コラム

データオーナーとデータスチュワードの違いと、データガバナンスを機能させる連携のポイント

作成者: XIMIX Google Cloud チーム|2025,10,24

はじめに:データ活用は進むが、ガバナンスが追いつかないという現実

多くの企業がDX(デジタルトランスフォーメーション)を掲げ、データドリブン経営の実現に向けてデータ活用基盤の整備を進めています。しかし、その一方で「データがサイロ化していて使えない」「どのデータが正しく、最新なのか分からない」「データ品質の問題で分析プロジェクトが頓挫した」といった課題に直面していないでしょうか。

事実、Gartner社の調査(2025年1月発表)によれば、データ利活用に対して「全社的に十分な成果を得ている」と回答した日本企業はわずか8%に留まっています。この背景には、技術基盤の整備だけでなく、データを組織の資産として管理・運用するための「データガバナンス」体制の不備が大きく影響しています。

データガバナンスの必要性は理解していても、いざ体制を構築しようとすると、「データオーナー」「データスチュワード」といった役割の定義が曖昧なまま任命だけが行われ、結果として形骸化してしまうケースは少なくありません。

この記事では、データガバナンス体制の中核を担う「データオーナー」と「データスチュワード」について、その明確な違いと役割分担を解説します。さらに、中堅・大企業のDX推進を支援してきた視点から、この体制を「決めただけ」で終わらせず、実効性のあるものにするための連携のポイントと、Google Cloudを活用した効率的な運用アプローチを提案します。

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データガバナンスにおける2つの重要な役割

データガバナンスとは、データを「攻め(活用促進)」と「守り(品質・セキュリティ担保)」の両面から適切に管理し、その価値を最大化するための組織的な仕組みづくりです。

この仕組みを機能させる上で、特に重要なのが「データオーナー」と「データスチュワード」という2つの役割です。

データオーナー(Data Owner):データに対する「最終責任者」

データオーナーは、特定のデータセット(例:「顧客マスタデータ」「販売実績データ」など)に対して、ビジネス上の最終的な説明責任と所有責任を負う役割です。

多くの企業では、そのデータを生成・活用する事業部門の長(部長クラス)が任命されます。例えば、「顧客マスタ」であればマーケティング部門長が、「販売実績」であれば営業部門長がデータオーナーとなるのが一般的です。

主な責任範囲:

  • データの定義・分類: そのデータがビジネス上どのような意味を持つかを定義し、機密性(例:個人情報、社外秘)に基づいた分類を行います。

  • アクセス権限の承認: 誰がそのデータにアクセスし、どのように利用(参照、更新、削除)できるかのルールを策定し、最終的な承認を行います。

  • データ品質基準の設定: ビジネス目標の達成に必要なデータ品質のレベル(例:正確性、完全性、最新性)を決定します。

  • ROIへの責任: データの活用と管理にかかるコストと、それによって得られるビジネス価値(ROI)に対して責任を持ちます。

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データスチュワード(Data Steward):データ品質の「実務管理者」

データスチュワードは、データオーナーによって定められた方針やルールに基づき、データの日々の品質維持・管理を担う実務的な役割です。

データオーナーが「何をすべきか(What)」を決定するのに対し、データスチュワードは「どのように実行・維持するか(How)」に責任を持ちます。任命されるのは、必ずしもIT部門の人間とは限らず、そのデータの業務的な意味や生成プロセスを深く理解している現場の専門家やキーパーソンが適任です。

主な責任範囲:

  • データ品質の監視と改善: データがオーナーの定めた品質基準を満たしているかを日々監視し、問題(重複、欠損、不整合など)を発見した場合は、その原因を特定し修正プロセスを実行します。

