コラム

Googleフォームを活用したサンクスカード/ピアボーナス導入・定着の秘訣

作成者: XIMIX Google Workspace チーム|2025,09,27

はじめに

リモートワークの浸透や働き方の多様化により、多くの企業で従業員エンゲージメントの維持・向上が経営の重要課題となっています。しかし、「具体的な施策にコストや手間をかけられない」と感じている経営者やDX推進担当者の方も多いのではないでしょうか。

この記事では、多くの企業が導入しているGoogle Workspaceを活用し、コストを抑えながら組織の活性化を実現する「サンクスカード(ピアボーナス)制度」の導入・定着ノウハウを解説します。

単なるツールの作成手順に留まらず、

  • なぜ今、この施策がビジネス価値を持つのか

  • 制度設計から具体的な構築ステップ

  • 多くの企業が陥る失敗を避け、施策を成功に導くためのポイント

といった、中堅・大企業の意思決定者が知りたい戦略的視点を、Google Cloudの専門家の知見を交えて具体的にお伝えします。この記事を読めば、貴社の組織文化を変革する第一歩を踏み出すための、実践的なロードマップが手に入ります。

なぜ、サンクスカードやピアボーナスが注文されるのか?

具体的な手法に入る前に、なぜこの施策が多くの企業で注目されているのか、その背景と目的を正しく理解することが成功の第一歩です。

①従業員エンゲージメントが企業成長を左右する時代

従業員エンゲージメントとは、従業員が仕事に対して抱く「熱意」や「貢献意欲」を指します。米国の調査会社Gallup社の調査によれば、エンゲージメントの高いチームは低いチームに比べ、生産性が17%、、収益性が21%高いというデータも報告されています。

優秀な人材の確保と定着が企業成長の鍵となる現代において、従業員一人ひとりが自社のパーパスに共感し、いきいきと働ける環境を構築することは、もはや福利厚生ではなく経営戦略そのものと言えるでしょう。

②リモートワークで希薄化する社内コミュニケーション

オフィスでの雑談やランチといった偶発的なコミュニケーションが減少したことで、「誰がどんな仕事で頑張っているのかが見えにくい」「部署間の連携が取りづらくなった」といった課題は、多くの企業に共通する悩みです。

意図的にコミュニケーションの機会を創出しなければ、組織の一体感は徐々に失われていきます。サンクスカードは、部署や役職の垣根を越えたポジティブなコミュニケーションを促進する、極めて有効な手段です。

③「称賛文化」がもたらす心理的安全性と生産性向上

サンクスカードやピアボーナス制度の根幹にあるのは「称賛文化」の醸成です。従業員が互いの貢献を認め、感謝を伝え合う文化は、チーム内に「ここでは安心して発言・挑戦できる」という心理的安全性を育みます。

心理的安全性の高い組織では、従業員が失敗を恐れずに新しいアイデアを提案したり、積極的に意見交換を行ったりするため、結果としてイノベーションが生まれやすくなり、組織全体の生産性向上に繋がるのです。

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Googleフォームがサンクスカード制度の第一歩に最適な理由

大掛かりな専用ツールを導入せずとも、多くの企業が日常的に利用しているGoogle Workspace、特にGoogleフォームを活用することで、この施策は驚くほど手軽に、かつ効果的に始めることができます。

①スモールスタートできる手軽さとコストメリット

Googleフォームは追加コストなしで利用でき、直感的な操作で誰でも簡単にフォームを作成できます。まずは特定の部署やチームで試行し、効果を検証しながら全社展開へとスケールさせていく「スモールスタート」に最適なツールです。初期投資を抑えられる点は、決裁者にとっても大きなメリットと言えるでしょう。

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②既存環境で完結するセキュリティと管理の容易さ

新たなツールを導入する際に情報システム部門が懸念するセキュリティリスクも、Google Workspaceの環境内であれば最小限に抑えられます。アクセス制御や監査ログといった既存のセキュリティポリシーをそのまま適用できるため、管理の手間もかかりません。

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③Google Workspaceとの連携による高い拡張性

