コラム

ビジネスの多角化を成功に導くデータマネジメント|M&A・新規事業の壁を越える

作成者: XIMIX Google Cloud チーム|2025,09,16

はじめに

市場の成熟化やグローバル競争の激化を受け、多くの企業にとってビジネスの多角化は、持続的な成長を実現するための重要な経営戦略となっています。しかし、M&Aによる事業統合や、意欲的な新規事業開発といった多角化の試みが、必ずしも期待通りの成果に結びついていないケースも少なくありません。その成功を阻む、見過ごされがちな要因こそが「データマネジメント」の不在です。

各事業でデータがサイロ化し、全社的な視点での意思決定ができない。M&Aで引き継いだシステムが足かせとなり、迅速な事業展開が阻害される。新規事業のROIをデータで証明できず、追加投資の判断が下せない──。これらは、私たちが多くの中堅・大企業のDX推進を支援する中で、頻繁に目の当たりにしてきた課題です。

本記事では、ビジネスの多角化を目指す企業の経営層や事業責任者の方々に向けて、なぜ今データマネジメントが不可欠なのか、そして多角化の具体的なシナリオにおいて、どのような「データの壁」が存在し、それをどう乗り越えるべきかを解説します。単なる技術論ではなく、企業の競争優位性といかに直結するのか、戦略的な視点から紐解いていきます。

なぜ、ビジネスの多角化に「データマネジメント」が不可欠なのか?

ビジネスの多角化とは、単に事業の数を増やすことではありません。それぞれの事業が持つ顧客基盤、技術、ノウハウといった資産を組み合わせ、新たなシナジーを生み出すことで企業全体の価値を最大化する活動です。この「シナジー創出」の核となるのが、事業を横断したデータ活用に他なりません。

しかし、多くの企業では事業部門ごとにシステムやデータ管理の仕組みが最適化されており、全社レベルでのデータ統合・活用が困難な状況にあります。この課題は、企業のDX推進度によって顕著な差となって表れています。実際に、IDC Japanが2024年に実施した調査によると、DXで先行する企業の8割強がデータ活用を実践できている一方で、取り組みが遅れている企業ではその割合が2割強に留まるという結果が出ています。また、同社の別の調査では、データマネジメントの成熟度が最高レベルに達している企業はごくわずかであることも指摘されており、多くの企業がデータ活用の重要性を認識しつつも、それを全社的な競争力に転換するには至っていない実態が浮き彫りになっています。

事業フェーズで見る、多角化を阻む3つの「データの壁」

多角化の過程で企業が直面するデータ課題は、そのフェーズや手法によって様相が異なります。ここでは代表的な3つのシナリオを取り上げ、それぞれに潜む「データの壁」を具体的に見ていきましょう。

①【M&A・事業統合】継ぎ足されたシステムとサイロ化するデータ

M&Aは事業ポートフォリオを迅速に拡大する有効な手段ですが、同時に深刻なデータ課題を生み出す最大の要因とも言えます。買収した企業のシステム、データ形式、管理ルールは当然ながら自社とは異なります。結果として、いわゆる「レガシーシステム」が乱立し、それぞれのシステムにデータが孤立する「データサイロ」が各所で発生します。

この状態では、例えば「グループ全体の顧客情報を統合し、クロスセルを促進する」といった基本的なシナジー戦略さえ実行困難です。データの所在が不明瞭なため、正確な経営状況の把握に時間がかかり、迅速な意思決定を阻害する。これは、M&Aによる投資効果を大きく損なう典型的な失敗パターンです。

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②【新規事業開発】不透明なROIとデータ活用の遅れ

新たな市場への参入を目指す新規事業開発では、仮説検証を高速で繰り返し、市場の反応を的確に捉える「アジリティ(俊敏性)」が成否を分けます。そのためには、顧客行動データや市場データをリアルタイムで収集・分析し、スピーディーに戦略へフィードバックする仕組みが不可欠です。

