コラム

【入門編】ゼロスタンディング特権とは?「常時特権」を排除し、セキュリティと生産性を両立させる

作成者: XIMIX Google Cloud チーム|2026,02,13

はじめに

企業のデジタルトランスフォーメーション(DX)が加速し、クラウド活用が当たり前となった現在、セキュリティのアプローチも根本的な変革を迫られています。特に、システム全体を掌握できる「特権ID(管理者権限)」の管理は、企業の存続に関わる最重要課題です。

かつては、信頼できる管理者に「常に」強い権限を与えておくことが一般的でした。しかし、サイバー攻撃が高度化した今、その「常時特権」こそが最大のリスク要因となっています。

本記事では、ゼロトラスト時代の新たな常識である「ゼロスタンディング特権(Zero Standing Privileges / ZSP)」について解説します。

単なるセキュリティ用語の解説にとどまらず、Google Cloud環境において、いかにして「業務効率を落とさずに」この概念を実装し、強固なガバナンスとビジネススピードを両立させるか。その具体的な手法と、意思決定者が知っておくべき導入のポイントを紐解きます。

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なぜ今、「ゼロスタンディング特権」が不可欠なのか

「ファイアウォールで守っているから大丈夫」「多要素認証(MFA)を入れているから安心」。そう考えている企業ほど、特権ID侵害のリスクにさらされています。まずは、なぜ従来の特権管理が限界を迎えているのか、その背景を整理します。

①従来の「常時特権」が抱える構造的リスク

多くの企業では、情報システム部門の管理者や開発リーダーに対し、「オーナー」や「編集者」といった強力な権限(ロール)を定常的に付与しています。

これは「障害対応やリリース作業を迅速に行うため」という利便性を優先した結果ですが、セキュリティの観点からは以下のような致命的なリスクをはらんでいます。

  • 攻撃対象領域(アタックサーフェス)の拡大:権限を持ったアカウントが1つでも侵害されれば、攻撃者はその瞬間からシステム全体を自由に操作できてしまいます。特権IDは、攻撃者にとって「合鍵」のようなものです。合鍵を持ったまま常に玄関先に立っている状態が、常時特権です。
  • 権限の肥大化(Privilege Creep):「念のため」付与された権限が、プロジェクト終了後や人事異動後も削除されずに残り続ける現象です。管理が行き届かない「幽霊特権」は、内部不正の温床にもなり得ます。
  • 監査証跡の不透明さ:常に特権を持っている状態では、「いつ、誰が、何の目的で」その強い権限を行使したのかを事後的に追跡・判別することが極めて困難になります。

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②攻撃者の狙いは「脆弱性」よりも「特権ID」

近年のセキュリティインシデントの傾向を見ると、ソフトウェアの脆弱性を突く攻撃以上に、「盗まれたクレデンシャル(ID・パスワード)による正規ルートからの侵入」が増加しています。

攻撃者にとって、堅牢なシステムを正面から突破するよりも、特権を持つ管理者のIDをフィッシング等で盗み出す方がはるかに低コストで確実です。だからこそ、「IDが盗まれても、そのID自体には権限がない状態」を作ることが、究極の防御策となるのです。

ゼロスタンディング特権(ZSP)のメカニズム

ここで登場するのが「ゼロスタンディング特権(ZSP)」という概念です。これは、最小特権の原則をさらに推し進めたものであり、「デフォルトの状態では、誰一人として特権を持っていない(Standing Privileges = Zero)」環境を指します。

「必要な時だけ」権限を与えるJITアクセスの仕組み

ZSPを実現するための核心技術が「Just-In-Time (JIT) アクセス」です。特権が必要な業務が発生した瞬間にのみ、以下のプロセスを経て一時的に権限が付与されます。

  1. リクエスト: ユーザーが「特定の作業(例:DBメンテナンス)」のために権限申請を行う。
  2. 承認: ポリシーに基づき自動承認、または上長・管理者による手動承認が行われる。
  3. 付与: 必要な権限が、必要な時間(例:2時間)だけ付与される。
  4. 失効: 作業完了後、または時間が経過すると、権限は自動的に剥奪される。

この仕組みにより、普段のアカウントは「一般ユーザー」としての権限しか持たないため、万が一IDが漏洩しても、攻撃者は重要な設定変更やデータアクセスを行うことができません。

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最小権限の原則(PoLP)との決定的違い

よく混同される「最小権限の原則(Principle of Least Privilege)」は、「業務に必要な最小限の権限に絞る」という範囲(Scope)の話です。一方、ゼロスタンディング特権は、「権限を持っている時間(Time)をゼロにする」というアプローチです。

  • 最小権限: 「Aさんはサーバー管理しかできない(範囲の制限)」
  • ゼロスタンディング特権: 「Aさんは普段何もできないが、申請すれば2時間だけサーバー管理ができる(時間の制限)」

この両者を組み合わせることで、セキュリティ強度は飛躍的に向上します。

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Google Cloudで実現する現実的な実装手法

概念は理解できても、「毎回申請するのは現場の負担が大きい」「緊急時に対応が遅れるのではないか」という懸念を持つ方も多いでしょう。

しかし、Google Cloudの最新機能を活用すれば、利便性を損なわずにZSPを実装することが可能です。

①Privileged Access Manager (PAM) の活用

Google Cloudには、特権アクセスの管理を効率化するためのPrivileged Access Manager (PAM) という機能があります。これを活用することで、複雑なスクリプトを組むことなくJITアクセスを実現できます。

