本記事は、Google Workspace Studio(旧Flows)の実践ノウハウを100本紹介する連載「Google Workspace Studio活用方法100本ノック」の一つとなります。
「毎日届く数百通の問い合わせメール。その中に1通だけ混ざっていた『激怒している重要顧客』からの連絡に気づくのが遅れ、大問題になってしまった……」
カスタマーサポートの現場で、このような冷や汗をかく経験はないでしょうか?
従来、「至急」「緊急」といったキーワード検知での振り分けは行われてきましたが、顧客は必ずしも件名に「緊急」と書いてくれるわけではありません。むしろ、静かに解約を決意しているメールや、文脈からしか読み取れない法的なリスクを含んだメールこそ、即座に対応する必要があります。
今回は、生成AI(LLM)を活用して、メール文面から「顧客の感情(怒り・不満・満足)」と「実務的な緊急度」を分析し、対応優先度を自動でラベル付けする仕組みについて解説します。
| 難易度 | 初心者向け |
| 実現すること | 受信メールの「感情」と「緊急性」をAIが自動解析してラベル付けを行い、炎上リスクの高い案件を即座に可視化・通知する |
| 想定する対象者 | カスタマーサポート部門のマネージャー、社内DX推進担当者、日々の問い合わせ対応業務を効率化したい企業 |
| 利用サービス | Gmail |
単なるキーワードマッチングではなく、AIに「文脈」を読ませることで、以下の3つの判断を自動化します。
これにより、担当者がメールを開く前に、システム側で「これは危険なメールだ(Priority: Critical)」とアラートを出すことが可能になります。
メール本文中の「怒り」や強い不満、さらには「システム障害」などの記述をAIが24時間自動でモニタリングします。炎上や解約につながりそうな文面を検知した場合、担当者が出社する前であっても、あらかじめ指定したSlackの緊急チャンネルへ即時に通知することが可能です。初動対応のスピードが、そのまま顧客の信頼回復と解約防止につながります。
何の予告もなく怒りのメールを開くのと、「このメールは強い不満・怒りを含みます」と事前にラベルで知らされてから開くのとでは、オペレーターの心理的ストレスは大きく異なります。AIがワンクッションとなって感情を可視化することで、スタッフの心的負担を軽減し、メンタルヘルスの維持に貢献します。
ベテラン担当者であれば直感的に判断できる、「この書き方は危険」「優先して対応すべき」という感覚を、AIのプロンプト設計に落とし込むことで形式知化できます。これにより、新人スタッフであっても、感情と緊急度を踏まえた優先順位付けを誤ることなく、一定水準以上の対応品質を安定して提供できるようになります。
サポートチーム用のグループアドレスを作成してください。
Google Workspace Studio にアクセスする。
手間を削減するために、あらかじめ用意されているテンプレートを利用します。
Email boosters の「Label emails with action items」を選択してクリックします。
「Step 1: When I get an email」をクリックし、「To」に「1.事前準備」で用意したグループアドレスを設定します。
「Step2: Decide」をクリックし、以下のプロンプトを入力します。
You are an advanced AI assistant for the Customer Support team.
Analyze the following email received at a group address and determine if priority action is required based on **"Sentiment"** and **"Urgency"**.
### Analysis Steps and Criteria
1. Sentiment Analysis (Classify into one of the following)
Anger: Strong tone, aggressive language, mentions of legal action or social media escalation, repeated contact, excessive use of ALL CAPS or exclamation marks.
Frustration: Expressions of disappointment, negative keywords (e.g., "slow," "useless"), complaints about service quality.
Satisfaction/Neutral: Words of gratitude, general inquiries, administrative communication, positive feedback.
2. Urgency Assessment (Determine based on the following)
[URGENT (HIGH)]:
* Sentiment is classified as "Anger" (Top Priority).
* Sentiment is "Frustration" AND mentions "cancellation," "churn," "refund," or "compensation."
