コラム

サイバーレジリエンスとは? DX時代の必須要素を初心者向けに徹底解説 (Google Cloud/Workspace 活用)

作成者: XIMIX Google Cloud チーム|Apr 28, 2025 1:07:36 AM

はじめに

近年、企業のデジタルトランスフォーメーション(DX)が加速し、Google Cloud のようなクラウドプラットフォームや Google Workspace のようなコラボレーションツールの活用が広がる一方で、サイバー攻撃の手法はますます巧妙化・高度化し、その脅威は増大の一途をたどっています。ランサムウェアによる事業停止、機密情報の漏洩など、サイバーインシデントは企業の存続そのものを揺るがしかねない重大なリスクです。

このような状況下で、単に攻撃を防ぐ「サイバーセキュリティ」の考え方だけでは不十分となりつつあります。万が一、攻撃を受けたとしても、事業への影響を最小限に抑え、迅速に復旧し、事業を継続させる能力、すなわち「サイバーレジリエンス」の重要性が高まっています。特に、クラウドサービスを活用する際には、サービス提供者(例: Google)が提供するセキュリティ機能と、利用者自身が責任を持つ範囲を理解し、レジリエンスを高める設計・運用を行うことが不可欠です。

しかし、「サイバーレジリエンスという言葉は聞くけれど、具体的に何を指すのかよくわからない」「サイバーセキュリティとは何が違うのか」「Google Cloud や Google Workspace はレジリエンス向上にどう役立つのだろうか」「自社で何から始めればよいのか」といった疑問をお持ちの方も多いのではないでしょうか。

この記事では、企業のDX推進を検討・担当されている方々を対象に、「サイバーレジリエンスとは」何か、その重要性、サイバーセキュリティとの違い、そして企業が取り組むべき対策の第一歩について、入門レベルでわかりやすく解説します。さらに、Google Cloud と Google Workspace がどのようにサイバーレジリエンス強化に貢献できるかについても触れていきます。この記事を読むことで、DX時代における事業継続の要となるサイバーレジリエンスの基本的な考え方を理解し、自社での取り組みを始めるきっかけを得ることができます。

サイバーレジリエンスとは?

サイバーレジリエンスの定義と目的

サイバーレジリエンス(Cyber Resilience)とは、直訳すると「サイバー空間における回復力・しなやかさ」を意味します。具体的には、サイバー攻撃やシステム障害といった不測の事態が発生した場合でも、

  1. 事業への影響を最小限に食い止める
  2. 迅速に通常の事業活動を復旧させる
  3. 同様の事態から学び、将来のインシデントに備える

といった能力、またはそうした能力を備えた状態を指します。

その主な目的は、インシデント発生時においても事業継続性を確保することにあります。攻撃を完全に防ぐことが困難であるという前提に立ち、「被害を受けること」を想定した上で、いかに早く立ち直り、事業を継続できるかに焦点を当てている点が特徴です。

サイバーセキュリティとの違い

「サイバーセキュリティ」と「サイバーレジリエンス」は密接に関連していますが、その主眼とする点が異なります。

  • サイバーセキュリティ: 主にサイバー攻撃を「防御」することに重点を置きます。ファイアウォール、侵入検知システム(IDS/IPS)、アンチウイルスソフトなどを用いて、脅威が組織内部に侵入するのを防ぐ対策が中心です。Google Cloud であれば Cloud Armor や VPC Service Controls、Google Workspace であれば迷惑メールフィルタやアクセス制御などがこれにあたります。いわば、「城壁を高くして敵の侵入を防ぐ」考え方です。

  • サイバーレジリエンス: サイバー攻撃による侵入や被害が発生することを前提とし、インシデント発生時の「対応」と「復旧」、そしてそこからの「適応・改善」に重点を置きます。たとえ城壁が破られても、被害を最小限に抑え、素早く復旧し、次の攻撃に備えて城をより強固にする、という考え方に近いです。Google Cloud の Backup and DR やマルチリージョン構成、Google Workspace のデータ復旧機能や監査ログなどが、このレジリエンスの側面を支えます。

サイバーセキュリティ対策はサイバーレジリエンスの重要な構成要素ですが、レジリエンスはより広範な概念であり、インシデント発生後の対応力や回復力まで含みます。両者は対立するものではなく、相互に補完し合う関係にあります。Google Cloud や Google Workspace のようなプラットフォームは、堅牢なセキュリティ機能(防御)と、インシデント発生を前提としたレジリエンス(対応・復旧)の両方を強化するためのツールやサービスを提供しています。

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なぜ今、サイバーレジリエンスが重要なのか?

