コラム

レッドチームとは?DX推進におけるセキュリティ対策の目的と価値を解説

作成者: XIMIX Google Cloud チーム|2025,05,14

はじめに

デジタルトランスフォーメーション(DX)の推進が企業成長の鍵となる現代において、サイバーセキュリティの確保は最重要課題の一つです。新たなテクノロジーの導入や業務プロセスのデジタル化は、利便性向上や競争力強化に貢献する一方で、サイバー攻撃の対象領域を拡大させる側面も持ち合わせています。このような状況下で、自社のセキュリティ対策が本当に有効なのか、潜在的な脆弱性に気づけているのか、といった不安を抱える企業も少なくないでしょう。

そこで注目されているのが「レッドチーム」あるいは「レッドチーミング」演習と呼ばれる実践的なセキュリティ検証手法です。本記事では、DX推進に取り組む企業の担当者様に向けて、レッドチームの基本的な概念から、その目的、実施する価値、導入時の留意点に至るまでを網羅的に解説します。

この記事を読むことで、以下のメリットが得られます。

  • レッドチームとは何か、その定義と概要が理解できる。
  • なぜ今、レッドチームが重要視されているのか、その背景と目的がわかる。
  • レッドチームを実施することで、どのような価値やメリットが企業にもたらされるのかを把握できる。
  • レッドチームを検討する上でのポイントや注意点が明確になる。

セキュリティ対策の「穴」を能動的に見つけ出し、より強固な防御体制を構築するためのヒントとして、ぜひ最後までご覧ください。

レッドチームとは何か?~サイバー攻撃者目線での実践的検証~

レッドチームとは、実際のサイバー攻撃者が用いる手法や思考(TTPs: Tactics, Techniques, and Procedures)を模倣して、対象となる組織のシステムや情報資産、物理的セキュリティなどに対して疑似的な攻撃を行う専門家チームのことです。単に脆弱性をスキャンするだけでなく、実際にシステムへの侵入を試みたり、情報を窃取しようとしたりするなど、現実の攻撃シナリオに基づいて多角的な検証を実施します。

このレッドチームが行う一連の活動を「レッドチーミング」と呼びます。レッドチーミングの目的は、既存のセキュリティ対策(防御側、通称「ブルーチーム」)がサイバー攻撃に対してどれだけ効果的に機能するかを評価し、発見された弱点を改善することで、組織全体のセキュリティレベルを向上させることにあります。

レッドチームとペネトレーションテスト(侵入テスト)、脆弱性診断との違い

レッドチームと混同されやすいセキュリティ評価手法に、「ペネトレーションテスト(侵入テスト)」や「脆弱性診断」があります。それぞれの特徴と違いを理解しておくことが重要です。

特徴 レッドチーム
(Red Teaming)
ペネトレーションテスト (Penetration Testing) 脆弱性診断(Vulnerability Assessment)
目的 防御体制全体の有効性評価、インシデント対応能力の検証、攻撃者の戦術・技術・手順(TTPs)の理解 特定のシステムやネットワークにおける具体的な侵入経路の発見と、その影響範囲の評価 システムやアプリケーションに存在する既知・未知の脆弱性の網羅的な洗い出し
スコープ 広範(システム、ネットワーク、物理、人間など) 事前に合意された範囲(特定のIPアドレス、アプリケーションなど) 事前に合意された範囲(特定のシステム、アプリケーションなど)
アプローチ 目標達成志向(例:機密情報の窃取)、秘密裏に行われることが多い 侵入経路の発見と実証 網羅的なスキャンと手動検査による脆弱性のリストアップ
期間 長期間に及ぶ場合がある 比較的短期間 比較的短期間
主な焦点 「人・プロセス・技術」を含む防御能力全体 システムの技術的な弱点 個々の技術的な脆弱性
 

脆弱性診断は、システムやソフトウェアに潜むセキュリティ上の欠陥(脆弱性)を網羅的に見つけ出す活動です。多くの場合、自動化されたスキャンツールと専門家による手動検査を組み合わせて実施されます。

ペネトレーションテストは、脆弱性診断で発見された脆弱性などを利用して、実際にシステムへ侵入できるかどうかを検証するテストです。攻撃者の視点から、どの程度の深さまで侵入可能か、どのような情報が窃取され得るかなどを評価します。

これに対し、レッドチームは、より広範かつ現実的な攻撃シナリオに基づき、組織の防御能力全体を評価します。特定のシステムだけでなく、従業員のセキュリティ意識や物理的なセキュリティ対策、インシデント発生時の検知・対応プロセスなども含めて、多角的に検証を行う点が大きな違いです。ペネトレーションテストが「特定のドアの鍵が開くか」を試すのに対し、レッドチームは「あらゆる手段を使って建物全体に忍び込み、目的を達成できるか」を試すイメージに近いと言えるでしょう。

