コラム

【入門】Google Cloud組織ポリシーとは? 全体ルール設定の基本と設定方法の初歩

作成者: XIMIX Google Cloud チーム|2025,04,21

はじめに:複雑化するGoogle Cloud環境、ガバナンスの課題を放置していませんか?

「部署やプロジェクトごとにGoogle Cloudの利用が進んだ結果、管理ルールがバラバラで統制が取れない」 「セキュリティやコストの観点から、全社で統一したルールを設けたいが、具体的な方法がわからない」

Google Cloudの柔軟性と拡張性は、ビジネスの成長を加速させる強力な武器です。しかし、その自由度の高さゆえに、利用が拡大するにつれて上記のような「ガバナンス(統制)」の課題に直面する企業は少なくありません。

ガバナンスが不在のままでは、以下のような深刻な事態を招く可能性があります。

  • セキュリティリスクの増大: 意図せず機密データが外部に公開されたり、禁止しているはずのサービスが利用されたりする。
  • 予期せぬコスト超過: 各プロジェクトが高価なリソースを無計画に作成し、想定外の高額請求につながる。
  • 運用非効率化と属人化: リソースの命名規則や構成がバラバラで管理が煩雑になり、障害対応も遅延する。

これらの問題を未然に防ぎ、組織全体としてGoogle Cloudを安全かつ効率的に活用するために不可欠なのが、一貫したルールを適用する仕組みです。その中核を担うのが、Google Cloudの組織ポリシーサービスです。

本記事では、Google Cloudの利用における組織全体のルール設定に関心のある方、特に初めて組織ポリシーに触れる方に向けて、その基本から具体的な設定例、そして導入を成功させるためのポイントまでを分かりやすく解説します。

Google Cloudの統制を実現する組織ポリシーとは

組織ポリシー(Organization Policy Service)とは、Google Cloudリソースの利用方法に対して、組織全体で一元的な制約(ルール)を設定・管理できるサービスです。

管理者はこのサービスを活用することで、個々のプロジェクトの設定に依存することなく、トップダウンでガバナンスを効かせることが可能になります。

組織ポリシー導入のメリット

組織ポリシーを導入することで、企業は主に4つの大きなメリットを享受できます。

  • 一元的なガバナンス強化: 組織全体、特定の部署、プロジェクト単位で、リソース利用に関するルールを一元的に設定・適用できます。
  • コンプライアンスの遵守: 業界規制や社内のセキュリティ基準で定められた要件を満たすよう、リソースの構成を強制できます。
  • プロアクティブなリスク低減: セキュリティ上問題のある設定や、高コストなリソースの作成などを未然に防止します。
  • 運用の標準化と効率化: 組織全体で一貫した構成を保ち、管理の複雑さを軽減し、運用コストを削減します。

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組織ポリシーの仕組み 階層構造とポリシーの継承

組織ポリシーを理解する上で最も重要な概念が、Google Cloudの「リソース階層」とポリシーの「継承」です。

Google Cloudのリソースは、以下の階層構造で管理されます。

  • 組織(Organization): 企業全体を表す最上位の階層。
  • フォルダ(Folder): 組織内の部署やチームなどをグループ化する単位。フォルダ内にさらにフォルダを作ることも可能です。
  • プロジェクト(Project): 仮想マシン(VM)やストレージなど、実際のリソースを作成・管理する単位。

組織ポリシーは、この階層構造に沿って適用されます。上位(例:組織)で設定されたポリシーは、原則として下位のすべてのリソース(フォルダ、プロジェクト)に自動的に継承されます。

これにより、「全社共通の基本ルールは組織レベルで設定し、特定の部署(フォルダ)やプロジェクトでは、必要に応じてルールを緩和または強化する」といった柔軟な管理が可能になります。

ポリシーを定義する「制約」の種類

組織ポリシーでは、「制約(Constraint)」を定義することで具体的なルールを設定します。制約には大きく分けて2つのタイプがあります。

  • リスト型制約 (List Constraint): 許可または拒否する値のリストを定義します。
    • 例:「許可するリージョンは asia-northeast1 (東京) と asia-northeast2 (大阪) のみ」

  • ブール型制約 (Boolean Constraint): 特定の振る舞いを許可するかどうかを True/False で設定します。 
    • 例:「外部IPアドレスを持つVMインスタンスの作成を許可しない (True)」

これらの制約を組み合わせることで、企業のニーズに応じたきめ細かなルールを構築できます。

組織ポリシーで実現できること|よくある課題と具体的な設定例

ここでは、多くの企業が抱えるガバナンスの課題と、それを組織ポリシーでどう解決できるか、具体的な設定例を交えてご紹介します。

課題1:データ保管場所を国内に限定し、コンプライアンスを遵守したい

  • 目的: データガバナンスや法規制の観点から、機密情報や個人情報を海外のデータセンターに保管することを防ぎたい。
  • 設定例: リスト型制約 gcp.resourceLocations を使用し、値に in:asia-northeast1-locations (東京リージョン内) と in:asia-northeast2-locations (大阪リージョン内) を指定して適用する。

