コラム

データ分析基盤のコスト肥大の原因と実践的削減アプローチ

作成者: XIMIX Google Cloud チーム|2025,06,04

はじめに

デジタルトランスフォーメーション(DX)を推進する上で、データ活用はもはや不可欠です。しかし、その中核を担うデータ分析基盤の運用において、「想定以上にコストが膨らんでいる」「費用対効果が見合わない」といった課題に直面している企業は少なくありません。

データ量の増大や分析ニーズの高度化に伴い、コストは時に指数関数的に増加し、最悪の場合「クラウド破産」に繋がりかねない深刻な問題です。

本記事では、Google Cloudのパートナーとして数多くの企業のデータ活用を支援してきたXIMIX の知見に基づき、データ分析基盤のコストが肥大化する根本原因から、明日から実践できる具体的なコスト削減アプローチ、そして成功のためのポイントまでを網羅的に解説します。

この記事を最後まで読めば、貴社は以下の価値を得られます。

  • パフォーマンスを維持・向上させつつ、コストを最適化する具体的な手法がわかる

  • 自社の状況に合わせた、戦略的なコスト削減計画を立てられる

  • データへの投資を最大化し、持続的なビジネス成長に繋げる道筋が見える

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まずは実践!データ分析基盤コスト削減チェックリスト

具体的な解説に入る前に、まずは自社の状況を把握し、すぐに行動に移せるチェックリストをご紹介します。一つでも多く当てはまる項目があれば、この記事で解説する手法によってコストを大幅に削減できる可能性があります。

カテゴリ チェック項目
ストレージ □ アクセス頻度の低いデータを低コストなストレージに自動移行する仕組みがあるか?
  □ データ圧縮や列指向フォーマット(Parquetなど)を活用しているか?
  □ 不要な中間ファイルや重複データを定期的に削除しているか?
コンピュート □ SELECT * を避け、必要なデータ列のみをスキャンするクエリを徹底しているか?
  □ BigQueryでテーブルのパーティショニングやクラスタリングを活用しているか?
  □ ワークロードに応じてリソースを自動で拡張・縮小する設定になっているか?
  □ 継続利用するリソースに対して「予約コミットメント割引」を適用しているか?
運用・組織 □ プロジェクト別・サービス別にコストを詳細に可視化できているか?
  □ 予算を設定し、超過しそうな場合にアラートが飛ぶ仕組みがあるか?
  □ コスト意識を全社で共有し、誰がコストに責任を持つか明確になっているか?
 

これらの項目は、コスト削減の第一歩です。次章からは、なぜこれらの対策が必要なのか、その背景にあるコスト肥大化の原因を深掘りしていきます。

なぜ?データ分析基盤のコストが意図せず膨らむ5つの根本原因

コスト削減策を効果的に打つためには、まず「なぜコストが増えるのか」を正確に理解することが不可欠です。主な原因は以下の5つに大別されます。

原因1:データ量の爆発的な増加と多様化

IoTデバイスの普及や顧客接点のデジタル化により、企業が扱うデータは加速度的に増え続けています。さらに、従来の構造化データに加え、テキストや画像といった非構造化データの活用も進んでおり、これらの膨大なデータを保存・処理するコストが基盤全体の費用を押し上げています。

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原因2:非効率なデータ処理とクエリ実行

データ分析基盤の設計が不適切であったり、分析クエリが最適化されていなかったりすると、コンピューティングリソースに大きな無駄が生じます。特に、Google CloudのBigQueryのようなスキャンしたデータ量に応じて課金されるサービスでは、非効率なクエリが直接コスト増に直結します。

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原因3:不適切なリソース管理とサイジング

クラウドの柔軟性はメリットである一方、リソース管理が不適切だと過剰なコストを招きます。常にピーク時を想定したリソース確保や、利用されていないリソースの放置は、気づかぬうちにコストを垂れ流す典型的な例です。

原因4:アーキテクチャの陳腐化による「技術的負債」

構築当初は最適だったデータ分析基盤も、ビジネスの成長や技術の進化と共に陳腐化し、非効率な状態(技術的負債)に陥ります。システムの拡張性の低さや、複雑なデータ連携が、運用コストをじわじわと増大させるのです。

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原因5:見過ごされがちな「隠れたコスト」

ストレージやコンピュートといった直接的な費用以外にも、注意すべきコストが存在します。データ転送費用、監視・ロギング、バックアップ、さらには運用管理に関わる人的コストなど、これらの「隠れたコスト」を総合的に把握しなければ、正確な費用対効果は見えてきません。

実践的コスト削減アプローチ①:【技術】クラウドネイティブな最適設計

コスト問題の根本解決には、クラウドの特性を最大限に活かす技術的アプローチが不可欠です。特にGoogle Cloudは、データ分析のコスト効率とパフォーマンスを両立させるための優れたサービスを提供しています。

