コラム

勘と経験頼りの人事から脱却!データ分析の活用事例と始め方

作成者: XIMIX Google Cloud チーム|Apr 25, 2025 12:14:18 AM

はじめに

企業の持続的な成長にとって、「ヒト」に関する課題、すなわち採用、育成、配置、従業員の定着といった人事戦略の重要性はますます高まっています。しかし、多くの場合、人事に関する意思決定は、担当者の経験や勘に頼らざるを得ない状況が多く、「採用した人材が期待通りに活躍しない」「優秀な人材がなぜか辞めてしまう」「育成の効果が見えにくい」といった悩みを抱えている企業は少なくありません。

このような人事領域の課題に対し、近年注目を集めているのが「人事データの分析・活用」です。客観的なデータに基づいて人事施策を立案・評価することで、より効果的で戦略的な人事を実現しようという動きが広がっています。

この記事では、「人事領域でデータ分析がどう役立つのか知りたい」「具体的な活用事例を知りたい」と考えている企業の経営層、人事担当者、DX推進担当者の皆様に向けて、以下の点を分かりやすく解説します。

  • なぜ今、人事領域でデータ分析(HRアナリティクス/ピープルアナリティクス)が重要なのか
  • 人事データ分析の具体的な活用事例(採用、配置、育成、離職防止など)
  • 人事データ分析を始める際のポイントと注意点

この記事が、貴社の「ヒト」に関する課題解決と、より良い組織づくりのためのヒントとなれば幸いです。

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なぜ人事領域でデータ分析が重要なのか?

従来の人事業務は、個々の担当者の経験や勘、あるいは慣習に基づいて行われることが少なくありませんでした。しかし、以下のような環境変化により、データに基づいた客観的なアプローチの重要性が増しています。

  • 勘と経験の限界: 従業員の価値観や働き方が多様化し、過去の成功体験が通用しにくくなっています。客観的なデータなしでは、効果的な施策を打つことが困難です。
  • 人材獲得競争の激化: 少子高齢化による労働人口の減少もあり、優秀な人材の獲得競争はますます激しくなっています。データに基づき、自社にマッチする人材を効率的に採用し、定着させることが不可欠です。
  • エンゲージメントと生産性の向上: 従業員のエンゲージメント(会社への愛着や貢献意欲)が、生産性や業績に大きく影響することが分かってきています。データ分析によりエンゲージメントの状態を把握し、改善策を講じることが重要です。
  • 働き方の多様化への対応: リモートワークの普及など、働き方が多様化する中で、従業員の状況を把握し、適切なサポートやマネジメントを行うためにもデータ活用が有効です。
  • 説明責任の高まり: 人事施策の効果や公平性について、従業員や経営層、株主などに対して客観的なデータに基づいた説明責任が求められる場面が増えています。

これらの背景から、人事領域においてもデータに基づいた意思決定を行い、戦略的な人事を実現する必要性が高まっているのです。

人事データ分析(HRアナリティクス/ピープルアナリティクス)とは?

人事領域におけるデータ分析は、「HRアナリティクス」や「ピープルアナリティクス」と呼ばれます。これらは基本的に同義で、従業員に関する様々なデータ(属性、経歴、スキル、勤怠、評価、エンゲージメントサーベイ結果など)を収集・分析し、採用、育成、配置、評価、離職防止といった人事戦略や個別施策の意思決定に役立てる取り組みを指します。

単にデータを集計してグラフ化するだけでなく、データ間の関係性や傾向を読み解き、課題の原因特定や将来予測を行い、具体的なアクションにつなげていくことが目指されます。

