デジタルトランスフォーメーション(DX)の推進が企業にとって喫緊の課題となる中、「ノーコードツール」がその有効な手段として大きな注目を集めています。専門的なプログラミング知識がなくとも、業務アプリケーションやワークフローの自動化ツールを迅速に開発できるため、業務効率の劇的な向上や新たなイノベーション創出への期待が寄せられています。
しかしながら、「ノーコードツールを導入すれば、すぐに現場で活用が進み、DXが魔法のように実現する」というわけではありません。ツールの真価を引き出し、持続可能な内製化体制を確立するためには、社員一人ひとりのITリテラシー向上と、目的に応じた適切なスキルセットの習得、そして戦略的な人材育成が不可欠です。特に、これからノーコードツールの導入を検討されている企業や、導入初期段階で「社員がなかなかツールを使いこなせない」「期待していたほどの効果が得られない」といった課題に直面しているご担当者様もいらっしゃるのではないでしょうか。
本記事では、ノーコードツールの活用による内製化を成功させたい企業のDX推進担当者様や決裁者の皆様に向けて、以下の点を分かりやすく解説します。
この記事をお読みいただくことで、自社におけるノーコード活用の方向性を見定め、効果的な人材育成戦略を立案し、内製化を成功へと導くための一助となれば幸いです。
DX推進の文脈で頻繁に耳にするようになった「ノーコードツール」。まずはその基本的な概念と、企業にもたらすメリットについて確認しましょう。
ノーコードツールとは、その名の通り「コードを書かずに」アプリケーションやシステムを開発できるツール群の総称です。多くの場合、事前に用意された部品(モジュール)をドラッグ&ドロップで組み合わせたり、設定画面で必要な項目を選択したりする直感的な操作で、業務に必要なシステムを構築できます。
ノーコードツールがもたらす主なメリットは以下の通りです。
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ノーコードツール自体は以前から存在していましたが、近年特に注目度が高まっている背景には、以下の要因が挙げられます。
ノーコードと似た言葉に「ローコード」があります。ローコードツールは、基本的にはノーコードと同様にGUIベースで開発を行いますが、一部でコーディングによるカスタマイズや機能拡張が可能です。より複雑な要件や、既存システムとの高度な連携が求められる場合に適しています。
本記事では主に「ノーコード」に焦点を当てますが、社員のスキル育成という観点では共通する部分も多くあります。
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ノーコードツールを導入し、社内で活用を広げていくためには、社員がどのようなITリテラシーやスキルを身につけるべきなのでしょうか。全社的に求められる基礎的なリテラシーと、実際にツールを使って開発を行う「市民開発者」、そしてその活用を推進する「コア人材」に必要なスキルに分けて考えてみましょう。
まず、特定の役割に限らず、現代のビジネスパーソンとして全社員に求められる基本的なITリテラシーがあります。これらはノーコード活用以前の土台となるものです。
これらの基礎リテラシーが不足している場合は、ノーコードツールの活用以前に、全社的なIT教育の機会を設けることが重要です。
「市民開発者(Citizen Developer)」とは、IT部門の専門家ではないものの、ノーコード/ローコードツールを活用して業務アプリケーションなどを自ら開発するビジネスユーザーを指します。市民開発者には、以下のスキルが求められます。
市民開発者が自律的に活動し、ノーコード活用が全社的に広がっていくためには、それを技術面・組織面からサポートし、推進していくコア人材の存在が不可欠です。コア人材には、市民開発者向けのスキルに加えて、以下のようなより専門的なスキルや視点が求められます。
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ノーコードツールの導入効果を最大化し、内製化を成功に導くためには、戦略的な人材育成が欠かせません。ここでは、社員のスキル習得と内製化を段階的に進めるためのステップを、効果的な育成戦略としてご紹介します。
育成戦略の第一歩は、自社の社員のITリテラシーがどの程度のレベルにあるのかを客観的に把握することです。アンケート調査、スキルテスト、個別ヒアリングなどを通じて現状を評価し、ノーコード活用を通じて「どのような状態を目指すのか(例:特定の業務プロセスにおける手作業時間を〇%削減する、年間〇〇個の業務改善アプリを現場主導で内製化する)」といった具体的かつ測定可能な目標を設定します。
