コラム

「守りのIT」と「攻めのIT」最適なバランスの見つけ方 + Google Cloud/Google Workspaceとの関係性

作成者: XIMIX Google Cloud チーム|2025,04,30

はじめに

「DX(デジタルトランスフォーメーション)を推進して、新しい価値を生み出したい!」 多くの企業がそう考え、様々な取り組みを進めています。しかし一方で、 「既存システムの維持管理やセキュリティ対策に追われて、新しいことへの投資がなかなかできない」 「IT予算の大半が、現状維持のための『守り』に消えてしまう」 といった声もよく聞かれます。これは、企業活動に不可欠なIT投資における「守り」と「攻め」のバランスという、普遍的な課題です。

DXを効果的に推進し、企業の持続的な成長を実現するためには、この「守りのIT」と「攻めのIT」のバランスを意識的に管理・最適化していくことが非常に重要になります。

この記事では、DX推進の前提となる「守りのIT」と「攻めのIT」とは何か、なぜそのバランスが重要なのか、そして自社にとって最適なバランスをどのように見つけていけばよいのか、基本的な考え方を分かりやすく解説します。DXの推進を担当されている方、IT戦略や予算策定に関わる方にとって、今後の取り組みのヒントとなれば幸いです。

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「守りのIT」と「攻めのIT」とは?

まず、それぞれの言葉が何を指しているのか、基本的な定義と役割を確認しましょう。

守りのIT (Run the Business)

「守りのIT」とは、既存の事業運営を維持・効率化するためのIT投資を指します。日々の業務を支え、安定稼働させることが主な目的です。具体的には以下のようなものが含まれます。

  • 基幹システム(ERP、会計システムなど)の運用・保守: 業務の根幹を支えるシステムの安定稼働、法改正対応など。
  • インフラ(サーバー、ネットワーク)の維持管理: ハードウェアの老朽化対策、OS・ミドルウェアのアップデートなど。
  • セキュリティ対策: サイバー攻撃からの防御、情報漏洩対策、セキュリティパッチ適用など。
  • 社内ヘルプデスク: 社員からのITに関する問い合わせ対応。
  • 既存業務の効率化: RPA導入による定型業務の自動化など(効率化に主眼を置く場合)。

「守りのIT」は、いわば企業の土台であり、これがしっかりしていないと日々の業務が成り立ちません。電気や水道のようなインフラに近い役割と言えるでしょう。

攻めのIT (Change the Business)

一方、「攻めのIT」とは、新しい価値を創造し、ビジネスの成長や変革を促進するためのIT投資を指します。競争優位性を確立したり、新たな収益源を生み出したりすることが目的です。具体的には以下のようなものが考えられます。

  • 新規事業・サービスの開発: 新しいデジタル技術を活用した商品・サービスの立ち上げ。
  • 顧客体験(CX)の向上: Webサイトやアプリの改善、CRM導入によるパーソナライズされた顧客対応。
  • データ活用基盤の構築・分析: データに基づいた意思決定(データドリブン経営)の実現、AI活用。
  • 新しい働き方の実現: コラボレーションツール導入による生産性向上、リモートワーク環境整備。
  • ビジネスモデルの変革: デジタル技術を活用した新たなビジネスモデルの創出。

「攻めのIT」は、企業の未来を創るための投資であり、成長のエンジンとなる役割を担います。

なぜ「守り」と「攻めのIT」のバランスが重要なのか?

では、なぜこの二つのバランスを取ることがDX推進において重要なのでしょうか?

「守り」に偏るリスク:変化に取り残される

「守りのIT」は不可欠ですが、これにばかり投資が偏ると、既存システムの維持にコストとリソースが割かれ、「攻め」への投資余力がなくなってしまいます。その結果、市場の変化や新しい技術トレンドに対応できず、競合他社に遅れを取り、徐々に競争力を失っていく可能性があります。老朽化したシステム(レガシーシステム)が足かせとなり、DXどころか現状維持すら困難になる「2025年の崖」問題(経済産業省指摘)も、この偏りが招くリスクの一つです。 

「攻め」に偏るリスク:土台が揺らぐ

逆に、「攻めのIT」ばかりを優先し、「守り」をおろそかにすると、どうなるでしょうか。新しいシステムやサービスを導入しても、それを支えるインフラが脆弱だったり、セキュリティ対策が不十分だったりすると、システム障害や情報漏洩といった重大な問題を引き起こす可能性があります。土台が不安定なまま新しい挑戦をしても、結局はうまくいきません。また、日常業務の安定性が損なわれれば、従業員の不満増大や生産性低下にもつながります。

