多くの企業、特に部門ごとの裁量が大きい中堅・大企業において、Google チャットとSlackが社内で混在している状況は珍しくありません。「エンジニア部門はSlack、営業・管理部門はGoogle チャット」といった住み分けや、あるいは「公式にはGoogle Workspaceを利用しているが、現場判断でSlackが導入されている(シャドーIT化している)」ケースも見受けられます。
現場レベルでは「使い慣れたツールを使いたい」という要望はもっともですが、経営およびITガバナンスの視点に立った時、この状況を放置することはあまり推奨できません。
本記事では、数多くの企業のDX支援を行ってきた経験に基づき、Google チャットとSlackの併用における現実的なリスク、コントロールするためのシナリオ、そして将来を見据えた「統合」がもたらすビジネス価値について解説します。
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「ツールが2つあっても、現場が回っていれば良いではないか」と考える方もいるかもしれません。しかし、「ツールの重複(サイロ化)」は看過できない3つのリスクを孕んでいます。
一つ目は明白な「コストの二重払い」です。
Google Workspaceを導入している時点で、企業は既に高品質なチャットツール(Google チャット)のライセンスを保有しています。これに加え、Slackの有料プラン(特にエンタープライズGridなど)を契約することは、従業員一人当たりのITコストを不必要に押し上げる要因となります。
二つ目は「情報の分断」です。
重要事項の決定プロセスが、ある時はSlackのプライベートチャンネルで、ある時はGoogle チャットのスペースで行われる。これにより、ナレッジの検索性が著しく低下し、「あの情報はどこにあるのか」を探すための非生産的な時間が発生します。
そして三つ目が、「セキュリティとガバナンスの欠如」です。
異なるプラットフォーム間での権限管理やログ監査の複雑化は、情報漏洩のリスクを高め、有事の際の追跡(eDiscovery)を困難にします。
適切な使い分けや統合を議論する前に、両者の「出自」と「設計思想」の違いを理解しておく必要があります。これが、組織へのフィット感を左右する最大の要因だからです。
Slackは、開発者同士のコミュニケーションから生まれました。
その最大の特徴は、サードパーティ製アプリとの連携(インテグレーション)の容易さと、カスタマイズ性の高さです。
「Slackを開けば、GitHubの通知も、Jiraのチケットも、監視アラートも全て見られる」という開発・運用(DevOps)のコマンドセンターとしての役割が強力です。
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一方、Google チャットは、Google Workspaceという巨大な生産性スイートの一部として設計されています。
最大の特徴は、ドキュメント(Docs)、スプレッドシート(Sheets)、ドライブ(Drive)、そして会議(Meet)との境界線がないことです。チャット画面から離れることなくファイルの権限を変更し、会議を開始し、共同編集を行う。この「コンテキストスイッチ(画面切り替え)の少なさ」が、全社的な業務効率に直結します。
現状、直ちに全社統合が難しい場合、以下の3つのシナリオのいずれかでコントロールすることを推奨します。重要なのは、「なし崩し的な併用」を許さず、明確なルールを設けることです。
エンジニアやクリエイティブ職など、特定の業務フローにSlackの機能(ボット連携やWebhookなど)が不可欠な場合、その部門に限定してSlackの利用を許可します。
ただし、全社的なアナウンスや部門を跨ぐプロジェクトは必ずGoogle チャットで行うというルールを徹底します。これにより、全社的な情報の分断を最小限に抑えます。
社外パートナー(ベンダーやクライアント)との連絡にはSlackコネクトやゲストアクセスを利用し、社内コミュニケーションはGoogle チャットに統一するパターンです。
これはセキュリティ境界を明確にする上で有効ですが、社員は常に2つのツールを監視する必要があり、認知負荷が高まるデメリットがあります。
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サードパーティ製ソリューションを使用し、SlackとGoogle チャットのメッセージをバックグラウンドで同期させる方法です。
一見理想的に見えますが、ライセンスコストがさらに追加される上、絵文字リアクションやスレッド機能の互換性に制限があるため、あくまで「移行期間中の暫定措置」として捉えるべきです。
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長期的には「Google Workspace(Google チャット)への一本化」が最も高い投資対効果(ROI)を生み出します。その理由は、単なるコスト削減だけではありません。
これが最大の理由です。Googleは現在、Gemini for Google Workspaceの機能を急速にGoogle チャットへ実装しています。
チャット内のスレッドの要約、ドライブ内の関連資料を元にした回答の生成、タスクの自動抽出など、AIが「組織のナレッジ」を横断的に学習・活用できる環境は、データがGoogleエコシステムに集約されてこそ真価を発揮します。データがSlackとGoogleに分散している状態では、AIのアウトプット精度は半減してしまいます。
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Googleの検索技術は、Google チャット内でも生きています。Gmailと同じ感覚で、過去の会話、共有されたファイル、タスクを瞬時に検索できます。
また、Google Vaultを利用すれば、メールとチャットのログを一元的に保全・監査できるため、法務・コンプライアンス部門の負担を劇的に軽減します。
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近年のアップデートにより、Google チャットの「スペース」は単なるチャットルームから、ファイル共有、タスク管理(To-Do)、カレンダー連携が一体となったプロジェクト管理ハブへと進化しました。
Slackのチャンネル機能に追随しつつ、Google特有のコラボレーション機能を強化しており、一般社員にとっても直感的に使いやすいUIになっています。
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SlackからGoogle チャットへの移行は、単なる「データの引っ越し」ではありません。「文化の移植」です。失敗する企業の多くは、システム的な移行だけで終わらせてしまい、現場の反発(「Slackの方が使いやすかった」という不満)を招きます。成功のためには、以下のステップが不可欠です。
現在、Slackでどのような会話が行われ、どのアプリ連携が頻繁に使われているかを棚卸しします。Google チャットの標準機能や、Google Apps Script (GAS)、AppSheetで代替可能かを検証します。
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各部門から影響力のあるキーマンを選出し、先行してGoogle チャットの利便性(特にGeminiによる効率化や、ドライブ連携の快適さ)を体感してもらいます。彼らを「変革の推進者」として育成します。
過去のログをどこまで移行するか、あるいはアーカイブとして保持するかを決定します。SlackからのデータエクスポートとGoogle チャットへのインポートは技術的な難易度が高いため、専門的なツールやパートナーの支援が必要です。
「Slackができなくなること」ではなく、「Google チャットだからできるようになること(共同編集の速さ、AI要約など)」に焦点を当てた社内トレーニングを実施します。
Google チャットとSlackの併用問題は、ツールの機能比較だけでは解決しません。組織の文化、コスト構造、そして将来のAI戦略を総合的に判断し、最適なロードマップを描く必要があります。
私たちXIMIXは単なるライセンス販売だけでなく、以下のようなご支援を行っています。
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