コラム

【入門編】シャドーIT・野良アプリとは?DX推進を阻むリスクと対策を徹底解説【+ Google Workspaceの導入価値も探る】

作成者: XIMIX Google Workspace チーム|2025,04,30

はじめに

企業のデジタルトランスフォーメーション(DX)推進が加速する現代、「シャドーIT」や「野良アプリ」が深刻な経営課題として浮上しています。従業員が良かれと思って利用する、企業の許可なきITツールやクラウドサービスが、DXの根幹を揺るがすセキュリティリスクとなり得るのです。

「便利なツールだから」「申請が面倒だから」という現場の小さな判断が、情報漏洩やコンプライアンス違反といった重大なインシデントに繋がりかねません。特に、厳格なセキュリティガバナンスが求められる中堅・大企業にとって、この問題は看過できない喫緊の課題です。

本記事では、企業のDX推進や情報システム部門の担当者様に向けて、シャドーIT問題の全体像から具体的な解決策までを、以下の構成で体系的に解説します。

  • シャドーITの基礎知識: なぜ発生し、どのようなリスクを内包するのか

  • 対策の全体像と進め方: 禁止するだけでは失敗する、効果的な対策の4ステップ

  • 有効な技術的対策: CASBなどの主要ソリューションを客観的に解説

  • Google Workspaceによる解決策: 統合プラットフォームがもたらす価値

  • 対策成功の鍵: ツール導入の先にある本質的なポイント

この記事を通じてシャドーIT問題への理解を深め、貴社のDXを安全かつ強力に推進するための一助となれば幸いです。

シャドーIT・野良アプリの基礎知識

対策を講じる前に、まずは「シャドーIT」と「野良アプリ」が何であり、なぜ発生するのか、そしてどのようなリスクがあるのかを正確に理解することが重要です。

シャドーIT・野良アプリとは何か?

シャドーITとは、企業のIT部門が把握・管理しておらず、従業員や各部門が業務目的で利用しているIT機器、ソフトウェア、クラウドサービスなどの総称です。 具体例としては、以下のようなものが挙げられます。

  • 個人契約のクラウドサービス: オンラインストレージ(個人向けGoogle ドライブ、Dropboxなど)、チャットツール、Web会議システム

  • 無許可のソフトウェア導入: フリーソフト、利便性の高い有料ツールなど

  • 個人所有デバイスの業務利用(私物BYOD): IT部門の管理外にあるスマートフォン、PC

  • 部門が独自契約したSaaS: プロジェクト管理ツール、CRM/SFAなど

野良アプリはシャドーITの一種で、特に従業員がIT部門の関与なしに作成・利用するアプリケーションを指します。表計算ソフトのマクロや、近年普及しているノーコード・ローコード開発ツールで作成されたものが代表的です。

なぜシャドーITは発生するのか?

