コラム

データ分析で既存業務の「ムダ」を発見しBPRを実現 - Google Cloudで始める業務改革の第一歩

作成者: XIMIX Google Cloud チーム|2025,06,18

はじめに:BPR(業務プロセス改革)が「感覚」で進んでいませんか?

多くの企業が、競争力強化や生産性向上のために「BPR(Business Process Re-engineering:業務プロセス改革)」の必要性を認識しています。しかし、「どこから手をつけるべきか分からない」「現場の感覚的な改善に終始し、大きな成果に繋がらない」といった課題に直面しているケースは少なくありません。

特に、変化の激しい現代のビジネス環境において、旧来の経験や勘だけに頼った業務改革は限界を迎えています。部分的な効率化はできても、組織全体の最適化には至らず、改革が頓挫してしまうこともあります。

本記事では、こうした属人的なアプローチから脱却し、データ分析によって既存業務の「ムダ」を客観的に発見し、確かな根拠に基づいたBPRへと繋げるためのアプローチを、具体的なステップと共に分かりやすく解説します。さらに、その実践を強力にサポートするGoogle Cloudの活用法にも触れていきます。

この記事を読み終える頃には、貴社のBPRを次のステージへ進めるための、具体的で実践的なヒントを得られるはずです。

なぜ、BPRに「データ分析」が不可欠なのか?

BPRの目的は、単なる業務の効率化(改善)だけではありません。その本質は、事業目標の達成に向けて業務プロセスを根本的に見直し、再設計(改革)することにあります。しかし、この「根本的な見直し」が最も難しい部分です。

「勘」や「経験」による業務改善の限界

従来、業務改善は現場担当者の豊富な経験や鋭い勘、あるいは一部の声の大きい部署の意見に依存することが多くありました。これらが全く無意味なわけではありませんが、組織全体のBPRを進める上では以下のような限界を生み出します。

  • 問題の全体像が見えない(部分最適の罠) 特定の部署や担当者からは効率的に見えても、プロセス全体で見ると別の場所(例:後続部門)にシワ寄せが起きている「部分最適」に陥りがちです。

  • 原因の特定が曖昧 「なんとなくこの業務が非効率だ」と感じていても、その真の原因(例:特定の承認者のボトルネック、特定の時間帯のシステム遅延)を客観的に特定できません。

  • 効果測定が困難でPDCAが回らない 改善施策の効果をデータで評価できないため、施策が成功だったのか失敗だったのかを判断できず、次の打ち手に繋がりません。

  • 関係者の合意形成が困難 客観的なデータ(事実)に基づかない議論は、「言った・言わない」「以前からこうだった」といった水掛け論になりやすく、部門間の利害調整も難航します。

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データは業務実態を映す「鏡」

こうした課題を解決し、DX時代に求められるBPRを実現するために、データ分析による客観的なアプローチが不可欠なのです。

データは、業務の実態をバイアスなく映し出す「鏡」の役割を果たします。これまで見えなかったプロセスの滞留、非効率な作業、隠れたボトルネックを「見える化」することで、組織全体が同じ事実を共有し、本質的な課題解決に向けた議論をスタートできます。

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データ分析でBPRを推進する実践的5ステップ

では、具体的にどのようにデータ分析をBPRに活用すればよいのでしょうか。ここでは、私たちXIMIXがご支援する際に重視している、基本的な5つのステップに分けて解説します。

ステップ1:課題の特定と目標設定(As-IsとTo-Beの明確化)

最も重要なのが、この最初のステップです。データ分析ありきではなく、「どの業務の、どのような課題を解決したいのか」というビジネス課題を明確にします。

例えば、「請求書処理のリードタイムが長く、月末の経理部門の残業が常態化している」「営業部門の見積作成に時間がかかり、商談機会を逃している」といった具体的な課題(As-Is:現状)を定義します。

そして、「請求書処理リードタイムを平均3営業日から1営業日に短縮する」「見積作成時間を平均60分から20分に短縮する」のように、データで測定可能な目標(KPI)を設定します(To-Be:あるべき姿)。

ステップ2:データの収集と「見える化」

次に、設定した課題に関連するデータを網羅的に収集します。勘や思い込みを排除し、事実を捉えるための最も重要なプロセスが、この「業務プロセスの見える化」です。

収集・可視化するデータの例:

