コラム

スケーラビリティとは?Google Cloudで実現する自動拡張のメリット【入門編】

作成者: XIMIX Google Cloud チーム|Apr 23, 2025 5:33:50 AM

はじめに

Webサイトやオンラインサービスを運営していると、「キャンペーン開始直後にアクセスが集中してサイトが重くなった」「テレビで紹介された途端、サーバーがダウンしてしまった」といった経験はありませんか? このような事態は、ビジネスチャンスを逃すだけでなく、顧客満足度の低下にもつながりかねません。

こうした課題を解決する上で非常に重要な概念が「スケーラビリティ」です。特に、これから Google Cloud のようなクラウドサービスの導入を検討している企業にとって、スケーラビリティの理解は不可欠と言えるでしょう。

「スケーラビリティって具体的にどういうこと?」「アクセスが増えたら自動でシステムを拡張できるって本当?」「Google Cloud を使うとどんなメリットがあるの?」

この記事では、このような疑問を持つ企業の担当者様に向けて、以下の点を分かりやすく解説します。

  • 「スケーラビリティ」とは何か、その基本的な意味
  • ビジネスにおけるスケーラビリティの重要性
  • スケーラビリティの種類(スケールアップとスケールアウトの違い)
  • Google Cloud でスケーラビリティを実現する「オートスケーリング」の仕組み
  • Google Cloud を活用するスケーラビリティのメリット

この記事を通して、スケーラビリティの基本を理解し、Google Cloud がビジネスの成長や変化にどのように貢献できるのかを知るきっかけとなれば幸いです。

スケーラビリティとは何か?

スケーラビリティ (Scalability) とは、日本語で「拡張性」や「規模の変化に対応できる能力」と訳されます。ITシステムにおいては、利用状況の変化、特にユーザー数やアクセス数の増減に応じて、システムの処理能力(サーバーの性能や台数、ネットワーク帯域など)を柔軟に増減させられる度合いを指します。

簡単に言えば、「システムの規模を、必要に応じて大きくしたり小さくしたりできる柔軟さ」のことです。

例えば、通常は100人程度の利用者を想定しているシステムが、特定の時期やイベントで1000人、1万人といったアクセスに対応する必要が出てきたとします。このとき、システムの構成を変更して1万人に対応できる処理能力を持たせ、アクセスが落ち着いたら元の規模に戻せる能力が、高いスケーラビリティを持つということになります。

なぜスケーラビリティが重要なのか?

では、なぜこのスケーラビリティがビジネスにとって重要なのでしょうか? 主な理由を3つ挙げます。

  1. ビジネス機会損失の防止: アクセスが集中した際にシステムがダウンしたり、レスポンスが悪化したりすると、ユーザーは離脱してしまいます。これは、製品の購入やサービスの利用といったビジネスチャンスを逃すことに直結します。高いスケーラビリティがあれば、突発的なアクセス増にも対応でき、機会損失を防ぐことができます。
  2. ユーザー体験(UX)の向上: いつでも快適にサービスを利用できることは、顧客満足度を高める上で非常に重要です。スケーラビリティによって安定したパフォーマンスを維持できれば、ユーザーはストレスなくサービスを利用でき、結果としてリピート利用や良い口コミにつながる可能性が高まります。
  3. コストの最適化: 従来、企業はピーク時のアクセスを想定して、あらかじめ余裕を持ったサーバーなどのリソースを用意する必要がありました(オンプレミスの場合など)。しかし、これではアクセスが少ない時期にはリソースが無駄になってしまいます。スケーラビリティの高いクラウドサービスなどを利用すれば、必要な時に必要な分だけリソースを増減できるため、インフラコストを最適化できます。

スケーラビリティの種類:スケールアップとスケールアウト

スケーラビリティを実現する方法には、大きく分けて「スケールアップ」と「スケールアウト」の2種類があります。

スケールアップ(垂直スケール)

