コラム

【クラウド時代の情報漏洩対策】管理者が承認してはいけない7つのNGパターン

作成者: XIMIX Google Workspace チーム|2025,09,02

はじめに

クラウドサービスの活用は、DX推進に不可欠な原動力です。しかし、その利便性と引き換えに、情報漏洩のリスクは新たな局面を迎えています。多くの企業が対策を講じているにも関わらず、情報漏洩インシデントが後を絶たないのはなぜでしょうか。その原因の一つは、技術的な問題だけでなく、日々の運用における管理者の「承認」という意思決定に潜んでいます。

現場からの「利便性を優先したい」という要求に対し、リスクを正しく評価せずに承認を与えてしまう。その小さな判断が、後に深刻なセキュリティインシデントの引き金となり得ます。

この記事では、数多くの企業のDX支援を行ってきた専門家の視点から、クラウド環境における情報漏洩対策の要点と、特に情報システム管理者が「承認すべきでないNGパターン」を7つに絞って具体的に解説します。さらに、Google CloudやGoogle Workspaceを活用して、それらのリスクにどう立ち向かうべきか、実践的な解決策を提示します。自社のセキュリティ態勢を見直す一助となれば幸いです。

なぜ今、クラウドからの情報漏洩対策が経営課題なのか?

クラウドへの移行は、もはや選択肢ではなく必須の戦略です。しかし、この移行は情報資産の管理方法を根本から変え、従来のセキュリティ対策だけでは対応しきれない新たなリスクを生み出しています。

①クラウド利用の拡大と新たなセキュリティ境界線

かつての社内ネットワーク(オンプレミス)環境では、「社内は安全、社外は危険」という境界線防御モデルが主流でした。しかし、クラウドが普及した現在、データは社内外を自由に行き来し、アクセスする場所やデバイスも多様化しています。この状況では、物理的な境界線は意味をなさず、ID(個人)やデバイス単位でのきめ細やかなアクセス制御が不可欠となります。

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②従来の対策では防げない「設定ミス」という脅威

クラウド環境における情報漏洩の最大の原因の一つが、人的な「設定ミス」です。実際に、独立行政法人情報処理推進機構(IPA)が発表する「情報セキュリティ10大脅威」では、毎年「設定不備による情報漏洩」が上位にランクインしています。 (出典:IPA「情報セキュリティ10大脅威 」)

クラウドサービスは多機能で柔軟性が高い反面、設定項目が複雑化し、一つのチェックボックスの見落としが全社的な情報漏洩に繋がりかねません。このリスクを低減するためには、管理者の承認プロセスが最後の砦として極めて重要な役割を担います。

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【実践編】情報システム管理者が承認すべきでない7つのNGパターン

ここでは、多くの企業で散見される、情報漏洩に直結しかねない危険な承認パターンを7つ紹介します。現場からの申請に、このようなケースが含まれていないか、ぜひ自社の状況と照らし合わせてみてください。

NGパターン1:安易な「とりあえず全体公開」設定の承認

シナリオ例: 「プロジェクト関係者で手軽にファイルを共有したいので、一時的にリンクを知っている全員がアクセスできる設定を許可してほしい」

これは典型的で危険なパターンです。一時的な利便性を優先した結果、URLが外部に漏洩した場合、誰でも機密情報にアクセスできる状態になってしまいます。限定的な共有のつもりが、意図せず全世界に情報を公開してしまうリスクを内包しています。

NGパターン2:特権IDの不用意な払い出しと共有の黙認

シナリオ例: 「担当者が複数いるので、共通の管理者アカウント(特権ID)を発行してほしい。その方が引き継ぎも楽だ」

特権IDは、システムの根幹を揺るがす強大な権限を持ちます。これを複数人で共有すると、誰がどのような操作を行ったのか追跡が困難になり、内部不正や誤操作のリスクが格段に高まります。また、退職者のアクセス権が残存する原因にもなります。

