コラム

マルチクラウドを加速するGoogle Cloudの真価:AWS/Azureとの最適な使い分け

作成者: XIMIX Google Cloud チーム|2025,05,01

はじめに

多くの企業がデジタルトランスフォーメーション(DX)を推進する中で、単一のクラウドプロバイダーに依存せず、複数のクラウドサービスを適材適所で利用する「マルチクラウド」戦略が一般化しつつあります。既にAWS(Amazon Web Services)やAzure(Microsoft Azure)を活用されている企業も多いことでしょう。

しかし、マルチクラウド環境の運用は、コスト管理の複雑化、システム間のサイロ化、運用負荷の増大といった新たな課題も生み出します。こうした状況において、既存のクラウド環境に加えて「Google Cloud」の導入を検討する企業が増えています。データ分析やAI/機械学習(ML)、コンテナ技術といった分野で独自の強みを持つGoogle Cloudは、マルチクラウド戦略を次のステージへ進めるための有力な選択肢となり得るからです。

この記事では、既にAWSやAzureなどのクラウドを利用している企業のDX推進担当者や決裁者層に向けて、マルチクラウド環境においてGoogle Cloudを導入する具体的なメリット、AWS/Azureとの比較に基づいた強み、そして最適なGoogle Cloudの使い分けシナリオについて解説します。本記事を通じて、貴社のマルチクラウド戦略におけるGoogle Cloud活用の可能性を探り、マルチクラウド環境の最適化を加速させる一助となれば幸いです。

なぜ、マルチクラウド環境でGoogle Cloudが注目されるのか?

マルチクラウド採用の背景には、ベンダーロックインの回避、コスト最適化、各クラウドの強みを活かしたシステム構築といった目的があります。その中でGoogle Cloudが注目を集める理由は、現代のビジネスに不可欠な要素、特にデータ活用とAI/MLの領域で卓越した能力を提供している点にあります。

企業が収集・蓄積するデータ量は爆発的に増加しており、このデータをいかに迅速かつ効率的に分析し、ビジネス価値へと転換するかが競争優位性を左右します。また、AI/ML技術の進化は目覚ましく、これを活用した新たなサービス開発や業務効率化がDXの核となりつつあります。

Google Cloudは、Google自身の検索エンジンやYouTubeといった大規模サービスを支えるインフラ技術と、最先端の研究開発から生まれたサービス群を提供しており、特にデータ分析、AI/ML、コンテナ技術、オープンソースソフトウェアとの親和性の高さにおいて、他のクラウドプロバイダーとは一線を画すGoogle Cloudならではのメリットを持っています。これらの要素が、既存のクラウド環境の機能を補完し、あるいは凌駕する形で、マルチクラウド戦略全体の価値向上に貢献すると期待されているのです。

Google Cloudならではの強みとメリット (AWS/Azureとの比較)

Google Cloudがマルチクラウド環境において提供する独自の価値は多岐にわたります。ここでは、特にAWSとの比較Azureとの比較において際立つ主要な強みをいくつかご紹介します。

①データ分析・AI/ML基盤:BigQueryとVertex AIの優位性

Google Cloud最大の強みの一つが、データ分析とAI/MLの領域です。

  • BigQuery: フルマネージド型のペタバイト級データウェアハウスであり、サーバーレスアーキテクチャによりインフラ管理の手間なく高速なSQLクエリを実行できます。ストレージとコンピューティングの分離、柔軟な料金体系も魅力です。特にアドホック分析や大規模データ処理の容易さ、コスト効率で優位性を持つ場面が多くあります。
  • Vertex AI: データサイエンティストからアプリケーション開発者まで、幅広いユーザーが機械学習モデルの開発、トレーニング、デプロイ、管理を単一プラットフォームで行える統合AIプラットフォームです。AutoML機能によるモデル開発の自動化や、TensorFlow、PyTorchといったフレームワークとの連携も強力です。エンドツーエンドのMLOpsパイプライン構築の容易さや、Googleの最新AI技術へのアクセスしやすさが特徴です。

②コンテナ技術・サーバーレス:GKE、Cloud Run、Anthosの先進性

モダンアプリケーション開発・運用の鍵となるコンテナ技術とサーバーレスにおいても、Google Cloudは先進的なサービスを提供しています。

  • Google Kubernetes Engine (GKE): Kubernetesのマネージドサービスとして業界をリードしており、AutoPilotモードによる運用負荷の大幅な軽減、高度なセキュリティ機能、スケーラビリティに定評があります。運用の自動化や機能の成熟度で一歩進んでいると評価されることがあります。
  • Cloud Run: コンテナイメージをデプロイするだけで、トラフィックに応じて自動的にスケールするサーバーレス環境を提供します。リクエストがない場合はゼロにスケールダウンするため、コスト効率に優れています。よりシンプルな使い勝手と迅速なデプロイが可能です。
  • Anthos: Google Cloudだけでなく、AWS、Azure、オンプレミス環境にまたがるハイブリッド/マルチクラウド環境全体で、Kubernetesクラスタを一貫したインターフェースで管理・運用できるプラットフォームです。これにより、マルチクラウド環境の複雑性を低減し、アプリケーションのポータビリティを高めることができます。