スケールアップとは、サーバー1台あたりの性能を向上させることで、システム全体の処理能力を高める方法です。

  • 例: サーバーのCPUをより高性能なものに交換する、メモリを増設する、ストレージを高速なものにする。
  • イメージ: パソコンの性能を上げるために、部品をより良いものに交換するようなイメージです。レストランで例えるなら、厨房のコンロを増やしたり、より性能の良い調理器具を導入して、1人のシェフがより多くの料理をこなせるようにするイメージに近いでしょう。
  • メリット: 構成が比較的シンプル。
  • デメリット: 1台のサーバー性能には限界がある。性能向上に伴うコスト増が大きい場合がある。サーバーダウン時の影響が大きい(単一障害点になりやすい)。

スケールアウト(水平スケール)

スケールアウトとは、サーバーの台数を増やすことで、システム全体の処理能力を高める方法です。アクセスが増えたらサーバーを追加し、減ったらサーバーを減らします。

  • 例: 同じ構成のサーバーを複数台用意し、ロードバランサー(負荷分散装置)を使ってアクセスを各サーバーに振り分ける。
  • イメージ: パソコンの台数を増やして処理を分担させるイメージです。レストランで例えるなら、お客様が増えたらテーブルや席数を増やしたり、レジの台数を増やしたり、あるいは働くスタッフ(サーバー)の人数を増やして対応するイメージです。
  • メリット: 台数を増やすことで、理論上はどこまでも性能を向上させられる。サーバー1台がダウンしても、他のサーバーでサービスを継続できる(耐障害性が高い)。コスト効率が良い場合が多い。
  • デメリット: システム構成がスケールアップに比べて複雑になる場合がある。

クラウドサービス、特に Google Cloud では、この「スケールアウト」によるスケーラビリティ確保が主流となっています。そして、それを自動で行う仕組みが「オートスケーリング」です。

Google Cloudでスケーラビリティを実現する仕組み:「オートスケーリング」とは?

オートスケーリング (Autoscaling) とは、システムの負荷(CPU使用率、リクエスト数など)を監視し、あらかじめ設定した条件に基づいて、自動的にサーバーなどのリソース数を増減させる仕組みのことです。

例えば、以下のような設定が可能です。

  • 「CPU使用率が70%を超えたら、サーバー(仮想マシンインスタンス)を1台追加する」
  • 「平均リクエスト数が1分あたり1000件を超えたら、サーバーを2台追加する」
  • 「CPU使用率が30%を下回ったら、サーバーを1台削除する」

これにより、アクセスが急増した際には自動的にサーバーが増強されてパフォーマンスを維持し、アクセスが落ち着いたら自動的にサーバーが削減されて無駄なコストの発生を防ぐことができます。人手を介さずに、リアルタイムで最適なリソース量を維持できるのが大きな特徴です。

Google Cloudのスケーラビリティ(オートスケーリング)のメリット

Google Cloud のオートスケーリング機能を活用することで、企業は以下のような具体的なメリットを得られます。

  1. 機会損失の防止とビジネスの成長加速: キャンペーンやセール、メディア掲載などによる突発的なアクセス増にもシステムが自動で対応できるため、「サイトが重くて表示されない」「サーバーがダウンしてサービスが停止した」といった事態を防ぎ、ビジネスチャンスを確実に捉えることができます。これにより、安心して積極的なマーケティング施策などを展開でき、ビジネスの成長を加速させることが可能です。
  2. 安定したサービス提供による顧客満足度向上: アクセス数に関わらず、常に安定したレスポンス速度とサービス稼働率を維持できるため、ユーザーは快適にサービスを利用できます。これは顧客満足度の向上に直結し、ブランドイメージの向上やリピーター獲得につながります。
  3. コストの最適化と効率的なリソース活用: アクセスが少ない深夜帯や通常時には、自動的にリソース(サーバー数など)が削減されるため、常にピーク時に合わせた過剰なリソースを確保しておく必要がありません。「使った分だけ支払う」というクラウドの利点を最大限に活かし、インフラコストを大幅に削減できます。
  4. インフラ管理の手間と運用負荷の削減: 従来であれば、アクセス予測に基づいて手動でサーバーを増減させたり、アクセス集中時にエンジニアが緊急対応したりする必要がありましたが、オートスケーリングによりこれらの作業が自動化されます。IT部門の担当者は、煩雑なインフラ監視や手作業による調整業務から解放され、より戦略的な業務に集中できるようになります。

