コラム

なぜ働き方改革に稟議・承認のアップデートが欠かせないのか?理由とアプローチ

作成者: XIMIX Google Workspace チーム|2025,10,16

はじめに

多くの企業が「働き方改革」や「DX(デジタルトランスフォーメーション)」を経営の重要テーマとして掲げています。しかし、その推進において、見過ごされがちな組織の「血流」ともいえるプロセスが、DXのボトルネックになっているケースが少なくありません。それが、稟議・承認プロセスです。

「稟議書にハンコをもらうために出社する」「承認の進捗が見えず、ビジネスチャンスを逃しかけた」といった課題は、もはや現場担当者だけの問題ではありません。変化の激しい現代において、意思決定のスピードは企業の競争力そのものであり、旧態依然とした稟議・承認プロセスは、見えないコストとして経営に影響を与えています。

本記事では、なぜ今、稟議・承認プロセスの見直しが働き方改革を成功させる上で不可欠なのか、その理由を経営・決裁者の視点で深掘りします。さらに、単なるツールの電子化に留まらない本質的な改革アプローチと、Google Workspace などを活用した具体的な解決策、そして改革を成功に導くための重要なポイントを、多くの企業をご支援してきた経験に基づき解説します。

なぜ、稟議・承認プロセスの見直しが課題なのか?

働き方改革は、単なる労働時間の短縮やテレワークの導入といった施策に留まるものではありません。その本質は、従業員一人ひとりの生産性を向上させ、組織全体の競争力を高めることにあります。しかし、その実現を阻む大きな壁が、旧来の承認プロセスに潜んでいます。

「働き方改革」が目指す本来の目的と現状のギャップ

多くの企業で導入されているWeb会議システムやチャットツールは、コミュニケーションの効率を飛躍的に向上させました。しかし、最終的な意思決定のプロセスが「紙とハンコ」に依存したままであれば、どうなるでしょうか。結局、承認を得るために物理的な制約が発生し、業務全体のスピードはそこで頭打ちになってしまいます。これこそが、多くの企業が直面している「働き方改革のジレンマ」です。

独立行政法人情報処理推進機構(IPA)が発行する「DX白書」においても、多くの日本企業がDX推進の課題として「既存の業務プロセスの見直し」を挙げており、レガシーな仕組みが変革の足かせとなっている現状が浮き彫りになっています。

意思決定の遅延が引き起こす、見えないコスト「機会損失」

稟議・承認プロセスの最大の弊害は、意思決定の遅延がもたらす機会損失です。市場の変化はますます速くなっており、数日の遅れが競合他社に大きな差をつけられる原因となり得ます。

  • 新規事業の開始遅延

  • 顧客からの要望への対応遅れによる失注

  • 迅速な設備投資判断の逸失

これらはすべて、数値化しにくいものの、確実に企業経営にダメージを与える「見えないコスト」です。稟議・承認プロセスの改革は、単なるコスト削減ではなく、将来の収益機会を確保するための戦略的な投資であると捉える視点が不可欠です。

内部統制とコンプライアンス強化の要請

決裁者にとって、内部統制の強化は常に重要な経営課題です。紙ベースの稟議書や口頭での承認プロセスは、以下のようなリスクを内包しています。

  • 承認ルートの形骸化・ブラックボックス化

  • 決裁記録の紛失や改ざんのリスク

  • 監査対応時の膨大な工数

承認プロセスをデジタル化し、ワークフローをシステム上で管理することは、いつ、誰が、何を承認したのかという記録を正確かつ永続的に保持し、ガバナンスを強化する上で極めて有効な手段となります。

時代遅れの稟議・承認プロセスがもたらす3つの弊害

経営視点での課題に加え、旧態依然としたプロセスは組織の様々な側面に具体的な悪影響を及ぼします。ここでは、代表的な3つの弊害を解説します。

弊害1:生産性の低下と従業員エンゲージメントの毀損

非効率な稟議プロセスは、従業員の貴重な時間を奪います。書類の作成、印刷、押印、担当者を探して手渡しするといった一連の作業は、本来注力すべきコア業務から従業員を遠ざけます。 こうした非本質的な業務に時間を費やすことは、生産性を直接的に低下させるだけでなく、「なぜこんな無駄な作業を…」という不満につながり、従業員のエンゲージメントやモチベーションを著しく低下させる要因となります。