* Relates to critical system failures, security incidents, or financial risks.
* Involves time-sensitive deadlines or direct requests from senior management.
[STANDARD (MEDIUM)]:
* Sentiment is "Frustration," but there is no immediate harm or impending deadline.
* General troubleshooting or routine questions.
[LOW]:
* Sentiment is "Satisfaction/Neutral."
* Calendar updates/confirmations, auto-replies, or marketing/sales newsletters.
Email Subject:
Email Body:
Based on these criteria, is this email urgent?
「Step 4: Add labels」をクリックし、「AI-powered labels ※」をOFFにし、Your labels で「+New label」をクリックし、「緊急」というラベルを追加しチェックをONにします。
※AI-powered labels:AIがメッセージ内容を多面的に解析して自動付与するラベル機能ですが、今回は「緊急」ラベルを付与するかどうかだけを判定するシンプルな構成であり、Step2: Decideでラベル付与の要否を判断しているため使用しません。
「Test run」をクリックし、Email received でメールボックス内の検証用メールを選択したうえで、「Start」を押してテスト実行します。
テストで使用した検証用メールの件名と本文は以下の通りです。
| メール件名 | 【検証】【至急確認】管理画面に他社のデータが表示されています |
| メール本文 | サポート担当者様 緊急で連絡します。 先ほど弊社の管理画面にログインしたところ、顧客リストに弊社とは関係のない、別の会社様のものと思われるデータ(氏名や電話番号)が表示されていました。 これは重大な個人情報漏洩の可能性があります。 二次被害を防ぐため、一旦システム利用を停止しますが、状況の確認と原因の報告を今すぐお願いします。 これが事実であれば、然るべき対応を取らざるを得ません。 早急に連絡をください。 情報システム部 高橋 |
このメールは、個人情報漏洩の疑いとシステム停止を伴う重大インシデントであり、実務的な緊急度が極めて高いケースです。
テスト実行の結果としても、想定どおり「緊急」ラベルが正しく付与されることを確認できました。
次に、実務的な緊急度が低い問い合わせメールを選択して、同様にテスト実行してみます。
このケースでは、テスト実行の結果として「緊急」ラベルが付与されないことを確認できれば、想定どおりの動作といえます。
| メール件名 | 【検証】API連携に関する質問 |
| メール本文 | 担当者様 お疲れ様です。鈴木です。 現在、貴社のシステムと弊社の在庫管理システムの連携を進めているのですが、APIドキュメントの「在庫更新」の項目について不明点があります。 エラーコード「503」が返ってきた場合のリトライ処理は、どのような設定が推奨されていますでしょうか? お手すきの際にご教示いただけますと幸いです。 よろしくお願いいたします。 |
テスト実行の結果としても、想定どおり、Step 3 で「Conditions weren't met」となっており、Step 4に進まずに、「緊急」ラベルが正しく付与されないことを確認できました。
テストを実行し、想定どおりに動作することを確認できたら、「Turn on」ボタンを押してフローを有効化しましょう。
これで、グループアドレス宛に実際に届くメールに対しても、緊急度の高いものには自動的に「緊急」ラベルが付与されるようになります。
AIによる感情分析は、単なる「効率化」だけでなく、「リスク管理」と「従業員体験(EX)」の向上に寄与します。
すべてのメールを人間が同じテンションで読む時代は終わりつつあります。AIを「優秀なトリアージナース(優先度判定員)」としてチームに迎え入れ、人間は「人間にしかできない丁寧なコミュニケーション」に集中できる環境を作りませんか?
Google Workspace Studioなら、スターターにGmail、アクションにGeminiの要約+ラベル付けを設定するだけで、数分で仕組み化が可能です。
まずはシンプルなラベル付けを導入し、チーム全員が同じ情報を素早く把握できる環境を整えたうえで、次のエージェントづくりにも挑戦していきましょう。