【この記事の結論】
情シス部門の慢性的な人手不足を根本的に解消する第一歩は、全業務の棚卸しを行い「やめられる仕事」を特定することです。棚卸しした業務を「ビジネスインパクト」と「代替可能性」の2軸で仕分ける「情シス業務トリアージマップ」を活用すれば、感覚ではなくロジックで削減対象を判断できます。Google WorkspaceやGoogle Cloudのマネージドサービスを受け皿として活用することで、やめた業務の機能を損なわずに情シスのリソースを戦略業務へ集中させることが可能です。
「日々のヘルプデスク対応に追われ、DX推進どころではない」「退職者が出るたびに、引き継ぎ資料のないシステムの保守で混乱が生じる」——こうした声は、多くの企業の情報システム部門(情シス)から聞こえてきます。
IPA(独立行政法人情報処理推進機構)が公表する「DX白書」では、DX推進を阻む課題として「人材不足」が日本企業で高い割合を占めています。しかし、採用市場が厳しい中で人員を増やすことだけが解決策ではありません。
むしろ、今ある業務の中から「本当はやめられる仕事」を見つけ出し、情シスが本来注力すべき戦略業務にリソースを振り向けることが、現実的かつ即効性の高いアプローチです。
本記事では、情シス業務の棚卸しを具体的に進める方法と、棚卸し結果から「やめる仕事」を論理的に判断するためのフレームワーク、そしてGoogle WorkspaceやGoogle Cloudを活用した具体的な業務削減の実践手法を解説します。
情シス部門の業務範囲は、この10年で劇的に拡大しました。従来のインフラ運用・保守に加え、クラウド移行、セキュリティ対策の高度化、SaaS管理、リモートワーク環境の整備、そしてDX推進の旗振り役まで求められています。経済産業省が警鐘を鳴らす「2025年の崖」問題も、レガシーシステムの維持に情シスのリソースが吸い取られている構図を端的に示しています。一方で、IT人材の供給は現在、追いついていません。
この「業務は増え、人は増えない」という構造的なギャップを、気合いと残業で埋め続けることには限界があります。必要なのは「足し算」ではなく「引き算」の発想——つまり、やらなくていい仕事を見つけてやめることです。そのための出発点が、業務棚卸しです。
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「業務効率化」というと、ツール導入やRPA(ロボティック・プロセス・オートメーション、ソフトウェアロボットによる定型業務の自動化)の適用をまず考えがちです。
しかし、現場で頻繁に見られるのは、「そもそも不要な業務を自動化してしまう」という本末転倒なケースです。
不要な業務を高速で回しても、生み出される価値はゼロのままです。業務全体を俯瞰し、「この仕事はそもそも必要か?」という問いを最初に立てなければ、効率化投資のROI(投資対効果)は大きく毀損します。棚卸しとは、この「そもそも」を問うための土台なのです。
最初のステップは、情シス部門が抱えるすべての業務を一つ残らずリストアップすることです。ポイントは、公式な業務分掌に載っている仕事だけでなく、「なんとなく情シスがやっている」暗黙の業務まで含めることです。
具体的には、以下のような粒度で洗い出します。
洗い出しの方法としては、メンバー各自に1〜2週間の業務日報を付けてもらう方法が有効です。Google スプレッドシートで共有テンプレートを作り、「業務名」「所要時間」「頻度」「対応者」「関連システム」を記録してもらいます。
洗い出した業務に対して、月間の概算工数(時間)を付与します。ここで重要なのは、「体感」ではなく「記録」に基づくことです。ヘルプデスク対応のように件数が多い業務は、1件あたりの平均対応時間×月間件数で算出します。
同時に、業務間の依存関係も確認します。「この業務をやめたら、別の業務に支障が出るか?」を整理しておくことで、後の仕分けフェーズでの判断精度が上がります。
棚卸しの最大の難所は、リストアップした業務を「やめる」「やめない」に仕分けるフェーズです。ここで感覚に頼ると、声の大きい担当者の業務が温存され、本来削減すべき業務が残り続けます。
そこで活用いただきたいのが、以下の「情シス業務トリアージマップ」です。縦軸に「ビジネスインパクト(その業務が止まった場合の事業への影響度)」、横軸に「代替可能性(ツール・サービス・他部門で代替できる度合い)」を取り、4象限に業務を配置します。
| 代替可能性:高 | 代替可能性:低 | |
|---|---|---|
| ビジネスインパクト:高 | ② 自動化・委託ゾーン — 影響は大きいが、ツールや外部サービスで代替可能。積極的に自動化・アウトソースし、情シスは監督に回る |
④ 戦略集中ゾーン — 影響が大きく、情シスの専門性が不可欠。ここにリソースを集中させるべきコア業務 |
| ビジネスインパクト:低 | ① 廃止ゾーン — 影響が小さく代替も容易。真っ先にやめる候補。やめても誰も困らない可能性が高い |
③ 簡素化ゾーン — 影響は小さいが代替しにくい。頻度削減や手順簡素化で工数を最小化する |