  • システムログデータ: ERP、SFA、CRM、勤怠管理システムなどの操作ログ、処理時間、エラーログ。

  • 業務実績データ: 各業務の処理件数、手戻り回数、担当者ごとの作業時間。

  • コミュニケーションデータ: メールの送受信履歴、チャットツールでのやり取り(キーワード分析など)。

  • センサーデータ(物理的な業務の場合): 工場の稼働状況、物流倉庫の動線データ。

これらのデータを集め、グラフやダッシュボードを用いて可視化することで、これまで見えなかったプロセスの滞留点や非効率な作業が客観的に浮かび上がってきます。

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ステップ3:分析とインサイト(示唆)の発見

データが「見える化」されたら、次はその背景にある原因を探る分析のフェーズです。単なるデータの羅列を眺めるのではなく、「なぜ?」を繰り返すことが重要です。

  • なぜ特定の工程(例:法務レビュー)で常に時間がかかるのか?

  • どのような条件下(例:特定の製品、特定の担当者)で手戻りが発生しやすいのか?

  • 部門間の連携(例:営業から開発への情報連携)でデータが欠落していないか?

例えば、「特定のベテラン承認者Aさんでプロセスが必ず滞留している」「午前中に手作業でのデータ入力ミスが集中して発生している」といった、具体的な改善策に繋がるインサイト(気づき)を発見することが、このステップのゴールです。

ステップ4:改善策の立案と実行(BPRへ)

得られたインサイトに基づき、具体的な業務プロセスの再設計(To-Beモデルの構築)を行います。データという客観的な根拠があるため、関係者の合意形成もスムーズに進めやすくなります。

  • インサイト: 特定の承認者Aさんでプロセスが滞留している

    • 改善策: 承認フローの見直し、一定金額以下は現場責任者への権限移譲、承認プロセスのシステム化(アラート機能など)

  • インサイト: 手作業でのデータ入力ミスが午前中に多発

    • 改善策: RPAによる入力自動化、入力フォームのUI/UX改善(エラーチェック機能強化)、作業時間の分散

ここで重要なのは、施策に優先順位をつけることです。インパクト(効果の大きさ)とフィージビリティ(実現可能性)の2軸で評価し、最も効果的な施策から着手します。

ステップ5:効果測定と継続的な改善(PDCA)

施策を実行して終わり、ではありません。施策実行後もデータを継続的に計測し、ステップ1で設定したKPIが達成できているかを評価します。

目標を達成できていれば、その施策を本格展開します。もし達成できていなければ、その原因を再度データで分析し、改善策(Plan)を見直します。この「PDCAサイクル(Plan-Do-Check-Action)」を回し続けることが、BPRを単発のイベントで終わらせず、組織文化として定着させる鍵となります。

BPR推進を阻む「よくある壁」と失敗パターン

データ分析によるBPRは強力な手法ですが、多くの企業が陥りがちな「壁」も存在します。ここでは、代表的な失敗パターンとその対策を解説します。

失敗パターン1:データ収集・整備だけで力尽きる

BPRの目的はデータを集めることではなく、データを「活用」することです。しかし、社内にデータが散在し、形式もバラバラなため、その収集と整備(データクレンジング)に膨大な工数がかかり、分析フェーズにたどり着く前にプロジェクトが疲弊してしまうケースです。

対策: 最初から完璧なデータ基盤を目指すのではなく、ステップ1で定義した課題解決に必要な最小限のデータ(スモールスタート)から収集・分析を始めることが重要です。

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失敗パターン2:現場の抵抗とBPRへの無理解

データによって業務の非効率な点やムダが可視化されると、それを「自分の仕事への否定」や「監視」と捉え、現場担当者が抵抗感を抱くことがあります。また、経営層が短期的な成果(コスト削減)のみを求め、現場の負荷を顧みない場合も改革は進みません。

対策: BPRの目的が「誰かを責めること」ではなく、「組織全体の生産性を上げ、より付加価値の高い仕事にシフトするため」であることを粘り強く説明し、現場を巻き込むことが不可欠です。

失敗パターン3:分析結果をアクションに移せない

高度な分析を行い、素晴らしいインサイトが得られたとしても、それが具体的な業務プロセスの変更(アクション)に繋がらなければ意味がありません。「分析レポートを作って終わり」になってしまうパターンです。

対策: ステップ4(改善策の立案)において、分析担当者だけでなく、必ず業務実行部門(現場)のメンバーを巻き込むこと。現場の知見とデータを融合させることで、初めて実効性のある改善策が生まれます。