Google Cloudでスケーラビリティを提供する代表的なサービス

Google Cloud では、様々なサービスでオートスケーリング機能が提供されており、用途に応じて最適なものを選択できます。

  • Compute Engine Managed Instance Groups (MIG): 仮想マシン(VM)のグループを管理し、負荷に応じてVMインスタンス数を自動で増減させることができます。最も基本的なオートスケーリング機能の一つです。
  • Google Kubernetes Engine (GKE) Cluster Autoscaler / Horizontal Pod Autoscaler: コンテナ化されたアプリケーションを実行する際に、コンテナ(Pod)の数や、コンテナを実行するノード(VM)の数を自動で調整します。
  • Cloud Run: コンテナイメージをデプロイするだけで、トラフィックに応じて自動的にコンテナインスタンス数をゼロからスケールさせることができるサーバーレスプラットフォームです。インフラ管理の手間がほとんどかかりません。
  • App Engine: アプリケーションの負荷に応じて自動的にインスタンス数を調整する、フルマネージドなPaaS(Platform as a Service)です。インフラを意識せずにアプリケーション開発に集中できます。

これらのサービスを適切に組み合わせることで、信頼性が高く、コスト効率の良いスケーラブルなシステムを構築することが可能です。

XIMIXによるGoogle Cloud 導入支援

ここまで、スケーラビリティの基本的な概念と、Google Cloud を活用するメリットについて解説してきました。「アクセス増にも自動で対応できるのは魅力的だ」「コスト削減にもつながりそうだ」と感じていただけたのではないでしょうか。

しかし、実際に自社のビジネス要件に合わせて最適なサービスを選定し、オートスケーリングの設定や負荷分散の仕組みなどを適切に設計・構築するには、クラウドに関する専門知識と経験が求められます。

  • 「どの Google Cloud サービスを使えば、最も効果的にスケーラビリティを実現できるのか?」
  • 「オートスケーリングの適切な設定値(閾値など)はどう判断すれば良いのか?」
  • 「既存のシステムを、スケーラビリティを考慮して Google Cloud に移行したい」
  • 「コストとパフォーマンスのバランスが取れた最適な構成を知りたい」

このような課題やご要望をお持ちでしたら、ぜひ私たち XIMIX にご相談ください。

XIMIX は、Google Cloud の認定パートナーとして、多くの中堅・大企業様のクラウド導入・移行・運用をご支援してきた豊富な実績があります。お客様のビジネス特性や将来的な成長予測を考慮し、単にスケーラビリティを確保するだけでなく、コスト効率、セキュリティ、運用性なども含めた最適な Google Cloud 環境の設計・構築をサポートします。

経験豊富なエンジニアが、お客様の状況に合わせた丁寧なコンサルティングから、実際の導入・移行、そして導入後の継続的な改善提案まで、一貫してご支援することで、お客様が安心して Google Cloud のメリットを最大限に享受できるようお手伝いいたします。

XIMIXのGoogle Cloud 導入支援についてはこちらをご覧ください。

※Google Cloud については、こちらのコラム記事もご参照ください。 
【基本編】Google Cloudとは? DX推進の基盤となる基本をわかりやすく解説
【基本編】Google Cloud導入のメリット・注意点とは? 初心者向けにわかりやすく解説

今回は、「スケーラビリティとは何か?」という基本的な疑問から、その重要性、種類(スケールアップとスケールアウト)、そして Google Cloud における実現方法(オートスケーリング)とそのメリットについて解説しました。

スケーラビリティは、変化の激しい現代のビジネス環境において、機会損失を防ぎ、顧客満足度を高め、コストを最適化するために不可欠な要素です。特に Google Cloud のようなクラウドサービスを活用することで、オートスケーリング機能によって、このスケーラビリティを自動的かつ効率的に実現できます。

これにより、企業はインフラの心配をすることなく、ビジネスの成長に合わせて柔軟にシステムを拡張・縮小させ、コア業務に集中することが可能になります。

Google Cloud の導入を検討されている場合、あるいは既存システムの拡張性に課題を感じている場合は、ぜひスケーラビリティの観点から Google Cloud の活用を検討してみてはいかがでしょうか。

この記事が、貴社のビジネス成長とDX推進の一助となれば幸いです。