この4象限マップを使うことで、「やめる」判断に客観的な根拠が生まれます。経営層への説明時にも、「ビジネスインパクトが低く代替可能な業務から優先的に廃止します」というロジックが成立し、合意形成がスムーズになります。
情シス業務トリアージマップの①廃止ゾーンと②自動化・委託ゾーンに該当しやすい業務を、具体的に見ていきましょう。
社員の入退社に伴うアカウント作成・削除・権限変更は、多くの情シスで大きな工数を占めています。Google Workspaceの管理コンソールとGoogle Apps Script(Admin SDK)を組み合わせれば、人事システムから出力したCSVをスプレッドシート経由で読み取り、定期実行トリガーでアカウント操作を自動化できます。さらに、Cloud IdentityのDirectory APIとHR系SaaSのAPIを連携すれば、人事異動の情報をタイムリーにアカウントへ反映する仕組みも構築可能です。
これは「やめる」というよりも「人がやる必要がなくなる」業務の典型例です。
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新入社員や異動者へのPC手配と初期設定に、1台あたり数時間を費やしている現場は少なくありません。
ChromeOSデバイス(Chromebook)とGoogle Workspace環境であれば、ゼロタッチ登録(デバイスの電源を入れてネットワークに接続するだけで、事前に設定したポリシーとアプリが自動適用される仕組み)を利用できます。
Windows環境では、Chrome Enterprise Premiumを活用したブラウザベースの業務環境構築により、端末依存を軽減した業務環境を実現し、キッティング工数を削減できます。
「パスワードを忘れた」「VPNの接続方法がわからない」「○○システムの使い方を教えてほしい」——こうした定型的な問い合わせが情シスの工数を圧迫していることは、多くの方が実感されているでしょう。
Google Workspaceを導入している環境であれば、Gemini for Google Workspace(Google Workspaceに統合された生成AIアシスタント)やNotebookLMが社内ドキュメントやメールの内容を学習し、社員からの問い合わせに自動で回答する仕組みを構築できます。
また、Google チャットにボットを設置してFAQへの自動回答を実現する方法もあります。まずは問い合わせ内容を分析し、上位を占める定型質問からAIチャットボットに移管することで、情シスメンバーが対応すべき問い合わせを「判断が必要な非定型のもの」だけに絞り込めます。
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棚卸しを行うと、ほぼ確実に発見されるのが「誰も使っていないシステム」や「誰も読んでいないレポート」の存在です。過去の経緯で導入されたものの利用者がゼロに近いシステム、形骸化した月次レポート、使われていない社内ポータルのページ更新——こうした業務は、廃止しても事業に影響を与えません。
発見のコツは、Google Workspaceの管理コンソールにある利用状況レポートや、Google Cloudの監査ログを確認することです。アクセスログが一定期間ゼロのシステムやドキュメントは、廃止候補として即座にリストアップできます。
業務をやめる判断ができたとしても、「やめた後に問題が起きないか」という不安がブレーキになることがあります。この不安を解消するには、「やめる」と同時に「代わりの仕組み」を用意しておくことが重要です。
多くの「やめられる仕事」は、実はGoogle Workspaceの標準機能で十分にカバーできます。
| やめる業務 | 代替手段(Google Workspace) | 情シスへの影響 |
|---|---|---|
| 手動のアカウント管理 | 管理コンソール + Apps Script / Cloud Identityによる自動化 | 作業工数の削減 |
| PCキッティング | Chromebook + ゼロタッチ登録 / Chrome Enterprise Premium | 作業工数の削減 |
| 定型ヘルプデスク対応 | Gemini for Workspace / Google Chat ボット | 対応件数を大幅削減 |
| ファイルサーバー運用 | Google ドライブ(共有ドライブ)への移行 | サーバー保守が不要に |
| 会議室予約管理 | Google カレンダーのリソース管理機能 | 情シス関与不要に |
オンプレミスのサーバー運用やデータベース管理といった「やめたいが影響が大きい」業務(トリアージマップの②自動化・委託ゾーン)には、Google Cloudのマネージドサービス(クラウド事業者がインフラの運用・保守を代行するサービス形態)が有効です。
たとえば、自社運用のデータベースをCloud SQLやAlloyDBに移行すれば、パッチ適用、バックアップ、スケーリングといった運用業務をGoogleに委ねることができます。仮想サーバーの管理にリソースを取られている場合は、Cloud RunやGoogle Kubernetes Engine(GKE)などのコンテナ基盤に移行することで、インフラ管理の負荷を下げられます。