BPRを加速させるGoogle Cloudのデータ分析ソリューション

ここまでのステップを見て、「データ収集や分析には専門的な基盤や高度なスキルが必要なのでは?」と感じた方も多いでしょう。特に「失敗パターン1(データ収集・整備で力尽きる)」を回避するために、強力なツールが不可欠です。

Google Cloudは、データ分析によるBPRを「スモールスタート」し、将来的に「スケール(拡張)」させる上で、非常に強力な選択肢となります。

①直感的なデータ探索と可視化を実現する「Looker (Looker Studio)」

収集したデータを分析し、「見える化」(ステップ2)するためのBI(ビジネスインテリジェンス)ツールです。プログラミングの知識がなくても、直感的な操作でデータを探索し、分かりやすいダッシュボードを迅速に作成できます。

Lookerの強みは、単なる可視化に留まらず、データガバナンス(LookMLによる定義の一元管理)にも優れている点です。これにより、部門ごとに異なる指標が乱立するのを防ぎ、関係者全員が「同じデータ(唯一の真実)」を見て議論できる環境を整え、迅速な意思決定を支援します。

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②あらゆるデータを一元的に分析できる「BigQuery」

社内に散在する様々な形式・種類の大規模データを、高速に分析できる「データウェアハウス」です。基幹システムのデータからWebサイトのアクセスログ、IoTデータまで、あらゆるデータをBigQueryに集約することで、部門を横断した高度な分析(ステップ3)が可能になります。

BigQueryの最大の特長は、サーバーレス(サーバー管理不要)である点です。データ量や分析クエリの負荷に応じて自動でスケールするため、データ分析基盤の構築・運用にかかる時間とコストを大幅に削減できます。これにより、企業はインフラの管理ではなく、本来注力すべき「データの活用」にリソースを集中させることができます。

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XIMIXが実現する「データ×業務知見」による伴走支援

ここまで、データ分析を活用したBPRの進め方と、それを支えるGoogle Cloudの技術について解説しました。しかし、実際に自社で推進するとなると、

  • 「何から手をつければ良いか、具体的な計画に落とし込めない」

  • 「どのデータに価値があるのか判断できない」

  • 「ツールを導入したが、現場で使いこなせない」

といった、新たな壁に直面することも少なくありません。

XIMIXの強み:ツール導入と業務改革の「両輪」を回す

私たちXIMIXは、単なるツールの導入ベンダーではありません。長年にわたり数多くの企業様のシステム構築やDXをご支援してきたSIer(システムインテグレーター)としての確かな「業務知見」を持っています。

データ分析ツールを導入しても、どのデータがどの業務プロセスと紐づいているかを深く理解していなければ、本質的なインサイト(示唆)は得られません。例えば、ERPのログデータ一つとっても、それが「受注」「出荷」「請求」のどの段階の、どのような承認フローを経て記録されたものかを理解して初めて、真のボトルネックの特定が可能になります。

この「業務プロセスへの知見」と、「Google Cloudに関する高度な技術力」を掛け合わせることで、机上の空論ではない、現場の実態に即した推進を強力にサポートします。

単にツールを提供するだけでなく、お客様の業務を深く理解した上で、ロードマップ策定から、BigQueryやLookerを用いた分析基盤の構築、そして改革の定着化まで一気通貫で伴走支援できるのが私たちの最大の強みです。

XIMIXのGoogle Workspace 導入支援についてはこちらをご覧ください。
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まとめ

本記事では、BPR(業務プロセス改革)の壁を乗り越えるための武器として「データ分析」がいかに有効であるか、そしてその具体的な進め方と注意点について解説しました。

  • BPRの成功には、勘や経験だけに頼らず、データに基づき業務を「見える化」することが不可欠。

  • 「課題特定→データ収集・可視化→分析→改善実行→効果測定」のステップで、客観的な根拠に基づいた改革が可能になる。

  • 推進時には「データ整備での疲弊」や「現場の抵抗」といった壁が存在するため、スモールスタートと現場の巻き込みが重要。

  • Google CloudのLookerやBigQueryは、データ分析基盤を迅速に構築し、BPRを加速させる強力なツールとなる。

「ムダな業務」は、企業の成長を妨げる見えないコストです。データ分析という新たな視点を取り入れることが、そのコストを発見し、企業をより強く、しなやかに変革させるための第一歩となります。

現状の課題整理や、データ分析によるBPRの第一歩を踏み出したいとお考えでしたら、ぜひお気軽にXIMIXまでご相談ください。専門家が貴社の状況に合わせた最適なプランをご提案します。