しかし、多くの企業では、既存事業の巨大なデータ基盤が足かせとなり、新規事業に必要な小規模で柔軟なデータ分析環境を迅速に用意できません。結果として、勘や経験に頼った意思決定に終始し、事業のROI(投資対効果)をデータで客観的に示すことができないまま、有望な事業機会を逃してしまうのです。

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③【既存事業の拡張】部門最適化の限界とガバナンスの形骸化

既存事業を新たな地域や顧客層へ拡張する際にも、データの壁は立ちはだかります。例えば、製造部門は生産効率を、マーケティング部門は顧客エンゲージメントを、というように、各部門がそれぞれのKPI達成のためにデータ活用を進めた結果、部門ごとにデータ基盤が乱立。全社的な視点でのデータ活用が非効率になるケースは後を絶ちません。

また、事業が拡大するにつれて、遵守すべき法規制(個人情報保護法など)やセキュリティ要件も複雑化します。全社で統一されたデータガバナンス(データを適切に管理・活用するためのルールや体制)が確立されていなければ、データ品質の低下やセキュリティインシデントといった重大なリスクを招き、企業の信頼を失うことにもなりかねません。

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多角化を成功に導く、次世代データマネジメント基盤の要件

これらの「データの壁」を乗り越え、ビジネスの多角化を真の成長エンジンとするためには、どのようなデータマネジメント基盤が必要なのでしょうか。私たちは、次の3つの要件が不可欠だと考えています。

①俊敏性と拡張性を両立するモダンデータ基盤

M&Aによる大規模なデータ統合から、新規事業のスピーディな立ち上げまで、多角化のあらゆる局面に対応できる柔軟性が求められます。これを実現するのが、Google Cloudに代表されるクラウドネイティブなモダンデータ基盤です。

必要な時に必要なだけコンピューティングリソースを確保でき、データの種類や量に縛られずに分析が可能です。これにより、従来は数ヶ月から数年かかっていたデータ基盤の構築を大幅に短縮し、ビジネスの変化に即応できる俊敏性を手に入れることができます。

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②全社的なデータ活用を促すデータガバナンス

データは「民主化」され、誰もが必要な情報にアクセスできる状態が理想ですが、それは無秩序な状態とは異なります。誰が、どのデータに、どこまでアクセスできるのかを明確に定義し、データの品質とセキュリティを担保する全社統一のデータガバナンスが不可欠です。

これにより、各事業部門は安心してデータを活用できるだけでなく、経営層は信頼性の高いデータに基づいた的確な意思決定を下すことが可能になります。

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③生成AI活用を見据えたデータ品質とアーキテクチャ

生成AIのビジネス活用は企業の競争力を左右する重要な要素となっています。Gemini for Google Cloudのような先進的なAIモデルを活用し、市場予測の高度化や新たな顧客体験の創出を実現するためには、その学習データとなる社内データの品質と整理された状態が決定的に重要です。

将来的なAI活用を見据え、データが整理・統合され、常に最新かつ高品質な状態に保たれているデータ基盤アーキテクチャを設計しておくことが、未来への投資となるのです。

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Google Cloudで実現する、シナリオ別データマネジメント実践ユースケース

では、Google Cloudを活用することで、前述の課題を具体的にどう解決できるのでしょうか。ここでは2つのユースケースをご紹介します。

①M&A後の迅速なデータ統合を実現するBigQueryとLooker

M&A後の煩雑なデータ統合プロジェクトにおいて、Google CloudのサーバーレスデータウェアハウスであるBigQueryは絶大な効果を発揮します。オンプレミスのシステムとは異なり、買収した企業の多様な形式のデータをまずはBigQueryに集約。その後、ETL/ELTツールを活用してデータを整形・統合していくことで、従来の数分の一の期間でグループ横断のデータ分析基盤を構築できます。

さらに、BIツールLookerを組み合わせることで、統合されたデータを誰もが分かりやすい形で可視化し、経営層から現場担当者まで、それぞれの立場で必要なインサイトを得られるようになります。これにより、M&A後のシナジー創出を飛躍的に加速させることが可能です。