NGパターン3:退職者のアカウント削除プロセスの形骸化

シナリオ例: 「退職手続きは人事部が行うので、情報システム部では特に何もしていない」

退職者のアカウントが即座に無効化されない場合、そのアカウントは悪意のある第三者による不正アクセスの温床となります。特にクラウドサービスでは、社外からでもアクセスが可能なため、リスクは計り知れません。人事部と情報システム部との連携が取れておらず、アカウント削除が遅延・放置されるケースは、決裁者が見落としがちな組織的な課題です。

NGパターン4:私物端末からのアクセス(BYOD)の無条件な許可

シナリオ例: 「外出先でもスマートフォンで業務ファイルを確認したいので、私物端末からのアクセスを許可してほしい」

BYOD(Bring Your Own Device)は生産性を向上させる一方で、セキュリティ管理の複雑性を増大させます。組織の管理が及ばない私物端末は、ウイルス感染や紛失・盗難時の情報漏洩リスクが非常に高い状態です。デバイスのセキュリティ状態を問わず、一律にアクセスを許可するのは極めて危険です。

NGパターン5:外部共有設定の野放し状態

シナリオ例: 「取引先との連携をスムーズにするため、個々のユーザーが自由にファイルを外部共有できる設定にしてほしい」

コラボレーションの促進は重要ですが、何の制限もなく外部共有を許可することは、機密情報の流出に直結します。どのデータが、誰に、いつ共有されたのかを管理者が全く把握できない状態は、ガバナンスの観点から看過できません。

NGパターン6:監査ログの「取得だけ」で分析・監視をしない状態

シナリオ例: 「監査ログは規制要件のために取得しているが、容量も大きいため普段は特に見ていない」

ログは、インシデントの予兆検知や発生後の原因究明に不可欠な情報です。しかし、ただ取得しているだけでは宝の持ち腐れです。不審なアクティビティ(例:深夜の大量ダウンロード、国外からのアクセス)を検知し、迅速に対応する仕組みがなければ、ログの価値は半減してしまいます。

NGパターン7:生成AIへの機密情報入力を制限しない運用

シナリオ例: 「業務効率化のために全社で生成AIの利用を推奨するが、利用に関する明確なガイドラインは策定しない」

生成AIの利活用は急速に進んでいますが、その裏で新たな情報漏洩リスクが生まれています。多くの公開生成AIサービスでは、入力した情報がAIの学習データとして利用される可能性があり、機密情報や個人情報を入力してしまうと、それが意図せず外部に流出する恐れがあります。明確なルールなしに利用を許可することは、将来の大きなリスクの種をまくことになります。

NGパターンを防ぐためのGoogle Cloud / Workspaceによる解決策

これまで挙げたNGパターンは、決して担当者個人の問題ではなく、仕組みで解決すべき課題です。Google CloudおよびGoogle Workspaceは、これらのリスクに体系的に対処するための高度なセキュリティ機能を提供しています。

①「ゼロトラスト」思想に基づくアクセス制御

「社内だから安全」という考え方を捨て、すべてのアクセスを信頼せずに検証する「ゼロトラスト」モデルは、現代のクラウドセキュリティの基本です。

  • コンテキストアウェアアクセス: Google Workspaceの機能で、ユーザーの場所、デバイスのセキュリティ状態、IPアドレスなどの条件(コンテキスト)に基づいてアクセスを動的に制御します。これにより、「社内ネットワークから、かつセキュリティ対策済みの会社支給PCからのみアクセスを許可する」といった、NGパターン4(BYOD)への強力な対策が可能になります。

  • BeyondCorp Enterprise: Google Cloudが提供する、より高度なゼロトラストソリューションです。社内アプリケーションやクラウド上のリソースへのアクセスを、場所を問わず安全に実現します。

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②データそのものを保護する情報漏洩防止(DLP)

NGパターン1(全体公開)やNGパターン5(外部共有)のリスクを低減するには、データの中身を理解し、ポリシーに基づいて保護する仕組みが有効です。

  • Cloud Data Loss Prevention (DLP): Google Cloud上の機密データ(個人情報、クレジットカード番号など)を自動的に検出・分類し、マスキングやトークン化を行うことができます。