両輪で回すことの重要性

つまり、「守りのIT」は事業継続の基盤であり、「攻めのIT」は事業成長の推進力です。どちらか一方だけでは企業は持続的に成長できません。安定した土台(守り)の上で、未来への投資(攻め)を行う。この両輪をバランス良く回していくことこそが、DXを成功させ、変化の激しい時代を勝ち抜くための鍵となるのです。

自社のIT投資バランスを把握しよう

最適なバランスを考える前に、まずは自社の現状を知ることが重要です。現状のIT投資が「守り」と「攻め」にどのくらいの割合で配分されているかを把握してみましょう。

  • IT予算の内訳を確認する: システム運用保守費、新規開発費、ライセンス費用、人件費などを、「守り」「攻め」の観点で分類してみる。
  • IT部門のリソース配分を確認する: IT担当者が、日々の運用保守業務と、新規プロジェクト業務にどの程度の時間を費やしているかを見積もる。
  • 経営層や事業部門の声を聞く: 既存システムへの不満、新しいIT活用への期待などをヒアリングする。

厳密な分類が難しい場合もありますが、大まかな傾向を掴むことが第一歩です。一般的に、日本企業は欧米企業に比べて「守り」のIT投資比率が高い傾向にあると言われています。自社の状況を客観的に把握することで、課題が見えてきます。

最適なバランスを実現するためのステップ【入門編】

現状を把握したら、次は理想的なバランスに向けて舵を切るためのステップを考えます。

ステップ1:経営戦略・事業戦略との整合性を取る

IT投資のバランスは、企業の経営戦略や事業戦略と連動しているべきです。「我が社は今後、どの事業領域で、どのように成長していきたいのか?」という全体戦略を踏まえ、それを実現するためにITがどう貢献すべきか(守り・攻めそれぞれで)を明確にします。経営層とIT部門が一体となって議論することが不可欠です。

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ステップ2:「守りのIT」の効率化・最適化を検討する

「攻め」の投資原資を生み出すためには、「守り」のコスト構造を見直し、効率化・最適化を図ることが有効です。

  • クラウドサービスの活用: サーバー管理やソフトウェアアップデートの手間が少ないSaaS(Software as a Service)や、柔軟にリソースを調整できるIaaS/PaaS(Infrastructure/Platform as a Service)へ移行することで、運用負荷とコストを削減できる可能性があります。特に Google Cloud のようなパブリッククラウドは、インフラ管理の多くをサービス提供側に任せられるため、「守り」の負担軽減に大きく貢献します。
  • 標準化・共通化: 部門ごとにバラバラなシステムやツールを標準化・共通化することで、管理コストを削減できます。
  • アウトソーシングの活用: 定型的な運用保守業務などを外部に委託することも選択肢の一つです。

ステップ3:「攻めのIT」投資領域を明確にする

経営戦略に基づき、「攻めのIT」として注力すべき領域を特定します。すべての領域に一度に投資するのではなく、優先順位をつけることが重要です。例えば、「まずは顧客接点のデジタル化から」「データ分析基盤の整備を最優先で」といった具体的な方針を定めます。

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ステップ4:ITロードマップを作成し、予算配分を見直す

ステップ1〜3を踏まえ、中長期的な視点でのIT投資計画(ロードマップ)を作成します。そして、そのロードマップに基づき、単年度のIT予算配分を見直します。「守り」の効率化で生まれた原資を、計画的に「攻め」の領域へとシフトしていくイメージです。一度決めたら終わりではなく、定期的に見直し、戦略や状況の変化に合わせて柔軟に調整していくことが大切です。

ステップ5:効果測定と継続的な改善

実施したIT投資(特に「攻め」)の効果を測定し、評価する仕組みを構築します。ROI(投資対効果)だけでなく、業務プロセス改善度、顧客満足度、従業員満足度など、多角的な視点で評価し、その結果を次の投資計画や改善活動に活かしていくPDCAサイクルを回します。

