コラム

なぜHPCにGoogle Cloud?メリット・コスト・活用例をわかりやすく解説

作成者: XIMIX Google Cloud チーム|2025,04,27

はじめに:DXの成否を分ける「計算能力」の壁

デジタルトランスフォーメーション(DX)を推進する上で、多くの企業が「データ活用」の重要性を認識しています。しかし、その裏側で「膨大な計算処理能力(コンピュートリソース)」という、壁に直面していないでしょうか。

製品開発の高度なシミュレーション、AIによる大規模なデータ解析、金融市場の精密なモデリング――。イノベーションを創出し、競争優位性を確立するためには、従来のコンピューターでは処理しきれない計算能力、すなわちHPC(ハイパフォーマンスコンピューティング)が不可欠です。

しかし、自社でHPC環境を構築・維持するオンプレミス型は、莫大な初期投資と専門人材の確保、運用負荷の増大という根深い課題を抱えます。

「計算需要のピークに合わせて設備投資したが、平常時は遊休資産となりコストを圧迫している」 「最新のGPUを導入したいが、調達と更新のサイクルがビジネスのスピードに追いつかない」

私たちNI+Cは、長年お客様のインフラ構築をご支援する中で、こうした切実な声を数多くお聞きしてきました。

この記事では、このような課題を抱えるDX推進担当者や決裁者の皆様へ、解決策としての「クラウドHPC」、そして「なぜHPC基盤としてGoogle Cloudが最適解となり得るのか*を、具体的なメリットや活用例を交えながら分かりやすく解説します。

HPC基盤にGoogle Cloudが選ばれる5つの戦略的メリット

数あるクラウドサービスの中で、なぜGoogle CloudはHPC基盤として多くの先進企業から選ばれているのでしょうか。それは、単なるコスト削減や効率化に留まらない、事業成長を加速させる戦略的な価値があるためです。

メリット1:ビジネスの速度を落とさない、圧倒的なスケーラビリティ

HPCの要件は常に変動します。例えば、新製品の設計開発フェーズでは数千コア規模の計算が短期間に集中し、解析が終われば需要は落ち着きます。オンプレミスでは、このピーク需要に合わせたリソースを常に抱える必要があり、大きな非効率を生んでいました。

Google Cloudは、世界最大級のインフラを背景に、必要な時に必要なだけ、数万コア規模の計算リソースをわずか数分で確保できます。需要がなくなれば即座に縮小できるため、リソースの無駄を徹底的に排除し、ビジネスの要求スピードに俊敏に対応可能です。

関連記事:スケーラビリティとは?Google Cloudで実現する自動拡張のメリット【入門編】

メリット2:コストを最適化するインテリジェントな料金体系

クラウドのコストは「使い方」で大きく変わります。Google Cloudは、企業のHPC活用を強力に後押しする、戦略的な料金オプションを提供しています。

  • Spot VMs(旧: プリエンプティブルVM): 標準インスタンスより最大91%割引という、非常に低価格で利用できるインスタンスです。中断される可能性はありますが、チェックポイント機能を持つバッチ処理など、中断耐性のあるワークロードで活用することで、計算コストを劇的に削減できます。

  • 継続利用割引・確約利用割引: 長期的に安定したリソースを利用する場合、自動的に適用される割引や、コミットメントによる大幅な割引が用意されており、予測可能なコストでの運用を可能にします。

これらの柔軟な料金体系を組み合わせることで、オンプレミスでは実現困難だったコスト効率の高いHPC環境を構築できます。

関連記事:Google Cloud料金体系をわかりやすく解説!課金の仕組みとコスト管理の基本

メリット3:AI/MLとのシームレスな統合による相乗効果

Google Cloudの最大の強みは、Vertex AIに代表される最先端のAI・機械学習(ML)プラットフォームとの親和性です。これは、AWSやAzureといった他の主要クラウドと比較しても際立った特徴と言えます。