シャドーITが生まれる背景には、従業員の「業務を効率化したい」という前向きな動機がある一方で、企業側の課題も存在します。

  • 現場の効率化ニーズ: 会社支給のツールよりも高機能で使いやすいサービスを現場の従業員が見つけ、利用を開始するケース。

  • 承認プロセスの形骸化: 新規ツールの導入申請が複雑、あるいは承認までに時間がかかりすぎるため、公式ルートを避けてしまう。

  • クラウドサービスの普及: 無料や低価格で、誰でも手軽に高機能なサービスを利用できる環境が整った。

  • 働き方の多様化: テレワークやハイブリッドワークの普及により、従業員が社内ネットワーク外で業務を行う機会が増え、IT部門の目が届きにくくなった。

  • リスク認識の欠如: 従業員自身が、シャドーITの危険性を十分に認識していない。

これらの要因が複合的に絡み合い、IT部門が意図しない形でシャドーITが蔓延していくのです。

放置が招く看過できない経営リスク

シャドーITの放置は、利便性の裏側で企業に深刻なリスクをもたらします。

①情報漏洩リスクの増大

シャドーITとして利用されるサービスは、企業のセキュリティ基準を満たしていないケースがほとんどです。

  • 機密情報の外部流出: 個人向けクラウドストレージの誤った共有設定や、サービス自体からの情報漏洩。

  • マルウェア感染: セキュリティの甘いフリーソフトや個人デバイスを経由し、社内ネットワーク全体へマルウェアが侵入する。

  • 不正アクセス: 退職者が個人契約のアカウントを使い、退職後も企業のデータにアクセスし続ける「ゴーストIT」問題。

②コンプライアンス・ガバナンス違反

個人情報保護法やGDPR、業界ごとのセキュリティ基準など、企業が遵守すべき法令・規制への違反リスクが高まります。データの保存場所やアクセス権限が管理外となることで、監査への対応も困難になります。

③IT統制の複雑化とコスト増大

IT部門が把握できないツールが増えることで、ITガバナンスの維持が極めて困難になります。

  • インシデント対応の遅延: 問題発生時の原因究明や復旧に時間を要する。

  • 非効率なコスト: 各部門が類似のツールを個別に契約し、全社的に無駄なコストが発生する。

  • 業務の属人化: 野良アプリの作成者が異動・退職すると、誰もメンテナンスできず業務が停止する。

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セキュリティインシデントが発生するとどうなるか?影響範囲を徹底解説、対策不備が招く事業存続の危機とは

【実践編】シャドーIT対策、成功への4ステップ

シャドーITのリスクに対し、「すべて禁止」というアプローチは現実的ではなく、現場の反発を招き、さらなる隠れた利用を助長しかねません。重要なのは、利便性と統制のバランスを取ることです。 ここでは、対策を成功に導くための実践的な4つのステップを解説します。

ステップ1:利用実態の「可視化」

対策の第一歩は、社内で何が、どのように使われているか現状を正確に把握することです。

  • アンケート・ヒアリング: まずは従業員や各部門にアンケートやヒアリングを行い、どのようなツールで業務を行っているか、どんな点に不便を感じているかを調査します。

  • ネットワークログ分析: ファイアウォールやプロキシのログを分析し、社内からどのような外部サービスへ通信が発生しているかを確認します。

  • 検知ツールの活用: CASB(Cloud Access Security Broker)のような専門ツールを導入することで、利用されているクラウドサービスを網羅的に検知・可視化し、リスク評価を行うことが可能です。

ステップ2:利用ルールの「策定と周知」

可視化された実態に基づき、明確な利用ルール(ガイドライン)を策定し、全社に周知徹底します。

  • ルールの目的を共有: なぜルールが必要なのか、シャドーITのリスクを具体例と共に丁寧に説明し、従業員の理解と協力を得ることが不可欠です。

  • 承認済みツールリストの作成: 会社として安全性を確認し、利用を許可・推奨するツールのリストを作成・公開します。従業員が代替ツールを選びやすくなります。

  • 申請・承認プロセスの整備: 新しいツールを利用したい場合の申請フローを明確にし、IT部門が迅速に判断・対応できる体制を構築します。

  • 定期的な見直し: ビジネス環境やテクノロジーの変化に合わせ、ルールを定期的に見直す運用を定着させます。

ステップ3:代替となる「公式ツールの提供」

従業員がシャドーITに頼る必要性をなくすため、利便性と安全性を両立した公式ツールを提供することが最も効果的な対策の一つです。

  • 現場ニーズの反映: ステップ1で把握した現場のニーズを満たすツールを選定します。

  • 統合プラットフォームの検討: メール、チャット、Web会議、ストレージなどの機能が一つにまとまったGoogle Workspace のような統合型グループウェアは、機能の網羅性と一貫したセキュリティポリシーを適用できる点で非常に有効です。