  • 承認フローの自動化:例えば、「開発環境の閲覧権限」のような低リスクなリクエストであれば、理由の入力を条件に即時自動承認する設定が可能です。一方、「本番環境のDB変更」のような高リスクなリクエストには、必ずマネージャーの承認を必須とするなど、リスクに応じた柔軟なワークフローを設計できます。
  • 緊急時のブレイクグラス(Break Glass):システム障害時など、一刻を争う事態に備え、承認なしで即座に最強権限を取得できる「ブレイクグラス」手順をあらかじめ設定できます。ただし、この操作は最高レベルのアラートとして全管理者に通知され、厳密な事後監査の対象とすることで統制を保ちます。

条件付きIAMポリシー (IAM Conditions) による動的制御

Google Cloud IAMの条件付きポリシーを活用すれば、さらにきめ細かい制御が可能です。

  • 時間ベースの制約: 「平日の9:00〜18:00の間のみ有効」という条件を付与。
  • リソースベースの制約: 「特定のタグが付いたVMインスタンスのみ操作可能」という条件を付与。
  • アクセス元の制約: 「社内VPN経由のアクセス(特定のIPアドレス)のみ許可」という条件を付与。

これらを組み合わせることで、「誰が」だけでなく、「いつ、どこから、何を」というコンテキストに基づいた動的な権限管理が実現し、静的な常時特権を排除できます。

導入を成功させるための3つのステップ

中堅・大企業がいきなり全社・全システムにZSPを適用しようとすると、現場の混乱を招き、失敗する可能性が高くなります。私たちは、以下の3ステップによる段階的な導入を推奨しています。

Step 1. 現状の特権IDの棚卸しと可視化 (Discover)

まずは自社のGoogle Cloud環境において、「誰が何の権限を持っているか」を正確に把握することから始めます。

Policy Analyzer などのツールを活用し、過去90日間一度も使われていない権限や、過剰に付与されている「オーナー権限」を洗い出します。この「現状把握」こそが、セキュリティホールを塞ぐ第一歩です。

Step 2. 高リスク領域へのJIT適用 (Protect)

すべての権限をJIT化する必要はありません。

まずは、侵害された際の影響が最も大きい「特権ID(Organization Admin, Owner等)」に対象を絞ります。これらのIDについて常時付与を廃止し、PAM等を用いたJITアクセスの仕組みに移行します。この段階では、運用チームと綿密に連携し、業務フローへの影響を最小限に抑えるチューニングが重要です。

Step 3. 運用定着と自動化 (Optimize)

承認プロセスがボトルネックにならないよう、Chatツール(Google Chat, Slack等)と連携し、承認者がスマートフォンからワンタップで承認できる環境を整えます。

また、監査ログをBigQuerySecurity Command Centerに集約し、異常な昇格申請や権限使用をAIが検知する仕組みを構築することで、運用の自律化・高度化を図ります。

企業が陥りやすい「特権管理」の失敗パターン

特権管理プロジェクトが頓挫する典型的なパターンがあります。これを避けることが成功への近道です。

①ツール導入先行で運用が破綻するケース

「とりあえずPAMを入れれば解決する」という考えは危険です。

現場の業務フローや緊急時の対応手順(プレイブック)を無視してツールを導入すると、現場は「仕事にならない」と反発し、結局「裏口」のアカウントを共有して使い回すという、本末転倒な事態を招きます。ツールはあくまで手段であり、重要なのは「運用設計」です。

②「例外」の放置が招くセキュリティホール

「このシステムはレガシーだから」「役員のアカウントだから」といった理由で、ZSPの適用除外(例外)を安易に認めてしまうケースです。

攻撃者は、最もセキュリティレベルが低い「例外」を狙います。例外を作る場合でも、代替となる監視強化策をセットで講じる必要があります。

XIMIXによるご支援:ビジネスを止めないセキュリティ変革

ゼロスタンディング特権の実現は、セキュリティリスクを劇的に低減させる一方で、初期の設計と組織への定着化には高度な専門知識と経験が必要です。特に、Google Cloudの機能を最大限に引き出しつつ、既存の社内ルールやコンプライアンス要件と整合させる作業は、一朝一夕にはいきません。

XIMIXでは、ビジネスの実情に即した現実的な特権管理の設計をご支援します。

XIMIXが提供する価値

  • 現状分析とロードマップ策定: 無理のない導入計画の策定。
  • 最適なアーキテクチャ設計: 業務フローに合わせたJITアクセスの設計、IAMポリシーの最適化、Terraform等による管理のコード化(IaC)。

「セキュリティは強化したいが、開発スピードや現場の利便性は犠牲にしたくない」。そのような課題をお持ちのDX推進担当者・経営層の皆様は、ぜひ一度XIMIXにご相談ください。単なるツールの導入支援ではなく、貴社のビジネスを守り、さらに加速させるための「攻めのセキュリティ基盤」を、我々が共に構築いたします。

XIMIXのGoogle Workspace 導入支援についてはこちらをご覧ください。
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まとめ

  • 常時特権のリスク: 常時有効な管理者権限は攻撃者の最大の標的であり、「ゼロスタンディング特権(ZSP)」へ移行すべきです。
  • JITアクセスの活用: Google Cloudの機能(PAM, IAM Conditions)を活用し、「必要な時だけ」権限を付与することで、セキュリティと利便性を両立できます。
  • 段階的な実装: 現状の棚卸しから始め、高リスク領域から段階的に適用することで、現場の混乱を防ぎ確実な効果を出せます。
  • 専門家の活用: 複雑な権限設計と運用定着には、Google Cloudとエンタープライズセキュリティに精通したパートナーの知見が不可欠です。

ゼロスタンディング特権は、もはや「あれば良い」機能ではなく、企業の信頼を守るための必須要件となりつつあります。今こそ、特権管理の在り方を見直し、次世代のセキュリティ運用へと舵を切りましょう。