DXを推進する企業にとっては、個々のシステムの脆弱性対策だけでなく、組織全体のセキュリティ対応能力を評価するレッドチーミングの考え方がますます重要になっています。

レッドチームの目的と背景~なぜ今、レッドチームが必要なのか?~

近年、レッドチームへの注目度が高まっている背景には、サイバー攻撃の高度化・巧妙化と、DX推進に伴う企業環境の変化があります。

①サイバー攻撃の高度化と巧妙化

サイバー攻撃者は日々新たな手口を生み出し、従来の防御システムだけでは対応しきれないケースが増えています。特定の企業や組織を狙い撃ちにする標的型攻撃や、サプライチェーンの脆弱性を悪用する攻撃など、その手口はますます巧妙かつ執拗になっています。

このような状況下では、既知の脆弱性への対策を積み重ねるだけでは不十分であり、実際に攻撃者の視点に立って自社の防御態勢を評価し、未知の脅威や見過ごされている弱点を発見する必要性が高まっています。

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②DX推進に伴う攻撃対象領域(アタックサーフェス)の拡大

DXの推進により、クラウドサービスの利用拡大、IoTデバイスの導入、リモートワークの常態化など、企業のIT環境は急速に変化しています。これにより、企業の「攻撃対象領域(アタックサーフェス)」は従来の境界線を越えて拡大し、管理が複雑化しています。

新たなテクノロジーやサービスを導入する際には、利便性や効率性だけでなく、それに伴うセキュリティリスクを正確に把握し、対策を講じることが不可欠です。レッドチームは、この拡大・変化するアタックサーフェス全体を俯瞰し、潜在的なリスクを洗い出す上で有効な手段となります。

③セキュリティ対策の有効性を実証する必要性

多くの企業が多額の投資を行い、様々なセキュリティソリューションを導入しています。しかし、「これらの対策が本当に有事の際に機能するのか」「投資に見合う効果が得られているのか」を客観的に評価することは容易ではありません。

レッドチームは、実際の攻撃をシミュレートすることで、導入済みのセキュリティ対策が期待通りに機能しているか、検知・対応プロセスは適切かなどを実証的に検証します。これにより、セキュリティ投資の最適化や、より効果的な対策への見直しを促進することができます。

DXを成功させるためには、イノベーションとセキュリティを両輪で進める必要があり、レッドチームはそのための重要な取り組みと言えるでしょう。

レッドチームを実施する価値・メリット

レッドチームを実施することは、企業にとって多くの価値とメリットをもたらします。

①セキュリティ体制の弱点とギャップの特定

最大のメリットは、自社のセキュリティ体制における未知の弱点や、対策間のギャップを具体的に特定できることです。攻撃者の視点で多角的に検証することで、通常のセキュリティ監査や脆弱性診断では見逃されがちな問題点を発見できます。これには、技術的な脆弱性だけでなく、プロセスの不備や従業員のセキュリティ意識の課題なども含まれます。

②インシデント検知・対応能力(ブルーチーム)の向上

レッドチームの活動は、防御側であるブルーチーム(SOC/CSIRTなど)の検知能力やインシデント対応能力を実践的にテストし、強化する絶好の機会となります。疑似攻撃を通じて、ブルーチームが攻撃をどれだけ迅速かつ正確に検知し、封じ込め、復旧できるかといった対応プロセス全体を評価・改善できます。

③セキュリティ意識の向上と組織全体の備え

レッドチームの結果を組織内で共有することで、経営層から一般従業員に至るまで、セキュリティリスクに対する意識を高めることができます。具体的な攻撃シナリオやその影響を示すことで、「自分ごと」として捉えやすくなり、セキュリティポリシーの遵守や不審な動きへの注意喚起など、組織全体のセキュリティ文化の醸成に繋がります。

④投資対効果(ROI)の高いセキュリティ対策の実現

レッドチームによる評価結果は、セキュリティ投資の優先順位付けに役立ちます。最もリスクの高い領域や、対策が不十分な箇所を特定することで、限られた予算を効果的に配分し、投資対効果の高いセキュリティ対策を実現できます。

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⑤ビジネス継続性の確保とレジリエンス向上

サイバー攻撃による被害を最小限に抑え、迅速に事業を復旧させる能力(サイバーレジリエンス)は、現代の企業にとって不可欠です。レッドチームは、攻撃を受けた際のビジネスへの影響を具体的に評価し、事業継続計画(BCP)の実効性を高めるための改善点を見つけ出すのに貢献します。

これらのメリットを享受することで、企業はより能動的かつ効果的にサイバー脅威に対処し、DX推進を安全に進めるための強固な基盤を築くことができます。

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レッドチーム実施の主なプロセス

レッドチームの活動は、一般的に以下のようなプロセスで進められます。ただし、目的や対象範囲によってカスタマイズされることが重要です。

  1. 偵察 (Reconnaissance): 攻撃対象に関する情報を収集します。公開情報(OSINT: Open Source Intelligence)、ネットワーク情報、従業員情報など、あらゆる手段で情報を集め、攻撃の足がかりを探します。

