コラム

【入門編】脅威インテリジェンスとは?知っておくべきサイバーセキュリティ対策の新たな羅針盤

作成者: XIMIX Google Cloud チーム|2025,08,12

はじめに

サイバー攻撃は年々巧妙化・高度化し、今や事業継続を揺るがす重大な経営リスクとして認識されています。ランサムウェアによる生産停止やサプライチェーンへの影響は、金銭的損失だけでなく、企業の信頼をも大きく損ないます。

このような状況下で、従来の「問題が起きてから対応する」事後対応型のセキュリティ対策だけでは、自社を守り切ることは困難です。そこで今、注目を集めているのが「脅威インテリジェンス(Cyber Threat Intelligence, CTI)」です。

本記事では、企業のDX推進を担う決裁者の皆様に向けて、以下の点を分かりやすく解説します。

  • 脅威インテリジェンスの基本的な概念と、それがなぜ経営課題なのか

  • 導入によって得られる具体的なビジネス価値と投資対効果(ROI)

  • 実践的な活用シーンと、導入を成功させるための重要なポイント

  • Google Cloudを活用した次世代の脅威インテリジェンスの姿

この記事を読めば、脅威インテリジェンスが単なるセキュリティ用語ではなく、未来のビジネス環境を予測し、プロアクティブ(予防的)な意思決定を可能にする「経営の羅針盤」であることがご理解いただけるはずです。

そもそも脅威インテリジェンス(CTI)とは?

脅威インテリジェンスとは、サイバー攻撃に関する様々な情報を収集・分析し、「自社にとってどのような脅威が、いつ、どのように、なぜ攻撃を仕掛けてくる可能性があるか」を予測・評価するために加工された、戦略的な知見(インテリジェンス)のことです。

単なる「脅威情報」との決定的な違い

ここで重要なのは、脅威インテリジェンスは、単なる「脅威情報(データ)」とは異なるという点です。

  • 脅威情報(データ): マルウェアのシグネチャ、攻撃に使われたIPアドレス、脆弱性情報など、断片的な事実のリスト。

  • 脅威インテリジェンス: 上記の脅威情報を収集し、「攻撃者の動機・目的」「攻撃手法(TTPs)」「標的となりやすい業界や地域」といった文脈(コンテキスト)を加えて分析・評価したもの。

例えるなら、「〇〇交差点で事故多発」という情報が「脅威情報」だとすれば、「雨の日の夕方、〇〇交差点では視界不良による右折時の事故が多発している。特に△△方面からの車両が危険」という分析結果が「脅威インテリジェンス」です。後者の方が、より具体的で実践的な対策(=早めのライト点灯、慎重な運転)に繋がることは明らかでしょう。

なぜ今、脅威インテリジェンスが経営課題となるのか?

現代のビジネスはデジタル技術なしには成り立ちません。その裏返しとして、サイバー攻撃の被害はITシステム内の問題に留まらず、事業全体に深刻な影響を及ぼします。

独立行政法人情報処理推進機構(IPA)が発行した「情報セキュリティ10大脅威」においても、「ランサムウェアによる被害」や「サプライチェーンの弱点を悪用した攻撃」が組織編の上位を占めており、個社だけの対策では防ぎきれない巧妙な攻撃が増加していることが示唆されています。

脅威インテリジェンスは、こうした見えにくい脅威を可視化し、「我々は次に何に備えるべきか」という問いに答えるためのものです。これはもはや情報システム部門だけの課題ではなく、事業継続計画(BCP)やリスクマネジメントと一体で考えるべき、重要な経営課題なのです。

脅威インテリジェンスがもたらすビジネス価値

脅威インテリジェンスの導入は、単にセキュリティを強化するだけでなく、経営に直結する具体的な価値をもたらします。

価値1:プロアクティブ(予測・予防型)なセキュリティ対策の実現

最大の価値は、セキュリティ対策の姿勢を「受動的」から「能動的」へと転換できる点です。自社が属する業界や利用しているシステムを狙う攻撃者の動向を事前に察知することで、以下のような先回りした対策が可能になります。

  • 攻撃者が悪用する可能性の高い脆弱性に、優先順位をつけてパッチを適用する。

  • フィッシング攻撃の新たな手口を把握し、従業員へ具体的な注意喚起を行う。

  • 新たなマルウェアの攻撃手法に基づき、防御システム(ファイアウォールやEDRなど)の設定を最適化する。

これにより、インシデントの発生を未然に防ぎ、事業停止リスクを大幅に低減できます。

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価値2:セキュリティ投資の最適化(ROI向上)

