コラム

Gemini for Google WorkspaceとVertex AIの使い分け|投資対効果を最大化する生成AI導入の最適解

作成者: XIMIX Google Cloud チーム|2026,01,20

はじめに

企業のDX推進において、生成AIの活用はもはや「検討」のフェーズを過ぎ、いかに「実益」を出すかという「実装」のフェーズへと移行しています。

Googleが提供する生成AIソリューションには、オフィススイートに統合された「Gemini for Google Workspace」と、高度な開発基盤である「Vertex AI」の大きく2つの柱が存在します。

しかし、多くの企業では「自社の課題に対してどちらを選択すべきか」「両者をどう組み合わせればROIを最大化できるのか」という判断に苦慮しているのが実情です。

結論から言えば、「個人の創造性を解き放つスピード」を優先するならGemini for Google Workspaceを、「自社固有のデータを用いた業務プロセスの抜本的変革」を目指すならVertex AIを選択するのが基本戦略となります。

本記事では、数多くのエンタープライズ企業を支援してきた知見に基づき、経営・事業戦略の視点からこれら2つのソリューションの使い分け基準を詳解します。

生成AI導入において中堅・大企業が直面する共通課題

多くの企業が生成AIの導入を開始したものの、期待した成果が得られない、あるいはプロジェクトが停滞するという事態が散見されます。その背景には、ツール選定の基準が「機能の有無」に偏りすぎているという問題があります。

①ツール導入そのものが目的化するリスク

「競合他社が導入したから」「役員から指示があったから」という理由で導入を急いだ結果、具体的なユースケースが定義されず、ライセンスだけが配布されて放置されるケースは少なくありません。

特に中堅以上の規模の組織では、各部門の業務フローが複雑であり、単一のツールで全ての課題を解決しようとすること自体に無理があります。

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②シャドーAIによるセキュリティとガバナンスの懸念

現場のニーズにIT部門の対応が追いつかない場合、従業員が個人アカウントで一般公開されているAIサービスを利用してしまう「シャドーAI」のリスクが高まります。

企業の情報資産を守りつつ、利便性を損なわないためには、全社共通のプラットフォーム選びが不可欠です。

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③投資対効果(ROI)の算出困難

生成AIによる「時短効果」は定量化しやすい一方、それが「営業利益の向上」や「新サービスの創出」にどう直結しているかが見えにくいという課題もあります。ROIを明確にするためには、インフラコスト、開発コスト、そして現場の習熟コストを総合的に判断できる枠組みが必要です。

Gemini for Google Workspaceによる「個の生産性」の底上げ

Gemini for Google Workspaceは、日常の業務で使用するGmail、ドキュメント、スプレッドシート、スライドなどに直接AIが組み込まれたソリューションです。

①即効性のある業務改善と従業員体験の向上

Gemini for Google Workspaceの最大の強みは、導入したその日から全社員が恩恵を受けられる「即効性」にあります。

メールの代筆、会議議事録の要約、複雑なデータ集計の自動化など、これまで「人間が手を動かしていた時間」を大幅に削減します。これは、深刻な人手不足に悩む企業の現場において、心理的な余裕を生み出す重要な要素となります。

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②セキュリティを担保したエンタープライズ品質

一般向けのGeminiと異なり、Workspace版ではユーザーのデータがモデルの学習に利用されることはありません。

ISO/IEC 27001などの国際的なセキュリティ規格に準拠しており、大企業の厳しいコンプライアンス基準を満たしながら、最新の生成AIを全社的に展開することが可能です。

③導入時におけるスキルセットのハードル

Vertex AIと比較した場合、高度なプログラミングスキルやデータサイエンスの知識を必要としません。「プロンプト(AIへの指示出し)」のコツさえ掴めば、ITリテラシーに関わらず幅広い層が活用できるため、組織全体のリテラシーを底上げする「DXの入り口」として非常に有効です。

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Vertex AIが実現する「事業競争力」の源泉

一方で、Google Cloud上のプラットフォームであるVertex AIは、企業が独自のデータやロジックを用いてAIをカスタマイズ・構築するための開発基盤です。

①自社固有データによる高度なカスタマイズ

Vertex AIの真価は、自社の社内規定、製品マニュアル、過去の商談記録といったナレッジを自由にAIに組み込める点にあります。

RAG(検索拡張生成)と呼ばれる手法を用いることで、自社固有のコンテキストを理解した高精度なAIアシスタントや、業務自動化システムを構築できます。

②業務プロセスへの深い組み込み

既存のCRM(顧客管理システム)やERP(基幹業務システム)と連携し、AIを業務フローの一部として組み込むことが可能です。

例えば、コンタクトセンターに届く問い合わせを自動分類し、回答案を作成してオペレーターに提示する、あるいは大量の特許文書から特定の技術動向を抽出するといった、専門性の高い領域での活用が想定されます。