サイバーレジリエンスの重要性が叫ばれる背景には、いくつかの要因があります。

①DX推進に伴うリスクの変化

多くの企業がDXを推進し、Google Cloud のようなクラウド活用やIoT導入、Google Workspace を利用したリモートワークなどが進むにつれて、攻撃対象領域(アタックサーフェス)は拡大しています。従来の境界型防御だけでは守りきれないケースが増え、侵入されることを前提とした対策の必要性が高まっています。クラウドの利便性を享受しつつ安全性を確保するには、サイバーレジリエンスの強化が不可欠です。

②サプライチェーンリスクの増大

自社だけでなく、取引先や委託先など、サプライチェーン全体を狙ったサイバー攻撃も増加しています。たとえ自社のセキュリティ対策が強固であっても、関連企業が攻撃を受ければ、自社の事業にも甚大な影響が及ぶ可能性があります。サプライチェーン全体でのレジリエンス向上が求められています。

③サイバー攻撃の高度化・巧妙化

ランサムウェア攻撃、標的型攻撃など、サイバー攻撃の手法は日々進化し、より巧妙かつ執拗になっています。従来の対策だけでは検知・防御が困難な攻撃も増えており、侵入を100%防ぐことは現実的ではありません。そのため、インシデント発生後の迅速な対応と復旧能力が、事業継続の鍵となります。

④事業継続計画(BCP)との関連性

自然災害などと同様に、サイバー攻撃も事業継続を脅かす重大なインシデントです。BCP(Business Continuity Plan: 事業継続計画) の策定において、サイバーインシデントを主要なリスクシナリオとして想定し、サイバーレジリエンスの観点を取り入れた対応策を組み込むことが不可欠となっています。Google Cloud のようなスケーラブルで可用性の高いインフラは、BCP策定においても重要な役割を果たします。BCPとサイバーレジリエンスは、企業の持続可能性を高める上で、車の両輪のような関係にあると言えるでしょう。 

サイバーレジリエンスを高めるための主要な要素 (Google Cloud/Workspace 活用例)

サイバーレジリエンスの考え方を具体化するフレームワークとして、米国立標準技術研究所(NIST)が発行する「サイバーセキュリティフレームワーク(NIST CSF)」が広く参照されています。ここでは、このフレームワークの5つの主要機能に沿って、Google Cloud と Google Workspace がどのように貢献できるかを見ていきましょう。

1. 特定 (Identify)

自社のビジネス環境、保有する資産、関連するサイバーセキュリティリスクを理解し、管理する活動です。

  • Google Cloud/Workspace 活用例:
    • Google Cloud: Security Command Center を使用して、クラウド上の資産や潜在的な脆弱性、設定ミスなどを一元的に可視化し、リスク評価を支援します。
    • Google Workspace: 管理コンソールを通じて、ユーザーアカウント、アクセス権限、デバイス情報などを把握・管理します。

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2. 防御 (Protect)

重要なサービスを提供するためのインフラやシステムを保護し、インシデントの影響を抑制する対策を実施する活動です。

  • Google Cloud/Workspace 活用例:
    • Google Cloud: Identity Platform や Identity-Aware Proxy (IAP) による厳格なアクセス制御、VPC Service Controls による境界防御、Cloud Armor による DDoS 対策や WAF 機能などを提供します。
    • Google Workspace: 多要素認証、コンテキストアウェアアクセス、データ損失防止(DLP)、高度なフィッシング・マルウェア対策、クライアントサイド暗号化など、多層的な防御機能を提供します。

