きたいとお考えでしたら、ぜひ一度、私たちにご相談ください。

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まとめ

データ活用への抵抗は、多くの場合、変化への不安やこれまでの成功体験から生まれる、ある意味で自然な反応です。それを力でねじ伏せるのではなく、その背景にある心理を理解し、共感することから変革は始まります。

今回ご紹介した5つのステップ――「①スモールスタートでの成功体験」「②現場の言葉での目的共有」「③伴走型の教育体制」「④直感とデータを融合する環境」「⑤評価と称賛の仕組み」――は、現場を「抵抗勢力」から「強力な推進役」へと変えるための実践的なアプローチです。

データ活用は、単なるツール導入プロジェクトではありません。それは、企業の文化そのものを変革する壮大な旅です。その旅の第一歩として、まずは現場の声に真摯に耳を傾け、彼らが抱える課題をデータという武器で解決する、小さな成功を積み重ねてみてはいかがでしょうか。