Googleフォームの真価は、他のGoogle Workspaceツールとの連携にあります。

  • Googleスプレッドシート: 回答を自動で集計・蓄積

  • Google Chat: 感謝のメッセージをリアルタイムで特定のチャットルームに通知

  • Looker Studio: 蓄積されたデータをダッシュボードで可視化・分析

このように、単なるメッセージの収集に留まらない、データの活用と施策の高度化が容易に行える点も大きな魅力です。

【実践編】Googleフォームでサンクスカード制度を構築する5ステップ

ここでは、具体的な構築手順を5つのステップで解説します。重要なのは、ツール作成の前に「制度の設計」を丁寧に行うことです。

Step 1: 目的とルールを明確にする(設計の重要性)

まず、この制度を通じて「何を達成したいのか」という目的を明確にしましょう。「部署間の連携強化」「若手社員の定着率向上」など、具体的な目的を設定することで、評価指標も明確になります。

次に、シンプルなルールを定めます。多くの企業で実践されている成功の秘訣は、「いつでも、誰でも、気軽に送れる」状態を作ることです。

  • 誰が誰に送れるか: 全従業員間、部署内限定など

  • どんな時に送るか: 日々の小さな協力、目標達成への貢献など

  • 運用のルール: 月間の投稿上限、ポイント制の有無など

Step 2: 設問項目を設計する(テンプレートとカスタマイズのヒント)

目的とルールが決まったら、フォームの設問を設計します。以下は基本的な項目例です。

基本項目(テンプレート)

  • 感謝を贈る相手: プルダウン形式で社員名を選択

  • 感謝を贈る自分: プルダウン形式で社員名を選択

  • 感謝のメッセージ: 自由記述欄

  • 会社のバリューとの関連: 「挑戦」「協働」など、自社の行動指針やバリューを選択式で設定

【専門家の視点】 自由記述だけでなく、会社のバリューと紐づける設問を加えることが重要です。これにより、従業員は日々の業務と会社の目指す方向性を意識するようになり、理念浸透にも繋がります。

Step 3: Googleフォームを作成し、共有する

設計した設問に基づき、Googleフォームを作成します。組織内のユーザーに限定公開する設定を忘れずに行いましょう。完成したフォームのURLを、社内ポータルやGoogle Chatなどで全社に告知・共有します。

Step 4: 回答をGoogleスプレッドシートで自動集計する

Googleフォームの「回答」タブから、ワンクリックで回答を記録するGoogleスプレッドシートを新規作成できます。これにより、投稿されたサンクスカードはすべて自動で一覧化され、データの蓄積が始まります。

Step 5: Google Chatへリアルタイムで通知を飛ばす(GAS活用例)

Google Apps Script (GAS) を活用すれば、フォームに回答が送信されたタイミングで、その内容を自動的にGoogle Chatの特定のスペース(チャットルーム)に通知できます。これにより、感謝のメッセージがリアルタイムで多くの従業員の目に触れ、組織全体で称賛の輪が広がりやすくなります。 (※具体的なスクリプトの設定には専門知識が必要です)

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【基本編】Google Apps Script (GAS) とは?機能、業務効率化、メリットまで徹底解説

制度を形骸化させないための運用と活用のポイント

ツールを導入するだけでは、残念ながら施策は定着しません。ここでは、多くの企業が陥りがちな失敗を避け、制度を組織文化として根付かせるための重要なポイントを解説します。

①経営層・管理職の積極的な関与が成功の鍵

最も重要な成功要因は、経営層や管理職が自らこの制度を積極的に利用し、その価値を発信し続けることです。リーダーたちが率先して部下や他部署のメンバーに感謝を伝える姿勢を見せることで、「この取り組みは会社として本気なのだ」というメッセージが全社に伝わり、従業員の利用を促進します。

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②集まった感謝の声を「見える化」する工夫

集まった感謝のメッセージは、ただ蓄積するだけでは意味がありません。

  • 定例会議での共有: 週次や月次の会議で、素晴らしい貢献を称え合う時間を設ける。

  • 社内報での表彰: 特に素晴らしい貢献をした従業員を社内報などで紹介する。

  • 物理的な掲示: オフィスのサイネージや掲示板に、素敵なメッセージを映し出す。

こうした「見える化」の工夫が、従業員のモチベーションを高め、制度の活性化に繋がります。

③Looker Studioを活用した貢献度の可視化と分析

Googleスプレッドシートに蓄積されたデータは、Looker Studio(旧Googleデータポータル)と連携させることで、インタラクティブなダッシュボードとして可視化できます。