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3. 検知 (Detect)

サイバーセキュリティインシデントの発生を迅速かつ効果的に発見するための活動です。

  • Google Cloud/Workspace 活用例:
    • Google Cloud: Security Command Center の脅威検出機能や Chronicle Security Operations (SIEM/SOAR) による高度なログ分析・脅威インテリジェンス活用が可能です。Cloud Logging や Cloud Monitoring によるリアルタイム監視も重要です。
    • Google Workspace: アラートセンターが、不審なログイン試行や設定変更、マルウェア検出などのセキュリティイベントを管理者に通知します。監査ログによる詳細なアクティビティ追跡も可能です。

4. 対応 (Respond)

検知されたインシデントに対して、影響を封じ込めるための適切な措置を講じる活動です。

  • Google Cloud/Workspace 活用例:
    • Google Cloud: Security Command Center からの通知に基づき、迅速なインシデント対応プロセスを開始できます。Chronicle Security Operations を活用して、インシデント調査や対応ワークフローの自動化も可能です。
    • Google Workspace: 管理コンソールから、侵害された可能性のあるアカウントの停止やパスワードリセット、不審なアプリ連携の解除などを迅速に行えます。

5. 復旧 (Recover)

インシデントによって損なわれた能力やサービスを、適時回復するための計画を維持し、実行する活動です。

  • Google Cloud/Workspace 活用例:
    • Google Cloud: Backup and DR サービスによる確実なデータバックアップと迅速なリストア、Compute Engine のスナップショット機能、マルチリージョン/マルチゾーン構成による高可用性設計などが復旧を支援します。
    • Google Workspace: Google ドライブや Gmail のデータは Google によって管理・バックアップされており、ユーザーが誤って削除したファイルなども一定期間内であれば復元可能です (管理設定による)。

サイバーレジリエンスを高めるためには、これら5つの機能をバランス良く強化し、Google Cloud や Google Workspace が提供する機能を効果的に活用しながら、継続的に見直し・改善していくことが重要です。

企業が取り組むべきサイバーレジリエンス対策の第一歩

サイバーレジリエンスの重要性は理解できても、具体的に何から手をつければ良いか迷うかもしれません。ここでは、企業がまず取り組むべき対策の第一歩をいくつかご紹介します。

1. リスクの特定と評価

まず、自社にとってどのようなサイバーリスクが存在し、それが事業にどのような影響を与える可能性があるのかを特定・評価することから始めます。重要な情報資産は何か、どのシステムが停止すると影響が大きいかなどを洗い出し、優先順位をつけて対策を検討します。(Google Cloud の Security Command Center などのツールも活用できます。)

2. インシデント対応計画(IRP)の策定と訓練

万が一インシデントが発生した場合に、誰が、何を、どのように行うかを定めたインシデント対応計画(Incident Response Plan)を策定します。計画は策定するだけでなく、定期的に訓練(机上訓練や実践訓練)を行い、実効性を高めることが重要です。

3. 従業員への教育と意識向上

従業員の不用意な行動がサイバー攻撃の起点となるケースは少なくありません。フィッシング詐欺への注意喚起、パスワード管理の徹底、不審なメールやファイルへの対処法など、基本的なセキュリティ意識向上のための教育を継続的に実施します。(Google Workspace のセキュリティ機能に関する教育も有効です。)

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4. バックアップと復旧体制の整備

ランサムウェア攻撃などによりデータが利用できなくなった場合に備え、重要なデータの定期的なバックアップと、迅速な復旧手順を確認しておくことが極めて重要です。Google Cloud Backup and DR や Google Workspace の組み込み機能など、クラウドサービスを活用したバックアップ・復旧戦略も検討しましょう。バックアップデータ自体の安全性(オフライン保管、複数世代管理、アクセス制御など)も考慮する必要があります。

