Google Workspace の共有ドライブは、チームでのファイル共有と共同作業を飛躍的に効率化する強力なツールです。しかし、その手軽さゆえに、いつの間にか無秩序な共有ドライブの乱立を招き、「どこに何があるか分からない」「誰がアクセスできるのか不明」「重要情報が埋もれて検索できない」といった、いわゆる「ブラックボックス化」に悩む企業は少なくありません。
もはやこれは単なるファイル整理の問題ではなく、情報ガバナンスやセキュリティリスクに直結する経営課題です。
本記事では、多くの中堅・大企業で同様の課題解決を支援してきた専門家の視点から、共有ドライブの棚卸しと統廃合を成功に導くための、具体的かつ実践的なロードマップを解説します。この記事を最後までお読みいただくことで、単なる整理術に留まらない、共有ドライブを企業の「情報資産」へと昇華させるための道筋を描けるようになるはずです。
関連記事:
脱・属人化!チームのファイル管理が変わる Google Workspace「共有ドライブ」とは?使い方とメリット【入門編】
共有ドライブの棚卸しに着手する前に、まず根本原因を理解することが重要です。多くの現場で共通して見られるのは、主に以下の3つの要因です。
最も多い原因は、導入時に全社的な運用ルールを定めず、各部署やプロジェクトチームの裁量で共有ドライブの作成を許可してしまったケースです。命名規則、フォルダ構成、アクセス権限の管理といった基本ルールがなければ、属人的で無秩序な運用が蔓延するのは必然と言えます。
期間限定のプロジェクト用に作成された共有ドライブが、プロジェクト終了後も削除・整理されずに放置されるケースも後を絶ちません。これらが積み重なることで、検索ノイズが増大し、本当に必要な情報へのアクセスを妨げます。
従業員の異動や退職、組織変更が発生した際に、アクセス権の見直しが適切に行われないことで、実態と権限設定が乖離していきます。これは、不要な情報アクセスを許し、情報漏洩のリスクを高める深刻な問題です。
これらの要因が複合的に絡み合い、共有ドライブは徐々にその利便性を失い、統制の効かない「無法地帯」へと変貌してしまうのです。
この「無法地帯」を正常化するために必要なのは、付け焼き刃の整理作業ではありません。全社的な「情報ガバナンス強化プロジェクト」**として、明確な目的、計画、そして体制を持って臨むことが不可欠です。
単なる「お片付け」と考えてしまうと、現場の協力が得られなかったり、一時的に整理してもすぐに元に戻ってしまったりと、失敗に終わる可能性が非常に高くなります。
本プロジェクトのゴールは、単にファイルを整理することではありません。
業務効率の向上: 情報検索時間を短縮し、生産性を向上させる。
セキュリティの強化: アクセス権を最適化し、情報漏洩リスクを低減する。
ストレージコストの適正化: 不要なデータを削除し、コスト効率を高める。
このようなビジネス価値を明確に定義し、経営層や関連部署の合意形成を得ながら進めることが、成功への第一歩となります。
ここからは、プロジェクトを成功させるための具体的な4つのフェーズと、それぞれのポイントを解説します。
プロジェクトの成否は、この計画フェーズで8割が決まると言っても過言ではありません。
目的とゴールの設定: なぜ棚卸しを行うのか、完了後にどのような状態を目指すのか(例:「重要文書へのアクセス時間を50%削減」「退職者のアクセス権限が残存している状態をゼロにする」など)を具体的に定義します。このゴールが、プロジェクト全体の判断基準となります。
体制の構築: プロジェクトを主管する情報システム部門だけでなく、主要な利用部門(営業、開発、管理など)からも担当者を選出し、横断的なプロジェクトチームを組成します。各部門との調整役を担うことで、現場の協力を得やすくなります。
全体スケジュールの策定: 可視化、分析、実行、定着化までの大まかなスケジュールとマイルストーンを設定し、関係者間で共有します。
次に、客観的なデータに基づいて現状を把握します。勘や経験だけに頼るのではなく、ツールも活用しながら定量的に分析することが重要です。
共有ドライブの一覧化: まずは、組織内に存在する全ての共有ドライブをリストアップします。Googleや専用のサードパーティツールを活用することで、作成日、オーナー、メンバー数、データ容量などの情報を網羅的に収集できます。
利用実態の分析: 各共有ドライブが「現在もアクティブに使われているか」を評価します。最終更新日やアクセスログなどのデータから、長期間利用されていない休眠状態のドライブを特定します。