【入門】人事領域におけるデータ分析の具体的な活用事例

では、実際に人事データ分析はどのように活用できるのでしょうか。ここでは、代表的な活用分野と簡単な事例をご紹介します。

①採用活動の最適化

  • 活躍人材の特定: 過去に採用し、現在高いパフォーマンスを発揮している従業員の属性、経歴、スキル、入社経路などのデータを分析し、「自社で活躍する人材」の具体的な要件(ペルソナ)を定義します。これにより、採用基準を明確化し、ミスマッチを防ぎます。
  • 採用チャネルの効果測定: 求人サイト、人材紹介、リファラル採用など、各採用チャネルから応募・採用された人材の入社後の定着率やパフォーマンスを分析し、費用対効果の高いチャネルにリソースを集中させます。
  • 選考プロセスの効率化: 応募から内定までの各ステップにおける通過率や所要時間、面接官ごとの評価傾向などを分析し、ボトルネックとなっているプロセスを特定・改善します。

②最適な人員配置・異動

  • タレントマッピング: 従業員のスキル、経験、資格、キャリア志向などのデータを可視化し、社内の人材分布を把握します。これにより、新規プロジェクトに必要な人材の発掘や、適材適所な人員配置が可能になります。
  • ハイパフォーマー分析: 高い成果を上げている従業員に共通する行動特性、スキル、経歴、配置部署などを分析し、その知見を他の従業員の育成や配置決定に活かします。
  • 異動・配置シミュレーション: 異動候補者のスキルや経験、異動先部署のニーズなどをデータに基づいてマッチングし、最適な配置案を検討します。

③効果的な人材育成

  • 研修効果の測定: 研修前後のスキルテストの結果や、研修受講者のその後のパフォーマンス、行動変容などをデータで追跡・分析し、研修プログラムの効果を客観的に評価・改善します。
  • スキルギャップ分析: 事業戦略上、将来的に必要となるスキルと、現在の従業員のスキル保有状況を比較・分析し、育成すべき重点領域を特定します。これにより、効果的な育成計画を策定できます。
  • キャリアパス支援: 従業員のキャリア志向や適性、過去の異動履歴などを分析し、個々の従業員に合ったキャリアパスの可能性を提示することで、成長意欲と定着率を高めます。

④エンゲージメント向上・離職防止

  • エンゲージメント要因の特定: 従業員サーベイの結果や、1on1ミーティングの内容、勤怠データ、コミュニケーションデータなどを分析し、従業員のエンゲージメントに影響を与える要因(例:上司との関係、業務負荷、キャリア展望、福利厚生など)を特定します。
  • 離職予兆分析: 過去の離職者のデータ(属性、勤怠状況、評価、サーベイ回答など)を分析し、離職の可能性が高い従業員に共通するパターン(予兆)を見つけ出します。早期にフォローアップを行うことで、離職を未然に防ぐことを目指します。(ただし、予測精度や倫理的な配慮が非常に重要です。)
  • 施策効果の検証: エンゲージメント向上や離職防止のために実施した施策(例:福利厚生の充実、コミュニケーション活性化策)の効果を、関連するデータの変化で測定・検証し、改善につなげます。

これらの活用は、あくまで基本的な例です。分析するデータの種類や分析手法、組み合わせによって、さらに多様なインサイトを得ることが可能です。(より高度な分析手法や応用事例については、XIMIXの関連ブログ記事などもご参照ください。)

人事データ分析を始める際のポイント(入門)

人事データ分析を効果的に進めるためには、いくつか押さえておくべきポイントがあります。

  1. 目的の明確化: 「何を明らかにしたいのか」「どの人事課題を解決したいのか」という目的を具体的に設定します。例えば、「新卒採用のミスマッチを減らしたい」「営業部門の離職率を下げたい」などです。
  2. 利用可能なデータの棚卸し: 目的達成のために必要なデータは何か、現在社内のどこにどのようなデータが存在するか(人事システム、勤怠システム、アンケート結果、Excelファイルなど)を把握します。
  3. スモールスタート: 最初から完璧な分析基盤を目指すのではなく、特定の課題や部門に絞り、比較的小さな範囲から始めてみましょう。PoC(概念実証)で効果を確認しながら進めるのが有効です。
  4. ツールの検討: データの収集・統合・分析・可視化を効率化するために、HRテクノロジー(人事システム、タレントマネジメントシステムなど)や、汎用的なBIツール(Lookerなど)、データウェアハウス(BigQueryなど)の活用を検討します。
  5. データ品質の確保: 分析の元となるデータの正確性、完全性、一貫性を担保することが非常に重要です。入力ルールの統一や、定期的なデータクレンジングを心がけましょう。(データ品質については、関連ブログ記事もご参照ください。)