③オープンソースへの貢献と柔軟性

GoogleはKubernetesやTensorFlowといった重要なオープンソースプロジェクトを主導・貢献しており、Google Cloudサービスもこれらの技術と深く結びついています。これにより、オープンスタンダードに基づいた柔軟なシステム構築が可能となり、ベンダーロックインのリスクを低減できます。

④コスト効率と価格体系

Google Cloudは、秒単位の課金、継続利用割引、確約利用割引など、柔軟で透明性の高い料金体系を提供しています。特に、BigQueryのストレージ料金や、GKE AutoPilotのような運用コストを削減できるサービスは、トータルコストの最適化に貢献します。各社の料金体系は複雑ですが、特定のワークロードにおいてはGoogle Cloudが最もコスト効率が高くなるケースも少なくありません。

⑤グローバルネットワークとインフラ

Googleが持つ世界最大級のプライベートネットワークは、高速かつ安定したデータ転送を実現します。また、データセンターの設置場所やリージョン展開も積極的に進めており、グローバルビジネスを展開する企業にとって信頼性の高いインフラを提供します。

⑥セキュリティ思想

ゼロトラストモデルに基づいた「BeyondCorp Enterprise」など、先進的なセキュリティソリューションを提供しています。データ保護やコンプライアンス対応機能も充実しており、企業の重要な資産を保護します。

これらの強みを理解し、自社のニーズと照らし合わせることで、Google Cloudをマルチクラウド戦略に組み込むメリットが見えてきます。

マルチクラウド環境におけるGoogle Cloudの最適な使い分けシナリオ

Google Cloudの強みを活かすための、具体的なマルチクラウド環境でのGoogle Cloud 使い分けシナリオをいくつかご紹介します。

シナリオ1: データ分析・AI/ML基盤として活用

AWSやAzure上に構築された業務システムやデータレイクが存在する場合でも、データ分析やAI/MLのワークロードをGoogle Cloudに集約するアプローチは非常に有効です。

  • 例: AWS S3やAzure Blob Storageに蓄積されたデータをCloud Data FusionやStorage Transfer Serviceを使ってBigQueryに連携し、高度な分析や可視化を行う。あるいは、Vertex AIを用いて機械学習モデルを構築し、その結果を既存のAWS/Azure上のアプリケーションから利用する。
  • メリット: BigQueryの処理能力やVertex AIの統合環境を活用し、データドリブンな意思決定やAI活用を加速できます。既存システムへの影響を最小限に抑えつつ、最先端のデータプラットフォームを利用可能です。

シナリオ2: モダンアプリケーション開発・実行基盤として活用

新規アプリケーション開発や既存アプリケーションのモダナイゼーションにおいて、GKEやCloud Runを主要な実行基盤として採用するシナリオです。

  • 例: マイクロサービスアーキテクチャを採用したアプリケーションをGKE上で開発・運用する。あるいは、イベント駆動型のサーバーレスアプリケーションをCloud Runで構築する。
  • メリット: GKEの高度な管理機能やCloud Runのシンプルな運用により、開発アジリティの向上と運用コストの削減を実現できます。Anthosを利用すれば、これらのアプリケーションを他のクラウド環境やオンプレミスにも展開可能です。

シナリオ3: 特定ワークロードの最適化(コスト、パフォーマンス)

特定の処理(例: 大規模バッチ処理、特定のAPIサービスなど)において、コストやパフォーマンスの観点からGoogle Cloudが最適である場合に、そのワークロードのみをGoogle Cloudで実行するシナリオです。

  • 例: AWS EC2で実行しているコスト効率の悪いバッチ処理を、Google CloudのプリエンプティブルVM(Spot VM)やCloud Batchに移行してコストを削減する。
  • メリット: 各クラウドの得意分野や料金体系を考慮し、ワークロード単位で最適な環境を選択することで、システム全体のマルチクラウド最適化に繋がります。

シナリオ4: Google Workspaceとの連携による生産性向上

既にGoogle Workspaceを利用している、または導入を検討している企業の場合、Google Cloudとのシームレスな連携は大きなメリットとなります。

  • 例: Google WorkspaceのデータをBigQueryで分析する。Google ドライブ上のファイルをCloud Functionsで処理する。AppSheetとGoogle Workspaceを連携させて業務アプリを開発する。
  • メリット: 業務データとコミュニケーションツールが連携することで、従業員の生産性向上や新たなワークフローの構築が容易になります。

