コラム

【入門】Google Cloud組織ポリシーとは? 全体ルール設定の基本と設定方法の初歩

作成者: XIMIX Google Cloud チーム|Apr 21, 2025 11:43:49 AM

はじめに

「Google Cloudを複数の部署やプロジェクトで使い始めたけれど、ルールがバラバラで管理が大変…」 「セキュリティやコストの観点から、組織全体で統一したルールを設定したいが、どうすれば良いのだろう?」

Google Cloudの利用が組織全体に広がるにつれて、このような課題に直面する企業は少なくありません。各プロジェクトが自由に進められる柔軟性はクラウドの魅力ですが、一方でガバナンス(統制)が効かなくなり、セキュリティリスクの増大や意図しないコスト超過を招く可能性もあります。

こうした課題に対応するためにGoogle Cloudが提供しているのが「組織ポリシーサービス(Organization Policy Service)」です。

この記事では、Google Cloudの利用における組織全体のルール設定に関心のある方、特に初めて組織ポリシーに触れる方に向けて、その基本的な概念設定方法の初歩を分かりやすく解説します。

この記事を読むことで、組織ポリシーの必要性と基本的な仕組みを理解し、貴社のGoogle Cloud環境におけるガバナンス強化の第一歩を踏み出すヒントを得ていただければ幸いです。

なぜ組織全体でのルール(ポリシー)が必要なのか?

複数のチームやプロジェクトが個別にGoogle Cloudを利用している状況を想像してみてください。もし何のルールもなければ、以下のような問題が発生する可能性があります。

  • セキュリティリスクの増大:
    • 各プロジェクトが独自にセキュリティ設定を行い、意図せず重要なデータが外部に公開される設定になってしまう。
    • 会社として利用を禁止しているサービスが勝手に使われてしまう。
    • 推奨されていないリージョン(地理的拠点)に機密データが保管されてしまう。
  • コスト管理の複雑化:
    • 各プロジェクトが高価なリソースを無計画に作成し、想定外の高額請求が発生する。
    • 不要なリソースが削除されずに残り続け、無駄なコストが発生し続ける。
  • 運用の一貫性の欠如:
    • プロジェクトごとにリソースの命名規則やタグ付けルールが異なり、管理が煩雑になる。
    • 標準化されていない構成により、障害発生時の原因究明や対応が遅れる。

これらの問題を未然に防ぎ、組織全体としてGoogle Cloudを安全かつ効率的に活用するためには、一貫したルール(ポリシー)を設定し、それを強制する仕組み、すなわちクラウドガバナンスが不可欠なのです。

Google Cloudの「組織ポリシーサービス」とは?

組織ポリシーサービスは、Google Cloudリソースの利用方法に対して、組織全体で一元的な制約(ルール)を設定・管理するための機能です。これにより、管理者は組織全体のセキュリティ体制の強化、コスト管理の徹底、構成の標準化などを実現できます。

組織ポリシーのメリット

  • 一元的なガバナンス: 組織全体、特定のフォルダ、またはプロジェクト単位で、リソースの利用に関するルールを一元的に設定・適用できます。
  • コンプライアンス遵守: 業界規制や社内規定で定められた要件を満たすように、リソース構成を強制できます。
  • リスクの低減: セキュリティ上問題のある設定や、意図しない高コストなリソース作成などを未然に防ぎます。
  • 運用の標準化: 組織全体で一貫した構成を保ち、管理の複雑さを軽減します。

リソース階層とポリシーの継承【重要】

組織ポリシーを理解する上で重要なのが、Google Cloudのリソース階層です。Google Cloudのリソースは通常、「組織」を頂点とし、その下に「フォルダ」、「プロジェクト」という階層構造で管理されます。

  • 組織 (Organization): 会社全体を表す最上位のリソース。
  • フォルダ (Folder): 組織内の部門やチームなどをグループ化するために使用。階層化も可能。
  • プロジェクト (Project): 実際にリソース(VM、ストレージ、データベースなど)を作成・管理する単位。