5. 専門家や外部サービス、クラウドプラットフォームの活用

サイバーレジリエンスの強化には高度な専門知識やノウハウが必要です。自社だけで対応が難しい場合は、セキュリティ専門企業やコンサルティングサービスを活用しましょう。また、Google Cloud や Google Workspace のようなプラットフォームは、Google の持つグローバル規模のインフラとセキュリティ専門知識に支えられており、その堅牢な基盤や高度なセキュリティ機能を活用すること自体が、レジリエンス向上に大きく貢献します。ただし、クラウドは「責任共有モデル」に基づいているため、利用者側での適切な設定・運用が不可欠です。

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XIMIXによる支援サービス

ここまでサイバーレジリエンスの基本的な考え方や対策の第一歩、そして Google Cloud / Google Workspace がどのように貢献できるかについて解説してきました。しかしながら、自社のリスクを正確に評価し、NIST CSFのようなフレームワークに沿った網羅的な対策を計画・実行し、Google Cloud や Google Workspace の機能を最大限に活用しながら継続的に改善していくことは、特に専門人材が不足しがちな企業にとっては容易ではありません。

「自社だけでどこまでやれば十分なのか判断が難しい」 「インシデント対応計画を作りたいが、ノウハウがない」 「Google Cloud / Workspace を活用して、よりレジリエントなシステムや業務環境を構築したいが、どう設計・設定すればよいかわからない」 「クラウドの責任共有モデルにおける自社の責任範囲をどう果たせばよいか不安」

このような課題をお持ちではないでしょうか。

私たちXIMIX は、Google Cloud と Google Workspace の導入・活用支援サービスを通じて、お客様のサイバーレジリエンス強化を強力にサポートします。

長年にわたる豊富な実績と Google Cloud / Google Workspace に関する高度な専門知識に基づき、現状のリスクアセスメントから、セキュリティポリシーの策定、そして Google Cloud / Google Workspace の堅牢なセキュリティ機能を最大限に活用したセキュアなインフラ・業務環境の設計・構築・運用まで、お客様の状況やニーズに合わせた最適なソリューションをご提案します。

多くの企業様をご支援してきた経験から、サイバーレジリエンスは単なる技術的な対策だけでなく、組織文化やプロセス、従業員の意識改革を含む総合的な取り組みが必要であると認識しています。XIMIX は、技術支援にとどまらず、お客様のDX推進と事業継続を、Google Cloud / Google Workspace 活用のベストプラクティスに基づき、伴走しながらサポートするパートナーでありたいと考えています。

サイバーレジリエンス強化に関するご相談や、Google Cloud / Google Workspace を活用したセキュリティ対策について、まずはお気軽にお問い合わせください。

まとめ

本記事では、「サイバーレジリエンスとは何か」という基本的な問いから、その重要性、サイバーセキュリティとの違い、そして企業が取り組むべき対策の第一歩について解説しました。さらに、Google Cloud と Google Workspace が、その堅牢なインフラと高度なセキュリティ機能を通じて、企業のサイバーレジリエンス強化にどのように貢献できるかについても触れました。

サイバー攻撃のリスクが常に存在する現代において、攻撃を防ぐ「防御」の視点だけでなく、インシデント発生を前提とした「対応」「復旧」「適応」の能力、すなわちサイバーレジリエンスを高めることは、企業の事業継続にとって不可欠な要素となっています。

サイバーレジリエンスの強化は一朝一夕に達成できるものではなく、経営層のコミットメントのもと、組織全体で継続的に取り組むべき課題です。まずは自社の現状を把握し、リスクを評価することから始め、インシデント対応計画の策定や従業員教育、バックアップ体制の整備など、できることから着実に進めていくことが重要です。その際、Google Cloud や Google Workspace のような信頼性の高いクラウドプラットフォームを適切に活用することは、レジリエンス向上のための有効なアプローチとなります。

もし、自社での取り組みやクラウド活用に不安や課題を感じる場合は、専門家の支援を求めることも有効な選択肢です。この記事が、皆様のサイバーレジリエンス強化に向けた取り組みの一助となれば幸いです。