ストレージコストの最適化

ストレージは、データ量に比例して増え続けるコスト要因です。以下の手法で戦略的にコストを抑制します。

  • ライフサイクル管理の徹底: Google Cloud Storage (GCS) のポリシーを活用し、アクセス頻度が低下したデータを、安価なNearlineColdlineArchiveストレージへ自動的に移動させます。これにより、データを削除することなく保管コストを大幅に削減できます。

  • データフォーマットの最適化: データを圧縮したり、分析クエリと相性の良い列指向フォーマット(Apache Parquetなど)に変換したりすることで、保管容量とクエリスキャン量の両方を削減します。

  • 定期的なデータクリーンアップ: データレイク内に散在する重複データや、処理過程で生成された不要な中間データを特定し、定期的に削除するプロセスを確立します。

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コンピューティングコストの最適化

コンピューティングは、データ分析基盤において最もコストがかかる部分であり、最適化の効果が最も大きい領域です。

  • サーバーレスアーキテクチャの採用: BigQueryやCloud Run、Cloud Functionsといったサーバーレスサービスを積極的に活用します。これらは処理が実行された時間だけ課金されるため、リソースが待機している間のアイドルコストをゼロにできます。

  • クエリの最適化(BigQuery):

    • 必要な列のみを指定 (SELECT * の回避): 最も基本的かつ効果的な手法です。スキャン対象のデータ量を最小限に抑えます。

    • パーティショニングとクラスタリング: テーブルを日付などで分割(パーティショニング)し、頻繁に検索条件として使う列で並べ替え(クラスタリング)ておくことで、スキャン範囲を劇的に限定できます。

    • スロット予約の活用: クエリの実行が集中する時間帯や、大規模なバッチ処理を行う際には、BigQueryのスロット(処理能力)を定額料金や柔軟な料金プランで予約することで、オンデマンド料金よりもコストを抑えつつ、安定したパフォーマンスを確保できます。

  • 適切なリソース選択と自動スケーリング: Dataflowなどのサービスでは、ワークロードの特性に合わせてマシンタイプを選択し、需要に応じてリソースを自動で増減させる自動スケーリングを設定することで、過剰なリソース確保を防ぎます。

    【XIMIXの支援事例】 ある大手小売業のお客様では、夜間の大規模なデータ処理バッチがオンデマンド料金を圧迫していました。そこで弊社は、耐障害性のある処理にスポットVMを活用し、さらにBigQueryのFlex Slotsを導入。これにより、コンピューティングコストを約40%削減しながら、処理時間を安定させることに成功しました。

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実践的コスト削減アプローチ②:【運用】FinOpsプラクティスの導入

優れた技術設計も、継続的な運用改善がなければ形骸化します。そこで重要になるのが、クラウドの財務管理と運用を最適化する「FinOps」という考え方です。

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コストの可視化とモニタリング

「使った分がわからない」状態では、コスト削減は始まりません。Google CloudのCost Managementツールなどを活用し、プロジェクト別、サービス別、担当チーム別など、多角的にコストを可視化できるダッシュボードを構築します。これにより、どこでコストが想定外に増加しているのかを即座に把握できます。

予算設定とアラートによる早期検知

プロジェクトやサービスごとに厳密な予算を設定し、使用率が一定の閾値(例:80%)に達した場合や、予算を超過した場合に、関係者へ自動でアラートが通知される仕組みを構築します。これにより、予期せぬコスト増を早期に検知し、迅速に対応することが可能になります。

定期的なレビューと改善サイクルの確立

月に一度、あるいは四半期に一度、技術チームと事業部門が合同でコスト実績と利用状況をレビューする場を設けます。そこで削減機会を特定し、次のアクションプランを策定する、という改善サイクルを回し続ける文化を醸成することが、持続的なコスト最適化の鍵です。

実践的コスト削減アプローチ③:【組織】全社的なコスト意識の醸成

技術や運用プロセスを整えても、それを使う「人」の意識が変わらなければ効果は限定的です。組織全体でコストに対する意識を高め、ガバナンスを効かせることが不可欠です。

データガバナンスの強化

誰が、どのデータに、どのようにアクセスできるのか。そして、その利用に伴うコスト責任は誰が負うのか。こうしたルールを明確にする「データガバナンス」の強化が、無駄なリソース利用を防ぐ上で極めて重要です。

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関係者への教育と啓蒙

データアナリストやエンジニアだけでなく、ビジネスユーザーも含め、データ分析基盤に関わる全ての人にコスト構造を理解してもらうための教育を実施します。効率的なクエリの書き方や、リソースの適切な使い方に関する社内勉強会やガイドラインの整備が有効です。