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②新規事業の高速なPDCAを支えるVertex AIとデータ分析基盤

新規事業開発においては、Google CloudのAIプラットフォームVertex AIが強力な武器となります。市場データやWebサイトのアクセスログなどをリアルタイムで分析し、顧客セグメントの特定や需要予測モデルの構築を容易に行えます。

これにより、データに基づいた精度の高い仮説検証(PDCA)サイクルを高速で回すことが可能となり、事業の成功確率を大幅に高めることができます。スモールスタートで始め、事業の成長に合わせて柔軟に基盤を拡張できるのもクラウドならではの利点です。

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投資対効果を最大化する、データマネジメント戦略成功の鍵

最後に、データマネジメントへの投資を成功させ、多角化戦略の成果を最大化するための重要なポイントを3つ挙げます。これらは、技術的な側面以上にプロジェクトの成否を左右する要素です。

①経営層のコミットメントと全社的なデータ文化の醸成

データマネジメントは、単なるIT投資ではありません。事業のあり方そのものを変革する経営課題です。そのため、経営層がその重要性を深く理解し、強力なリーダーシップを発揮することが不可欠です。トップダウンでデータ活用の重要性を全社に伝え、部門の壁を越えて協力するデータ文化を醸成していく必要があります。

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②スモールスタートと段階的な拡張計画

全社規模の完璧なデータ基盤を最初から目指すことは、時間とコストがかかりすぎ、多くの場合失敗に終わります。まずは、最もビジネスインパクトの大きい特定の課題(例えば、M&A後の顧客データ統合など)にスコープを絞ってスモールスタートし、成功体験を積み重ねながら段階的に対象領域を拡張していくアプローチが現実的かつ効果的です。

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③外部の専門家・パートナーの活用による知見の補完

ビジネスの多角化に伴うデータマネジメントは、極めて複雑で高度な専門性が求められます。特に、複数のレガシーシステムが絡み合う中堅・大企業のデータ環境を整理し、Google Cloudのような最新技術を適用していくには、豊富な経験と知見が不可欠です。

自社だけで全てを賄おうとせず、信頼できる外部パートナーと連携することも成功への近道です。客観的な視点から課題を整理し、最新のベストプラクティスに基づいた戦略を共に描くことで、プロジェクトの失敗リスクを大幅に低減し、投資対効果を最大化することができます。

XIMIXが提供する価値

私たち『XIMIX』は、Google Cloudのプレミアパートナーとして、数多くの中堅・大企業のデータ基盤構築とDX推進を支援してまいりました。特に、M&Aや事業再編に伴う複雑なデータ環境のモダナイゼーションにおいて、深い知見と実績を有しています。

単に技術を提供するだけでなく、お客様の経営戦略や事業課題を深く理解し、Google Cloudを活用した最適なアーキテクチャの設計、実装、そしてデータ活用文化の定着までをワンストップでご支援します。ビジネスの多角化という挑戦を成功に導くパートナーとして、ぜひ私たちにご相談ください。

ご興味をお持ちいただけましたら、以下のページも合わせてご覧ください。 

XIMIXのGoogle Workspace 導入支援についてはこちらをご覧ください。
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まとめ

本記事では、ビジネスの多角化を成功させる上で、戦略的なデータマネジメントがいかに重要であるかを解説しました。

  • ビジネス多角化の成否は、事業横断でのデータ活用によるシナジー創出にかかっている。

  • M&A、新規事業開発など、多角化のフェーズごとに特有の「データの壁」が存在する。

  • これらの壁を乗り越えるには、俊敏性とガバナンスを両立するモダンデータ基盤が不可欠。

  • 成功のためには、経営層のコミットメント、段階的なアプローチ、そして専門家の活用が鍵となる。

データは、もはや単なる記録ではありません。それは、未来を予測し、新たな価値を創造するための最も重要な経営資産です。貴社の多角化戦略を真の成功へと導くために、今こそデータマネジメントに戦略的に取り組む時ではないでしょうか。