「PoC(概念実証)までは進んだが、実務レベルの正確性が出せずにプロジェクトが停滞している」「生成AIの導入を検討したが、誤情報の出力(ハルシネーション)によるリスクが懸念され、稟議が通らない」
日々、多くの企業のDX推進担当者様からこのような切実な話が聞こえてきます。特に金融、医療、製造業の設計部門など、ひとつのミスが重大な損失やコンプライアンス違反に直結する領域において、生成AIの「もっともらしい嘘」は決して看過できない経営リスクです。
しかし、結論から申し上げます。ハルシネーションを「ゼロ」にすることは現在の技術特性上困難ですが、「業務利用に耐えうるレベルまで制御(コントロール)」し、リスクを最小化することは十分に可能です。
必要なのは、プロンプトエンジニアリングという個人の技量に頼ることではなく、システム全体で誤りを検知・防止する「ガードレール(防御壁)」をアーキテクチャとして設計することです。
本記事では、XIMIXの知見に基づき、生成AIを「信頼できるビジネスパートナー」に変えるための具体的な設計論と、投資対効果(ROI)に見合う実装戦略を解説します。
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対策を講じる前に、敵を知る必要があります。なぜ、Geminiや他の高性能な大規模言語モデル(LLM)であっても、ハルシネーションは発生するのでしょうか。
根本的な原因は、LLMが「事実を記憶しているデータベース」ではなく、「確率的に次に来る言葉を予測している推論エンジン」に過ぎないという点にあります。
AIにとっての「正解」とは、事実かどうかではなく、「文脈として自然かどうか」です。そのため、学習データにない情報や曖昧な質問に対しては、確率的に最も自然に見える単語を繋ぎ合わせ、結果として「非常に滑らかで、もっともらしい嘘」を生成してしまいます。
初期の生成AI導入では、「あなたは優秀なコンサルタントです」「嘘をつかないでください」といった指示をプロンプトに含める対策が取られていました。しかし、これはあくまで確率の重み付けを変える程度の効果しかなく、業務システムとしての信頼性を担保する「保証(Guarantee)」にはなり得ません。
特に、数万人規模の社員が利用する環境では、ユーザーのリテラシーもバラバラです。個人の入力スキルに依存する対策は、ガバナンスの観点から見ても脆弱と言わざるを得ません。
企業として必要なのは、誰が使っても一定の品質が担保される「システムレベルでの制御」です。
ハルシネーション対策を検討する際、決裁者が意識すべきは「リスクコスト」と「対策コスト」のバランスです。
この「業務ごとのリスク許容度」を定義せずに一律の導入を進めることが、多くのプロジェクト失敗の要因です。本記事では、後者の「許容できない業務」に焦点を当てます。
現在、ハルシネーション対策のデファクトスタンダードとしてRAG(Retrieval-Augmented Generation:検索拡張生成)が広く採用されています。社内ドキュメントを検索し、その結果をAIに渡して回答させる手法です。
しかし、現在、多くの企業が「RAGを導入したのに、期待した精度が出ない」という幻滅期に直面しています。
これらは「AIの性能」の問題というより、「検索(Retrieval)の精度」と「データ品質」の問題です。
RAGは魔法の杖ではなく、適切なチューニングなしには機能しません。
「Garbage In, Garbage Out(ゴミを入れればゴミが出てくる)」の原則は、生成AI時代においても不変です。
PDFの画像データ、更新されていない古いファイル、ファイル名が適当なドキュメントなどが混在するデータレイクをそのままRAGに繋ぎこんでも、AIは正確な回答を生成できません。
RAGの成功には、AIモデルの選定以上に、泥臭いデータの前処理(クレンジング、メタデータ付与、構造化)が不可欠です。ここを疎かにしたまま、プロンプト調整に時間を費やすのは、砂上の楼閣を作るようなものです。
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ハルシネーションをシステム的に防ぐためには、単一の対策ではなく、「入力」「中間」「出力」の3つのレイヤーで防御壁(ガードレール)を構築する多層防御のアプローチが有効です。
AIに回答を生成させる前に、まず「それはAIが答えるべき質問か?」を判定します。
これにより、LLMが学習データに基づいた不確かな知識で勝手に回答するリスクを、入り口でシャットアウトします。
ここが技術的な核心部分です。Google Cloudの生成AIプラットフォーム Vertex AI で提供されている「Grounding(グラウンディング:根拠付け)」機能を活用します。
Groundingとは、AIの回答を特定のデータソース(Google検索結果や、社内のEnterprise Search)に強制的に紐付ける技術です。単に情報を参照するだけでなく、「回答の各文章が、参照元のどの部分に基づいているか」を検証します。
Geminiモデルは、このGrounding能力において極めて高い性能を発揮します。回答の中に、根拠となるドキュメントへのリンク(引用)を含めるよう強制することで、ユーザーは「AIが言ったから正しい」ではなく、「元のドキュメントにこう書いてあるから正しい」という判断が可能になります。責任の所在をAIから元データへと移すことができるのです。
生成された回答をそのままユーザーに見せるのではなく、システム側で品質チェックを行います。
最新環境では、生成された回答の「事実との整合性(Groundedness)」をスコア化することが可能です。例えば、以下のようなロジックをシステムに組み込みます。
このように、あえて「答えない勇気」を持つシステム設計こそが、業務における信頼性を担保します。
従来のRAGでは、ドキュメントを細切れ(チャンク)にして検索していましたが、これにより文脈が分断され、ハルシネーションの原因となっていました。
Googleのモデルでは、数百万トークン以上という圧倒的なコンテキストウィンドウを持っています。これにより、マニュアルや規定集を「まるごと」プロンプトに入力し、全体を読ませた上で回答させることが可能になりました。
検索による情報の欠落を防ぎ、ドキュメント全体の文脈を理解した回答が可能になるため、ハルシネーションの大幅な低減が期待できます。これはGoogle Cloudを選択する大きなメリットの一つです。
技術的なガードレールに加え、運用プロセスとしてのガードレールも重要です。特に重要な意思決定や、外部へ公開する文章の作成においては、必ず最終工程に人間が介在する Human-in-the-loop のフローを組み込みます。
AIはあくまで「ドラフト作成者」や「調査アシスタント」であり、最終承認者は人間であるという役割分担を、システムUI(承認ボタンの実装など)や業務フローとして明確に定義します。
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生成AIの業務適用は、単なるAPIの利用ではありません。セキュリティ、ネットワーク、認証認可、そしてデータ基盤が複雑に絡み合う、大規模なシステムインテグレーションです。
XIMIXは、以下のような包括的な支援を提供します。
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生成AIのハルシネーションは、決して解決不可能な問題ではありません。技術の特性を正しく理解し、適切なガードレールを設計することで、リスクをコントロール可能な範囲に収めることができます。
リスクを恐れて立ち止まるのではなく、正しく恐れ、賢く対策を講じることで、貴社のDXは次のステージへと進みます。確かな技術基盤の上で、信頼できるAIシステムを共に構築していきましょう。