使い分け戦略策定のポイント

最適な使い分け戦略を策定するには、以下の点を考慮することが重要です。

  • 目的の明確化: なぜマルチクラウドを採用し、Google Cloud 導入を検討するのか?(コスト削減、特定機能の利用、リスク分散など)
  • 技術評価: 各クラウドサービスの機能、性能、自社技術スタックとの互換性をAWS/Azureと比較して評価する。
  • コスト試算: 各シナリオにおける初期費用、ランニングコスト、移行コストを比較検討する。
  • 運用体制: マルチクラウド環境を管理・運用するためのスキルセットや体制を考慮する。

これらの要素を総合的に評価し、自社にとって最適なGoogle Cloudの活用方法を見つけることが成功の鍵となります。

マルチクラウド管理の課題とGoogle Cloudによる解決策

マルチクラウド環境はメリットをもたらす一方で、管理の複雑化という課題も伴います。環境ごとに異なるインターフェース、API、セキュリティポリシー、コスト管理ツールなどに対応する必要があり、運用チームの負担が増大しがちです。

この課題に対し、Google Cloudは「Anthos」という強力なソリューションを提供しています。Anthosは、Google Cloud、AWS、Azure、さらにはオンプレミスのKubernetesクラスタまでを、統一されたコントロールプレーンから管理可能にするプラットフォームです。

Anthosを活用することで、以下のようなメリットが期待できます。

  • 一貫した運用体験: クラウド環境が異なっても、同じツール、同じプロセスでアプリケーションのデプロイ、管理、監視が可能になります。
  • ポリシーとセキュリティの集中管理: 環境全体にわたるセキュリティポリシーやコンプライアンス設定を一元的に適用し、ガバナンスを強化できます。
  • アプリケーションのポータビリティ向上: コンテナ化されたアプリケーションを、環境間で容易に移動・展開できるようになります。
  • インフラのモダナイゼーション: オンプレミス環境も含めて、クラウドネイティブな技術と運用プラクティスを適用できます。

Anthosは、マルチクラウド戦略を採用する企業が直面する運用上の課題を解決し、そのメリットを最大限に引き出し、マルチクラウド最適化を支援する重要な鍵となります。

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XIMIXによるマルチクラウド支援

ここまで、マルチクラウド環境におけるGoogle Cloudのメリットや使い分けについて解説してきました。しかし、実際に自社の状況に合わせて最適な戦略を策定し、導入・運用を進めるには、専門的な知識と経験が不可欠です。

  • 「自社にとって最適なクラウドの組み合わせは何か?」
  • 「既存のAWS/Azure環境からGoogle Cloudへの使い分けや移行はどのように進めるべきか?」
  • 「Anthosを導入してマルチクラウド管理を効率化したいが、何から始めればよいか?」
  • 「データ分析基盤をBigQueryに移行するメリットと具体的な手順は?」

こうした課題やお悩みをお持ちではないでしょうか。

私たちXIMIXは、Google CloudおよびGoogle Workspaceの導入・活用支援に特化したサービスを提供しており、多くのお客様のDX推進をご支援してきた豊富な実績があります。最適なアーキテクチャ設計、スムーズなGoogle Cloud 導入・移行、そして継続的な運用保守、さらなる活用提案まで、お客様の状況に合わせた伴走支援を提供します。

長年にわたり培ってきたSIerとしての技術力と、Google Cloudに関する深い知見を組み合わせ、お客様の成功を力強くサポートします。データ分析基盤の構築、アプリケーションモダナイゼーション、Anthos導入支援など、幅広いニーズに対応可能です。

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まとめ:Google Cloudでマルチクラウド戦略を最適化する

マルチクラウドは、現代の企業にとって標準的なITインフラ戦略となりつつあります。その中でGoogle Cloudは、特にデータ分析、AI/ML、コンテナ技術、オープンソースといった分野で独自の強みを発揮し、既存のAWS/Azure環境を補完・強化することで、マルチクラウド戦略全体の価値を高めるポテンシャルを秘めています。

BigQueryによる高速なデータ分析、Vertex AIによるAI/ML活用、GKEやCloud Runによるモダンアプリケーション開発、そしてAnthosによる統合管理など、Google Cloudが提供するソリューションは、企業のDXを加速させるための強力な武器となります。これらがGoogle Cloudのマルチクラウドにおけるメリットです。

重要なのは、自社のビジネス目標や技術要件に基づき、各クラウドの特性を理解した上で、最適なGoogle Cloudの使い分け戦略を描き、マルチクラウド最適化を進めることです。本記事で紹介したシナリオやポイントを参考に、ぜひ貴社におけるGoogle Cloud活用の可能性をご検討ください。

マルチクラウド戦略の策定やGoogle Cloudの導入、AWS/Azureとの比較検討に関する具体的なご相談、技術的なアドバイスが必要な場合は、専門家の支援を活用することも有効な手段です。