BtoBマーケティングにおいて、有望なターゲット企業を特定し、個別最適化されたアプローチを行う「アカウントベースドマーケティング(ABM)」は、今や多くの企業にとって重要な戦略となっています。しかし、「ABMを導入したものの、期待した成果が出ていない」という声も少なくありません。その成否を分ける最大の要因、それが「データ活用の巧拙」です。
多くの企業では、マーケティング部門、営業部門、カスタマーサクセス部門それぞれにデータが散在し、顧客の全体像を捉えきれていないのが実情です。結果として、データに基づいた的確な意思決定ができず、施策が空振りに終わってしまいます。
本記事では、中堅・大企業のDX推進を支援してきた専門家の視点から、ABMで成果を最大化するためのデータ活用のポイントを徹底解説します。単なる方法論に留まらず、データ活用の「土台」となるデータ基盤の重要性、そしてGoogle Cloudを活用してROI(投資対効果)を最大化する具体的な道筋まで、深く掘り下げていきます。
近年、BtoBの購買プロセスは大きく変化しました。顧客は営業担当者に接触する前に、オンラインで自ら情報を収集し、比較検討を終えているケースがほとんどです。このような状況下で、不特定多数に同じメッセージを送る従来のマーケティング手法は効果を失いつつあります。
そこで重要になるのが、自社にとって最も価値の高い企業アカウントを定義し、マーケティングと営業が連携して、そのアカウントに最適化された一貫性のあるアプローチを行うABMです。
市場調査会社のIDC Japanの調査によると、国内企業の多くが顧客データの戦略的活用を重要課題と認識しており、ABMのようなデータドリブンなアプローチへの期待はますます高まっています。質の高い商談を創出し、LTV(顧客生涯価値)を最大化するために、ABMとそれを支えるデータ活用は、もはや避けては通れない経営課題と言えるでしょう。
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ABMを効果的に推進するためには、多角的なデータを組み合わせ、ターゲットアカウントの解像度を極限まで高める必要があります。特に重要となるのが、以下の3種類のデータです。
CRM(顧客関係管理)やSFA(営業支援システム)に蓄積された顧客情報、ウェブサイトのアクセスログ、セミナー参加者リストなど、自社で直接収集したデータです。顧客の基本的な属性や、自社との過去の接点を示す最も信頼性の高い情報源です。
信頼できるパートナー企業が収集・保有しているデータです。例えば、業界に特化したメディアの会員データや、ビジネスパートナーが持つ顧客データなどが該当します。自社のデータだけではリーチできない新たなターゲット層を発見する上で有効です。
外部の専門企業が提供する、企業の属性情報(ファーモグラフィックデータ)や利用技術情報(テクノグラフィックデータ)、そして特定のトピックに対する関心度を示すインテントデータ(Intent Data)などが含まれます。特にインテントデータは、顧客が自社の製品や関連キーワードを検索しているといった「購買意欲の兆候」を捉えるために極めて重要です。
多くのデータを集めているにもかかわらず、ABMの成果に繋がらない企業には、共通した「陥りがちな罠」が存在します。これらは、我々が多くの企業のDX推進を支援する中で、繰り返し目の当たりにしてきた課題でもあります。
最も多い失敗が、データが各部門・ツールに分散している「サイロ化」の状態です。MA(マーケティングオートメーション)にはWeb行動履歴、SFAには商談履歴、基幹システムには購買履歴といった形でデータがバラバラに保管され、顧客一人ひとりの行動を時系列で統合的に把握できません。これでは、アカウント全体での最適なアプローチタイミングや内容を判断することは不可能です。
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決裁者を説得し、継続的な予算を確保するためには、ABM施策のROIを明確に示す必要があります。しかし、どの施策がどの商談に、どれだけ貢献したのかを正確に計測する仕組みがなければ、「コストばかりかかって成果が見えない」と判断され、プロジェクト自体が頓挫しかねません。
データ分析は行ったものの、その結果が具体的なマーケティング施策や営業アプローチに活かされていないケースも散見されます。分析チームと実行チームの連携不足や、分析結果を現場が理解できる言葉に翻訳できていないことが原因です。データ分析は、それ自体が目的ではなく、あくまでより良いアクションを起こすための手段であるという認識が不可欠です。
これらの失敗を避け、ABMを成功に導くためには、データを戦略的に活用するための体系的なプロセスが必要です。
収集 (Collect): 必要なデータを定義し、社内外から多様なデータを収集します。
統合 (Unify): MA, SFA, ERPなど、サイロ化されたデータをデータウェアハウス(DWH)に集約し、アカウントや顧客単位で名寄せ・統合します。
分析・可視化 (Analyze & Visualize): 統合されたデータを用いて、ターゲットアカウントの解像度向上、エンゲージメントスコアリング、購買意欲の予測などを行います。BIツールで誰もが理解できる形に可視化することも重要です。