組織ポリシーは、この階層構造を利用して適用されます。 上位の階層(例: 組織)で設定されたポリシーは、デフォルトで下位の階層(例: フォルダ、プロジェクト)に継承されます。これにより、組織全体で基本的なルールを徹底しつつ、特定の部署(フォルダ)やプロジェクトで必要に応じてポリシーを上書き(カスタマイズ)することも可能です。

ポリシーの種類(制約の種類)

組織ポリシーでは、様々な「制約(Constraint)」を定義することでルールを設定します。制約には大きく分けて2つのタイプがあります。

  • リスト型制約 (List Constraint): 許可または拒否する値のリストを定義します。例えば、「許可されたリージョンリスト」や「拒否するサービスリスト」などを設定できます。
  • ブール型制約 (Boolean Constraint): 特定のアクションを許可するかどうかをTrue/Falseで設定します。例えば、「外部IPアドレス付きVMインスタンスの作成を許可しない(False)」といった設定が可能です。

組織ポリシーでできること(具体的な設定例 - 入門編)

では、具体的に組織ポリシーでどのようなルールが設定できるのでしょうか? ここでは、入門レベルでよく利用される代表的な設定例をいくつかご紹介します。

  • 例1:利用リージョンを制限する
    • 目的: データ主権の要件遵守や、レイテンシ、コストの観点から、利用するGoogle Cloudのリージョン(データセンターの所在地)を限定したい。
    • 設定: リスト型制約「Resource Location Restriction」を使用し、許可するリージョン(例: asia-northeast1 (東京))を指定する。
  • 例2:外部IPアドレスを持つVMインスタンスの作成を禁止する
    • 目的: セキュリティリスクを低減するため、原則として仮想マシン(VM)がインターネットから直接アクセスできる外部IPアドレスを持つことを禁止したい。
    • 設定: ブール型制約「Define allowed external IPs for VM instances」を Deny all (拒否) に設定する。(※特定のVMのみ許可する設定も可能)
  • 例3:特定のサービスの利用を制限する
    • 目的: コスト管理やセキュリティポリシーの観点から、組織として利用を許可していないGoogle Cloudサービス(例: 高度なAIサービスや特殊なハードウェア)の利用を制限したい。
    • 設定: リスト型制約「Restrict Resource Service Usage」を使用し、利用を制限したいサービスを指定する。
  • 例4:サービスアカウントキーの作成を制限する
    • 目的: セキュリティ上、漏洩リスクの高いサービスアカウントキーの作成を原則禁止し、より安全な認証方法を推奨したい。
    • 設定: ブール型制約「Disable Service Account Key Creation」を Enforce (強制) に設定する。

これらはほんの一例です。組織ポリシーには多種多様な制約が用意されており、組織のニーズに合わせてきめ細かなルール設定が可能です。

組織ポリシーの設定方法(初歩的な流れ)

組織ポリシーは、Google Cloudコンソール(Web管理画面)から比較的簡単に設定できます。ここでは、大まかな設定の流れをご紹介します。(※実際の操作は影響範囲が大きいため、慎重に行ってください。)

  1. ポリシーを設定したい階層を選択: Google Cloudコンソールで、「IAMと管理」メニュー内の「組織のポリシー」を開き、ポリシーを適用したい「組織」、「フォルダ」、または「プロジェクト」を選択します。
  2. 利用可能なポリシーを検索: 利用可能なポリシー(制約)の一覧が表示されるので、設定したいポリシーを検索します。(例: constraints/compute.vmExternalIpAccess で外部IPアドレスに関する制約を検索)
  3. ポリシーを編集: 設定したいポリシーを選択し、「ポリシーを編集」ボタンをクリックします。
  4. 適用ルールを設定:
    1. 継承: 上位階層のポリシー設定を引き継ぐか、この階層でカスタマイズするかを選択します。
    2. 適用: 「許可」または「拒否」、「許可する値」または「拒否する値」などを指定します。(制約の種類によって設定項目は異なります)