ここでのポイントは、「やめる」のは「情シスが手を動かすこと」であり、「ビジネスに必要な機能」をやめるわけではないという点です。機能はクラウドに移転し、情シスは「どう使うか」の戦略立案に集中する——これが理想的な姿です。
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業務棚卸しと廃止の取り組みは、現場の情シスメンバーだけでは推進しきれません。「なぜやめるのか」を経営層に理解してもらい、トップダウンの承認を得ることが不可欠です。
その際に最も効果的なのは、棚卸し結果を「数字」で示すことです。具体的には、「廃止ゾーンの業務に月間○○時間(年間○○万円相当の人件費)を費やしている」「この時間を戦略業務に振り向ければ、DXプロジェクトの進捗が○ヶ月短縮できる」といった試算を提示します。情シス業務トリアージマップに工数データを重ねることで、視覚的にも説得力のある資料になります。
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棚卸しの結果、廃止候補が大量に出てきたとしても、一気にすべてをやめるのはリスクが高い進め方です。実務上推奨されるのは、以下の段階的なアプローチです。
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業務棚卸しは、一度実施すれば終わりではありません。新しいシステムの導入、組織変更、法規制の変化などによって情シスの業務は常に変動します。四半期に一度、または半期に一度のペースで棚卸しを再実施し、トリアージマップを更新する仕組みを作ることが、継続的な業務最適化には欠かせません。
Google スプレッドシートやGoogle サイトで業務台帳を共有管理し、定期的にレビューするサイクルを回すことで、「気づいたらまた業務が増えていた」という事態を防げます。
ここまで、情シス業務の棚卸しと「やめる仕事」の見極め方を解説してきました。しかし、実際にこのプロセスを自社だけで推進するのは容易ではありません。日常業務をこなしながら棚卸しの時間を確保すること自体が難しく、また「この業務は本当にやめても大丈夫か?」という判断には、多くの企業での導入・移行実績に基づく知見が必要です。
XIMIXは、多くの中堅・大企業のIT環境整備とDX推進を支援してきました。Google Workspace / Google Cloudを活用した自動化・移行の設計・実装までを一気通貫でご支援いたします。
特に以下のような課題をお持ちの企業様に、XIMIXのご支援が効果的です。
情シスの「やめられる仕事」を見つけ出し、戦略業務にリソースを集中できる体制を構築することは、単なるコスト削減ではなく、企業全体のDX推進速度を加速させる投資です。現状の業務負荷を放置し続ければ、担当者の疲弊と離職リスクが高まるだけでなく、競合他社との差が開いていくことにもなりかねません。
まずは現状の課題やお悩みをお聞かせください。XIMIXが、貴社の情シス業務改革の最適な進め方をご一緒に考えます。
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情シスの業務棚卸しは、まず全メンバーに1〜2週間の業務日報を記録してもらい、定常業務・非定常業務・暗黙の業務をすべて洗い出すことから始めます。次に各業務の月間工数を算出し、「ビジネスインパクト」と「代替可能性」の2軸で優先度を仕分けることで、やめるべき業務を客観的に特定できます。
代表的な例として、利用者がゼロに近いシステムの保守運用、手動でのアカウント作成・削除作業、定型的なヘルプデスク対応(パスワードリセットや操作案内)、形骸化した月次レポートの作成、手動のPCキッティング作業などが挙げられます。これらは自動化やクラウドサービスへの移行で代替可能です。
棚卸し結果を「月間○○時間、年間○○万円相当の人件費」のように数値化して提示することが効果的です。加えて、「削減した時間をDX推進やセキュリティ強化に振り向けることで得られる事業効果」を具体的に示すことで、単なるコスト削減ではなく戦略的な投資として経営層の理解を得やすくなります。
段階的なアプローチが重要です。まず影響がほぼゼロの業務(利用者ゼロのシステム停止等)から着手し、成功体験を積んでから段階的に範囲を広げます。また、業務を「やめる」のではなく「人がやることをやめてツールやクラウドに移転する」という考え方で、Google Workspaceの自動化機能やGoogle Cloudのマネージドサービスを受け皿として設計することで、機能を維持しつつ情シスの負荷を下げられます。
本記事では、情シス部門の慢性的なリソース不足を解消するために、業務棚卸しによって「やめられる仕事」を見つけ出す方法を解説しました。要点を振り返ります。
情シスの業務改革は、「いつかやろう」と先送りするほど、既存業務の慣性が強まり着手のハードルが上がっていきます。まずは小さな範囲からでも棚卸しを始め、Quick Winを積み重ねることが、組織全体の変革を動かすきっかけになります。
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