コラム

【入門編】データレイクハウスとは?今さら聞けない基本からGoogle Cloudでの実現法まで徹底解説

作成者: XIMIX Google Cloud チーム|2025,07,16

はじめに

企業のデジタルトランスフォーメーション(DX)推進において、データ活用が経営の最重要課題であることは論を俟ちません。しかし、「全社的にデータを活用し、迅速な意思決定や新たなビジネス価値を創出する」という理想を掲げる一方で、現実は「部門ごとにデータが孤立(サイロ化)し、有効活用できていない」というギャップに多くの企業が直面しています。

この記事では、そのギャップを埋めるための強力な解決策として注目される「データレイクハウス」について、その基本からビジネスにもたらす価値、そして導入を成功させるためのポイントまでを、専門家の視点から網羅的に解説します。

本記事をお読みいただくことで、以下のことが理解できます。

  • データレイクハウスがなぜ今、DX推進に不可欠なのか

  • 従来のデータレイクやデータウェアハウス(DWH)との明確な違い

  • 具体的なビジネス価値と、投資対効果(ROI)を高める考え方

  • Google Cloud を活用した実現方法と、その優位性

単なる技術用語の解説ではなく、貴社のデータ戦略を次のステージへ引き上げるための具体的なヒントを提供します。

データ活用における「理想」と「現実」のギャップ

多くの企業がデータドリブン経営を目指す中で、共通の課題に突き当たります。それは、データの「量」は増え続けているにもかかわらず、その「価値」を最大化できていないという現実です。

関連記事:
データドリブン経営とは? 意味から実践まで、経営を変えるGoogle Cloud活用法を解説

多くの企業が直面するデータのサイロ化問題

事業部ごとに最適化されたシステム、長年にわたり改修が重ねられてきた基幹システム、そして日々導入されるSaaS。これらは個別に価値を発揮する一方で、それぞれが独立したデータの「サイロ」となり、全社横断でのデータ活用を阻む大きな壁となっています。

  • マーケティング部門は顧客のウェブ行動履歴を

  • 営業部門はCRMの商談履歴を

  • 生産部門は工場のセンサーデータを

それぞれが個別にデータを蓄積・分析しているため、「ウェブでの顧客行動が、どの営業活動を経て、最終的にどの製品の売上に繋がったのか」といった統合的な分析が困難、あるいは膨大な手間とコストがかかる状態に陥っているのです。

関連記事:
データのサイロとは?DXを阻む壁と解決に向けた第一歩【入門編】

従来型アーキテクチャの限界とは?

このサイロ化問題を解決するため、これまで企業は「データウェアハウス(DWH)」や「データレイク」といったデータ基盤を構築してきました。しかし、これらにも一長一短があり、新たな課題を生むケースも少なくありませんでした。

  • データウェアハウス (DWH): 分析しやすいように構造化されたデータ(例:販売実績、顧客情報など)を格納する「倉庫」。信頼性は高いものの、事前にデータの形式を定義する必要があるため、非構造化データ(画像、動画、SNS投稿など)の扱いは苦手です。また、用途が固定化されやすく、新たな分析ニーズに迅速に対応しづらいという柔軟性の課題がありました。

  • データレイク: あらゆる形式のデータを、加工せずにそのままの形で一元的に蓄積する「湖」。構造化・非構造化を問わず、あらゆるデータをまずは貯めておける高い柔軟性が魅力です。しかし、その自由度の高さ故に、適切な管理(データガバナンス)が行われないと、どこに何があるか分からない「データの沼(データスワンプ)」と化してしまうリスクを抱えていました。

結果として、信頼性は高いが柔軟性に欠けるDWHと、柔軟性は高いが信頼性や管理に課題があるデータレイク、この両者を別々に運用することで、かえってシステムが複雑化し、コストが増大するという新たな問題が発生していたのです。

関連記事:
データレイク・DWH・データマートとは?それぞれの違いと効果的な使い分けを徹底解説
構造データ構造データの分析の違いとは?それぞれの意味、活用上のメリット・デメリットについて解説
データスワンプとは?DXを阻む「データの沼」の原因と対策を解説

