コラム

生成AIでセキュリティはどう変わる?新たな脅威と今すぐやるべき対策を解説

作成者: XIMIX Google Cloud チーム|2025,10,14

はじめに

生成AIは、業務効率の劇的な向上や新たなビジネス創出の切り札として、多くの企業で導入検討が進んでいます。しかしその一方で、「情報漏洩のリスクはないのか」「新たなサイバー攻撃に悪用されるのではないか」といったセキュリティに関する漠然とした不安が、本格的な活用の足かせになってはいないでしょうか。

本記事では、企業のDX推進を担う意思決定者層に向けて、生成AIがもたらすセキュリティの変化を体系的に解説します。

本記事をお読みいただくことで、以下の点が明確になります。

  • 生成AIによって生まれる新たな脅威と、社内利用時に潜むリスク

  • AIを味方につけ、セキュリティを強化するアプローチ

  • 自社で今すぐ取り組むべき具体的な対策と、その成功の鍵

単なるリスク対策に留まらず、生成AIを安全に、かつ最大限に活用し、競合優位性を確立するための「攻めのセキュリティ戦略」の第一歩として、ぜひご一読ください。

生成AIがもたらすセキュリティのパラダイムシフト

生成AIの登場は、サイバーセキュリティの世界に「攻守両面」でのパラダイムシフトを迫っています。これは、単に新しいツールが登場したというレベルの話ではなく、攻撃手法と防御手法の双方に、これまでの常識が通用しなくなるほどの不可逆な変化をもたらすものです。

「攻撃」と「防御」の両面で起こる不可逆な変化

攻撃面では、これまで高度な専門知識が必要だったサイバー攻撃のハードルが劇的に下がります。例えば、説得力のあるフィッシングメールの文章作成や、特定の脆弱性を突くプログラムコードの生成を、専門家でなくともAIとの対話を通じて実行できてしまうのです。これにより、攻撃の「量」と「質」が共に飛躍的に増大します。

一方の防御面でも、AIは大きな変革をもたらします。膨大なセキュリティログや脅威情報をAIが瞬時に分析し、人間では見逃してしまうような攻撃の予兆を検知したり、インシデント発生時の対応プロセスを自動化したりすることが可能になります。

従来のセキュリティ対策だけでは不十分な理由

ファイアウォールやアンチウイルスソフトといった従来の境界型セキュリティモデルは、「既知の脅威」を防ぐことには長けていました。しかし、生成AIによって生み出される「未知の脅威」や、巧妙化・個別化された攻撃に対しては、パターンマッチングベースの防御策だけでは限界があります。

これからのセキュリティは、侵入されることを前提とし、いかに迅速に脅威を検知し、対応・復旧するかという「インシデントレスポンス」の考え方がより一層重要になります。その中で、AIによる自律的な検知・分析能力は不可欠な要素となるでしょう。

【攻撃編】警戒すべき生成AIによる新たな脅威

まず、攻撃者が生成AIをどのように悪用するのか、具体的な脅威を見ていきましょう。これらは、自社が攻撃のターゲットとなりうる直接的な脅威です。

①ソーシャルエンジニアリングの高度化(フィッシングメール、ディープフェイク)

ソーシャルエンジニアリングとは、人間の心理的な隙や行動のミスを突いて情報を盗み出す攻撃手法です。生成AIは、この手法をかつてないレベルにまで高度化させます。

  • フィッシングメールの巧妙化: ターゲット企業の業界特有の専門用語や、個人の役職・業務内容に合わせた、極めて自然で説得力のある文章を自動生成できます。これにより、従業員が偽メールを見抜くことは非常に困難になります。

  • ビジネスメール詐欺(BEC)の増加: 経営幹部や取引先になりすまし、偽の送金指示などを送るBECも、より精巧な文面で実行されるリスクが高まります。

  • ディープフェイクによる音声・動画詐欺: 特定の個人の声や容姿を模倣した偽の音声・動画(ディープフェイク)を使い、「社長からの緊急の指示」といった形で従業員を騙す、新たな詐欺手法も現実の脅威となっています。

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②マルウェア開発・脆弱性悪用の自動化と高速化

これまで攻撃者にとって時間とコストがかかっていたマルウェア(悪意のあるソフトウェア)の開発や、システムの脆弱性を見つけ出すプロセスが、生成AIによって大幅に効率化・自動化されてしまいます。