例えば、以下のような高度な連携が可能です。

  • 製造業: HPCで行った衝突解析シミュレーションの膨大な結果を、AIで分析して最適な設計パラメータを自動で発見する。

  • ライフサイエンス: HPCでゲノム解析を行い、その結果をAI創薬プラットフォームで活用して新薬開発を加速させる。

HPCとAI/MLを同じプラットフォーム上でシームレスに連携させることで、単なる計算の高速化に留まらない、データ主導の新たな価値創出(データドリブンDX)を実現します。

関連記事:データドリブン経営の実践:Google Cloud活用によるデータ活用ROI最大化への道筋

メリット4:常に最先端を走る高性能インフラ

HPCでは、CPUやGPUの性能だけでなく、ノード(計算機)間を繋ぐネットワークや、データへのアクセスを担うストレージの速度も極めて重要です。

Google Cloudは、Google自身のサービスを支える高性能ネットワーク技術を応用しており、大規模な並列計算における通信の遅延を最小限に抑えます。また、高性能な永続ディスクやスケーラブルなオブジェクトストレージなど、多様なストレージオプションを提供。常に最新・最速のインフラを、自社で資産を抱えるリスクなく利用できることは、技術革新の速い現代において大きなアドバンテージです。

メリット5:大企業も安心して利用できる堅牢なセキュリティ

企業の機密情報や研究開発データを扱うHPCにおいて、セキュリティは最優先事項です。Google Cloudは、ゼロトラストモデルに基づいた多層的な防御機構と、ISO 27001やSOC 2/3といった国際的なコンプライアンス認証に準拠した、世界最高水準のセキュリティを提供します。

これにより、最も機密性の高いワークロードであっても、安心してクラウド上で実行できる環境が整っています。

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Google Cloud HPCが実現する事業価値|具体的な導入効果

Google CloudのHPC基盤を活用することで、企業は具体的にどのような価値を得られるのでしょうか。業界別の導入効果を見ていきましょう。

製造業:開発リードタイムの劇的短縮と品質向上

製品設計における構造解析や流体解析(CFD)といったシミュレーションは、HPCの代表的な活用分野です。

  • 効果: Google Cloudの圧倒的なスケーラビリティを活用すれば、従来は一晩かかっていた解析を数時間に短縮できます。これにより、より多くの設計パターンを試行錯誤できるようになり、開発期間を数週間から数ヶ月単位で短縮しつつ、製品品質を向上させることが可能です。Spot VMsを活用すれば、コストを抑えながら試行回数を増やすといった戦略もとれます。

金融・保険:高度なリスク分析と意思決定の迅速化

金融市場の価格変動予測や、保険数理におけるリスク評価モデルには、膨大な計算が伴います。

  • 効果: オンプレミスでは計算に時間がかかり、1日に1回しか実行できなかったリスク分析を、Google Cloud上で数時間ごとに実行可能になります。市場の変動に対して、よりタイムリーで高精度な分析結果に基づいた意思決定が行えるようになり、収益機会の最大化とリスクの最小化に貢献します。

ライフサイエンス・研究開発:イノベーションの加速

ゲノム解析や創薬シミュレーションなど、研究開発(R&D)はまさにHPCが主戦場となる領域です。

  • 効果: 大規模なデータセットを用いた解析を、必要な期間だけ強力なHPC環境で実行できます。さらに、Vertex AIと連携して解析結果から新たな知見を抽出することで、人間では見出せなかった新薬候補の発見や、新素材開発のブレークスルーを加速させることが期待できます。

そもそもHPCとは?クラウドが選ばれる理由(基礎知識)

ここで改めて、HPCとクラウドHPCの基本的な知識について、簡単におさらいします。すでにご存知の方は次の章へお進みください。

HPC(ハイパフォーマンスコンピューティング)とは?

 

HPCとは、日本語で「高性能計算」と訳され、一般的なコンピューターでは現実的な時間で解くことができない、大規模で複雑な計算問題を高速に処理する技術全般を指します。多数の高性能プロセッサを連結させたコンピューターシステムを利用し、科学技術計算から産業利用まで、幅広い分野のイノベーションを支えています。

 

なぜ今、HPCに「クラウド」が不可欠なのか?