 

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人事データ分析における注意点(倫理的配慮)

人事データは、従業員のプライバシーに関わる非常にセンシティブな情報です。そのため、データ分析を行う際には、技術的な側面だけでなく、倫理的な側面にも十分な配慮が不可欠です。

  • 個人情報保護法の遵守: 法律で定められたルール(利用目的の特定・通知、同意取得、安全管理措置など)を厳格に守ります。
  • バイアスへの注意: データに含まれる偏りが、採用や評価において不公平な結果を招かないよう、常にバイアスの存在を意識し、公平性を確保するよう努めます。
  • 透明性と説明責任: 分析結果やそれに基づく決定について、従業員に対して可能な限り透明性を保ち、説明責任を果たせるように準備しておくことが重要です。特に、評価や処遇に影響する場合は慎重な対応が必要です。
  • 分析目的の共有と従業員の理解: なぜデータ分析を行うのか、その目的やメリットを従業員に丁寧に説明し、理解と協力を得ることが、円滑な推進と信頼関係の構築につながります。

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データ分析を支援するXIMIX

人事データの分析・活用を進めたいけれど、「社内に散在するデータをどう統合すれば良いか」「分析スキルを持つ人材がいない」「どのツールを使えば良いかわからない」「倫理的な配慮はどうすれば?」といった課題はありませんか?

私たち XIMIX は、Google Cloud の先進的なデータ分析プラットフォームと、豊富なシステム構築・データ活用支援の経験を活かし、お客様をサポートします。

XIMIXでは、以下のようなご支援を提供しています。

  • 人事データ分析基盤構築: 散在する人事関連データ(人事システム、勤怠、アンケート等)を Google Cloud の BigQuery などに統合し、分析可能な状態にするための基盤を構築します。
  • 人事データ可視化・分析支援: Looker などのBIツールを活用し、採用効率、離職率、エンゲージメントスコアなどをダッシュボードで可視化。さらに深掘りした分析のご支援も可能です。
  • データガバナンス・セキュリティ支援: 人事データ特有の機密性・倫理面に配慮し、Google Cloud のセキュリティ機能とNI+Cのノウハウを活かして、安全なデータ管理・活用体制(データガバナンス)の構築をサポートします。

XIMIXは、お客様の状況や課題に合わせて、ツール導入、基盤構築、分析支援、コンサルティングまで、柔軟な形で人事領域のデータ活用をご支援します。

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まとめ

人事領域におけるデータ分析(HRアナリティクス/ピープルアナリティクス)は、もはや一部の先進企業だけのものではありません。勘や経験といった従来の強みを活かしつつ、客観的なデータを組み合わせることで、より精度が高く、効果的な人事戦略を展開することが可能になります。

採用のミスマッチを減らし、従業員の成長を効果的に支援し、エンゲージメントを高めて離職を防ぐ――データ分析は、これらの重要な人事課題に取り組むための強力な武器となり得ます。

もちろん、人事データの取り扱いには、プライバシー保護や公平性といった倫理的な配慮が不可欠です。しかし、その点を十分に理解し、適切なプロセスとツールを用いれば、データは「個」を尊重し、その可能性を最大限に引き出すための羅針盤となるはずです。

まずは自社の人事課題と、活用できそうなデータを見つめ直し、スモールスタートでデータ分析の第一歩を踏み出してみてはいかがでしょうか。