コラム

データレイク・DWH・データマートとは?それぞれの違いと効果的な使い分けを徹底解説

作成者: XIMIX Google Cloud チーム|2025,05,13

はじめに

デジタルトランスフォーメーション(DX)が経営の最重要課題となる現代において、その成否を分けるのが「データ活用」です。総務省の調査※でも、多くの日本企業がDX推進の重要性を認識していることが示されています。しかし、データ活用の現場では、「何から手をつければ良いかわからない」「専門用語が多くて理解が追いつかない」といった声が後を絶ちません。

特に、「データレイク」「データウェアハウス(DWH)」「データマート」は、データ活用の基盤を語る上で欠かせない要素ですが、これらの違いを明確に説明できる方は意外と少ないのではないでしょうか。

本記事では、企業のDX推進を担う決裁者層や担当者の皆様に向けて、これら3つのコンポーネントの役割と違い、そして自社に最適な形を見つけるための実践的な使い分けまでを徹底的に解説します。XIMIXがこれまで多くの企業様をご支援してきた知見を交え、データ活用成功への具体的な道筋を示します。

※参考: 総務省「令和5年版 情報通信白書」

なぜ今、データ基盤がDX成功の鍵なのか?

効果的なデータ活用とは、単にツールを導入することではありません。社内外に散在する膨大なデータを、ビジネスの意思決定に使える「価値ある資産」へと変える仕組み、すなわち戦略的なデータ基盤を構築することが不可欠です。

このデータ基盤がなければ、データは各部門に孤立したまま(データのサイロ化)となり、全社横断での分析や、顧客への新たな価値提供は実現できません。データ基盤は、迅速な意思決定と新たなビジネス創出を支える、まさに企業の「背骨」となるのです。 その中核を成すのが、データレイク、DWH、データマートという3つの要素です。まずはそれぞれの役割を見ていきましょう。

関連記事:データのサイロ化とは?DXを阻む壁と解決に向けた第一歩【入門編】

データレイクとは?~あらゆるデータをそのまま貯蔵する「湖」~

概要と目的

データレイクとは、構造化データ(販売実績など)、半構造化データ(ログファイルなど)、非構造化データ(画像、SNS投稿など)といった、あらゆる形式の生データをそのままの形で一元的に蓄積するリポジトリ(貯蔵庫)です。

その名の通り、様々な水源から流れ込む水をそのまま受け入れる「湖」のように、将来の用途が未確定なデータも含めて、まずは失うことなく保存しておくことを主な目的とします。

関連記事:構造化データと非構造化データの分析の違いとは?それぞれの意味、活用上のメリット・デメリットについて解説

主な利点と留意点

  • 利点: あらゆるデータを保存できる柔軟性と、元データを失わない網羅性が最大の強みです。Google Cloud Storage のような安価なクラウドストレージを活用しやすく、機械学習やAIといった高度な分析のデータソースとしても活躍します。

  • 留意点: 生データを格納するため、品質が担保されていません。また、利用するには専門知識が求められます。適切な管理(データガバナンス)を怠ると、必要なデータが見つからない「データの沼(データスワンプ)」と化すリスクを常に内包しています。

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データウェアハウス(DWH)とは?~目的別に整理・統合された「倉庫」~

概要と目的

DWH(データウェアハウス)とは、社内の様々な業務システムからデータを集め、分析や意思決定に使いやすいように目的別に整理・統合し、時系列で蓄積したデータベースです。

データは、分析しやすいように品質を担保する処理(データクレンジングやETL/ELT処理)を経て格納されます。経営層やビジネスアナリストが、信頼できるデータに基づき迅速な意思決定を行うことを目的とした、いわばデータの「倉庫」です。

関連記事:なぜ必要? データクレンジングの基本を解説|データ分析の質を高める第一歩

主な利点と留意点

  • 利点: 格納されるデータの品質と信頼性が高く、BIツールなどで容易に分析できます。部門を横断した分析が可能になり、データドリブン経営の実現に貢献します。

  • 留意点: 事前にデータ構造を設計するため、導入に時間とコストがかかる場合があります。また、設計変更への柔軟性はデータレイクに劣り、主に構造化データを対象とします。

関連記事:データドリブン経営の実践:Google Cloud活用によるデータ活用ROI最大化への道筋

データマートとは?~特定用途に特化した「小売店」~

概要と目的

データマートとは、DWHに格納された膨大なデータの中から、特定の部門や目的に合わせて必要な部分だけを抽出し、小規模にまとめたデータベースです。

DWHが企業全体のデータを扱う「卸売倉庫」なら、データマートは営業部向け、マーケティング部向けといった形で、特定の顧客(ユーザー)のニーズに応える「小売店」に例えられます。ユーザーが必要なデータに迅速かつ容易にアクセスできる環境を提供することが目的です。

主な利点と留意点

  • 利点: 対象データが小さいため高速な分析が可能で、部門ごとのニーズに即応しやすい点が魅力です。DWHに比べて迅速かつ低コストで導入できます。

  • 留意点: 複数のデータマートが乱立すると、データ定義の不整合やデータの冗長性が生じ、かえって混乱を招く「サイロ化のリスク」があります。

【一覧比較】データレイク・DWH・データマートの決定的な違い

3つのコンポーネントの違いを、より明確に理解するために一覧表にまとめました。特に**「データの状態」と「主な利用者」**に着目すると、それぞれの役割が明確になります。

特徴

データレイク

データウェアハウス (DWH)

データマート

例え

卸売倉庫

小売店

データの種類

あらゆる種類(構造化・非構造化)

主に構造化データ

主に構造化データ

データの状態

生データ(未加工)

処理・加工済み(高品質)