弊害2:形骸化する承認プロセスとガバナンスの脆弱性

「いつもこのルートで回しているから」「前任者から引き継いだまま」といった理由で、本来不要な承認者がルートに含まれているケースは少なくありません。結果として、誰もが「自分の前後の人がしっかり見ているだろう」と判断し、実質的なチェック機能が働いていない「ハンコラリー」に陥りがちです。これは、不正やミスの見逃しにつながる重大なガバナンス上のリスクとなります。

弊害3:DX推進を阻む「紙とハンコ」の文化

最も根深い問題が、この「紙とハンコ」を中心とした業務文化です。この文化が根強く残っている限り、データに基づいた迅速な意思決定や、ペーパーレス化による抜本的な業務改革は進みません。稟議・承認プロセスの改革は、単なる一つの業務改善ではなく、組織全体のデジタル化に向けた意識改革の試金石となるのです。

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「紙・ハンコ文化」からの脱却はどこまで可能?Google Workspaceで実現するペーパーレス

稟議・承認改革の具体的なアプローチ

では、どのように改革を進めればよいのでしょうか。多くの企業をご支援する中で見えてきたのは、単にツールを導入するだけでは成功しないという事実です。重要なのは、目的に沿った段階的なアプローチです。

ステップ1:現状プロセスの可視化と課題の特定

まず着手すべきは、自社の稟議・承認プロセスを徹底的に可視化することです。 どのような種類の稟議があり、それぞれ誰が申請し、どのようなルートで、どれくらいの時間で承認されているのか。

この現状分析を通じて、「特定の部署で承認が滞留しがち」「本来不要な承認者が介在している」といった具体的な課題を洗い出します。

ステップ2:単なる「電子化」で終わらせないための目的設定

現状の課題が見えたら、次はこの改革で「何を達成したいのか」という目的を明確に設定します。 「意思決定のリードタイムを半分にする」「内部統制を強化し、監査対応工数を80%削減する」といった、定量的で具体的な目標を掲げることが重要です。

ここで陥りがちなのが、既存の複雑なプロセスをそのまま電子システムに置き換えることです。これでは、根本的な問題解決にはなりません。目的達成のために、不要な承認ステップの廃止や権限委譲など、プロセス自体の見直しに踏み込む勇気が求められます。

ステップ3:Google Workspace を活用した新しい承認フローの構築

目的が定まったら、それを実現するための具体的なソリューションを検討します。多くの企業で既に導入されている Google Workspace は、稟議・承認プロセス改革においても強力な基盤となります。

  • Google ドライブ でのファイル一元管理: 稟議に関する書類や参考資料を安全に一元管理。バージョン管理も容易になり、「最新版はどれか」という混乱を防ぎます。

  • Google ドキュメント / スプレッドシート での共同編集: 申請書を複数人で同時に編集・コメントできるため、作成段階での手戻りを大幅に削減できます。

  • Google Chat / Gmail での通知と連携: 承認依頼や差戻しの通知がリアルタイムで届き、対応漏れを防ぎます。

これらの機能を組み合わせることで、多くのシンプルな承認業務は、追加の専門ツールなしでも効率化が可能です。

(具体例)AppSheetによるカスタムワークフローアプリ開発という選択肢

より複雑な承認ルートや、基幹システムとのデータ連携が必要な場合は、Google AppSheet の活用が有効です。AppSheetは、プログラミングの知識がなくても、Google スプレッドシートなどを基に、直感的な操作で業務アプリケーションを開発できるノーコードプラットフォームです。

これにより、各部門の特殊な要件にも柔軟に対応した、自社独自のワークフローアプリケーションを、従来のシステム開発に比べて短期間・低コストで構築することが可能になります。 