これにより、特定の企業やシステムを狙ったオーダーメイドのマルウェアが短時間で大量に生み出されたり、新たな脆弱性が公開されてから攻撃が行われるまでの時間が極端に短くなったりする可能性があります。

③偽情報・ディスインフォメーションの拡散

特定の企業に関するネガティブな偽情報を生成AIに作成させ、SNSなどで拡散させることで、企業のブランドイメージや株価に深刻なダメージを与える「情報戦」のリスクも考慮する必要があります。DX推進を積極的に行う企業ほど、こうしたデジタル空間でのレピュテーションリスクへの備えが重要となります。

【利用編】生成AI導入時に潜むビジネスリスク

次に、自社が生成AIを業務で利用する際に、内部から発生しうるリスクについて解説します。これらは、利便性の裏側に潜む落とし穴であり、ガバナンスの観点から極めて重要です。

①機密情報・個人情報の漏洩リスク

多くの従業員が懸念する最大のリスクが、情報の漏洩です。

  • プロンプト経由の漏洩: 従業員が業務の過程で、顧客情報や開発中の製品情報といった機密情報をプロンプトに入力してしまうと、その情報がAIモデルの学習データとして利用され、意図せず外部に流出する可能性があります。

  • 学習データからの漏洩: 利用するAIサービスが、どのようなデータを学習に利用しているか、その管理体制はどうなっているかを把握しないまま利用すると、自社の情報が安全に管理されているか分かりません。

②プロンプトインジェクションによる意図しない動作

プロンプトインジェクションとは、攻撃者がAIに対して特殊な指示(プロンプト)を与えることで、開発者が意図しない動作を引き起こさせる攻撃です。例えば、顧客対応チャットボットにこの攻撃が行われると、本来開示してはいけない情報を引き出されたり、不適切な発言をさせられたりする可能性があります。

③著作権侵害やコンプライアンス上の問題

生成AIが生成した文章や画像、コードなどが、既存の著作物と酷似している場合、意図せず著作権を侵害してしまうリスクがあります。また、業界特有の規制や法令(例:金融、医療)で定められたデータ管理の要件を、生成AIの利用プロセスが満たしているか、というコンプライアンス上の確認も不可欠です。

【防御・活用編】生成AIをセキュリティ強化の味方につける

ここまでリスク面に焦点を当ててきましたが、生成AIはセキュリティを脅かすだけでなく、むしろ強化するための強力な武器にもなります。ここでは、AIを防御や業務効率化に活用するアプローチを紹介します。

①脅威インテリジェンスの高度化と迅速な分析

世界中で発生する膨大なサイバー攻撃の情報をリアルタイムで収集・分析する脅威インテリジェンスは、セキュリティ対策の要です。AIを活用することで、この膨大なデータの中から自社に関連する重要な脅威情報を即座に抽出し、プロアクティブな対策を講じることが可能になります。

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②インシデント対応の自動化と効率化

サイバー攻撃を受けた際のインシデント対応は、スピードと正確性が命です。Google Cloudの「 Google Security Operations」のようなソリューションは、AIを活用して脅威検知から調査、対応までの一連のプロセスを効率化します。これにより、担当者は複雑な判断を要するコア業務に集中でき、対応時間の短縮と属人化の解消を実現します。

③セキュリティ人材の育成と業務負荷軽減

深刻な課題であるセキュリティ人材不足の解消にも、AIは貢献します。例えば、若手のアナリストがインシデントの調査方法で不明な点があった際に、AIに自然言語で質問し、適切な手順や関連情報を得ることができます。これにより、人材育成を加速させるとともに、専門家の業務負荷を軽減する効果が期待できます。

生成AI時代に企業が取るべきセキュリティ対策の全体像

では、これらの脅威と機会を踏まえ、企業は具体的に何から手をつけるべきなのでしょうか。ここでは、多くの企業を支援してきた経験から、効果的とされる3つのステップを紹介します。

ステップ1: まずは守りから固める「利用ガイドライン」の策定

技術的なツールを導入する前に、まず組織としてのルール作りが不可欠です。

  • 目的の明確化: なぜガイドラインが必要なのか(情報資産の保護、法的リスクの回避など)を明確にします。

  • 入力禁止情報の定義: 機密情報、個人情報、顧客情報など、プロンプトへの入力を禁止する情報を具体的に定義します。

  • 利用範囲と責任の明記: どの部署で、どのような業務に利用して良いか、また利用責任者は誰かを定めます。

ここで陥りがちなのが、「禁止」事項ばかりを並べてしまい、現場の利便性を損なうガイドラインです。それでは形骸化し、かえって管理外でAIが利用される「シャドーIT」を助長しかねません。「どうすれば安全に使えるか」という視点で、現場の意見も取り入れながら策定することが成功の秘訣です。