データレイクハウスとは?注目の背景と基本的な概念

こうした従来型アーキテクチャの課題を解決するために登場したのが、「データレイクハウス」という新しい概念です。

データレイクハウスの定義:単なる技術用語ではない「戦略」

データレイクハウスとは、データレイクの持つ「大容量かつ多様なデータを低コストで保管できる柔軟性」と、データウェアハウスの持つ「高い信頼性とパフォーマンス、管理機能」を一つのプラットフォームで両立させるアーキテクチャです。

これは単なる技術の組み合わせではなく、「あらゆるデータを一元管理し、誰もが信頼できる形で、高度な分析やAI活用に繋げる」という企業のデータ戦略そのものと言えます。これにより、データのサイロ化を解消し、真のデータドリブン経営を実現するための統一基盤を構築することが可能になります。

「データレイク」と「データウェアハウス」の良いとこ取り

データレイクハウスの特長を、従来の手法と比較してみましょう。

観点

データレイク

データウェアハウス (DWH)

データレイクハウス

得意なデータ

構造化・非構造化データ(全て)

構造化データ

構造化・非構造化データ(全て)

柔軟性

非常に高い

低い(事前定義が必要)

非常に高い

信頼性・品質

低い(管理が煩雑)

非常に高い

高い(ACIDトランザクション対応など)

主な用途

データサイエンティストによる探索的分析、AI/ML

BIツールによる定型レポート、経営分析

BI、AI/ML、リアルタイム分析など全用途

コスト

低コスト

高コスト

コスト効率が良い

 

このように、データレイクハウスは両者のメリットを兼ね備え、デメリットを解消する、まさに「良いとこ取り」のアーキテクチャなのです。

なぜ今、データレイクハウスが注目されるのか

データレイクハウスが単なるIT部門の関心事ではなく、経営アジェンダとして注目される背景には、以下の3つの経営環境の変化があります。

  1. DXによる競争の激化: 市場の変化に迅速に対応し、データを活用した新しい顧客体験やサービスを創出することが、企業の競争優位性を左右する時代になりました。

  2. AI、特に生成AIの台頭: 現在、生成AIのビジネス活用は待ったなしの状況です。高品質なAIを開発・運用するには、その学習データとなる膨大かつ多様なデータへの統一的なアクセスが不可欠であり、データレイクハウスはその最適な基盤となります。

  3. コスト最適化への要求: 経済の先行きが不透明な中、IT投資にも厳しい目が向けられています。データレイクハウスは、複数のデータ基盤を統合することで、TCO(総所有コスト)を削減し、ROIを最大化するアプローチとして期待されています。

データレイクハウスがもたらす具体的なビジネス価値 (ROI)

では、データレイクハウスを導入することは、具体的にどのようなビジネス価値に繋がるのでしょうか。ここではROIの観点から3つの価値を解説します。

価値1: 全社横断のデータ活用による意思決定の迅速化

データのサイロ化が解消され、全てのデータが信頼できる形で一元化されることで、これまで見えなかったインサイト(洞察)を得ることができます。

例えば、「特定のウェブ広告に接触した顧客が、その後どのような店舗行動を取り、最終的にどの商品のLTV(顧客生涯価値)が高くなったか」といった部門横断の分析が容易になります。これにより、マーケティング予算の最適な配分や、より精度の高い営業戦略の立案など、データに基づいた迅速かつ的確な意思決定が可能になります。

関連記事:
データ活用文化を組織に根付かせるには? DX推進担当者が知るべき考え方と実践ステップ

価値2: TCO(総所有コスト)の最適化と運用効率の向上

データレイクとDWHを個別に構築・運用する場合、データの移動や二重管理に伴うコスト、そしてそれぞれの専門知識を持つ人材の確保など、多くの無駄が発生していました。

データレイクハウスによってアーキテクチャをシンプルに統合することで、これらの課題は解決されます。ストレージコストを抑えつつ、データ移動の手間をなくし、運用管理を一元化することで、ITインフラ全体のTCOを大幅に削減することが可能です。