  • メタデータ管理: データが「何を意味するか」を記述したメタデータ(データの辞書)を整備・維持管理し、利用者がデータを正しく理解できるよう支援します。

  • ルールの実行: データオーナーが定めたアクセスルールや品質ルールが、システムや業務プロセス上で正しく運用されているかを確認・実行します。

  • 現場からの問合せ対応: データ利用者からの「このデータの意味は?」「どこにあるか?」といった問合せに対応する窓口となります。

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【比較表】データオーナーとデータスチュワードの違い

両者の役割は密接に関連しますが、その立場と責任は明確に異なります。決裁者として押さえるべき最も重要な違いは、「責任の所在」と「視点」です。

比較項目 データオーナー (Data Owner) データスチュワード (Data Steward)
主な役割 データのビジネス上の最終責任者 データの日々の実務管理者
任命対象 事業部門の長、管理職層(例:部長) 業務とデータを熟知した実務担当者、専門家
視点 戦略的・ビジネス的 戦術的・実務的
主なミッション データの価値最大化、リスク管理、ROIへの責任 データの品質維持、正確性・完全性の担保
主なタスク例 ・データ戦略の策定
・アクセス権限の承認
・品質レベルの決定
・データ品質の監視・修正
・メタデータ(辞書)の整備
・ルールの実行と問合せ対応
IT部門との関係 IT部門に要件を提示し、実行を依頼する(ビジネス側) IT部門と連携し、データ管理の実務を行う(ビジネスとITの橋渡し)

なぜ「決めただけ」で終わるのか?データガバナンス体制が機能しない3つの罠

これらの役割を定義し、組織図に記載したにもかかわらず、データガバナンスが機能しないケースには共通した「罠」があります。中堅・大企業の支援現場で散見される代表的な失敗パターンです。

罠1:IT部門への「丸投げ」とビジネス部門の「無関心」

最も多い失敗が、データガバナンスを「IT部門の仕事」と捉えてしまうことです。IT部門はデータ基盤(システム)を管理することはできますが、そのデータが「ビジネス上どのような意味を持ち、どうあるべきか」を決定することはできません。

データオーナーであるべきビジネス部門が責任を放棄し、「IT部門が何とかしてくれるだろう」と丸投げした結果、データは整備されず、IT部門は「ビジネス側が要件を決めてくれない」と不満を抱えるという対立構造が生まれます。

罠2:「誰がやるか」の押し付け合いと責任の形骸化

データオーナーとデータスチュワードの役割分担が曖昧なまま任命だけが行われると、「それはオーナーの仕事だ」「いや、スチュワードが実務をやるべきだ」といった責任の押し付け合いが発生します。

特にデータ品質の担保は地道で工数がかかる作業であり、明確なミッションと評価が伴わなければ、誰もが「自分の本来業務ではない」と敬遠しがちになり、結果として役割が形骸化します。

罠3:データ管理を「コスト」としか見なせない文化

データスチュワードによる地道なデータクレンジングやメタデータ整備は、短期的には売上を生みません。そのため、決裁者層がこれらの活動を「コストセンター」の業務と見なし、必要なリソース(工数やツール予算)を割かないケースがあります。

「データ品質が低い」と嘆きながら、その品質を担保するための投資を怠るという矛盾が、データ活用のROIを著しく低下させる根本原因となります。

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データオーナーとスチュワードを「連携」させ、機能させるための実践的アプローチ

では、これらの罠を回避し、データガバナンス体制を実効性のあるものにするためにはどうすればよいでしょうか。重要なのは「任命」の先にある「連携の仕組み」を設計することです。

成功の鍵1:ビジネス価値(KPI)とデータ品質を連動させる

データスチュワードの活動を「コスト」ではなく「投資」として位置づけるため、データ品質の向上が「どのビジネスKPIに貢献するか」を明確にします。

例えば、「顧客データの重複排除(品質向上)」が「マーケティング施策の精度向上(ROI改善)」にどれだけ寄与するかをデータオーナーが定義し、その目標をスチュワードと共有します。これにより、スチュワードは自身の業務のビジネス価値を認識でき、オーナーは活動のROIを評価できるようになります。

成功の鍵2:「データガバナンス委員会」による連携プロセスの確立

データオーナー(ビジネス部門長)とデータスチュワード(実務担当者)、そしてIT部門が定期的に集う「データガバナンス委員会(あるいは分科会)」のような場を設けることが極めて有効です。

この場で、スチュワードは現場で起きている品質課題を報告し、オーナーはビジネス上の優先順位に基づき対応方針を決定します。IT部門は、その解決に必要なシステム改修やツール支援を検討します。このような公式なコミュニケーションプロセスを確立することが、部門間の壁を越えた「連携」を生み出します。

成功の鍵3:スモールスタートと「完璧」を目指さない現実的な運用

全社のデータを一度に統制しようとすると、その複雑さからプロジェクトが頓挫しがちです。まずは、ROIへのインパクトが大きい特定のドメイン(例:顧客データ)に絞ってデータオーナーとスチュワードを任命し、スモールスタートで成功体験を積むことが賢明です。