【事例】 ある製造業のお客様では、分析部門のユーザーが気軽に発行する重いクエリがコスト増の要因でした。ユーザー向けに「BigQueryコスト意識向上ワークショップ」を実施。クエリの実行前にコストを予測する方法や、効率的な記述法をハンズオンで学び、結果、ユーザー起因のクエリコストを平均で25%削減することに成功しました。

コスト責任の明確化(ショーバック/チャージバック)

各部門やプロジェクトが、自らの活動で発生したクラウドコストを可視化(ショーバック)し、場合によっては予算として負担(チャージバック)する体制を導入します。これにより、コストへの当事者意識が芽生え、自律的な削減努力が促進されます。

コスト削減を成功に導く3つの重要な視点

最後に、コスト削減プロジェクトを確実に成功させるために、常に意識すべき3つの重要な視点をご紹介します。

①全体最適とパフォーマンスとのバランス

一部のコストを削減した結果、システム全体のパフォーマンスが低下し、ビジネスの機会損失に繋がってしまっては本末転倒です。「どの程度のパフォーマンスが本当に必要なのか」をビジネス要件と照らし合わせ、コストとの最適なバランス点を見極める視点が重要です。

②セキュリティとコンプライアンスの遵守

コスト削減を追求するあまり、セキュリティ対策やコンプライアンス要件を疎かにすることは絶対に許されません。データの機密性、完全性、可用性を担保するための投資は、削減してはならない「聖域」として捉えるべきです。

③将来の拡張性と柔軟性の確保

短期的なコスト削減に囚われ、将来のビジネス成長に対応できない硬直的なアーキテクチャを選択することは避けるべきです。常にスケーラビリティと柔軟性を維持しつつ、コスト効率を高めるという長期的な視点が求められます。

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よくある質問(Q&A)

Q1: データ分析基盤のコスト削減は、どのくらいの期間で効果が出ますか?

A1: SELECT * の回避や、使われていないリソースの停止といった即時性の高い対策は、実施後すぐに効果が現れます。一方で、アーキテクチャの見直しやFinOps文化の定着といった取り組みは、効果が最大化されるまでに3ヶ月〜半年ほど要する場合もあります。重要なのは、短期的な施策と中長期的な施策を組み合わせて実行することです。

Q2: コスト削減をしたいですが、何から手をつければ良いかわかりません。

A2: まずは本記事の冒頭で紹介した「コスト削減チェックリスト」を使って現状を把握し、Google CloudのCost Managementツールなどでコストの内訳を可視化することから始めるのがお勧めです。コストインパクトが大きく、かつ着手しやすい領域(例:ストレージのライフサイクル管理、非効率なクエリの特定)から手をつけると良いでしょう。

Q3: コストを削減することで、分析のパフォーマンスが落ちるのが心配です。

A3: 本記事で紹介したアプローチの多くは、パフォーマンスを維持、あるいは向上させながらコストを削減するものです。例えば、クエリの最適化(パーティショニング等)は、スキャンするデータ量を減らすことでコストと実行時間の両方を削減します。重要なのは、ビジネス要件を定義し、必要なパフォーマンスレベルを維持しながら無駄を省くという考え方です。

まとめ:戦略的なコスト最適化で、データ活用の価値を最大化する

データ分析基盤のコスト削減は、単なる経費削減活動ではありません。データという資産への投資対効果(ROI)を最大化し、持続的なビジネス成長を実現するための戦略的な取り組みです。

本記事では、コストが肥大化する原因から、技術・運用・組織の各側面からの具体的な削減アプローチ、そして成功のためのポイントまでを解説しました。

重要なのは、一度きりの対策で終わらせず、FinOpsの考え方に基づき、継続的にコストとパフォーマンスのバランスを最適化し続ける文化を組織に根付かせることです。Google Cloudのような先進的なクラウドプラットフォームを賢く活用すれば、コスト効率と分析能力の両方を高めることは十分に可能です。

XIMIXによる伴走支援

もし、貴社が以下のような課題をお持ちでしたら、ぜひ私たちXIMIXにご相談ください。

  • 自社のコストが妥当なのか、専門家の視点で評価してほしい

  • どこにコスト削減のポテンシャルがあるか、具体的な診断を受けたい

  • FinOpsを導入したいが、推進方法がわからない

XIMIXは、Google Cloudに精通したプロフェッショナルとして、お客様の現状アセスメントから、最適なアーキテクチャ設計、実装支援、そしてFinOps文化の定着まで、一気通貫でご支援します。単なる技術提供に留まらず、お客様のビジネスに寄り添い、データ活用の価値を最大化することをお約束します。

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