  • 部署ごとの送受信数

  • 関連付けられたバリューの傾向

  • 称賛のネットワーク図(誰が誰に送っているか)

これらのデータを分析することで、組織のコミュニケーションハブとなっているキーパーソンを発見したり、部署間の連携度合いを定量的に把握したりと、組織開発のための貴重なインサイトを得ることが可能です。

さらに高度な活用へ:ピアボーナス制度への展開と注意点

サンクスカード制度が定着した次のステップとして、少額のインセンティブ(ボーナス)を従業員間で送り合える「ピアボーナス制度」への展開も考えられます。

ポイント付与とインセンティブ設計の考え方

ピアボーナス制度では、各従業員に毎月一定のポイントを付与し、感謝のメッセージと共にポイントを送る仕組みが一般的です。貯まったポイントは、少額の報奨金やギフト券などと交換できるように設計します。これにより、感謝の気持ちがより具体的な形で伝わり、従業員のモチベーションをさらに高める効果が期待できます。

公平性と透明性を担保するための仕組みづくり

ピアボーナス制度を導入する際は、公平性と透明性の担保が不可欠です。「特定のメンバー間だけでポイントを送り合っている」といった状況が生まれないよう、ポイントの使い道や評価基準に関するルールを明確にし、全社に周知徹底することが重要です。ここでも、Looker Studioなどによるデータ分析が、運用の健全性をチェックするために役立ちます。

生成AI(Gemini)を活用したコメント分析の可能性

最新の技術トレンドとして、Google Workspaceに搭載された生成AI「Gemini」の活用も視野に入ってきます。将来的には、スプレッドシートに蓄積された膨大な感謝のメッセージをGeminiが分析・要約し、「今月、最もチームの生産性向上に貢献した行動は何か」といったインサイトを自動で抽出することも可能になるでしょう。

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全社展開を成功に導くパートナーという選択肢

ここまで解説してきたように、Googleフォームを活用したサンクスカード制度は手軽に始められる一方、その効果を最大化し、全社的な文化として定着させるには、戦略的な制度設計と、Google Workspaceの機能を最大限に活用する技術的知見が不可欠です。

構想策定から運用設計まで伴走する専門家の価値

「自社に最適なルールは何か?」「ピアボーナスへ移行する際の注意点は?」「Looker Studioでどのような分析が可能か?」といった課題に対し、多くの企業のDX推進を支援してきた専門家は、豊富な経験に基づいた最適な解を提供できます。第三者の客観的な視点を取り入れることで、自社だけでは気づかなかった課題や可能性を発見できることも少なくありません。

Google Workspaceの潜在能力を最大限に引き出すXIMIXの支援

私たちXIMIXは、Google CloudおよびGoogle Workspaceの導入・活用支援に特化した専門家集団です。単なるツールの導入に留まらず、お客様の経営課題を深く理解し、Google Workspaceが持つ潜在能力を最大限に引き出すためのコンサルティングから、GASを用いた開発、運用定着化までを一気通貫でご支援します。

その先のデータ活用や全社展開まで、貴社の組織変革を成功に導くパートナーとして伴走いたします。

Google Workspaceの活用をさらに深め、組織のエンゲージメント向上を実現したいとお考えでしたら、ぜひ一度XIMIXにご相談ください。

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まとめ

本記事では、Googleフォームを活用してサンクスカードやピアボーナス制度を導入し、従業員エンゲージメントを高めるための具体的なステップと、成功に導くための重要なポイントを解説しました。

重要なのは、これを単なる「ツール導入」ではなく、「組織文化を醸成するための戦略的投資」と捉えることです。Google Workspaceという身近なツールからスモールスタートし、データを活用しながら改善を重ねていくことで、低コストでありながらも大きな組織変革を実現することが可能です。

この記事が、貴社の「称賛文化」づくりの第一歩となれば幸いです。