 

従来、HPCは大学や大企業が自社内にスーパーコンピューターを設置する「オンプレミス型」が主流でした。しかし、このモデルには以下のような課題がありました。

  • 莫大なコスト: 高額なハードウェア購入費、設置費用、維持管理費(電気代、冷却費、人件費)。

  • 柔軟性の欠如: 一度導入すると、需要の増減に合わせてリソースを柔軟に変えることが難しい。

  • 運用負荷: 専門知識を持つ人材による、24時間365日の保守・運用が必要。

これらの課題を解決するのが「クラウドHPC」です。クラウド事業者が提供するHPCリソースを利用することで、企業は「必要な時に、必要な分だけ、高性能な計算能力を借りる」ことが可能になり、コストと柔軟性の問題を劇的に改善できます。事実、世界のHPC市場はクラウドへの移行が加速しており、調査会社のHyperion Researchによると、2024年にはHPC市場全体の約25%がクラウドで消費されると予測されています。

よくある課題とXIMIXによる導入・活用支援

Google CloudのHPCが強力な選択肢であることはご理解いただけたかと思います。しかし、実際に導入を進める上では、新たな課題に直面するケースも少なくありません。

クラウドHPC導入における「よくあるつまずき」

  • 構成の課題:「自社の処理内容に最適なVMインスタンスやストレージの種類がわからない」
  • 移行の課題:「オンプレミスで稼働中のアプリケーションやデータをどうやってクラウドに移行すればいいのか」
  • コストの課題:「従量課金制は不安。どうすればコストを最適化できるのか具体的な運用方法が知りたい」
  • 技術連携の課題:「HPCとAIを連携させたいが、自社にノウハウがない」

このようなお悩みに対し、私たちXIMIX(NI+C)は、お客様のビジネスと技術の両面から課題解決を強力にサポートします。

XIMIXが提供する伴走型支援

NI+Cは、Google Cloudの認定パートナーとして、中堅・大企業様のDX推進をご支援してきた豊富な実績と、長年のインフラ構築で培った技術力を有しています。お客様のビジネス要件を深く理解した上で、以下のようなサービスをワンストップで提供します。

  • 導入コンサルティング: 現状分析から最適なアーキテクチャ設計、コストの試算まで、導入計画全体を具体化します。
  • 構築・移行支援 (SI): オンプレミス環境からの安全なデータ・アプリケーション移行を含め、お客様に最適なHPC環境を構築します。
  • 運用・保守とコスト最適化: 継続的なパフォーマンス監視や、Spot VMsの活用提案など、プロの視点でコスト効率の最大化を支援します。
  • AI/ML連携支援: お客様のデータを価値に変える、HPCとAIを組み合わせた高度な分析基盤の構築をご支援します。

専門家の伴走支援により、お客様はクラウドHPC導入のハードルを乗り越え、そのメリットを最短距離で最大化することが可能です。

Google CloudでのHPC導入や活用に少しでもご興味をお持ちでしたら、ぜひお気軽にXIMIXまでご相談ください。 

XIMIXのGoogle Workspace 導入支援についてはこちらをご覧ください。
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まとめ

本記事では、HPCの基礎知識からクラウド化のメリット、そしてHPC基盤としてGoogle Cloudが選ばれる理由までを、具体的な効果を交えて解説しました。

この記事のポイント:

  • HPCは、製品開発や研究、金融分析など、企業の競争力を左右する分野で不可欠な計算技術です。
  • クラウドHPCは、オンプレミスの課題(高コスト・硬直性)を解決し、ビジネスの俊敏性を高める現代的なアプローチです。
  • Google Cloudは、その圧倒的な「スケーラビリティ」「コスト効率」「AI/MLとの親和性」といった強みから、HPC基盤として極めて有力な選択肢です。

HPCのクラウド移行は、単なるインフラコストの削減に留まりません。それは、企業のデータ活用レベルを一段階引き上げ、AIドリブンな意思決定を可能にし、DXを真に加速させるための戦略的投資です。

この記事が、貴社における計算リソースの課題解決と、Google Cloud活用の可能性を探る一助となれば幸いです。