  • 利用促進とサポート: 新ツールの導入研修やマニュアルの整備、ヘルプデスクによる手厚いサポート体制を構築し、円滑な移行と活用を支援します。

ステップ4:継続的な「モニタリングと教育」

ルールを策定し、ツールを提供した後も、その効果を維持・向上させるための継続的な取り組みが欠かせません。

  • モニタリング体制の構築: CASBなどのツールを活用して未承認ツールの利用を継続的に監視し、ルールからの逸脱を検知します。

  • 定期的な従業員教育: 全従業員を対象に、情報セキュリティの重要性やシャドーITのリスクに関する研修を定期的に実施します。他社のインシデント事例を共有することも有効です。

  • 相談窓口の設置: セキュリティに関する疑問やツールの利用について気軽に相談できる窓口を設けることで、隠れたシャドーITの発生を防ぎます。

シャドーIT対策に有効なソリューション

技術的な側面からシャドーITのリスクを低減するために、いくつかの有効なソリューションが存在します。

CASB (Cloud Access Security Broker)

「キャスビー」と読み、従業員とクラウドサービスの間に単一のコントロールポイントを設けることで、シャドーIT対策の中核を担うソリューションです。

  • 可視化: 社内で利用されているクラウドサービスを自動で検知・識別します。

  • 制御: サービスごとに利用の許可/禁止を設定したり、データのアップロード/ダウンロードを制限したりできます。

  • 脅威防御: マルウェアの検知や、不審なユーザー行動の分析が可能です。

IDaaS/SSO (Identity as a Service / Single Sign-On)

IDaaSは、複数のクラウドサービスのIDとパスワードを統合管理するクラウドサービスです。SSO機能により、ユーザーは一度の認証で複数の許可されたサービスにログインできます。 これにより、IT部門は誰が・いつ・どのサービスにアクセスしているかを一元的に管理でき、退職者のアカウントを即座に無効化することも可能です。

EMM/UEM (Enterprise Mobility Management / Unified Endpoint Management)

個人所有デバイスの業務利用(BYOD)や、社用デバイスの管理に有効です。デバイスにインストールされているアプリを可視化し、業務に不要なアプリや危険なアプリの利用を制限できます。

Google Workspaceによる包括的なシャドーIT対策

多くの企業で導入されている Google Workspace は、上記のような専門ソリューションの要素を含みつつ、日常業務のプラットフォームとして包括的なシャドーIT対策を実現します。

豊富な標準機能がシャドーITの必要性をなくす

Google Workspace は、日常業務に必要なほとんどのツールを標準で提供します。

  • メール (Gmail)、チャット (Google Chat)

  • Web会議 (Google Meet)

  • オンラインストレージ (Google ドライブ)

  • ドキュメント作成 (Google ドキュメント, Google スプレッドシート, Google スライド)

これらの高機能なツール群が、従業員が代替ツールを探す動機そのものを低減させます。

関連記事:

強力な管理機能でITガバナンスを強化

管理者は Google Workspace の管理コンソールから、組織全体のセキュリティを一元的に統制できます。

  • アプリの利用制御: 管理者が許可したサードパーティアプリのみがGoogleアカウントと連携できるように制御し、無許可アプリによる情報アクセスを防ぎます。これはCASBの基本的な機能に相当します。

  • 高度なアクセス制御: ログインする国やデバイスの種類、IPアドレスなどに応じてアクセスを制御(コンテキストアウェアアクセス)。2段階認証プロセスの強制と併せて、IDaaS/SSOが担うセキュリティを強化します。

  • データ損失防止 (DLP): Google ドライブやGmail内の機密情報(マイナンバー、クレジットカード番号など)を自動でスキャンし、社外秘情報の共有や送信を未然にブロックします。

  • 監査ログとセキュリティセンター: すべての管理者操作やユーザーアクティビティが記録され、インシデント発生時の追跡や不正利用の監視に役立ちます。セキュリティセンター(Enterpriseプラン以上)では、脅威を可視化し、プロアクティブな対策を支援します。

関連記事:

Google AppSheetによる「統制下の市民開発」

現場で生まれる「野良アプリ」に対しては、ノーコード開発プラットフォーム Google AppSheet が有効です。IT部門の管理下で、従業員が安全に業務改善アプリを作成できる環境を提供することで、無秩序な開発を防ぎつつ、現場主導のDXを加速させることができます。