棚卸し項目の例: | 分析項目 | 確認内容 | 評価のポイント | | :--- | :--- | :--- | | オーナー/管理者 | 現在も在籍しているか?役割は適切か? | 不明、退職者になっている場合は最優先で対応 | | 最終更新日 | 1年以上更新がない、など | 休眠ドライブの候補として分類 | | データ容量 | 容量が極端に大きい/小さい | 統廃合やアーカイブの検討材料 | | メンバー数/構成 | メンバーは適切か?部署横断か? | アクセス権限の見直し要否を判断 | | 命名規則 | 全社ルールに沿っているか? | ルール逸脱ドライブとしてリストアップ |
分析結果に基づき、具体的な整理・統廃合を実行に移します。ここで最も重要なのは、現場部門との丁寧なコミュニケーションと合意形成です。
統廃合方針の決定: 分析フェーズで分類した共有ドライブごとに、「維持」「統廃合」「アーカイブ」「削除」の方針を決定します。この際、必ず各ドライブの管理者や主要利用部門にヒアリングを行い、一方的な決定を避けることが不可欠です。
データ移行計画の策定: 統廃合対象のドライブについては、データの移行先とスケジュールを明確にします。業務影響を最小限に抑えるため、移行は業務時間外や休日に実施するなど、現場との調整が鍵となります。
新ルールの策定と周知: 棚卸しと並行して、今後の共有ドライブの利用に関する全社ルール(命名規則、棚卸しの定期実施、管理責任者の役割など)を策定し、全社へ周知徹底します。
一度きれいにした状態を維持し、二度と「無法地帯」に戻さないための仕組みづくりです。
定期的な棚卸しの仕組み化: 年に1回、あるいは半期に1回など、共有ドライブの棚卸しを定期的に実施するプロセスを運用に組み込みます。
モニタリングと監査: 新規作成される共有ドライブがルールに準拠しているか、休眠ドライブが発生していないかを定期的にモニタリングする体制を整えます。
継続的な啓蒙活動: なぜルールが必要なのか、情報ガバナンスが会社全体にどのようなメリットをもたらすのかを、社内研修などを通じて継続的に発信し、従業員の意識を高めていくことが重要です。
これまでの経験から、数多くの企業が陥りがちな罠と、それを乗り越えプロジェクトを成功させるための鍵が見えてきました。
トップダウンの強力なコミットメント: 棚卸しは現場にとって一時的な負荷増となるため、反発が起こることも少なくありません。「これは会社として取り組むべき重要なプロジェクトである」という経営層からの明確なメッセージと、強力なリーダーシップが、部門間の壁を越える推進力となります。
現場を「巻き込む」コミュニケーション: 情報システム部門だけでプロジェクトを進めるのは失敗の元です。「ルールを決めたので従ってください」という一方的な通達ではなく、計画段階から主要部門を巻き込み、彼らの意見を尊重し、共にルールを作り上げる姿勢が、現場の当事者意識を醸成し、協力体制を築く上で不可欠です。
完璧を目指さずスモールスタートで実績を作る: 全社一斉に完璧な状態を目指すと、計画が壮大になりすぎて頓挫しがちです。まずは特定の部門やプロジェクトにスコープを絞ってスモールスタートし、成功事例を作ることをお勧めします。小さな成功体験が、他部門へ展開する際の説得力のある実績となります。
関連記事:
DX成功に向けて、経営層のコミットメントが重要な理由と具体的な関与方法を徹底解説
なぜDXは小さく始めるべきなのか? スモールスタート推奨の理由と成功のポイント、向くケース・向かないケースについて解説
共有ドライブの棚卸し・統廃合は、単なるツール操作の知識だけでは成功が難しい、複合的なプロジェクトです。特に、現状分析のためのツール選定、大規模なデータ移行の技術的ノウハウ、そして何より組織を動かすためのプロジェクト推進力が求められます。
私たちXIMIXは、Google Cloud と Google Workspace の専門家集団として、これまで多くの中堅・大企業の皆様の情報ガバナンス強化をご支援してまいりました。豊富な経験に基づき、貴社の状況に合わせた最適なアセスメントから、計画策定、実行支援、そして新ルールの定着化まで、プロジェクト全体を強力にサポートします。
「どこから手をつけていいか分からない」「プロジェクトを推進するリソースが不足している」といった課題をお持ちでしたら、ぜひ一度、私たちにご相談ください。
XIMIXのGoogle Workspace 導入支援についてはこちらをご覧ください。
XIMIXのGoogle Cloud 導入支援についてはこちらをご覧ください。
共有ドライブの乱立とブラックボックス化は、放置すれば業務効率の低下やセキュリティリスクを増大させる深刻な問題です。この問題を解決するには、場当たり的な対応ではなく、経営課題として捉え、全社的なプロジェクトとして計画的に取り組む必要があります。
本記事でご紹介した「計画」「可視化・分析」「実行」「定着化」という4つのステップと、「トップのコミットメント」「現場の巻き込み」「スモールスタート」という3つの成功の鍵が、貴社の取り組みの一助となれば幸いです。
共有ドライブを統制の取れた「情報資産」へと変革し、企業の競争力を高める一歩を踏み出しましょう。