関連記事:
データ分析基盤のコスト肥大の原因と実践的削減アプローチ

価値3: AI・機械学習、特に生成AI活用の基盤構築

データレイクハウスの最も先進的な価値は、AI活用の可能性を飛躍的に高める点にあります。特に、自社独自のデータを用いた高精度な生成AIモデルの構築において、その力は絶大です。

社内に散在するあらゆるデータ(顧客問い合わせ履歴、技術文書、設計図、営業日報など)をデータレイクハウスに集約することで、これらを学習データとしたカスタム生成AIを開発できます。これにより、以下のような革新的なユースケースが実現可能になります。

  • 超高度な社内向け検索エンジン: 「過去のA社との類似案件の提案書と見積もりを提示して」と自然言語で指示するだけで、関連情報を即座に提示。

  • 顧客サービスの自動化・高度化: 問い合わせ内容を瞬時に理解し、過去の対応履歴やマニュアルを基に最適な回答を自動生成。

Google Cloudで実現するデータレイクハウス

データレイクハウスを実現するためのプラットフォームはいくつか存在しますが、ここではNI+Cが専門とする Google Cloud を活用したアプローチをご紹介します。

なぜGoogle Cloud (BigQuery) が選ばれるのか?

Google Cloudがデータレイクハウス基盤として選ばれる理由は、その中核をなすサービス「BigQuery」の圧倒的な性能と柔軟性にあります。

BigQueryは、サーバーレスでフルマネージドなDWHサービスでありながら、Google Cloud Storage (GCS) 上のデータレイクにある多様な形式のデータを直接、高速にクエリできる機能を備えています。つまり、BigQueryはDWHとデータレイクの機能を本質的に内包しており、それ自体が強力なデータレイクハウス基盤として機能するのです。

データの移動(ETL)を最小限に抑え、ストレージとコンピューティングを分離したアーキテクチャにより、コストを最適化しながら、ペタバイト級のデータに対しても数秒で結果を返す驚異的なパフォーマンスを発揮します。

関連記事:
【入門編】BigQueryとは?できること・メリットを初心者向けにわかりやすく解説

具体的なアーキテクチャ例と主要サービス

Google Cloudでデータレイクハウスを構築する際の、シンプルな構成例です。

  • データレイク層 (Storage): Cloud Storageで あらゆる形式のデータを、低コストかつ高い耐久性で保管します。

  • データレイクハウス層 (Analytics & BI): BigQueryからCloud Storage上のデータを直接クエリ。構造化データも格納し、DWHとしても機能。SQLインターフェースでデータ分析者に統一的なアクセスを提供します。

  • AI/ML活用層: Vertex AI BigQuery内のデータを直接利用して、機械学習モデルのトレーニングや、Gemini for Google Cloud を活用した生成AIアプリケーションの構築が可能です。データのエクスポートが不要なため、開発サイクルを大幅に短縮できます。

このシンプルかつ強力な連携が、Google Cloudをデータレイクハウス基盤として採用する大きなメリットです。

関連記事:
Cloud Storage(GCS) とは?Google Cloud のオブジェクトストレージ入門 - メリット・料金・用途をわかりやすく解説

ユースケース:需要予測から顧客体験のパーソナライズまで

Google Cloudによるデータレイクハウスは、既に多くの企業のビジネス変革を支えています。

  • 小売業: POSデータ、在庫データ、天候データ、Webトラフィックなどを統合分析し、高精度な需要予測を実現。欠品や過剰在庫を削減。

  • 製造業: 工場のIoTセンサーデータと生産管理システムのデータを組み合わせ、予知保全や品質改善に活用。

  • 金融業: 顧客の取引履歴やWeb行動履歴に基づき、一人ひとりに最適化された金融商品をリアルタイムでレコメンド。

【専門家の視点】データレイクハウス導入を成功させるための3つの鍵

データレイクハウスは強力なソリューションですが、単にツールを導入すれば成功するわけではありません。これまでの多くのプロジェクト支援経験から見えてきた、成功のための3つの重要な鍵をお伝えします。