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ステップ2: 技術的対策の実装(DLP, CASB, AI搭載セキュリティ製品)

ガイドラインの実効性を担保するために、技術的な対策を組み合わせます。

  • DLP (Data Loss Prevention): 機密情報が外部に送信されそうになった際に、それを検知・ブロックする仕組みです。

  • CASB (Cloud Access Security Broker): 従業員がどのクラウドサービス(生成AIサービス含む)を利用しているかを可視化し、制御します。

  • AI搭載セキュリティ製品の活用: 前述の「Google Security Operations」や、Google Cloudの「Security Command Center」が提供するAI機能のように、脅威の検知や脆弱性管理を高度化するソリューションの導入を検討します。

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ステップ3: 全従業員を対象としたリテラシー教育の徹底

どのようなルールやツールを導入しても、最終的にそれを使うのは「人」です。フィッシングメールの見分け方や、情報資産の適切な取り扱いなど、全従業員を対象とした継続的なセキュリティ教育が欠かせません。特に、生成AIのリスクに関しては、経営層から現場まで、役職や部門に応じた適切な知識レベルの向上が求められます。

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成功の鍵はパートナー選び - 専門家の知見を活用する

ここまで、生成AI時代のセキュリティ対策について解説してきましたが、これらをすべて自社だけで計画・実行するには多大な労力と高度な専門知識が必要です。

なぜ自社だけでの対策が難しいのか?

  • 技術の進化が速すぎる: 生成AIとサイバー攻撃の手法は、まさに日進月歩です。最新の動向を常にキャッチアップし、対策に反映し続けるのは容易ではありません。

  • 人材の不足: 高度なセキュリティ知識とAIに関する知見を併せ持つ人材は、市場でも非常に希少です。

  • 客観的な視点の欠如: 自社の状況を客観的に評価し、どこに脆弱性があるのか、何から優先的に手をつけるべきかを見極めるのは、内部の人間だけでは難しい場合があります。

専門家が提供する価値とは(戦略策定から運用まで)

信頼できるパートナーは、単にツールを販売するだけではありません。企業のビジネスモデルやDX戦略を深く理解した上で、以下のような包括的な支援を提供します。

  • アセスメント: 現状のセキュリティ対策レベルを客観的に評価し、生成AI導入に伴う潜在的リスクを洗い出します。

  • 戦略・方針策定: ビジネスへの影響度を考慮し、現実的で費用対効果の高いセキュリティ戦略とロードマップを策定します。

  • ソリューション導入・運用支援: Google Cloudのようなセキュアなプラットフォームの選定から、各種セキュリティソリューションの導入、そして導入後の運用までをトータルでサポートします。

私たち『XIMIX』は、Google Cloudの専門家集団として、数多くの中堅・大企業のDX推進を支援してまいりました。その豊富な経験に基づき、お客様のビジネス成長を加速させるための、攻めと守りを両立したセキュリティの実現をご支援します。

生成AIの導入や、それに伴うセキュリティ対策にご課題をお持ちでしたら、ぜひお気軽にご相談ください。

XIMIXのGoogle Workspace 導入支援についてはこちらをご覧ください。
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まとめ

本記事では、生成AIがサイバーセキュリティにもたらす変化と、企業が取るべき対策について解説しました。

  • 生成AIは「攻撃」と「防御」の両面でゲームチェンジをもたらす。

  • 攻撃の高度化や情報漏洩といった「リスク」への備えは必須。

  • 一方で、AIはセキュリティ強化の「強力な武器」にもなり得る。

  • 対策は「ガイドライン策定」「技術的実装」「従業員教育」の3本柱で進める。

生成AIは、正しく向き合えば、ビジネスに計り知れない価値をもたらす可能性を秘めています。リスクを過度に恐れて活用をためらうことは、かえって競争力を削ぐことになりかねません。

重要なのは、リスクを正しく理解し、適切な管理体制を構築した上で、その恩恵を最大限に引き出すことです。この記事が、貴社の安全なAI活用に向けた第一歩となれば幸いです。