  5. 保存: 設定内容を確認し、保存します。設定したポリシーは、選択した階層以下のリソースに(即時または少し時間を置いて)適用されます。

注意点: 組織ポリシーの設定変更は、組織全体のインフラ運用に大きな影響を与える可能性があります。設定変更を行う際は、必ず影響範囲を確認し、事前に十分なテストを行うなど、慎重に進めることが重要です。

組織ポリシーとIAMの違い

Google Cloudのアクセス制御には、「IAM(Identity and Access Management)」もありますが、組織ポリシーとは役割が異なります。

  • IAM: 「誰が (Who)」 特定のリソースに対して 「何のアクション (What Action)」 を実行できるかを制御します。(例: AさんはプロジェクトXのVMを起動できる)
  • 組織ポリシー: 「何のリソース (What Resource)」「どのように (How)」 利用できるかを、組織全体で制御します。(例: プロジェクトXでは東京リージョン以外でVMを作成できない)

両者は補完関係にあり、組み合わせて利用することで、より強固なガバナンス体制を構築できます。

XIMIXによるGoogle Cloudガバナンス構築支援

組織ポリシーは強力なツールですが、自社の状況に合わせて最適なポリシーを設計し、適切に設定・運用するには、専門的な知識や経験が必要となる場合があります。

「自社のセキュリティポリシーを組織ポリシーでどう実現すれば良いかわからない」 「複雑な組織構造に合わせてポリシーを設計・管理したい」 「設定ミスによる影響が心配なので、専門家に任せたい」

このような課題をお持ちでしたら、ぜひXIMIXにご相談ください。Google Cloudプレミアパートナーとして、数多くのお客様のガバナンス体制構築をご支援してきた実績があります。

XIMIXのガバナンス支援サービス

  • ガバナンス設計コンサルティング: お客様のセキュリティポリシー、コンプライアンス要件、組織構造などをヒアリングし、最適な組織ポリシーを含むガバナンスルールの設計をご支援します。
  • 組織ポリシー導入・設定支援: 設計したポリシーに基づき、Google Cloud環境への組織ポリシーの導入・設定作業を代行または支援します。設定ミスによるリスクを回避し、確実にルールを適用します。
  • 運用サポート・レビュー: 導入後のポリシー運用に関するご相談や、定期的なポリシーの見直し、改善提案など、継続的なガバナンス維持をサポートします。

XIMIXは、お客様のビジネスとIT環境を深く理解し、組織ポリシーの活用を通じて、安全で効率的なGoogle Cloud環境の実現をお手伝いします。

XIMIXのGoogle Cloud 導入支援についてはこちらをご覧ください。

※Google Cloud については、こちらのコラム記事もご参照ください。 
【基本編】Google Cloudとは? DX推進の基盤となる基本をわかりやすく解説
【基本編】Google Cloud導入のメリット・注意点とは? 初心者向けにわかりやすく解説

まとめ

本記事では、Google Cloudにおける組織全体のルール設定を実現する「組織ポリシーサービス」について、その基本的な概念と設定方法の初歩を解説しました。

組織ポリシーを活用することで、企業はGoogle Cloud環境全体のガバナンスを強化し、セキュリティリスクの低減、コスト管理の徹底、運用の一貫性向上などを実現できます。リソース階層に応じたポリシーの継承や、多様な制約を組み合わせることで、組織のニーズに合わせた柔軟なルール設定が可能です。

まずは、本記事で紹介した基本的な考え方や設定例を参考に、自社でどのようなルールが必要か検討してみてはいかがでしょうか。そして、より複雑な要件や設定に不安がある場合は、専門家であるXIMIXにご相談いただくことをお勧めします。適切なガバナンス体制を構築し、Google Cloudを最大限に活用しましょう。