「セキュリティ対策に終わりはない」と言われるように、投資は増大しがちです。しかし、決裁者としては、その投資対効果(ROI)を常に問われます。

脅威インテリジェンスは、「自社にとって本当にリスクが高い脅威は何か」を特定するのに役立ちます。これにより、限られた予算と人材を、最も効果的な対策に集中させることが可能になります。「流行っているから」という理由で高価なツールを導入するのではなく、自社のリスクに即した、根拠のあるセキュリティ投資判断が下せるようになるのです。

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価値3:インシデント対応の迅速化と高度化

万が一インシデントが発生してしまった場合でも、脅威インテリジェンスはその真価を発揮します。

攻撃者の目的や手法に関する知見があれば、「これは単なる愉快犯か、特定の情報を狙った標的型攻撃か」を迅速に判断し、対応の優先順位を決定できます。これにより、被害の拡大を最小限に食い止め、復旧までの時間を短縮することが可能です。これは、顧客や取引先からの信頼を維持する上で極めて重要です。

【種類別】脅威インテリジェンスの活用シーン

脅威インテリジェンスは、その目的や利用部門に応じて、大きく3つの種類に分類されます。それぞれの役割を理解することで、自社での具体的な活用イメージが湧きやすくなります。

種類 主な利用者 目的・活用シーン
戦略的インテリジェンス 経営層、CISO、事業部長 中長期的なセキュリティ戦略や投資計画の策定。サイバーリスクの事業影響評価。
戦術的インテリジェンス セキュリティ管理者、アーキテクト 攻撃者の具体的な戦術・手法(TTPs)の分析。防御システムの強化、脆弱性の優先順位付け。
運用的インテリジェンス SOC/CSIRTアナリスト 進行中の攻撃の検知・対応。インジケーター(IPアドレス、ドメイン等)を用いた脅威ハンティング。
 

①戦略的インテリジェンス:経営層の意思決定を支援

「今後、我々の業界ではどのようなサイバー攻撃が増加傾向にあるのか?」「競合他社はどのような対策に投資しているのか?」といった、経営レベルの疑問に答えるのが戦略的インテリジェンスです。市場動向や地政学的リスクなども加味した大局的な分析により、説得力のあるセキュリティ戦略と予算計画の立案を支援します。

②戦術的インテリジェンス:セキュリティ部門の防御計画を具体化

「現在流行しているランサムウェアは、どのような手口で侵入してくるのか?」といった、より具体的な脅威に対応するための知見です。攻撃者のツールや攻撃パターンを理解することで、セキュリティ部門はより効果的な防御策を講じ、システムの弱点をプロアクティブに塞ぐことができます。

③運用的インテリジェンス:SOC/CSIRTの現場対応を強化

「今、我々のネットワークに不審な通信があるが、これは既知の攻撃グループによるものか?」といった、日々のセキュリティ監視・運用(SOC)やインシデント対応(CSIRT)の現場で活用される、即時性の高い情報です。これにより、膨大なアラートの中から本当に危険なものを迅速に見つけ出し、的確な初動対応を可能にします。

脅威インテリジェンス活用のよくある落とし穴と成功の鍵

多くの企業を支援してきた経験から、脅威インテリジェンスの導入が必ずしもうまくいくとは限らない実態も見えてきます。ここでは、よくある失敗パターンと、それを乗り越えるための鍵をご紹介します。

陥りがちな3つの罠

  1. 情報の洪水に溺れる: 高価な脅威インテリジェンスフィードを契約したものの、大量の情報が送られてくるだけで、どれが自社にとって重要なのか判断できず、結局活用しきれないケースです。

  2. 分析できる人材がいない: 情報を読み解き、自社の状況と照らし合わせて「次の一手」を考えるには、高度なスキルと経験を持つ専門人材が必要です。しかし、多くの企業ではこのような人材の確保・育成が追いついていません。

  3. 具体的なアクションに繋がらない: 分析結果が出ても、それを具体的な防御策の改善や運用プロセスの変更に繋げる仕組みがなければ、インテリジェンスは「ただのレポート」で終わってしまいます。

成功に導くための3つのポイント

  1. 目的の明確化: 「何のために脅威インテリジェンスを使うのか」を事前に明確にすることが最も重要です。「インシデント対応を迅速化したい」「脆弱性管理を効率化したい」など、具体的な目標を設定することで、必要な情報の種類やレベルが定まります。