鍵1: 「まず作ってから考える」の罠。目的の明確化とスモールスタート

「とりあえずデータを全部集めよう」という発想でスタートするプロジェクトは、多くの場合、目的が曖昧なままコストだけが膨らみ、成果を出せずに頓挫します。

重要なのは、「どのようなビジネス課題を解決したいのか」「そのために、どのようなデータを使って、何を見たいのか」という目的を最初に明確化することです。そして、最初から全社規模で展開するのではなく、特定の部門やユースケースに絞ってスモールスタート(PoC: Proof of Concept)し、小さな成功体験を積み重ねながら、その価値を経営層や関連部門に示していくアプローチが成功率を高めます。

関連記事:
なぜDXは小さく始めるべきなのか? スモールスタート推奨の理由と成功のポイント、向くケース・向かないケースについて解説

鍵2: データガバナンスとセキュリティの確立

全社のデータを一元化するということは、その管理責任も一元化されることを意味します。誰がどのデータにアクセスできるのか、データの品質は誰が担保するのか、個人情報の保護は万全か、といったデータガバナンスのルールを初期段階で設計・徹底することが極めて重要です。

これを怠ると、せっかく構築したデータ基盤が信頼を失い、使われなくなってしまいます。Google Cloudには、IAM (Identity and Access Management) や Data Catalog といった強力なガバナンス機能が備わっており、これらを適切に活用することが求められます。

関連記事:
データガバナンスとは? DX時代のデータ活用を成功に導く「守り」と「攻め」の要諦

鍵3: 技術だけでなく、データを扱える「人材」と「組織文化」の醸成

最新のデータ基盤を導入しても、それを使いこなせる人材がいなければ宝の持ち腐れです。データアナリストやデータサイエンティストといった専門人材の育成・確保はもちろんのこと、ビジネス部門の担当者自身がデータを基に議論し、意思決定を行う「データ文化」を組織全体で醸成していくことが、データレイクハウスの価値を最大化する上で不可欠です。

研修プログラムの実施や、部門横断でのデータ活用コンテストの開催など、地道な取り組みが最終的に大きな差を生みます。

成功への最短距離を行くために - 専門家との協業という選択肢

ここまで見てきたように、データレイクハウスの導入は、単なるITプロジェクトではなく、全社を巻き込む経営改革です。特に、「目的の明確化」「適切な技術選定と設計」「データガバナンスの確立」、そして「人材育成」といった領域では、高度な専門知識と経験が求められます。

自社のリソースだけでこれら全てを推進するには、多くの時間と労力がかかり、試行錯誤も避けられません。

私たち『XIMIX』は、Google Cloudの専門家集団として、これまで多くの中堅・大企業のデータ基盤構築をご支援してきました。お客様のビジネス課題を深く理解し、構想策定からPoC、アーキテクチャ設計、実装、そしてデータ活用文化の醸成に至るまで、豊富な経験に基づいた知見で伴走します。

もし、データレイクハウスの導入や、既存のデータ基盤の刷新をご検討中で、少しでも課題をお感じであれば、ぜひ一度ご相談ください。貴社の状況に合わせた最適な一歩をご提案します。

XIMIXのGoogle Workspace 導入支援についてはこちらをご覧ください。
XIMIXのGoogle Cloud 導入支援についてはこちらをご覧ください。

まとめ

本記事では、次世代のデータ基盤「データレイクハウス」について、その基本概念からビジネス価値、導入成功の鍵までを解説しました。

  • データレイクハウスは、データレイクとDWHの「良いとこ取り」をしたアーキテクチャであり、DX時代のデータ活用における中核をなします。

  • その価値は、意思決定の迅速化、TCOの最適化に留まらず、生成AIをはじめとする先端技術活用の基盤となる点にあります。

  • Google Cloud (BigQuery) を活用することで、パフォーマンス、コスト、柔軟性に優れたデータレイクハウスを効率的に構築できます。

  • 成功の鍵は、技術導入だけでなく、明確な目的設定、データガバナンス、そして人材と文化の醸成にあります。

データレイクハウスは、もはや単なる選択肢ではなく、データを通じて競争優位を築くための必須戦略です。この記事が、貴社のデータ戦略を次のレベルへと進めるための一助となれば幸いです。