この目標設定にあたっては、経営層やDX推進部門、IT部門、そして現場の各部門が密に連携し、全社的なビジョンと目標に対するコンセンサスを形成することが、戦略の推進力を高める上で極めて重要です。
次に、社員がノーコードツールや関連スキルを効率的に学ぶための環境を整備します。画一的な研修だけでなく、多様な学習機会を提供することが育成戦略の鍵となります。
教育プログラムは、全社員向けの基礎的なITリテラシー向上プログラムから、市民開発者候補向けのツール操作・アプリ開発実践プログラム、コア人材向けのガバナンス・推進戦略策定プログラムなど、対象者の役割と目指すスキルレベルに応じて段階的かつ体系的に提供することが望ましいでしょう。
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育成戦略の初期段階では、いきなり大規模で複雑なシステム開発を目指すのではなく、まずは身近な業務の小さな課題解決からスモールスタートすることが成功の秘訣です。
Google Workspace をご利用の企業であれば、AppSheet を活用してスプレッドシートのデータを基にしたシンプルな業務アプリ開発から始めるのは、手軽かつ効果的な第一歩と言えるでしょう。
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ノーコードツールの利用が拡大するにつれて、セキュリティリスクの増大、開発されるアプリの品質のばらつき、いわゆる「野良アプリ」の無秩序な増加といった課題が生じる可能性があります。そのため、適切なガバナンス体制の構築と、それを継続的に改善していく運用ルールの策定・徹底が不可欠です。
IT部門は、統制を過度に厳しくすることで現場の創造性やスピード感を損なうことなく、市民開発者の自由な発想や迅速な開発を最大限サポートしつつ、企業全体としてのセキュリティとコンプライアンスを確保するという、バランスの取れた「イネーブラー(実現支援者)」としての役割を担うことが求められます。
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ノーコードツールの導入と内製化は、多くのメリットをもたらす一方で、いくつかの注意点も存在します。これらを事前に理解し、対策を講じることが成功への近道です。
これらのポイントを踏まえ、計画的にノーコードツールの導入と内製化を進めていくことが、DX推進を成功させるための鍵となります。
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これまで述べてきたように、ノーコードツールを活用した内製化を成功させるためには、適切なツールの選定、戦略的な人材育成、そして実効性のあるガバナンス体制の構築が不可欠です。しかし、これらの取り組みを自社だけで推進するには、専門的な知見やリソースが不足していると感じられる企業様も少なくないでしょう。
私たちXIMIXは、Google Cloud および Google Workspace のプレミアパートナーとして、多くのお客様のDX推進をご支援してまいりました。その経験と専門知識を活かし、AppSheet をはじめとするノーコード/ローコードプラットフォームの導入から活用、内製化支援まで、お客様の状況やニーズに合わせた包括的なサービスをご提供しています。
XIMIXの支援内容例:
多くの企業様をご支援してきた経験から、ノーコード活用のポテンシャルを最大限に引き出し、お客様のDX推進を加速させるお手伝いをいたします。ノーコードツールの導入や内製化、社員のITリテラシー向上やスキル育成にご関心をお持ちでしたら、ぜひ一度XIMIXにご相談ください。
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本記事では、ノーコードツールの活用による内製化を成功させるために社員に求められるスキルセットと、その効果的な育成戦略について解説しました。
ノーコードツールは、DX推進における強力な武器となり得ますが、その真価を発揮させるためには、ツールを使いこなし、業務改革を推進する「人」の育成が最も重要です。全社的なITリテラシーの底上げから始まり、現場主導でアプリ開発を担う市民開発者のスキルアップ、そしてそれを組織的に支えるコア人材の育成と実効性のあるガバナンス体制の構築まで、段階的かつ戦略的に取り組む必要があります。
最初の一歩は、自社の現状を正確に把握し、スモールスタートで成功体験を積み重ねながら、全社的な活用へと展開していくことです。本記事が、皆様の企業におけるノーコード活用と人材育成の一助となり、DX推進がさらに加速することを心より願っております。
もし、ノーコードツールの導入や活用、あるいは社員のスキル育成に関して、より具体的なアドバイスや専門的なサポートが必要な場合は、外部の専門家の支援も積極的に検討してみてはいかがでしょうか。