  2. 適切なツールの選定と活用: すべての情報を人力で処理するのは不可能です。収集した情報を一元的に管理・分析し、既存のセキュリティ製品と連携させて対策を自動化するプラットフォーム(例: Google Cloud の Chronicle Security Operations)の活用が不可欠です。

  3. 専門家との連携: 自社だけですべてを賄うのが難しい場合は、外部の専門家やサービスを積極的に活用することが成功への近道です。脅威の分析から具体的な対策の提案、運用支援までをトータルで任せられるパートナーを見つけることが、投資対効果を最大化します。

Google Cloudで実現する、脅威インテリジェンス活用のネクストステップ

脅威インテリジンスを効果的に活用するには、質の高いインテリジェンスと、それを処理・活用するための優れたプラットフォームが必要です。その両方を高いレベルで提供するのが、Google Cloudです。

世界トップクラスの脅威インテリジェンスを統合 (Mandiant, VirusTotal)

Google Cloudは、世界最高峰のインシデント対応能力を持つMandiantと、世界最大のマルウェア情報データベースを持つVirusTotalを傘下に収めています。これにより、最新かつ広範な脅威インテリジェンスを、Google Cloudのセキュリティサービス全体で利用できます。最前線のインシデント対応から得られる生々しい知見が、自社の防御力に直結します。

生成AIがセキュリティ運用を革新する「Gemini in Google SecOps」

さらに、Google Cloudはセキュリティ領域においても生成AIの活用を進めています。「Gemini in Google SecOps」は、複雑な脅威インテリジェンスレポートや、セキュリティアラートの分析を自然言語で要約・解説してくれます。

  • 「このアラートが意味することは何か、平易な言葉で教えて」

  • 「この攻撃者グループの常套手段と、推奨される対策は?」

このようにAIと対話することで、専門家でなくとも脅威の状況を迅速に理解し、次にとるべきアクションを判断できるようになります。これは、セキュリティ人材不足という深刻な課題に対する、極めて有効な解決策となり得ます。

脅威インテリジェンスの導入・活用は専門家との連携が成功の近道

ここまで見てきたように、脅威インテリジェンスは企業のセキュリティを次のレベルへ引き上げる強力な武器です。しかし、そのポテンシャルを最大限に引き出すには、明確な戦略と、それを実行するための技術、そして人材が不可欠です。

特に、中堅・大企業においては、既存システムの複雑さや部門間の連携など、独自の課題が存在します。

私たち『XIMIX』は、Google Cloudの専門家集団として、お客様のビジネスとIT環境を深く理解した上で、脅威インテリジェンスの導入・活用をトータルでご支援します。

  • アセスメントと戦略策定: お客様の現状のリスクを評価し、「どこから手をつけるべきか」という目的設定からご支援します。

  • 基盤構築: Chronicle Security OperationsをはじめとするGoogle Cloudのサービスを組み合わせ、お客様に最適な脅威インテリジェンス活用基盤を構築します。

  • 運用支援と高度化: 導入後の運用や、インテリジェンスを活用したプロアクティブな改善活動まで、専門家が伴走し、お客様社内へのノウハウ移転もサポートします。

自社だけで悩む前に、ぜひ一度、私たちにご相談ください。

XIMIXのGoogle Workspace 導入支援についてはこちらをご覧ください。
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まとめ

本記事では、決裁者の視点から「脅威インテリジェンス」について解説しました。

  • 脅威インテリジェンスとは、単なる情報ではなく、分析・評価された「戦略的な知見」である。

  • その価値は、プロアクティブな対策の実現、セキュリティ投資の最適化、インシデント対応の迅速化にある。

  • 経営層から現場まで、それぞれの立場で活用することで、企業全体のセキュリティレベルを向上させる。

  • 導入成功の鍵は、「目的の明確化」「適切なツール活用」「専門家との連携」にある。

  • Google Cloudは、世界クラスのインテリジェンスと生成AIにより、次世代のセキュリティ運用を実現する。

サイバー攻撃のリスクを単なるコストとして捉える時代は終わりました。脅威インテリジェンスへの投資は、不確実な未来の事業環境を乗りこなし、持続的な成長を続けるための戦略的な一手です。自社のセキュリティ対策を次のステージに進めるため、第一歩を踏み出してみてはいかがでしょうか。