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【基本編】AppSheetとは?ノーコードで業務アプリ開発を実現する基本とメリット

改革を成功に導くための3つの重要な視点

ツールを導入し、プロセスを設計しても、それが組織に定着しなければ意味がありません。ここでは、改革を成功に導くために決裁者が持つべき3つの視点を解説します。

視点1:スモールスタートと段階的な展開

全社一斉に大規模な改革を進めようとすると、各所からの抵抗や予期せぬ問題で頓挫しがちです。まずは、特定の部門や特定の稟議プロセスに限定してスモールスタートを切ることを推奨します。小さな成功体験を積み重ね、その効果を社内に示すことで、全社展開への理解と協力を得やすくなります。

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【入門編】スモールスタートとは?DXを確実に前進させるメリットと成功のポイント

視点2:現場への導入効果を最大化するチェンジマネジメント

新しいプロセスやツールの導入は、現場の従業員にとって一時的な負担増や変化への戸惑いを生みます。なぜこの改革が必要なのかという目的やビジョンを丁寧に説明し、操作研修会を実施するなど、現場に寄り添ったチェンジマネジメントが不可欠です。「やらされる改革」ではなく、「自分たちの業務が楽になる改革」だと従業員が実感できれば、改革は一気に加速します。

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チェンジマネジメントとは?重要性から進め方まで解説

視点3:生成AI活用による将来的なプロセス高度化を見据える

例えば、Vertex AI のような生成AIを活用すれば、将来的には以下のようなプロセスの高度化も視野に入ります。

  • 稟議内容の自動要約と論点整理

  • 過去の類似案件データに基づくリスクの自動検知

  • 契約書などにおけるコンプライアンス上の問題点の指摘

目先の効率化だけでなく、こうした将来的なテクノロジーの進化を見据え、拡張性のあるプラットフォームを選定することも、長期的な投資対効果を高める上で重要な視点です。

専門家の支援が成功確度を高める

ここまで見てきたように、稟議・承認プロセスの改革は、単にツールを導入するだけの単純なプロジェクトではありません。現状業務の深い理解、あるべき姿の設計、そして組織を動かすチェンジマネジメントといった、多岐にわたる専門的な知見が求められます。

特に、中堅・大企業においては、部門間の複雑な利害関係や既存システムとの連携など、乗り越えるべきハードルも多く存在します。このような改革を自社のリソースだけで推進するには、多大な労力と時間を要するだけでなく、失敗のリスクも伴います。

私たち『XIMIX』は、Google Cloud の専門家集団として、これまで多くのお客様のDX推進を支援してまいりました。その経験から、Google Workspace を最大限に活用した業務プロセスの設計、AppSheetによるワークフローアプリケーションの開発、そして改革を組織に根付かせるためのノウハウをご提供できます。

もし、貴社の稟議・承認プロセスに課題を感じ、何から手をつけるべきかお悩みでしたら、ぜひ一度私たちにご相談ください。貴社の状況に合わせた最適な一歩をご提案します。

XIMIXのGoogle Workspace 導入支援についてはこちらをご覧ください。
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まとめ

本記事では、働き方改革を成功に導くための鍵として、「稟議・承認プロセス」の見直しがいかに重要であるかを、経営・決裁者の視点から解説しました。

  • 旧来の承認プロセスは、機会損失やガバナンス低下といった経営リスクに直結する。

  • 改革の成功は、単なる電子化ではなく、目的志向のプロセス再設計にかかっている。

  • Google Workspace や AppSheet を活用することで、柔軟かつ効果的な改革が実現可能。

  • スモールスタート、チェンジマネジメント、将来を見据えた視点が成功の鍵を握る。

意思決定のスピードは、これからの企業経営における生命線です。この記事をきっかけに、貴社の「当たり前」となっている承認プロセスを今一度見直し、組織全体の競争力を高める次の一歩を踏み出すきっかけとなれば幸いです。