課題2:意図しない外部公開によるセキュリティリスクを防ぎたい

  • 目的: セキュリティ担当者の許可なく、仮想マシン(VM)がインターネットへ直接アクセスできる状態になることを防ぎたい。
  • 設定例: ブール型制約 compute.vmExternalIpAccess を Deny all (すべて拒否) に設定する。これにより、原則として外部IPアドレスを持つVMの作成が禁止され、セキュリティが大幅に向上します。

課題3:コスト超過の原因となる高額なサービスの利用を制限したい

  • 目的: 一部の高スペックなマシンタイプや、特殊なAI/MLサービスなど、高額になりがちなサービスの利用を一部のプロジェクトに限定したい。
  • 設定例: リスト型制約 compute.restrictXpnProjectLienRemoval を使用し、利用を許可するサービスのみを指定、または制限したいサービスを拒否リストに追加する。

課題4:漏洩リスクの高い認証キーの作成を禁止したい

  • 目的: セキュリティインシデントの主要因となりうる「サービスアカウントキー」の作成を原則禁止し、より安全なIAMロールによる認証を徹底させたい。
  • 設定例: ブール型制約 iam.disableServiceAccountKeyCreation を Enforce (強制) に設定する。これはGoogle Cloudが強く推奨するセキュリティ対策の一つです。

組織ポリシーとIAMの違い|役割を理解して使い分ける

Google Cloudのアクセス制御には「IAM(Identity and Access Management)」もありますが、組織ポリシーとは役割が異なります。この2つを組み合わせることで、より強固なガバナンスが実現します。

  • IAM: 「誰が(Who)」リソースに対して「何ができるか(What)」を制御します。
    • 例:Aさんは、プロジェクトXのVMを起動・停止できる。

  • 組織ポリシー: 「何を(What Resource)」を「どのように(How)」利用できるか、その「環境のルール」を制御します。
    • 例:プロジェクトXでは、そもそも東京リージョン以外にVMを作成できない。

IAMがユーザー個々の「権限」を管理するのに対し、組織ポリシーは組織全体の「ガードレール」を設定するイメージです。

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失敗しない組織ポリシー導入・設定のポイント

組織ポリシーは非常に強力な機能ですが、設定を誤ると開発や運用に大きな影響を与えかねません。ここでは、XIMIXがお客様をご支援する中で培った、導入を成功させるための3つのポイントをご紹介します。

①スモールスタートで影響範囲を見極める

いきなり組織全体に厳しいポリシーを適用するのは避けるべきです。まずは影響範囲の少ないテスト用のプロジェクトやフォルダでポリシーを適用し、意図した通りに制約が機能するか、既存のアプリケーションや運用に予期せぬ影響が出ないかを十分に検証しましょう。

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②ポリシーの設計はシンプルに

当初から完璧で複雑なポリシーを目指す必要はありません。「まずはデータ保管場所の制限から」「次にサービスアカウントキー作成の禁止」というように、自社にとって最も優先度の高いリスクに対応するポリシーから、段階的に導入していくことをお勧めします。

③定期的な見直しと棚卸し

ビジネスの変化や新しいGoogle Cloudサービスの登場に合わせて、設定したポリシーが現状に適しているかを定期的にレビューすることが重要です。不要になったポリシーを削除し、新たなリスクに対応するポリシーを追加するなど、継続的なメンテナンスがガバナンス維持の鍵となります。

確実なガバナンス体制の構築はXIMIXへ

組織ポリシーの設計・導入は、自社のセキュリティ要件や組織構造、そしてGoogle Cloudの深い知見が求められる専門的な作業です。

「自社の要件を、どの制約で実現すれば良いかわからない」 「複雑な組織階層に合わせた、最適なポリシー設計を専門家に相談したい」 「設定ミスによる事業影響のリスクを避け、確実に導入を進めたい」

このような課題をお持ちでしたら、ぜひGoogle CloudプレミアパートナーであるXIMIXにご相談ください。私たちはお客様のビジネスとIT環境を深く理解し、豊富な導入実績で培ったノウハウを基に、組織ポリシーの活用を通じた安全で効率的なGoogle Cloud環境の実現を強力に支援します。

  • ガバナンス設計コンサルティング
  • 組織ポリシー導入・設定支援
  • 運用サポート・ポリシーレビュー

お客様一社一社の状況に合わせた、実効性のあるガバナンス体制の構築をお手伝いします。

XIMIXのGoogle Workspace 導入支援についてはこちらをご覧ください。
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まとめ

本記事では、Google Cloudにおける組織全体のガバナンスを実現する「組織ポリシーサービス」の基本を解説しました。

組織ポリシーを活用することで、企業はセキュリティリスクの低減、コスト管理の徹底、運用の一貫性向上といった多くのメリットを享受できます。リソース階層に応じた継承の仕組みや多様な制約を理解し、自社の課題に合わせて適用することが重要です。

まずは本記事を参考に、自社で優先的に適用すべきルールは何かを検討してみてはいかがでしょうか。そして、より高度な設計や確実な導入をお考えの際は、専門家であるXIMIXまでお気軽にご相談ください。適切なガバナンス体制を構築し、Google Cloudの価値を最大限に引き出しましょう。