最初から100点のデータ品質を目指すのではなく、ビジネス上クリティカルな項目から優先順位をつけて改善していく現実的なアプローチが、継続的な活動の鍵となります。

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Google Cloudはデータオーナーとスチュワードの業務をどう支援するか

データガバナンスの体制やプロセスを「人手」だけで運用・維持しようとすると、膨大な工数がかかり、スチュワードの疲弊を招きます。ここでテクノロジーの活用が不可欠になります。

特にGoogle Cloudは、データガバナンスの実行・自動化を強力に支援するサービス群を提供しています。

Google Cloud Dataplex:データスチュワードの業務を自動化・効率化

 

Google Cloud Dataplexは、データスチュワードの実務を大幅に効率化するインテリジェントなデータファブリックです。

Dataplexが自動的に社内のデータレイクやデータウェアハウス(BigQueryなど)のデータを検知し、データ品質のプロファイリング(欠損値、異常値のチェックなど)を実行します。スチュワードは、ダッシュボードでデータ品質のスコアを監視し、品質ルールに違反したデータを効率的に特定・修正できます。これにより、手作業での監視・修正にかかる工数を劇的に削減できます。

 

Dataplex Universal Catalog:データオーナーと利用者のための「データの辞書」

データオーナーが「どのデータがどこにあるか」を把握し、利用者が「探しているデータ」をすぐに見つけられるようにするためには、メタデータ管理(データの辞書)が不可欠です。

Dataplex Universal Catalogは、BigQueryやCloud Storageなどにあるデータの技術的なメタデータ(テーブル名、カラム名など)を自動的に収集します。データオーナーやスチュワードは、これにビジネス上の意味(例:「このカラムは解約フラグを示す」)をタグ付けして補強できます。これにより、全社共通の「データ辞書」が構築され、データの探索性と信頼性が向上します。

生成AI (Vertex AI) によるメタデータ管理の高度化

生成AIの進化はデータガバナンスのあり方をも変えつつあります。例えば、Google CloudのVertex AIを活用することで、非構造化データ(文書、画像など)からメタデータを自動抽出したり、データカタログに登録されたデータの内容を自然言語で要約させたりすることが可能です。

これにより、データスチュワードのメタデータ整備負荷がさらに軽減され、データオーナーは自部門のデータ資産の全体像をより容易に把握できるようになります。

XIMIXによるデータガバナンス構築支援

データオーナーとデータスチュワードの役割を定義し、組織の壁を越えて連携させ、ツールを活用しながらプロセスを定着させる――。これは、多くの企業にとって一朝一夕には実現できない、困難な組織変革のプロジェクトです。

特に中堅・大企業においては、既存の複雑な業務プロセスや部門間の利害関係を調整しながら、現実的なロードマップを描く必要があります。

私たち『XIMIX』は、Google Cloudの深い知見と、多くのお客様のDX推進を支援してきた豊富な経験に基づき、貴社のデータガバナンス体制構築を強力にサポートします。

単なるツールの導入に留まらず、貴社のビジネス課題のヒアリングから始まり、Google Cloud(Dataplex, BigQuery等)を活用した効率的な運用基盤の構築までをワンストップでご支援します。

「データガバナンスの必要性は感じるが、何から手をつければよいか分からない」といった課題をお持ちの決裁者様は、ぜひ一度XIMIXにご相談ください。

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まとめ

本記事では、データガバナンスの中核を担う「データオーナー」と「データスチュワード」について、その明確な違いと、体制を機能させるための連携のポイントを解説しました。

  • データオーナーは、データの「ビジネス上の最終責任者」(主に事業部門長)であり、戦略的・ビジネス的視点からデータの価値とリスクに責任を持ちます。

  • データスチュワードは、データの「日々の実務管理者」(主に業務熟知者)であり、戦術的・実務的視点からデータの品質維持に責任を持ちます。

  • 体制の形骸化を防ぐには、両者の役割を明確に分けるだけでなく、「ビジネス価値との連動」「連携プロセスの確立」「スモールスタート」が鍵となります。

  • Google CloudのDataplexやData Catalog、生成AIを活用することで、データオーナーとスチュワードの業務は大幅に効率化・高度化が可能です。

データガバナンスは「守り」のコストではなく、データ活用のROIを最大化するための「攻め」の戦略的投資です。この記事が、貴社のデータドリブン経営の実現に向けた体制構築の一助となれば幸いです。