実行・最適化 (Activate & Optimize): 分析結果に基づき、パーソナライズされた広告配信、営業へのアラート、Webコンテンツの最適化など、具体的な施策を実行し、その結果をフィードバックして継続的に改善します。
前述のステップ、特に「統合」と「分析」を高度に実現するためには、MAやSFAといった個別ツールだけでは限界があります。ここで本質的に重要になるのが、全てのデータのハブとなる統合データ基盤の存在です。
この中核を担うのが、Google Cloudが提供するBigQueryのようなクラウドデータウェアハウスです。BigQueryは、構造化データ・非構造化データを問わず、社内外のあらゆるデータを大規模に、かつ高速に処理・分析できる能力を備えています。
MAやSFAのデータをBigQueryに集約することで、初めて部門を横断した顧客の360度ビューが実現します。これにより、マーケティング施策が営業のパイプラインにどう影響したかといった、これまで見えなかった因果関係を可視化し、真にデータに基づいたROIの算出が可能になるのです。
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統合データ基盤としてGoogle Cloudを活用することで、ABMはさらに高度化します。
BigQueryに統合された顧客データとインテントデータを、Google CloudのAI/機械学習プラットフォームであるVertex AIで分析することで、受注確度の高いアカウントを予測する独自のスコアリングモデルを構築できます。これにより、限られたリソースを最も有望なアカウントに集中投下することが可能になります。
生成AIの活用はABMに新たな可能性をもたらしています。例えば、Google Cloudの最新生成AIモデルGeminiを活用し、ターゲットアカウントの企業情報や担当者の役職、過去の行動履歴に基づいて、一人ひとりに最適化されたメール文面や提案資料のドラフトを自動生成する、といった活用が現実のものとなっています。これにより、アプローチの質と量を飛躍的に向上させることができます。
Google Cloudに統合されたビジネスインテリジェンス(BI)ツールであるLookerは、マーケティング担当者から経営層まで、あらゆる立場の人が直感的な操作でデータを探索し、インサイトを得ることを可能にします。ダッシュボードを通じてABMの進捗やROIをリアルタイムに共有することで、部門間の連携を促進し、全社的なデータ活用文化を醸成します。
最後に、ツールや基盤の導入と並行して取り組むべき、組織・プロセス面の成功因子を3つご紹介します。
ABMは、マーケティング部門だけの活動では決して成功しません。ターゲットアカウントの選定から施策の実行、評価まで、マーケティングと営業が共通のKPI(重要業績評価指標)を追い、密に連携する体制(SMarketing:Sales + Marketing)の構築が不可欠です。
最初から全社規模での完璧なABM導入を目指す必要はありません。まずは特定の事業部や製品でパイロットプロジェクトを立ち上げ、小さく成功体験を積み重ねていくアプローチが有効です。そこで得られた学びを基に、データ基盤や運用プロセスを段階的に拡張・改善していくことが成功への近道です。
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データ基盤の構築、複数ツール間の連携、高度なデータ分析モデルの構築には、深い技術的知見と経験が求められます。自社のリソースだけで全てを賄うのが難しい場合は、我々のような外部の専門パートナーを活用することも有効な選択肢です。戦略立案からデータ基盤構築、運用支援まで一気通貫でサポートすることで、お客様は本来注力すべきマーケティング・営業活動に専念できます。
NI+Cの『XIMIX』は、Google Cloudの認定プレミアパートナーとして、数多くの中堅・大企業のデータ活用とDX推進を支援してまいりました。 私たちは、単にGoogle Cloudの製品を導入するだけでなく、お客様のビジネス課題を深く理解し、BigQueryを中核としたデータ基盤の設計・構築、さらにはVertex AIやGeminiを活用した高度なデータ分析・施策実行まで、お客様の挑戦を成功に導くための伴走者として、包括的なサポートを提供します。
これからデータ活用を本格化させたいとお考えの企業様は、ぜひ一度XIMIXにご相談ください。
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本記事では、BtoBマーケティングにおけるABMの成功の鍵が「データ活用」にあり、その土台としてGoogle Cloudを中核とした「統合データ基盤」がいかに重要であるかを解説しました。
多くの企業が直面するデータのサイロ化という課題を乗り越え、収集・統合・分析・実行のサイクルを高速で回すことで、初めてABMはその真価を発揮します。ご紹介した成功へのステップやユースケースが、貴社のマーケティング活動を次のステージへと引き上げる一助となれば幸いです。データ活用を起点としたビジネス変革に、ぜひ取り組んでみてください。