  • Google Workspace DLP: GmailやGoogleドライブ上で、機密情報を含むファイルの外部共有やメール送信を自動的にブロックするルールを設定できます。これにより、ユーザーの意図しない情報漏洩を未然に防ぎます。

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③統一されたID管理と権限の最小化

NGパターン2(特権IDの共有)やNGパターン3(退職者アカウント)の問題は、ID管理の徹底によって解決できます。

  • Cloud Identity / Identity and Access Management (IAM): Google CloudとGoogle WorkspaceのIDを一元管理し、「誰が」「どのリソースに」「どのような権限を持つか」をきめ細かく制御します。職務に必要な最小限の権限のみを付与する「最小権限の原則」を徹底することで、リスクを大幅に低減できます。

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④ログ分析と脅威検知の自動化

NGパターン6(ログの放置)を防ぐには、ログを自動的に分析し、脅威を可視化する仕組みが必要です。

  • Security Command Center: Google Cloud全体のセキュリティ状況を一元的に可視化し、設定ミスや脆弱性、脅威を検出する統合プラットフォームです。膨大なログの中から、対応すべき脅威インテリジェンスを自動的に提供し、管理者の負担を軽減します。

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対策を成功に導くための組織的なポイント

最新のテクノロジーを導入するだけでは、情報漏洩対策は万全とは言えません。ツールを有効に機能させるためには、組織的な取り組みが不可欠です。

①ルール策定と現場教育の両輪が不可欠

なぜその設定が禁止されているのか、どのようなリスクがあるのかを全社的に共有し、セキュリティ意識を向上させることが重要です。形骸化したルールではなく、ビジネスの実態に即したガイドラインを策定し、継続的な教育を行う必要があります。

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③「性悪説」に基づいたシステム設計の重要性

「人はミスをするもの」「内部に悪意を持つ者が現れる可能性はゼロではない」という前提(性悪説・性弱説)に立ち、個人の注意力に頼るのではなく、システム側で強制的にガードする仕組みを構築することが、実効性のある対策の鍵となります。先に紹介したDLPやIAMは、まさにこの思想を具現化するツールです。

④すべてを自社で抱え込まないという選択肢

クラウドセキュリティの世界は、脅威もテクノロジーも日々進化しています。最新の動向を常に把握し、高度なセキュリティ人材を自社だけで確保・維持し続けることは、多くの企業にとって大きな負担です。 このような状況では、信頼できる外部の専門家の知見を活用することも、有効な戦略の一つとなります。

XIMIXによる支援案内

私たちNI+Cの『XIMIX』は、Google Cloudの専門家集団として、数多くの中堅・大企業のDX推進とセキュリティ強化を支援してきました。

情報漏洩対策は、単一の製品を導入して終わりではありません。お客様のビジネス環境や組織体制を深く理解した上で、現状のリスクを評価するセキュリティアセスメントから、Google Cloud / Workspaceの機能を最大限に活用したセキュアな環境の設計・構築、そして日々の運用監視に至るまで、一気通貫でご支援します。

自社のクラウドセキュリティに少しでも不安をお持ちでしたら、ぜひ一度、私たちにご相談ください。お客様のビジネスをリスクから守り、安全なクラウド活用を加速させるための最適なご提案をいたします。

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まとめ

本記事では、クラウド時代において管理者が承認すべきでない7つのNGパターンと、Google Cloud / Workspaceを活用した具体的な解決策について解説しました。

  • 情報漏洩の多くは、技術だけでなく管理者の「判断」に起因する

  • 「全体公開」「特権ID共有」「BYOD無条件許可」などは極めて危険な承認

  • ゼロトラスト、DLP、IAMといった仕組みでリスクは体系的に低減できる

  • ツール導入と並行し、組織的なルール整備と専門家の活用が成功の鍵

クラウドの利便性を最大限に享受するためには、その裏側にあるリスクを正しく理解し、先手を打って対策を講じることが不可欠です。この記事が、貴社のセキュリティ体制を一段高いレベルへと引き上げるきっかけとなれば幸いです。まずは、本日ご紹介したNGパターンが自社に存在しないか、確認することから始めてみてはいかがでしょうか。