③拡張性とマルチモデルの選択肢

Vertex AIは、Googleの最新モデルであるGeminiだけでなく、他社のオープンソースモデルなども柔軟に選択・比較できる環境を提供します。

特定の技術にロックインされることなく、用途やコストに応じて最適なモデルを使い分けることが可能なため、中長期的なIT戦略において高い柔軟性を保つことができます。

ROIを最大化する使い分けの意思決定マトリクス

これら2つのソリューションをどのように使い分けるべきか。以下の3つの軸で判断することが、投資判断の鍵となります。

1. 目的とスコープ(誰が何のために使うか)

  • Gemini for Google Workspace: ターゲットは「全従業員」。目的はドキュメント作成やメール対応などの「汎用的な事務作業の効率化」です。

  • Vertex AI: ターゲットは「特定の業務」や「IT開発部門」。目的は自社独自のデータを活用した「付加価値の創出」や「難易度の高い専門業務の自動化」です。

2. 必要とされるITリソースとコスト構造

  • Gemini for Google Workspace: 月額サブスクリプション制。初期開発コストはほぼゼロであり、OPEX(運用費)としての管理が容易です。

  • Vertex AI: 従量課金制に加え、開発・運用のためのエンジニア(データサイエンティスト、MLOpsエンジニア等)のリソースが必要です。CAPEX(投資)としての側面が強くなりますが、成功した際のビジネスインパクトは極めて大きくなります。

3. データガバナンスとセキュリティ

  • Gemini for Google Workspace: Googleの基盤にデータを預ける形になりますが、学習には使われないため、一般的なオフィス文書の扱いに適しています。

  • Vertex AI: データセットの保管場所やアクセス権限を細かく制御できます。基幹系の機密データや、厳格な法規制(GDPR等)への対応が求められる環境では、Vertex AIによる専用環境の構築が推奨されます。

成功の鍵を握る「ハイブリッド導入戦略」の実践

中堅・大企業においては、どちらか一方を選ぶのではなく、両者を戦略的に組み合わせる「ハイブリッドアプローチ」こそが現実的な解となります。

フェーズ1:Gemini for Google Workspaceによる土壌作り

まずはGemini for Google Workspaceを導入し、全社的な「AIアレルギー」を払拭します。

日常業務でAIを使う文化が定着することで、現場から「もっとこういうことができないか」という具体的なニーズ(Vertex AIのユースケース候補)が吸い上げられるようになります。

フェーズ2:高ROIな領域でのVertex AIによる深化

現場から上がってきたニーズの中から、特に「手動で行うとコストが高い」「ミスが許されない」「自社独自のナレッジが重要」な領域を特定し、Vertex AIを用いてカスタマイズされたソリューションを開発・実装します。

フェーズ3:ガバナンスの統合と最適化

全社員の利便性と、特定領域の高度な活用を両立させながら、Google Cloudの統合管理機能を活用してセキュリティポリシーを一貫させます。

これにより、無秩序なAI利用を防ぎつつ、組織全体の生産性を継続的に向上させることができます。

ビジネスパートナーとともに歩む生成AIの旅

生成AIの導入は、単なるツールのアップグレードではなく、組織のあり方を変えるトランスフォーメーションです。しかし、多くの企業において、社内のリソースだけで最新技術のキャッチアップと最適なアーキテクチャ設計、そして現場への定着化を完結させることは容易ではありません。

外部専門家を活用する戦略的意義

特にVertex AIを用いた自社専用モデルの開発や、既存システムとの統合には、クラウドインフラ、データ工学、そしてビジネスプロセスの深い理解が必要です。これらをワンストップで支援できるパートナーを選ぶことが、プロジェクトの失敗(PoC死)を防ぎ、確実にROIを達成するための最短ルートとなります。

『XIMIX』では、これまで多くの中堅・大企業のGoogle Cloud / Google Workspace導入を支援してきた実績があります。技術的な実装だけでなく、お客様のビジネス課題に深く踏み込み、どの領域でGeminiを活用し、どの領域でVertex AIを開発すべきかというロードアップの策定から伴走いたします。

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まとめ:AIを「道具」から「パートナー」へ

Gemini for Google WorkspaceとVertex AIは、それぞれ異なる役割を持つ強力な武器です。

  • Gemini for Google Workspaceは、全社員の「思考のパートナー」として、日々の業務にスピードと創造性をもたらします。

  • Vertex AIは、企業の「競争力の核」として、独自データを資産に変え、ビジネスモデルそのものを進化させます。

大切なのは、これらを単なるソフトウェアとして捉えるのではなく、自社の経営戦略を実現するための「レバレッジ」として捉えることです。変化の激しいこの時代において、Google Cloudの生成AIエコシステムを正しく使い分けることが、次世代のビジネスリーダーに求められる不可欠なスキルとなるでしょう。

貴社のビジョンを具現化するために、どのようなAI戦略を描くべきか。まずは小さな一歩から、私たちと共に検討を始めてみませんか。