「新しく配属された担当者の顔と名前が一致しない」 「プロジェクトに必要なスキルを持つ人材を、どう探せばいいか分からない」 「社内の誰に何を聞けばよいのか、見当がつかない」
ハイブリッドワークが定着し、組織のサイロ化が進む中で、このような課題を抱える企業は少なくありません。社員情報を一元化し、誰もが簡単にアクセスできる「社員名鑑」は、円滑なコミュニケーションとコラボレーションの基盤として、その重要性を増しています。
しかし、専用のシステムを導入するには相応のコストと時間がかかります。そこで本記事では、多くの企業が既に導入している Google Workspace のツール群、特に「Googleサイト」を活用して、低コストかつ高機能な社員名鑑を構築する方法を解説します。
単なる作成手順だけでなく、ビジネス上のメリットや、中堅・大企業が導入を成功させるための実践的なポイントまで、専門家の視点から詳しくご紹介します。この記事を読めば、貴社の情報共有を次のレベルへ引き上げるための具体的な道筋が見えるはずです。
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かつての紙やExcelで管理された社員名簿は、もはや現代のビジネススピードに対応できません。今、企業が求めるのは、必要な情報を即座に引き出せる「検索可能」な動的プラットフォームとしての社員名鑑です。
リモートワークやフリーアドレスの普及により、偶発的なコミュニケーションの機会は減少しました。オフィスですれ違い、気軽に声をかけるといったことが難しくなった今、社員一人ひとりの顔写真、所属、連絡先、担当業務といった基本情報をいつでも確認できる環境は、組織の一体感を維持するために不可欠です。
「この件に詳しいのは、確か〇〇さんだったはず…」といった曖昧な記憶に頼った人材検索は、業務非効率の温床です。社員名鑑に「スキル」「保有資格」「過去のプロジェクト経験」といった情報を付与することで、社内の専門知識(ナレッジ)が可視化され、組織全体の課題解決能力が向上します。
デジタルトランスフォーメーション(DX)を推進する上で、社内の情報が分散・サイロ化している状態は大きな足かせとなります。社員情報という最も基本的なデータを一元管理し、全社で活用できる状態に整備することは、あらゆるDX施策の成功率を高めるための重要な第一歩と言えるでしょう。
専用ツールではなく、なぜGoogleサイトを選ぶべきなのでしょうか。そこには、Google Workspaceを導入済みの企業にとって見逃せない、大きな利点が存在します。
Googleサイトは、Google Workspaceのライセンスに含まれるツールのため、追加のライセンス費用は原則として発生しません。新たなシステム導入に伴う高額な初期費用やランニングコストを大幅に抑制できます。また、直感的なインターフェースで開発知識がなくても構築できるため、情報システム部門のリソースを大きく割くことなく、スピーディに導入を開始できます。
社員名鑑のデータソースとなるGoogleスプレッドシート、社員の顔写真を保存するGoogleドライブ、そして各社員のプロフィールから直接チャットやメールが送れるGmailやGoogle Chat。これらGoogle Workspaceの各サービスとスムーズに連携できる点は、最大の強みです。日々の業務フローの中に、社員名鑑が自然に溶け込みます。
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情報の鮮度は、社員名鑑の価値を左右する生命線です。Googleサイトとスプレッドシートをベースにした社員名鑑は、管理画面がシンプルで分かりやすく、人事部門の担当者などが専門的なITスキルなしで容易に情報を更新できます。これにより、常に最新の情報が保たれ、「使われない名鑑」になるのを防ぎます。
Googleサイトは、企業のブランドイメージに合わせたデザインのカスタマイズが容易です。また、最初は基本的な情報からスタートし、段階的に「スキルマップ」「プロジェクト実績」といった項目を追加していくなど、組織の成長に合わせて柔軟に機能を拡張していくことが可能です。
ここでは、実際に社員名鑑を作成するための基本的な4つのステップを解説します。
まず、社員名鑑の元となるデータベースをGoogleスプレッドシートで作成します。
項目定義: 1行目を見出しとして、「氏名」「フリガナ」「所属部署」「役職」「内線番号」「メールアドレス」「顔写真」「スキル」「ひとこと」といった必要な項目を定義します。
データ入力: 各社員の情報を入力します。顔写真はGoogleドライブにアップロードし、「共有可能なリンク」を取得してスプレッドシートに貼り付けておくと管理がスムーズです。
共有設定: このスプレッドシートは、情報更新の担当者のみが編集できるように権限を設定します。
氏名 | 所属部署 | 役職 | メールアドレス | スキル |
山田 太郎 | DX推進部 | 部長 | t.yamada@example.com | Google Cloud, AI |