DWHから抽出・集約済み

データ構造

スキーマ・オン・リード (※1)

スキーマ・オン・ライト (※2)

スキーマ・オン・ライト (※2)

主な目的

将来の分析に向けた全データ蓄積

全社的な経営分析・意思決定支援

特定部門・目的の迅速な分析

主な利用者

データサイエンティスト、エンジニア

経営層、ビジネスアナリスト

各事業部門のビジネスユーザー

柔軟性

高い

中程度

低い

導入コスト

ストレージは安価だが運用スキル要

比較的高価

比較的安価だが乱立すると増大

 
  • (※1) スキーマ・オン・リード: データを読み込む際に構造を定義する方式。柔軟性が高い。

  • (※2) スキーマ・オン・ライト: データを書き込む前に構造を定義する方式。品質と一貫性が担保される。

使い分けと連携:モダンデータ基盤の考え方

これら3つは排他的な関係ではなく、連携させることで価値を最大化できます。現代のデータ活用では、これらを組み合わせた「モダンデータスタック」という考え方が主流です。

  1. データレイクで全てを受け入れる: まず、あらゆる生データをデータレイクに集約します。

  2. DWHで価値ある資産に変える: データレイクから必要なデータを抽出し、DWHで分析できる形に加工・整理します。

  3. データマートで現場に届ける: DWHのデータを基に、各部門が必要なデータマートを作成し、迅速な分析を可能にします。

この流れにより、データレイクの「柔軟性」とDWHの「信頼性」を両立できます。特に BigQuery のようなクラウドDWHは、データレイク(Google Cloud Storageなど)とのシームレスな連携機能に優れており、このモダンな構成を強力に後押しします。

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モダンデータ基盤の新たな潮流「データレイクハウス」とは?

近年、データレイクとDWHの「良いとこ取り」をした「データレイクハウス」という新しいアーキテクチャが注目されています。

データレイクハウスは、データレイクの柔軟性と低コスト性を維持しながら、DWHが持つデータ管理機能や高いパフォーマンスを直接データレイク上で実現しようとするアプローチです。これにより、データレイクからDWHへデータを移動させる手間やコストを削減し、よりシンプルで高速なデータ活用が期待できます。

この分野の技術は急速に進化しており、自社の将来的な拡張性を見据える上で、知っておくべき重要なトレンドと言えるでしょう。

自社に最適なデータ基盤を構築する実践的3ステップ

「理論はわかったが、自社ではどう進めればいいのか?」という疑問にお答えします。以下の3ステップで検討を進めることが成功への近道です。

ステップ1:データ活用の「目的」を明確にする

まず最も重要なのは、「何のためにデータを活用するのか」という目的を具体的に定義することです。「経営状況をリアルタイムに可視化したい」「顧客解像度を上げてLTVを最大化したい」「需要予測の精度を上げたい」など、ビジネス上のゴールを明確にしましょう。この目的が、必要なデータの種類や基盤の要件を決定します。

関連記事:DXにおける適切な「目的設定」入門解説 ~DXを単なるツール導入で終わらせないために~

ステップ2:現状のデータ資産とIT環境を把握する

次に、社内のどこに、どのようなデータが存在するのかを棚卸しします。各業務システムの仕様、データの形式、更新頻度などを把握し、目的達成に必要なデータが揃っているか、不足しているかを確認します。既存のITインフラや、運用を担当する人材のスキルレベルも重要な判断材料です。

ステップ3:スモールスタートで拡張性のある設計を選ぶ

最初から完璧なデータ基盤を目指す必要はありません。特定の課題を解決するための最小限の構成(データマートなど)から始め、成功体験を積みながら段階的に全社的なDWHへと拡張していくアプローチが現実的です。将来的な拡張を見据え、BigQuery のようなスケーラビリティの高いクラウドサービスを選択することが、長期的な投資対効果を高める鍵となります。

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よくある失敗例とXIMIXの解決アプローチ

XIMIXはこれまで多くのお客様のデータ基盤構築をご支援する中で、いくつかの典型的な失敗パターンを見てきました。

  • ありがちな失敗: 「とりあえずデータを貯めよう」と巨大なデータレイクを構築したものの、誰も使えず「データの沼」になってしまう。

  • XIMIXのアプローチ: 私たちは、まずお客様のビジネス課題のヒアリングから始め、目的ベースで必要なデータとアーキテクチャを定義します。構築だけでなく、データガバナンスの設計や、データ活用を組織に定着させるための伴走支援まで行い、「使われる」データ基盤を実現します。

XIMIXでは、Google Cloud のテクノロジーとNI+Cの豊富な導入実績を組み合わせ、構想策定から構築、運用、活用定着までをワンストップでご支援します。 BigQuery を中核としたDWH構築はもちろん、データレイクの設計、データ可視化環境の構築、データガバナンスの策定まで、お客様のフェーズに合わせた最適なサポートを提供します。

データ基盤の構築やデータ活用に関するお悩みは、ぜひお気軽にXIMIXにご相談ください。

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まとめ

本記事では、データ活用の要となる3つのコンポーネントについて、その違いと実践的な使い分けを解説しました。

  • データレイク(湖): あらゆる生データを蓄積。柔軟性が強み。

  • DWH(倉庫): 分析用に加工・統合されたデータを蓄積。信頼性が強み。

  • データマート(小売店): 特定用途のデータを集約。迅速性が強み。

これらの特性を理解し、自社の目的と状況に合わせて適切に選択・連携させることが、DX成功への羅針盤となります。小さな一歩からでもデータ基盤の整備を始めることが、5年後、10年後の企業の競争力を大きく左右します。この記事が、その力強い一歩を踏み出すきっかけとなれば幸いです。