関連記事:

対策を成功させるためのポイント

ツールの導入に加え、組織的なアプローチが対策の成否を分けます。弊社の支援実績からも、以下の点が重要であると分かっています。

①「ゼロトラスト」の考え方を基本に置く

「社内は安全、社外は危険」という従来の境界型防御の考え方は、クラウドとテレワークが主流の現代では通用しません。「何も信頼しない」を前提に、すべてのアクセスに対して検証を行う「ゼロトラスト」の考え方をセキュリティの基本に据えることが、シャドーIT対策の土台となります。

関連記事:今さら聞けない「ゼロトラスト」とは?基本概念からメリットまで徹底解説

②IT部門と事業部門の連携を強化する

シャドーITは、IT部門だけでは解決できない問題です。なぜ現場がシャドーITを使わざるを得ないのか、その背景にある業務課題を理解するため、事業部門との対話を密にし、パートナーとしてDXを推進する関係性を築くことが不可欠です。

③従業員のセキュリティ意識を「自分ごと」にする

最も重要な対策は、従業員一人ひとりの意識向上です。なぜシャドーITが危険なのか、会社と自分にどのような影響があるのかを、定期的な研修やインシデント事例の共有を通じて具体的に伝え、「自分ごと」として捉えてもらう必要があります。

関連記事:【入門編】社員に対するGoogle Workspaceのセキュリティ教育対策:意識向上と簡単な教育方法

XIMIXが提供する、一歩先のシャドーIT対策支援

ここまでシャドーITのリスクと対策を解説しましたが、「自社の利用実態をどこから調査すればいいか分からない」「ルール策定やツール導入を具体的にどう進めるべきか悩んでいる」といったお声も多く伺います。

私たちXIMIXは、Google Cloud と Google Workspace の導入・活用支援における豊富な実績と知見に基づき、お客様の状況に合わせた最適なご支援を提供します。

  • 現状アセスメントサービス: CASBツール等を活用した客観的な実態調査から、潜在的なセキュリティリスクの洗い出しまで、対策の第一歩をご支援します。

  • ガバナンス強化・ルール策定支援: 弊社の多くの支援実績に基づき、お客様の業態や文化に合わせた実効性のある利用ガイドラインの策定をお手伝いします。

  • Google Workspace 最適化・セキュリティ設定支援: お客様のセキュリティ要件に基づき、管理コンソールの最適な設定、DLPルールの策定、アクセス制御ポリシーの設計・実装まで、専門家が伴走します。

  • 従業員向けトレーニング: セキュリティ意識の向上から、Google Workspace の安全な利活用方法まで、実務に即したトレーニングを提供します。

多くの企業様のDX推進をご支援してきた経験から、XIMIXは貴社の安全で効率的なIT環境の実現を強力にサポートいたします。シャドーIT対策やGoogle Workspaceのセキュリティ強化にご関心のある方は、ぜひお気軽にご相談ください。

 

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まとめ

本記事では、DX推進の陰に潜む「シャドーIT」と「野良アプリ」について、その本質的な原因からリスク、そして具体的な対策のステップまでを詳細に解説しました。

シャドーITは、従業員の生産性向上意欲の表れである一方、企業全体に情報漏洩やコンプライアンス違反といった計り知れないリスクをもたらします。この問題への対策は、単なるツールの禁止ではなく、「可視化」「ルール化」「代替環境の提供」「教育」という継続的な取り組みが不可欠です。

特に Google Workspace は、豊富な標準機能と強力なセキュリティ・管理機能を両立しており、シャドーITの発生を抑制し、安全なITガバナンスを構築するための極めて有効なソリューションです。

シャドーIT対策は、従業員の利便性を尊重しつつ、企業の統制をいかに両立させるかという経営課題そのものです。本記事が、貴社の安全なDX推進の一助となれば幸いです。