バランスを取る上での注意点【入門編】

最適なバランスを目指す過程で、陥りやすい罠や注意点もいくつかあります。

  • 「攻め」の短期的な成果を求めすぎない: 「攻めのIT」投資は、効果が出るまでに時間がかかる場合も多いです。短期的なROIばかりを追求すると、本質的な変革に必要な中長期的な投資ができなくなる可能性があります。
  • 「守り」の重要性を軽視しない: 「攻め」に注力するあまり、「守り」の投資を削減しすぎると、セキュリティリスクの増大やシステム障害を招きかねません。基盤としての安定性は常に確保する必要があります。
  • 既存システムのブラックボックス化を放置しない: 老朽化・複雑化した既存システム(レガシーシステム)は、「守り」のコストを増大させ、「攻め」の足かせとなります。見て見ぬふりせず、計画的な刷新やモダナイゼーション(近代化)を検討することも重要です。
  • IT部門と事業部門の連携不足: IT投資のバランスは、IT部門だけで決められるものではありません。事業部門のニーズや課題を理解し、連携しながら進めることが成功の鍵です。

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Google Cloud / Google Workspace はどう役立つか?

モダンなクラウドプラットフォームであるGoogle Cloud や、コラボレーションツール群である Google Workspace は、「守り」と「攻め」の両面で企業のIT投資バランス最適化に貢献できます。

  • 「守りのIT」効率化: Google Cloud のインフラ(IaaS/PaaS)を活用することで、サーバー管理や運用負荷を大幅に削減できます。また、Google Workspace は、メール、カレンダー、オンラインストレージ、ビデオ会議などの機能をクラウドベースで提供し、常に最新のセキュリティ対策が施されるため、運用管理の手間を軽減します。
  • 「攻めのIT」推進: Google Cloud は、AI、機械学習、ビッグデータ解析など、最先端のテクノロジーを低コストかつスピーディーに利用できる基盤を提供します。これにより、データ活用や新規サービス開発といった「攻め」の取り組みを加速できます。Google Workspace は、場所にとらわれない柔軟な働き方や、部門を超えたコラボレーションを促進し、イノベーションを生み出す土壌を育みます。

これらのツールをうまく活用することで、「守り」のコストを最適化しつつ、「攻め」の活動を加速させる、理想的なバランスに近づけることが可能です。

XIMIXによる支援

「守りのIT」と「攻めのIT」のバランスを取る重要性は理解できても、

  • 「自社の現状のバランスがどうなっているか、客観的に把握できない」
  • 「守りのITをどう効率化すれば良いか分からない」
  • 「攻めのITとして、何に投資すべきか優先順位がつけられない」
  • 「クラウド移行を進めたいが、ノウハウがない」

といったお悩みを抱えている企業様も多いのではないでしょうか。

私たちNI+Cが提供する XIMIX は、そのような課題を解決し、お客様のDX推進とIT投資の最適化をご支援します。

  • ITアセスメントサービス: お客様の現在のIT資産、運用状況、コスト構造を分析し、課題と改善の方向性を明確にします。
  • Google Cloud / Google Workspace 導入・活用支援: クラウド移行による「守り」の効率化から、データ分析基盤構築やAI活用といった「攻め」の領域まで、Google Cloud と Google Workspace を最大限に活用するための導入・構築・運用支援を提供します。

NI+Cは、長年にわたり多くの企業のIT基盤構築やDX推進を支援してきた実績があります。Google Cloud に関する高度な知見と経験に基づき、お客様の状況に合わせた最適なIT投資バランスの実現をサポートします。

XIMIXのGoogle Workspace 導入支援についてはこちらをご覧ください。
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まとめ

DX時代の企業経営において、「守りのIT」と「攻めのIT」のバランスを最適化することは、持続的な成長のための重要な経営課題です。どちらか一方に偏ることなく、安定した事業基盤の上で、未来への投資を戦略的に行っていく必要があります。

本記事では、その基本的な考え方として、それぞれの定義、バランスの重要性、現状把握の方法、そして最適化に向けたステップを解説しました。特に、「守り」の効率化・最適化によって「攻め」の原資を生み出すという視点は、多くの企業にとって有効なアプローチとなるでしょう。

まずは自社のIT投資の現状を見つめ直し、経営戦略との整合性を確認することから始めてみてはいかがでしょうか。そして、Google Cloud のようなモダンなテクノロジーを活用することも視野に入れながら、自社にとっての最適なバランスを追求していくことが、DX成功への近道となるはずです。