  2. 初期侵害 (Initial Compromise): 収集した情報を元に、システムやネットワークへの最初の侵入を試みます。フィッシングメール、脆弱性を悪用した攻撃、パスワードクラックなど、様々な手法が用いられます。

  3. 足場確立 (Establish Foothold): 侵入に成功した後、持続的なアクセスを確保するためのバックドアを設置したり、内部ネットワークへのアクセス権限を確保したりします。

  4. 権限昇格 (Escalate Privileges): 初期アクセスで得られた権限よりも高い権限(例:管理者権限)を奪取しようとします。これにより、より広範囲なシステムへのアクセスや操作が可能になります。

  5. 内部偵察と横展開 (Internal Reconnaissance and Lateral Movement): 侵入したネットワーク内部の構造を調査し、他のシステムやサーバーへと侵入範囲を拡大していきます。最終的な目的達成に必要な情報やシステムを探します。

  6. 目的達成 (Mission Accomplishment / Data Exfiltration): 当初設定した目的(例:機密情報の窃取、重要システムの停止など)を達成します。

  7. 痕跡消去 (Cover Tracks): 攻撃の痕跡を消去し、検知を逃れようとします(実際のレッドチーミングでは、検知されることも評価の一部です)。

  8. 報告と改善提案 (Reporting and Remediation): レッドチームの活動結果、発見された脆弱性、攻撃経路、ブルーチームの対応状況などを詳細に報告します。そして、具体的な改善策を提案し、セキュリティ強化に繋げます。

このプロセスを通じて、組織は自らの防御態勢が実際の攻撃に対してどのように機能するのかを詳細に把握し、具体的な改善アクションを取ることができます。

レッドチーム実施時の留意点

レッドチームを効果的かつ安全に実施するためには、いくつかの留意点があります。

①明確な目標設定と範囲の定義

レッドチーミングを開始する前に、何を目的とし(例:特定の機密情報へのアクセス可否、事業継続への影響評価など)、どこまでの範囲を対象とするか(例:特定のシステム、関連会社、物理的アクセスなど)を明確に定義する必要があります。これにより、活動の焦点が定まり、評価の精度も高まります。

②経営層の理解と承認

レッドチームの活動は、システムへのアクセスや疑似的な攻撃を伴うため、経営層の十分な理解と正式な承認が不可欠です。活動の目的、範囲、潜在的なリスク、期待される効果などを事前に説明し、合意を得ておく必要があります。

③関係各所との連携と情報共有の範囲

レッドチームの活動について、情報システム部門、セキュリティ担当部門はもちろんのこと、法務部門や広報部門など、関連する可能性のある部署と事前に連携方法や情報共有の範囲(どこまで秘密裏に進めるかなど)を定めておくことが重要です。特に、ブルーチームに活動を知らせずに実施する場合と、ある程度連携して訓練として実施する場合では、進め方が異なります。

④倫理的配慮と法的遵守

レッドチームの活動は、常に倫理的な配慮と法的な枠組みの中で行われなければなりません。従業員のプライバシー侵害や、業務への過度な影響、外部への意図しない被害などを避けるため、行動規範を明確にし、遵守することが求められます。

⑤専門知識と経験を持つチームの選定

レッドチームの成功は、実施するチームのスキルと経験に大きく左右されます。攻撃手法だけでなく、防御側のシステムや組織文化についても理解が深い専門家チームを選定することが重要です。社内での実施が難しい場合は、信頼できる外部の専門ベンダーに依頼することも有効な選択肢となります。

これらの留意点を踏まえて計画的に実施することで、レッドチームの効果を最大限に引き出すことができます。

まとめ

本記事では、DX推進を目指す企業にとって重要性を増している「レッドチーム」について、その基本的な概念から目的、メリット、実施プロセス、留意点に至るまでを解説しました。

レッドチームは、実際の攻撃者の視点や手法を用いて自社のセキュリティ体制を実践的に評価し、潜在的な弱点を洗い出すことで、サイバー攻撃に対する防御能力を飛躍的に高めることができる有効なアプローチです。単に脆弱性を発見するだけでなく、インシデント発生時の検知・対応プロセス全体の有効性を検証し、組織全体のセキュリティ意識向上にも貢献します。

今日の複雑化・巧妙化するサイバー脅威に対抗し、安全にDXを推進していくためには、レッドチームのような能動的かつ包括的なセキュリティ検証の考え方を取り入れることが不可欠です。

ネクストステップとして、まずは自社のセキュリティ対策の現状を客観的に把握し、レッドチーム導入の必要性や目的について検討を始めてみてはいかがでしょうか。 その際には、信頼できる専門家の意見を聞きながら、自社に最適なアプローチを見つけていくことが成功の鍵となります。

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