佐藤 花子 | 営業1部 | 課長 | h.sato@example.com | 顧客折衝, 提案書作成 |
次に、社員名鑑を表示させるためのウェブページをGoogleサイトで作成します。
新規サイト作成: Googleサイトにアクセスし、新しいサイトを作成します。
ページ構成: ヘッダーに会社ロゴを配置し、分かりやすいタイトル(例:社員名簿、メンバー紹介)をつけます。検索性を高めるためのレイアウトを検討しましょう。
作成したサイトに、Step 1のスプレッドシートを埋め込みます。
挿入メニュー: Googleサイトの編集画面で、「挿入」メニューから「スプレッドシート」を選択します。
シート選択: 先ほど作成した社員名鑑用のスプレッドシートを選択し、挿入します。
表示調整: サイト上で見やすいように、埋め込んだスプレッドシートのサイズや表示範囲を調整します。
社員名鑑を「検索可能」にするための設定はいくつか方法があります(サードパーティ製ガジェットの利用など)が、ここでは簡単に実装できる方法をご紹介します。
基本的な社員名鑑は上記の手順で作成できますが、中堅・大企業で全社的に活用し、その価値を最大化するためには、いくつかの重要な留意点があります。これらは、多くの企業が導入プロセスで見落としがちな、専門家視点での成功の秘訣です。
全社員が閲覧できるとはいえ、役職や評価に関わるような機微な情報まで公開するわけにはいきません。 「どの情報を、どの範囲の従業員まで公開するのか」というルール、すなわち情報ガバナンスの設計が極めて重要です。
スプレッドシートではシートや範囲単位で閲覧権限を細かく設定できます。例えば、「特定プロジェクトメンバーのみが閲覧できるスキルシート」などを設けることで、セキュリティと利便性の両立が可能です。この初期設計が、後のスムーズな運用を左右します。
社員名鑑が陳腐化する最大の原因は、情報更新のプロセスが確立されていないことです。異動や昇格、入退社といった人事イベントが発生した際に、「誰が」「いつ」「どの情報を」更新するのか。このワークフローを明確に定義しなくてはなりません。
例えば、Googleフォームを情報更新の申請窓口とし、承認された内容が自動的にスプレッドシートに反映される仕組み(Google Apps Scriptなどを活用)を構築することで、人事部門の運用負荷を大幅に軽減し、情報の鮮度を維持できます。
社員名鑑は、作成がゴールではありません。社員情報を一元化した「データベース」として、いかに活用するかが重要です。 例えば、蓄積されたスキルデータを分析して、社内の人材育成計画に役立てたり、新規プロジェクトの最適なチーム編成を検討したりする際の材料とすることができます。単なる「顔と名前の一覧」から、「組織の能力を可視化する戦略的ツール」へと昇華させる視点が、投資対効果を最大化する鍵となります。
Googleサイトによる社員名鑑の構築は、手軽に始められる一方で、全社規模での本格導入となると、前述のような権限設計や運用フローの構築、さらには将来の拡張性を見据えたデータ構造の設計など、専門的な知見が求められる場面が少なくありません。
私た『XIMIX』は、これまで多くの中堅・大企業様と共に、Google Workspaceを活用したDX推進をご支援してまいりました。その豊富な経験に基づき、貴社の組織文化や業務フローに最適化された情報共有基盤の構想策定から、実際の構築、そして運用定着化までをトータルでサポートします。
情報ガバナンス設計コンサルティング: 貴社のセキュリティポリシーに準拠した、安全かつ実用的な権限・公開範囲の設計をご支援します。
自動化・効率化支援: Google Apps ScriptやAppSheetを活用し、情報更新のワークフローを自動化。管理部門の負担を最小限に抑えます。
データ活用基盤への拡張支援: 作成した社員名鑑を核として、Looker Studioでの人材データ分析や、他システムとの連携など、より高度なデータ活用基盤へのステップアップをお手伝いします。
「どこから手をつければ良いか分からない」「自社の要件を実現できるか不安だ」といったお悩みをお持ちでしたら、ぜひ一度お気軽にご相談ください。
XIMIXのGoogle Workspace 導入支援についてはこちらをご覧ください。
XIMIXのGoogle Cloud 導入支援についてはこちらをご覧ください。
本記事では、Googleサイトを活用して、低コストで高機能な社員名鑑を作成する方法とそのメリットについて解説しました。
重要なポイントを改めて整理します。
Googleサイトの社員名鑑は低コスト・短納期で導入可能であり、DXの第一歩として最適。
基本的な作成はスプレッドシートとの連携で容易に実現できる。
中堅・大企業での成功には、ガバナンス設計、運用プロセスの確立、発展的活用の視点が不可欠。
社員同士の繋がりを可視化し、円滑なコラボレーションを促進する"検索できる社員名鑑"は、これからの時代の変化に強い組織を作るための重要な経営基盤です。まずは小規模な部署からでも、スモールスタートでその効果を実感してみてはいかがでしょうか。